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Absolute Zero 3rd  作者: DoubleS
第五章
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予想外の初仕事 2

「今年も良い年でありますように」

 田舎ではあるが、それなりに大きな寺があるのが浦沼の特徴でもある。年越しそばを食べて、喫茶・毘沙門天で紅白を見ながら書籍やマジックアイテム漁りをしていた浦沼高校生徒会メンバー+αは、除夜の鐘を聞きに外に繰り出していた。

 喫茶・毘沙門天から徒歩十分。復調園調剤薬局から少し離れたところに、その堂は存在する。

「上川。お前、今年の運勢はどうだった?」

「…吉。あたしとしては、悪くないと思うわ。そういう西村君はどうだったの?」

 西村はおみくじを結ぶと近くの木に括り付けた。

「……凶だった。でも、俺に出会いなんてないのに、女で失敗する可能性があると出た」

 おみくじなんてあてにならないとも言いたそうに、西村は顔をしかめた。

「それはセイスのことじゃないかしらね。西村、あんただって出会いはあったじゃない」

 雨野がからかうような口調で西村に冷静に指摘するが、西村は、セイスのことはあまり眼中にない。残念そうな顔で、キョロキョロと物珍しそうに周囲を見回しながら、菓子を頬張り続けている女の子に視線を走らせた。

「セイスと付き合うのは…軽い悪夢だな…」

「そんなに嫌? あたしとしては結構いい組み合わせだとは思うんだけどな」

 勘弁してくれと西村は独り言を言うと、お守りを買いに歩き去った。

「恵子、あんたはおみくじどう出た?」

「私は、末吉でしたね。まあ、凶でないだけいいとしましょう。そういう光里ちゃんこそどうでしたか?」

 雨野は自分の紙を有島と晴代に見せる。雨野の紙には大吉と書かれていた。

「さすが、雨野先輩。強運ですね。大吉を引き当てるなんて、いいなあ。私も西村君と一緒にお守り買ってきます!」

 晴代は元気よく西村の方へ走りだした。残された天野と有島はそれぞれ自分のおみくじをもう一度凝視する。

 雨野としても、今年こそはいいことがあってほしいと思う。去年は護が目を覚ましたが、その後に起きたことは、決して良いことではなかった。それを考えると、今年は特別幸運なことが起きなくてもよいので、ささやかな幸せが続いてほしいと強く感じる。

「護君とユリアちゃんも、まあ、それなりに楽しそうにしているようですね」

 遠目で、ユリアのエスコート(?)をしている護を眺めながら、有島は雨野にそれとなく探りを入れる。有島はクリスマス・イブの事件に関して、当事者ではなかったので、二人の詳しいことをまだ雨野からそれほど詳しくは聞いていなかった。

「…あんなことがあって、心と言葉を失っても、護はあの子のことを気に入っているみたい。義務感とかそういうものじゃなくて、純粋な好意で…ね」

 雨野も、護の行為が何を意味しているのかはわかっている。だが、ここでそこまでそれを口に出してしまうのは、野暮ったいことのように思えた。

「まあ、あの子も眠っていたとはいえ、もう中学生なんだから、そういうことがあってもおかしくないし、私としても嬉しいことだと言えなくもないんだけど」

「……まあ、それは、いいことじゃありませんか」

 にこやかな表情で、有島も相槌を打つ。有島も何となく、護とユリアの背景にあったものを察したようだ。

「…心と言葉を失った、と言いますが、やはり、何かあったんですか?」

「リリアンさんの事件を起こしたカルト教団の魔術実験の被験体にされたらしいのよ。三条と、護と前にも話した塩沢で助け出したけど、それ以来ずっと、あんな状態」

「…私も、彼女を見たときは、異質な印象を受けました。何と言いますか……」

 有島の言葉を引き取って、雨野は一言。

「人形」

「……そうですね。人形と例えるのが一番いいでしょうね」

 二人はため息をつく。

「…ところで、光里ちゃんは、三条君の戦闘訓練をしていると言っていましたが、正直な話、どんな感触を持ちましたか?」

 雨野は意外な質問に対して、キョトンとした顔を浮かべる。有島としては、ユリアを助け出した以上、霧矢の腕は相当なものだと思っているらしい。

「…直接戦闘については、割と見込みがある。でも、三条の本当の強みはそこじゃない。恵子、あんたもわかっているでしょ」

「……魔力量ですか…」

 雨野はうなずく。

「私も今まで黙っていましたが、確かに三条君の放出している水の魔力の量は、異常でした。私はハーフですから魔力を昔から見ることができていましたけど、彼が、入学してきたとき最初に目に留まった新入生でした。その魔力の多さで」

「…私も、三条を魔力分類器で見たことはなかったから、風華ちゃんと契約するまで、三条の異常さには気づかなかったわ」


「どうかしたんすか? 二人とも。深刻な表情をして」

 お守りを買って戻ってきた晴代と西村がいきなりヒョイと視界に割り込んできて、雨野は一瞬面食らったが、普通に受け、答える。

「……三条について、少し話してたのよ」

「…霧矢がどうかしたんですか?」

 有島はちょうどいい機会だと思った。今となっては、晴代も西村もれっきとした契約主だ。霧矢の異常な魔力も見ているはずだ。

「…お二人とも契約主として、三条君が放出している魔力のことをどう思いますか?」

 有島の質問に対して、二人とも顔をしかめる。西村はうなずきながら答える。

「確かに、普通の水の人間よりは格段に多いですね。ただ、三条本人もそれは自覚しているようですよ。でも、三条のお母さんは風の人間でしたけど、人よりは多少強いみたいですが、それでも、三条みたいな常識はずれの量ではなかったですしね」

「だよねえ……いくらなんでも、霧矢のあの魔力の量は、絶対何か秘密があるよ。本人が自覚していなくても、きっと何かある」

 同意する晴代の脇に、ヒョイと現れたのは、文香だった。

「どうした。何やら一同深刻そうな顔で、何を話している」

 眼鏡の奥に興味深そうな光を浮かべながら、古風な口調で話す理系女子高校生が背後に立っている。いきなり話しかけられ、晴代は飛び上がったが、西村は平気そうに返事をした。

「ねえ、文香。気配を消してあたしの背後に立つの、やめてくれないかな」

「それはすまん。だが、それよりも、魔力がどうとか聞こえたのだが」

「ちょっと、三条の魔力について話してたんだ。木村、お前は普通の人間だからわからないかもしれないが、あいつはちょっと普通の人間とは魔力の量が違うんだよ」

 ほう、と興味深そうな声を出すと、文香は雨野たちの輪に割り込んでくる。

「…しかし、あんなにオカルトが大嫌いだった文香が、こんなにも興味を持つなんてね」

 現県立浦沼高校科学部部長である木村文香は、科学で説明できないものは一切信じない性格の人間だった。しかし、現在は、魔族に関しても興味を持ち、自分なりに考察を立てるのを、最近の課題としている。

「科学的に説明できるかではなく、もはや、実際に存在しているのだから、信じるほかないだろう。そういう頑なな姿勢はかえって視野を狭くする」

「…立派な答えですね。さすがです」

 有島の褒め言葉に、文香は黙って一礼する。

「三条君は、普通の人間が放出する魔力よりも相当多くの魔力を放出しています。それでいて、最近まで本人にもその自覚はなかったらしいのです。つまり、生まれつき彼の身に何かあったということを意味しています」

 全員が、有島の言葉に首を傾げる。しかし、幼馴染である晴代ですら、霧矢が水の魔力を大量に保有するきっかけになった出来事など心当たりがない。

「とにかく、有島先輩は、三条が入学してきたときから、気づいていたんですよね」

「ええ。彼が一番私の目には目立っていました」

 そこで、西村はある一点にたどり着く。暗く寒い中、彼を街灯が照らしていた。

「先輩。これは俺の考えすぎかもしれませんけど、体育祭のときの追加の人集めで、有島先輩が『人集めですけど、西村君の親友の…三条君…でしたっけ。彼を生徒会にスカウトできませんか』と言ったのは、あいつを近くで監視したいから…とかじゃないですよね?」

 有島はニコリと笑うと、

「西村君。私は先輩として、あなたみたいな後輩を持てて幸せですよ」

 とだけ、答えた。一年生は全員、有島の意外な一面に驚きの表情を浮かべた。

「…まあ、恵子にも腹黒い一面があるのよ。西村、あんたが三条の親友だと知ったときは、いつスカウトするかと、チャンスをうかがっていたくらいだら」

「腹黒いだなんて、ちょっと言い過ぎですよ。せめて、抜け目のない、とかオブラートに包んでください」

 有島の言葉に雨野は軽く苦笑いすると、遠目で他の参拝客を眺める。護とユリアは完全にデート(?)みたいな形になっており、下手に入り込むのは野暮というものだろう。もっとも、ユリアにその気があるのかは誰にもわからないが。

 そろそろ体も冷えてきたので、帰ろうかとも考えていると、晴代が突然何か思いついたように、飛び上がった。

「そうだ、みんなで写真撮りましょう。私、カメラ持ってきたんです」

「…撮ってもいいが、一体に何に使うのだ」

 文香が問いかけると、晴代やニヤリと笑う。

「霧矢に見せて、自慢しようかなって。東京なんかに出かけてるあいつに、せめてもの自慢返しをしたいって感じだから」

「…三条はそういう性格ではないと思うぞ。あいつ面倒くさがり屋だから、だから何だ、で済まされそうな気がするんだが」

「…まあ、そうかもしれないけど、でもせっかくの記念だから、集合写真でも撮ろうよ」

 雨野はうなずくと、護とユリアに声をかける。セイスも何やらみんな集まっているので、もう中身がほとんど空になっている菓子袋をコートのポケットに押し込むと、走り寄ってきた。


 晴代はセルフタイマーをセットし、背の順に並んでいるメンバーの下へ駆け寄る。

 フラッシュが光ると、デジタルカメラのシャッター音が響いた。

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