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Absolute Zero 3rd  作者: DoubleS
第三章
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トラブルは必ず起こる 9

「いいか! 仮に万が一の事態があったとしても、術を使うのは最後の手段だぞ」

 水葉の計画では、霧矢と霜華のペアが美香の護衛のメイン、レイがサブというものだった。霜華を参加させるという、霧矢にとって予想していたが予想外の計画を提示され、霧矢はご機嫌斜めだった。風華は北条と一緒にいるらしく、水葉曰く彼に任せても問題ないらしい。

 霧矢は北条についてどんな人か知らないのだが、霜華は悪人ではないと語った。少なくとも、塩沢のような殺し屋の香りはしなかったそうだ。

 パーティーホールに入ると、大勢の人間が社長令嬢を出迎えた。美香は、表面上は嬉しそうに彼らに応対していた。霧矢と霜華は壁際で美香を監視し、レイはステージ脇で待機している。

 時計を見ると、パーティー開始まであと五分。片平社長の姿が見えないが、おそらく彼はステージ脇の控室にでもいるのだろう。

「それにしても、霧君が言っていたストーカーって何なの?」

「……美香にここしばらくの間、付きまとっているが、まるで正体がつかめないらしい。だから、おそらく魔族か契約主の可能性が高い…と塩沢は言っていた。正確なことはあいつにもよくわからないらしいが……」

 そして、美香はそのストーカーのことをあまり疎ましく思っていない。むしろ、何かを期待しているようなそぶりさえ見せていた。そのことを霜華に話すと、霜華は首を傾げた。

「……期待している…かあ…私も何のことやらさっぱり……」

「考えてもわからないものはどうしようもないさ。とりあえず、美香を守る。ストーカーがどんな手段を使ってくるかわからないけど、まあ、何とかなるだろ」

 魔力分類器を手でくるくると回しながら、霧矢は軽く答える。霜華は若干不安に思いながらも、霧矢の横で会場を見回していた。

「それにしても、爆弾付きの密売人と、ストーカーが一緒にいるなんてね。塩沢さんも迷惑なことを紹介してくれたもんだね」

「まったくだ。あの野郎、殺すだけ殺して、今度は迷惑事に巻き込みやがって……」

 ぶつぶつと不満を垂れ流していると、会場の照明が暗くなり、スポットがステージに当たる。


「皆様、本日は京浜製薬主催のパーティーに足を運んでいただき、誠にありがとうございます」

 片平社長らしき人物と、司会者らしき人物の二名の男がステージに立っている。

「…始まったようね」

「だからと言って、僕たちが注目する相手はあの人たちじゃない。美香だ」

 長ったらしい社長の挨拶の間、霧矢は魔力分類器で会場をチェックしながら、美香の動きを見張っていた。霜華もいつでも動けるように出口近くの壁際で待機している。

 霧矢としては、空腹を覚えてきたのでテーブルの上のサンドイッチを失敬しようと思ったが、まだ挨拶中で、今つまみ食いをするわけにはいかない。腕組みしてただ話を聞き流していた。

「何もないなら、それに越したことはないんだが……しかし、話が長いな……」

「さすがは業界最大手の社長…としか言いようがないよね」

 少し引いたような顔で、霜華も霧矢の独り言に同意する。美香は穏やかな笑みを浮かべて父親の姿を見ているが、心の奥では退屈を押し殺しているのが容易に伝わってきた。

(…頑張って耐えてくれ。お嬢様)

 気の毒そうな表情で霧矢は美香を眺める。霜華も彼女を見て苦笑いを浮かべていた。


 長い長い挨拶が終わり、やっと乾杯となった。ウーロン茶を霧矢は飲み干すと、

「悪い。僕はちょっと腹が減った。料理を食べてくるから、美香の見張りよろしく」

 先ほど霜華に手伝ってもらうことにあれほど抵抗を抱いていたのを棚に上げて、霧矢は霜華に監視を頼んで、料理のコーナーに突撃する。

(…高級料理がわんさかと…少しでも腹を満たしておかないと…)

 自分の皿に少しずつ取ると、霜華の分も多少よそった。霜華のところに戻ると、霜華は美香に変わったものを見るような視線を向けていた。

「ほら。お前の分だ」

「ありがと。でも、私それほどお腹すいてないんだ」

 霧矢は料理にフォークを突き刺すと、口に運んでいく。高級な食材に舌が慣れていないため、何を食べているかもよくわからなかった。また、緊張感が余計味覚を邪魔している。もったいないと感じながらも、空腹を満たすためにただ食べていた。

「しかし、魔族か契約主がストーカーか……救世の理よりはましかもしれないが、力を持つと、みんな何をするかわからないな…」

「まあ、そうだね。契約によってパワーアップしたことで、自制心を忘れて舞い上がったりする人もいないわけじゃないから……」

 リリアンが言っていた通り、異能の力を使った犯罪は警察もどうしようもない。そういう連中を粛正するために、相川探偵事務所のような裏組織があるわけだが、そのベクトルが善に向いているのか、悪に向いているのかは別として、彼らもまた異能で犯罪を行っているということは否定できない。

 ――認知されない犯罪は犯罪ですらない――彼らの行動の根底にはこの原理がある。

 そして、霧矢たちは、その相川探偵事務所の片棒を担がされている。

(……まあ、非合法な仕事を手伝っているわけじゃないし……)

 改めて考えてみると、霧矢は一歩間違えるととんでもないことに巻き込まれる可能性があるのだ。もう、巻き込まれているのかもしれないが。

 ローストビーフを咀嚼しながら、霧矢はまわりの人と話している美香を眺める。魔力分類器を使っても、普通の人間に変わりない。不審なところはないようだ。

「…風華、北条さんと何してるのかなあ…?」

 霜華のつぶやきに霧矢は反応する。そう言えば、北条について詳しいことを聞いていない。

「なあ、その北条って何者なんだ? ガス事件の生き残りとしか聞いていないんだが」

「私も詳しいことはよくわからないんだ。塩沢さんの後輩らしいけど、それ以上のことは、話してくれなかった」

「そんな素性のわからないやつに、風華を預けても大丈夫なのか?」

「大丈夫。あの人は悪い人じゃない。異能を持っている気配もないし、持っていなくても、空気は塩沢さんとは違う」

 霧矢は皿をテーブルに置くと、お茶を飲んだ。

「その、北条さんとやらにちょっと会ってみたいな。どんな人なのか、実際に会って話してみたい気分だ。あの風華が珍しくそれなりに気に入ってる人間なんだろ?」

 軽い笑顔を浮かべて、霧矢は霜華に視線を向けた。

 霜華も霧矢に笑顔を返した。北条柳都、どのような人間なのか、興味が持てる男だ。

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