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Absolute Zero 3rd  作者: DoubleS
第三章
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トラブルは必ず起こる 1

 ゆっくりと下の階へと向かうエレベーターの中で、塩沢は押し黙っていた。

「塩沢さん。あなたは別の仕事があるから、今回の仕事は古町さんが担当するとか言ってませんでした? なのに、何でここにいるんですか」

「…答える必要はない。君たちはただパーティーを楽しんでいればいい」

「もし、霧君や理津子さんが危険に巻き込まれるようなことになれば、私が黙っていないわよ」

 塩沢は無表情で、エレベーターのパネルを見ていた。

(……残念だが、その可能性はゼロとは言えないな……)

 霜華は塩沢をにらみつけたが、彼は答えようとしない。

「大体、お前がここにいるということは、何かトラブルが起きていると考えるのが正しい。いったい何が起きているのか、答えて」

「風華君、もう少し君は丁寧な言葉遣いを覚えろと言われなかったのか?」

「霧矢にしょっちゅう言われているわ。でも、霧矢からあなたのことをいろいろと聞いているけど、あなたには敬意を払う気にはなれない。葬儀屋さん」

 塩沢は、うんざりした表情で霜華たちの方を向いた。

「……別に気にするほどのことではない。ある人間を探しているだけだ」


 エレベーターのドアが開くと、塩沢は駆け出し、あっという間に見えなくなってしまう。霜華はロビーの椅子に座った。風華は、新品の着物の袖を振りながらあたりを見回している。

「ねえ風華。塩沢さんは何の目的でここに来たと思う?」

「……わかんないよ。でも、あの人がここにいるってことは、何か確実に起きてるってことはわかる。でもあの様子じゃ、霧矢には何も話してないと思う」

 それはわかる。塩沢が霧矢にここに来た理由をすでに話しているとしたら、霧矢はすぐに霜華たちに伝えているはずだ。特に重大な事柄ならばなおのことだ。しかし、霧矢からは何の連絡もない。

 つまり、今ここで起きていることは、大して重大ではないか、あるいは霧矢が知らないかの二つに一つだろう。

 霜華も風華も携帯電話を持っていない。ロビーに公衆電話はあるが、霧矢の番号を知らないので、問い合わせようにもその手段はない。それに、今、理津子は淳史と一緒にいる。霧矢から二人に接触することは禁止されているので、理津子を通して確かめることもできない。

(……電話番号を聞いておくんだった……困ったなあ……)

 ため息をついて、ロビーの噴水を眺めていると、前髪がやたらと長いスーツ姿の男が近づいてきた。魔力を放出しているところから、普通の人間だ。危険人物の香りもしない。


「……すみません、お二人ともこの男に見覚えはありませんか?」

 携帯電話に表示された中年の男を霜華たちは見つめるが、見覚えはない。二人は首を振った。

「……そうですか…わかりました。ありがとうございます」

 男は歩き去ろうとするが、霜華は引きとめた。直感で何かあると感じたのだ。

「あの、その人はお知り合いですか?」

「……いえ。ちょっとした人探しです。手分けして探しているのですが、なかなか見つからないんですよ。さすがにこのホテルは広いので……」

 風華は男の袖をつかんだ。驚いた様子で、男は小さな女の子を見る。

「……あの……どうかしましたか……」

 霜華は立ち上がると、男の目の部分を直視する。

「手分けして探していると言ったけれど、その中に、塩沢雅史という人はいなかったかしら?」

 長い前髪のせいで男の表情はあまり読めないが、口元は厳しい表情になっていた。

「……すみません。急いでいるので、僕はここで失礼します」

 風華の手を振りほどいて、男は歩き去ろうとする。しかし、風華の方が動きは速かった。男の前方に回り込み、通せんぼをした。

「塩沢と関係しているね。答えなさい。その男は誰で、どんなことが起きようとしてるのか」

 風華は男を見上げた。驚いてはいるようだが、焦ってはいないようだ。度胸のある人物であることがうかがえる。男も男で、風華と霜華を只者ではないと認識したようだ。

「……こちら、北条です。十代前半と思わしき姉妹につかまりましたが、どうも、あなたの知り合いらしいです。どうしますか?」

 男はイヤホンから聞こえてくる音を聞くと「わかりました」と答えた。


「……話は聞きました。僕は北条柳都と言います。あなた方は、北原霜華さんと北原風華さんで間違いないですね?」

「ええ、間違いない。で、話してくれる気になった?」

「……僕たちの邪魔をしないと約束してくれたら、お話ししましょう。あと、パニックを招きたくないので、他言無用でお願いします」

 それは内容次第だ。もしも、塩沢が霧矢を巻き込んで何かをやろうとしているなら、止めなければならない。霜華は北条にノーと答えた。

「……でしたら、僕は失礼させてもらいます。これは、邪魔されるわけにはいかないので…」

「そう、だったら、私たちを倒してから行くことね。塩沢さんから、この世界には特殊な能力を使える者がいるということくらい、聞いているでしょう?」

「……それは知っていますが、僕は無能力者です。無抵抗の人間を攻撃するのは、少し乱暴が過ぎるんじゃありませんか?」

「私だって無意味に人を傷つけたくはないわ。北条さん。でも、塩沢さんが出てくるくらいだから、人命にかかわるような大事件が起きようとしているということくらい、私たちだってバカじゃないから、容易に想像つくのよ。何が起こっているのかしら?」

 北条は下を向いた。腕組みしてしばらく考え込んでいたが、無線機のマイクをつかんだ。

「……塩沢先輩。この二人に攻撃される危険が出たので、あらかじめ宣言した通り、僕は自由に行動させてもらいます。この二人にこの件のことを話しますよ」

 イヤホンを外すと、ポケットに突っ込んだ。

「……ここではなんですから、奥でお話ししましょう」

 人気のないロビーの奥のソファーで、霜華と風華、北条は向き合う。

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