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Absolute Zero 3rd  作者: DoubleS
第四章
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生存者と犯罪者 9

「やれやれ、三人の騎士は血の気が多い。一人の花盗人を捕らえるのに、そこまでするとは」

 自分で花盗人だと認めている。呆れながらも、霧矢は凄みを利かせながら棒を構えて近寄る。

「引け、吸血鬼のコスプレをした男よ。今すぐ引くならば、無傷で帰してやる」

「そうはいきません。今、私の目の前に追い求めた白き花があるのですから」

 霧矢はデイビッドをにらみつける。デイビッドは霧矢、霜華、レイとそれぞれ視線を移しながら、この場から美香を連れ去るタイミングをうかがっている。美香は完全にどうしたらよいのか決めかねている様子でオロオロしていた。

 どうやって仕掛けるか迷っていたが、ここに来て、霧矢は無線機の存在を思い出した。先ほど蹴り飛ばされた弾みで耳から外れていたイヤホンを付け直すと、応答するように言っている水葉の声が聞こえた。霧矢は小声でマイクに向かってつぶやく。

「すみません。イヤホンが外れてました。水葉さん。聞こえますか?」

「聞こえているわ。マイクを通して聞こえていたけど、何やら結構、ややこしいことになっているようね。私が出る必要はありそう?」

 その質問にすぐ答えることはできなさそうだった。デイビッドの実力は未知数。少なくとも、このパーティー会場にいる全員に術をかけるほどの腕の持ち主である以上、一筋縄ではいかないだろう。魔術の腕だけではなく、物理的な格闘術も相当なものだった。霧矢も先ほどの攻撃に際してきちんと受け身を取れなかったならば、今ごろ救急車で搬送されていただろう。それくらいの強力な一撃だった。

「わかりません。今のところ様子見です。とりあえず、万が一に備えて、会場の近くまで来てくれると、助かります」

 霧矢の求めに対して、水葉の声は困惑気味だった。色よい返事ではない。

「それが…つい先ほど、雅史が密売人の居所を突き止めて、このホテルの三十階、今その廊下にいるわ…この連絡が取れたら始めようと思ってたんだけど……」

「…そちらの仕事はどれほどで終わりそうですか?」

「スムーズにいけば、三分ほどで終わるわ。ただ、爆弾に何かされたら……」

 霧矢は心の中で舌打ちする。どうしてかくも物事は上手くいかないものかと苛立ちながらも、最善の策を考えながら、デイビッドとの対峙を続ける。

 話を聞く限りでは、廊下にいるのは、塩沢、水葉、北条、デイビッドの契約主の四人らしい。そのうち、銃器を持った売人と戦えそうなのは塩沢と水葉の二人だけだ。デイビッドの契約主は売人摘発には協力してくれているが、戦闘に使えそうな契約異能を持っているわけではないとのことだった。

「塩沢を見張りにつけて、水葉さんだけでもこちらに来れますか?」

 水葉は残念そうな声を上げた。霧矢としては名案だと思っていて、事実、効率を重視するならば、非常に適していた作戦なのだが、霧矢と霜華にとって重要な、ある問題が生じていた。

「もしも、私たちが戦っている最中に、彼らが動き出したら、雅史だけで何とかしなきゃいけなくなるわ。そうなると……」

 水葉は言葉を切ったが、霧矢はその続きの言葉を容易に想像できた。

 塩沢が戦いに臨む場合、相手を殺すことはそれが善人や一般人でない限りは基本的に躊躇しない。特に、異能が使える水葉が欠けた場合、この戦いは、一対多数になり、数の上では塩沢にとって非常に不利になる。そんな場において、塩沢が殺さずに相手を倒すほどの余裕を持てる可能性は低い。しかも、下手に手加減すれば、相手が爆弾を使用してくる可能性も否めない。先ほど決まったプランその二は不可能になってしまったことを意味する。

 つまり、塩沢が敵を殺すことは完全に理に適ったことになり、彼は何もためらうことなく、無慈悲に敵を皆殺しにするだろう。つまり、プランその一だ。

「それは、確かに後味が悪い。売人どもが動かなければいいんですが……」

 殺しは絶対に嫌だというのが、霧矢と霜華のポリシーだ。新年早々、人が死んだという知らせを聞くのは、初詣のおみくじで大凶を引くよりも忌むべきことだった。たとえ、それが麻薬の売人だったとしても。

 かといって、彼らを見逃すというプランその三など絶対に認めるわけにもいかない。薬屋の息子としても、霧矢個人としても、麻薬の密売人は許すことのできない存在だ。だが、結局は何かを取るためには、何かを捨てなければならないというジレンマがそこにあった。

(…くそ…何でこうも運が悪いんだよ…)

 逆に水葉を見張りにつけ、塩沢に応援に来てもらうという選択肢も考えてみたが、水葉はあまり良い反応をしなかった。いずれにしても、水葉一人で殺さずに捕らえるというのは難しい上に、塩沢が助けに来たところで、デイビッドを射殺する他のことは基本的にはできないだろうとのことだった。塩沢はあくまで生身の人間であり、契約主でも異能の持ち主でもない。武器を持って戦うこと以外の戦法をとることはできず、今まで彼と対決した魔族や契約主は全員死亡しているらしい。


「くっそ……見つかったのに…どうしてこうなってしまったんだよ…!」

 自分でも気が付かないうちに声を荒げてしまっていた。デイビットを含む、全員が何事か霧矢の方に振り向いた。

「ど…どうしたの、霧君。いきなり、大声なんて出して」

 霜華がなだめようとするが、霧矢は苛立ちを抑えることはできなかった。震えながら握りしめていた棒を床に突き立てた。

「何をお怒りになっているのですか。そこまでに私のことが気に入らないとでも、申されるのですか?」

「うるせえ!」

 デイビッドは困ったような顔を浮かべると、霧矢の方に歩み寄った。

「何やら、先ほどから、一人でぶつぶつと何かおっしゃっていたようですが、それが原因ですか、あなたの憤りは?」

 だとしたらどうだというのか。霧矢は無視してデイビッドをにらみつける。

「何百年も生きていれば、人間の感情くらいわかりますとも」

「……知るか」

 哀れむような視線で霧矢を見回すと、マイクとイヤホンに目が留まる。

「……なるほど。何やら、よくないことをお聞きになりましたね」

「お前のせいだ。タイミングが悪すぎたんだよ。畜生!」

 いきなり自分のせいだと言われるのは心外だと言わんばかりに、顔をデイビッドはしかめる。霧矢は金属棒を構えると、デイビッドに対峙する。しかし、彼は同じように構えようとはしなかった。

 懐から、本にはさむしおりのようなものを取り出すと、電話のように耳に当てる。


「彼岸。今私たちのやり取りを見ていますね? 何があったのかわかりますか」

 しばらくしおりでやり取りをしていたデイビッドは話を聞き終わると、霧矢に一礼する。


「麻薬の売人がこのホテルに隠れているそうですね。協力しましょう。勝負はその後です」

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