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Absolute Zero 3rd  作者: DoubleS
第四章
36/49

生存者と犯罪者 5

 地上三十階、三〇二三号室のドアに塩沢は聞き耳を立てていた。

「ここで間違いないな。確かにお前の言う通りだ。協力感謝する」

 中では何やら隠語らしき言葉で会話しているのが聞こえる。彼岸は相変わらずの濁った眼で笑っていた。塩沢は考えた末に踏み込むのではなく、売人が出てくるのを待つことにした。

「待ち伏せですか。気の長いことで」

「お前の主が、何をやらかすかわからない以上、こっちもそう簡単に動けない。こっちの仕事中に、霧矢君がピンチにでもなったら、それこそ目も当てられない」

「まあ、塩沢さんも、私の主がどういう性格か察しているようですね。まあ、あけましておめでとう、とともに求婚という、誰にでも考えつきそうなことですが…」

 ここが三十階というのも、ある意味幸いだ。この出入口を押さえてしまえば、基本的に逃げ道はないはずだ。相手がプロの裏世界の人間ならまた話は別だが、彼らはあくまで麻薬組織のメンバーに過ぎない。窓から脱出などという離れ業はできないだろう。

「さて、ゴミども。無駄な抵抗さえしなければ、臭い飯を食うだけで助かるぞ。片平美香嬢の厚意に大いに感謝するがいい」

「先ほどのあなたたちの会合の様子は千里眼で拝見しましたが、あなたは敵と見れば殺す人のようですね。それが悪いことかどうかはともかくとしますが」

「俺は、異能がない。そんな人間が異能結社にいられるのは、異能を持つ人間がわざわざ出る必要のない仕事を代わりにしているからだ。暴力団とか麻薬組織の壊滅とかがほとんどだが」

 彼岸は塩沢の言葉に理解を示した。

「麻薬は私も嫌いです。人を不幸にし、害悪を社会に撒き散らしていく。薬物中毒になった知り合いも数人います」

 塩沢が興味を示すと彼女は話していく。

 かつて、彼女は失業したのち、一時的に裏世界の仕事についていた。あくまで小間使いのようなもので、メインメンバーとして犯罪に手を染めていたわけではないが、それでも人の闇というものに多く触れてきた。

 そして、その中で一番人が悲惨なことになっていたのが、薬物だった。自分も下手をしたら、薬によって人生を狂わされていただろう。そんな危ういことも何度かあった。

 しばらくそんな危険な生活をしていたが、そこから足を洗うきっかけを作ってくれたのが、ウィンズ・デイビッドだった。性格や趣味はいろいろとアレだが、少なくとも人をどんどん不幸にしていくような人間ではない。表世界の人間でもなく、かといって完全な裏世界の人間でもないグレーな人種だった彼は彼女とよく似ていた。

「彼は言いました。自分の花嫁探しを一緒に手伝ってくれないかと」

 当時の彼の契約主は、もう先が長くなく、彼は新しい契約主候補を探していた。彼は裏世界からそういう人間を探し出し、自分の協力者として、女漁りをしていた。

『貴女は私の好みではありません。ですが、役に立ってくれそうな気はします。私についてきてくれますか?』

 その言葉に、彼岸は了承の意を示し、彼を主として認めた。そして、前の契約主が亡くなると、彼と契約し、そして今に至っている。

「……まあ、少なくとも裏世界で死ぬ、あるいは薬漬けになって腐っていくよりはいい選択をしたんじゃないのか? 彼岸さんとやら」

 拳銃を指先でくるくると回しながら、塩沢は彼岸の妖艶な顔を眺めた。

「あんた裏世界で、どんな仕事をしてたんだ。小間使いだとか言ってたが、やっぱり運び屋とか、死体の始末とかか?」

「最初は水商売でしたが、気が付いたら、密輸の連絡係になっていましたよ。その中身はわかりませんが、やはり、麻薬も含まれていたと考えるのが妥当でしょう」

「いや、今俺が持ってる類のものかもしれんぞ。あるいは、ワシントン条約がらみか」

 銃口を客室のドアノブに向けながら、塩沢はにやりと笑った。彼岸ものっぺりとした笑いを浮かべる。

「大晦日にわざわざ東京まで出てきた甲斐があるものだ。人との出会いというのは、俺の趣味の一つでもあるしな」

 自分と会えてよかったと言われ、彼岸は目を閉じて塩沢に一礼する。

「私としても、大晦日に魔族を知る殺し屋さんとお話しすることになるとは思いませんでした。相川探偵事務所の葬儀屋さん」

「よせ。葬儀屋なんて二つ名は恥ずかしいからできるだけ名乗りたくないんだ」

 口を尖らせて腕組みした塩沢を、彼岸は面白そうな表情で見ていた。



 日付変更、さらに言うならば、年が明けるまであと三十秒を切った。ステージの明かりは消されているが、片平社長が待機していることは容易にわかる。

 目立たないように壁際の隅で魔力分類器を通して、霧矢は美香の様子をうかがう。今のところ、彼女のまわりに魔族や契約主はいない。ただ、ストーカーの性格的に日付が変わるとともに仕掛けてくるであろうことはほぼ間違いない。レイにもそのことは伝えてある。

 ただ、霜華はまだ戻ってきていない。霧矢が今所持している使えそうなものは、力砲と魔力分類器、水葉から渡された防御用の魔族封じの札の三点だけだ。攻撃に使えるのは力砲だけだが、これまた強力すぎて対人用としては使用できない。

(…マジックカードを貰っておくんだった)

 年が明けるまで、五、四、三、二、一…

「……!」

 秒針が十二に差し掛かったとき、いきなり霧矢、美香、レイの三人以外の客がいきなり半透明になって固まった。

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