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Absolute Zero 3rd  作者: DoubleS
第五章
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予想外の初仕事 4

「何だ、お前らは!」

 術が解け、男が再び実体に戻り、塩沢と水葉に啖呵を切る。

「悪いわね。麻薬組織は見過ごすわけにはいかないの。鈴原さん、残念だったわね」

 水葉が言い終わるか言い終わらないうちに、塩沢の拳が男の顔面にめり込む。そのまま彼の鼻が折れ、男は殴られた箇所を押さえながら痛みにうめきながらうずくまった。


「動くな! 麻薬取引の現場を押さえた。無駄な抵抗をするとケガが増えるぞ」

「へっ! それは、こっちの台詞だ。こっちには銃と爆弾があるんだぞ!」

 そう言って、鈴原や他の売人は先ほどまで拳銃が置かれていた机に目をやる。しかし、もうそこには拳銃も爆弾もない。彼らは慌ててまわりを見回した。

「それは、これのことかしら?」

 水葉が指先で取り上げた拳銃を回しながら、売人たちに小ばかにした顔を向けた。

「な…なぜ、お前たちがそれを持っている! いつの間に…」

「爆弾もここにあるぞ」

 霧矢もプラスチック爆弾を両手で持ちながら、塩沢の後ろから売人たちへ掲げて見せる。

「…くそ…!」

 売人が悪態をついていると、水葉がカードを放り投げる。

「束縛せよ!」

カードが光を放ち、そのカードから光のロープのようなものが何本も吐き出される。そして、その光の縄は売人たちに向けて目にもとまらぬ速さで突き進み、彼らを絡め取った。

「な…何だ。これは…いったい…?」

「沈黙!」

 水葉がもう一度カードを取り出し、掛け声とともに放り投げる。次の瞬間、男たちはまったく口を利くことができなくなっていた。彼らは光の縄で縛られ、ただ無言でもがいていた。

「さて、これで今年の初仕事はおしまい。こいつらは、警察でいいかしら?」

「俺としてはこいつらを消したいがな。だが、霧矢君や霜華君が、何やら嫌そうな顔をしているから、やめておこう」

 塩沢は携帯電話を取り出すと、一一〇番ではなく、何やら知り合いの電話番号にかけた。おそらく、警察の内部の人間とパイプを持っていて、連絡を取っているのだろう。

「…俺だ。何……あけましておめでとう…え? それはどうでもいい。麻薬組織の売人を捕らえた。お前が手錠をかけてくれ。お前の手柄にしていいから……ああ、そのうち、またな」

 一人でぶつぶつと話しているが、しばらく話して塩沢は電話を切った。


「ここにお集まりの皆様、初仕事お疲れ様でした。今年は良い年になるといいですね」

 わざとらしく敬語で話しながら、塩沢はあくびをした。霧矢は廊下と部屋のドアに挟まれている形で縛られて倒れている売人を蹴飛ばして中に入れ、部屋のドアを閉めた。

「さて、こっちの仕事は片付いたわけだが、君の仕事はまだ片付いてはいないのだろう?」

 塩沢は無表情で霧矢に問いかける。霧矢は、片平美香とウィンズ・デイビッド、それと彼の契約主である若林彼岸をちらりと眺め、口を開いた。


「それで、ウィンズ・デイビッド。あんたはどうするつもりだ。確かに、麻薬密売人の摘発に協力してくれたのは、礼を言おう。ただ、僕としても美香をくれてやるつもりはない」

 霧矢自身も美香をどうこうする権利など持ってはいないのだが、こんな胡散臭い男に好き勝手させるつもりはないという意志を示すのに、とっさにこの言葉が出た。

「…今日、私がここに来たからには、必ずわが美しき花を手折ると決めております。三条霧矢、あなたが、私の道を阻むというのなら、私もそれを乗り越えるまで!」

「……ロード・デイビッド。今日は引いたらいかがです? まさか、いつぞやのごとく男同士の一騎打ちの決闘を申し込むなどという真似はしませんよね…?」

 彼岸が困ったような表情でデイビッドに問いかけるが、デイビッドは待ってましたとばかりの満面の笑みを浮かべた。

「それこそ、正しきやり方。三条霧矢、私はあなたに片平美香嬢を賭けての決闘を申し込む!」

 美香とデイビッドを除く全員が、呆れたようにため息をついた。

「決闘…? ふざけんな。そんなむざむざ、僕にとって何の得にもならないことで体に傷をつけていくのはお断りだ」

 苦々しい口調で霧矢はデイビッドに言い放つ。霜華も同様にうなずいた。霧矢にとって、決闘はできれば願い下げだった。二週間ほど前には、リリアン・ポーンと決闘まがいのことをしたばかりだし、トマス・アイゼンベルグとも戦った。しかし、どちらにしても少なくない体力を使ったにもかかわらず、勝ったことで得たものは少なかった。

「…美香はどうしてほしいんだ。僕の雇い主は、君なんだから、君に従うさ」

 もう、麻薬と爆弾という懸案事項を解決し、霧矢にとって、もうこれ以上デイビッドについて考えることは面倒くさくなっていた。自分で思考することを放棄し、すべての決定権を美香に放り投げた。

 しかし、次の瞬間、霧矢はすべての決定権を美香に委ねたことを後悔することになる。

「霧矢さん。私のために、戦っていただけませんか?」

「は…?」

 さすがは、わがままお嬢様。今になってその意味を完全に理解した気がする。

 霜華はあちゃあといった残念そうな表情を浮かべ、霧矢も一瞬で気分がどん底にまで沈んだ。焦燥感に駆られながら、助けを求めるように塩沢や水葉を霧矢は見た。しかし二人の答えは霧矢にとって非情なものだった。しかも、理に適っているだけ余計性質が悪い。

「自分の意志で選択を美香に任せたのだから、彼女の決定に従え」

 デイビッドも霧矢もこの決闘で相手を殺す気はないが、本気で戦えばお互いに無傷では済まないだろう。下手をしたら新年早々病院送りになりかねない。

「……嫌だろうね。決闘は」

「まあ、本音では。誰だってケガなんてしたくない。でも…まあ…その…何ですか…」

 北条が哀れむような声で霧矢に同情を示すが、霧矢はこの場ではできれば同情されたくなかった。苦い顔でデイビッドの方へ向き直った。

「いいだろう。決闘だ。美香を賭けて」

 霧矢の苦々しい口調に対して、デイビッドは満足そうに微笑むと、上体をそらす。

「では、広間で再び剣を交えましょう。三条霧矢殿。刻限は午前一時。それまでに参られよ」

 堂々と謳い上げるように言い残すと、彼岸とともにデイビッドは歩き去った。

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