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Absolute Zero 3rd  作者: DoubleS
第二章
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いろいろな本性と苦悩 4

 しばらく二人きりで話していた霧矢と美香の部屋に、水葉が戻ってきた。

「交代の時間よ。霧矢君は私が呼ぶまで、部屋でゆっくりしていてもらって構わないわ。それと、これ、渡しておくわね」

 霧矢は耳栓のようなものを受け取る。水葉の説明によると、小型の無線機らしい。

「パーティー中はこれをつけておいてちょうだい。それと、もうマイクを使って話すことも可能だから、会場の中では随時話せるわ。もしも気になることがあったら、それを使って、過ぎに話してちょうだいね」

「わかりました。では、美香さん、失礼します」

「ええ、では霧矢さんもお気をつけて」

 先ほどとはうって変わって、もとのお嬢様モードに戻っている。霧矢は金塗りのエレベーターに乗り込み、ロビー行きのボタンを押した。

(……やれやれ、お嬢様も大変なものだな)

 ストーカーが誰で何の目的を持っているのかはわからないが、霧矢はとりあえず考えるのは後回しにした。ポケットから部屋の鍵を取り出すと、自分の部屋の階を確認する。このエレベーターはロビーとスイートルームが直通になっているので、一般の客室に行くためには、いったんロビーで乗り換えなければならない。

 ゆっくりとエレベーターが動きを止め、滑るようにしてロビーへの扉が開いた。ロビーの多くの面積を占める噴水が眼前に広がった。

 鍵の番号を見ながら、霧矢はロビーを歩いていると、人にぶつかってしまう。

「あ…すいません」

 こちらの不注意を詫びようと顔を上げると、そこに立っていた男は、霧矢が久しぶりに会った人間だった。できれば、今会いたくはなかった人間でもある。


「…と…父さん…?」

「おう……霧矢じゃないか。来ていたのか。ちょうどいい、話がある」

 いずれは会うことになると思っていたが、今すぐ会う心の準備は霧矢にはできていなかった。だが今、霜華や風華はこの場にはいないため、話すなら今がチャンスであることも事実だろう。

 二人はホテルの喫茶店に入る。霧矢は注文しようと思ったが、メニューの反則級の値段を見て、顔が引きつってしまう。

(……だ、大丈夫だ。経費で落ちるから…経費で落ちるから……領収書だけ忘れなければ…)

「どうした、霧矢。顔色が悪いぞ。体調でも悪いのか?」

 淳史は値段など気にすることもなく、コーヒーを注文し、霧矢もそれにならう。喫茶・毘沙門天の数倍以上の値段だった。

 ウエイトレスが、外国製のカップに最高級品の豆を使用したコーヒーを入れたものをテーブルに運んでくる。霧矢はそれを落ち着かない様子で見守っていた。

「それで、今、母さんは何をしているんだ? お前と一緒じゃないのか?」

「あ…ああ。街を観光しているみたいだ。僕は、先にホテルに来たわけだけど……」

 突然のことだったので、どう言い逃れるかをまったく考えていなかった。変なことを突っ込まれないことを祈るほかない。

「ホテルは会社がすでに手配してくれたらしいな。私はそう聞いた」

「ああ、そうみたいだ。いきなり鍵を渡されて、それだけだ」

「話は聞いた。美香さんの話し相手を頼まれたそうだな。その様子じゃ、どうやら、もう彼女に会って来たようだな……」

 霧矢は固まる。父親がどこまで知っているのかわからない以上、どう説明するか、言葉も選ばなくてはならない。どうしたものか……

「ま…まあ、知り合いから頼まれて、話し相手になってやってくれと……」

「その知り合いというのは誰なんだ。そんなことを頼む人間など珍しいと思うのだが……」

 霧矢は慎重に、当たり障りのない言葉を選ぶ。

「塩沢雅史さんという人。探偵の助手らしい。クリスマスの少し前に、人探しを手伝って、その時に結構親しくなった」

 一応嘘はついていない。セイス・ヒューストンとユリア・アイゼンベルグという二人の人探しを手伝ったのは事実だ。

「塩沢雅史……どこかで聞いたような名前だな…探偵の助手、ふむ……」

「そ…そうなのか……へえ、結構名の知れた人なんだ……」

 葬儀屋という異名で通っていて、裏世界で恐れられている殺し屋だということを、霧矢は十二分に知っているが、ここは敢えて知らないふりをすることを選んだ。

「まあいい。実際会ってみて、どう思った?」

「え…どっちのこと?」

「片平美香の方だ。どんな振る舞いをしたか興味がある。二つの顔のどちらを見せたのか、に」

 その質問をするということは、父親も彼女の真の顔を知っているということを意味する。

「わがままお嬢様の本質を見たさ。普通に憧れる上流階級の人だった」

「そうか。それは幸運なことだ。彼女の本質を知る者はそれほど多くない。それを知ることができたということは、彼女の信頼を得ていることを意味する。逆に言えば、彼女に信頼されている人間はそう多くないということでもある。お前は信頼を得た。よかったな」

 淳史はコーヒーをあおる。霧矢は微妙な面持ちでテーブルの面を見ていた。

「まあ、その話はここまででいいだろう。学校とかで変わったことはなかったか?」

 霧矢は顔を上げる。やっと話題が安全なものへと変わり、霧矢は胸をなで下ろした。


 それからは、他愛もないことを適当に話して、気が付いたら頃合いの良い時間だった。

「おっと、もうこんな時間か。夕食の時に母さんと一緒にまた会おう。それまで、私は部屋に戻っているからな」

「わかった……」

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