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Absolute Zero 3rd  作者: DoubleS
第三章
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トラブルは必ず起こる 4

 振袖を着た姉妹は、パーティーの受付を済ませ、ホール内で周囲を見回していた。

「人が多いなあ………」

 気分悪そうに、風華は苦々しい表情をする。霜華はそんな風華を気遣いながらも、鈴原の姿を探していた。こんなところで騒動を起こされたらたまったものではない。

「……北条さんと一緒にいるべきだったなあ…今どこにいるんだろう」

 各界の要人が集結している中で、外見年齢が小学生と中学生くらいの女の子が振袖でうろうろしている。二人とも目立ってはいるが、相手も突っ込んだら負けみたいな意識を持っているのか、誰も霜華たちに話しかけたりはしてこなかった。

 北条は男にもかかわらず、目がすべて隠れるほど前髪を伸ばしているため、会場にいれば、それほど苦労することもなく探し出せるはずだと思っていた。しかし、この場から見つけだすことはできず、塩沢と接触を図ることもできない。そして、霜華と風華は水葉には会ったことすらなく、そのため相手の顔さえ知らない。

(……爆弾を持った男がいると聞かされて、パーティーを楽しむなんて無理に決まってるよ。まったく、何考えているんだか、塩沢さんも)

 小型の爆弾が発生させる爆風や熱ならば、霜華や風華の力をもってすれば身を守ることはできる。しかし、建物が崩れるとなると、これまた勝手が違う。

(……霧君、今何してるのかなあ……)

 一階のコンベンションホールの天井はとても高い。シャンデリアの吊るされた天井を見ながら、霜華は落ち着かない気持ちで唸っていた。

 立食パーティーの形式が取られ、テーブルの上には大量のオードブルが並べられていたが、二人とも食欲はあまりなかった。

「何か、もったいない感じだね。食べないっていうのも」

「今の私は食べる気はしないよ。お姉ちゃんだって、のんきに食べる気はしないでしょ」

 セイスだったら、そのまま飛びかかり、すべてを平らげてしまうのだろうが、二人はげんなりした表情で、皿を見つめていた。

「知らぬが仏って言うけど、今ばかりはその通りだと思ったわ。この状況で、何もできないとなるとさらにね」

「…そうだね。今この状況で、自分が何かできるならともかく、何もできないなら知らない方がまだましだったのかもしれない。気分的にもね」

 姉妹揃ってため息をつく。パーティー開始まで十分を切った。そろそろ霧矢たちも会場に入ってきてもおかしくない時間帯だ。

 霜華たちが立っている壁のちょうど向かい側には、淳史と理津子が立っていた。淳史は黒のスーツ、理津子はディナードレスという格好だった。二人とも、要人との立ち話に興じているのを見ることができた。

「…あれが霧君のお父さんか……でも、彼の水の魔力は人並みだね。風華、どう思う?」

「少なくとも、あの水の魔力は人と比べて決して強くはない。理津子の魔力は確かに人よりも強いけど、それでも異常というレベルじゃない。普通とやや強い人の間で、霧矢みたいなあり得ないほどの水の魔力の持ち主が生まれるかと言えば……」

 風華は言葉を濁す。霜華も腕組みして考え込む。

「霧君には何か秘密があることは間違いない。普通に考えて、あんな強力な魔力の持ち主は、そう簡単に現れるものじゃないはずだしね……」

 先天的に親よりも強力な魔力を有した子供が生まれること自体は珍しいことではない。しかし、霧矢の魔力強度は常軌を逸している。霜華たちは父親に何らかの原因があるのではないかと思っていたが、彼を見る限りその可能性も低そうだった。

 いずれにしても、霧矢の存在はイレギュラーであることは確かだ。こちらの世界では、それほど重要視されるものではないが、霜華たち魔族にとっては、非常に興味深い存在である。


「それにしても、霧矢ってまだ来ないのかな? もうすぐ始まるのに、見当たらないよ」

 人の数が多すぎるため、見つからないだけなのかもしれないが、風華は霧矢の姿を見つけ出すことはできなかった。何とか会って話したいと思っているのだが、こういう時に限って物事は裏目に出たりする。

「まあ、霧君は護衛の仕事をきちんと果たしているということでしょ。お嬢様だってまだ出てきていないようだし」

「片平美香だっけ、そのお嬢様の名前は。わがままなお嬢様だって話だけど、どんな人かなあ」

 風華は壁に寄りかかりながら霜華の袖をつかむ。人ごみに慣れていないだけあって、風華にとって、ここはあまり居心地の良い場所ではない。

「……ちょっと、外の風に当たってくる。お姉ちゃんはついてこなくてもいいよ」

「大丈夫? このホテル広いから、道に迷わないようにね」

 風華は人ごみをかいくぐるように、ホールを出ると、出口に向かって歩き出した。年齢的に周囲から好奇の眼差しを向けられていたが、無視してロビーから外に出た。


(ふう……やっぱり、冷たい風が一番好きだなあ……)

 浦沼とは違って、乾いた東京の空気の流れを感じながら、風華はエントランスに立っていた。脇では数人の式服を着た招待客が、乗り付けたタクシーで降りてくるのが見えた。

 この建物に爆弾を持った男がいますとは口が裂けても言えない。もっとも、言ったところで、自分の外見は小学生そのものなのだ。子供の戯言と受け取られるだけだろう。

(…早く大人になりたいなあ……)

 自分の姉を見る限り、自分も成長は望めない。十八歳にもかかわらず、外見年齢は十四、五歳くらいの姉という、残念な現実がそこにあった。

 ただ、霜華は風華の憧れでもあった。氷の術を使いこなし、誰かを守れるという強さの持ち主という存在。自分は水の属性を持つのに、こちらの世界では使うことができない。むこうの世界でも、水属性の術の腕は霜華とは比べ物にならないほど下手だった。氷の術を使えない雪女、風を操る雪女。まわりから馬鹿にされ続けてきた。

(…そんなのは、もう雪女じゃない……)

 姉の存在は、自身のコンプレックスになっていたのかもしれない。術の才能に限らずとも。

(私が弱いから……お姉ちゃんみたいな強さがないから、あんなことになったんだ…)

 霜華がみんなでこちらの世界へ逃げると言い出したとき、風華は拒否した。しかし、その結果、風華やその仲間を守っていたアブソリュート・ゼロの留守という事態を引き起こし、結果、自分は奇跡的に生き残ったものの、仲間はほとんど殺されてしまった。

 敵を殺さないと自分が殺される。その状況で、風華はためらってしまった。そして、今でも、敵を殺すことはやむを得ないことだと割り切ることはできない。

 霜華も、そういう風華の心を傷つけまいと、敵を殺すことを封じている。霧矢も霜華と風華を守る手段として敵を殺すことはしないと約束した。


 でも、それで、誰かが死んでしまったらどうする?

 敵を殺さないことで、より多くの人が傷つくことになるとしたら?


(ねえ、その答えはどこにあるの?)

 そんなことを考えながら、風華は高層ビルと夜間の明るすぎる照明のせいでよく見えない星空を眺めていた。

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