いろいろな本性と苦悩 3
「うわあ………すごいなあ…これ…」
浅草の雷門を前に、霜華と風華は歓声を上げた。道行く観光客は二人が薄着でいるのをちらちらと見ているが、霧矢と違って理津子はそんなことを気にするような人間ではない。見とれている二人を微笑みながら見守っていた。
「それにしても、東京ってすごいなあ。こんなに人が多いし、見るものもたくさんあるし…」
もう数時間もすれば、初詣の参拝客でもっとごった返すことになるだろう道の上で、霜華はくるくると回っていた。風華は姉の妙な振舞いを止めさせる。
「お姉ちゃん。人が見てるよ」
もともと、風華は人ごみが苦手なので、霜華よりもこういう場では活発でない。彼女は基本的に舞い上がった姉にブレーキをかける立ち位置の人間だ。久々に本領を発揮した。
「ほらほら、人の迷惑になるから、ちゃんと歩いて」
霜華はバツが悪そうに、もじもじと道の端に寄る。理津子は微笑ましい光景を眺めながら、晴れ間が差してきた空へ視線を上げた。
(……こんな小旅行も悪くないわねえ……)
その願いを叶えるには自分は少し病弱だった。だが、今、何となくその願いに近いものがここにあるような気がするのだ。いや、もうすでに叶っているのかもしれない。
人生何があるかわからない。その言葉はまさにその通りだと思う。
「光里へのお土産は何にしようかな……」
土産物店を覗き込みながら、風華は物珍しさに目を丸くしている。浦沼にはないような珍しいものが並んでいた。
「…やっぱり、浅草のお土産で有名なものと言えば、人形焼かしらねえ…」
風華の頭越しに、理津子は平積みされている箱を指さす。
「じゃあ、これ光里に買って帰ろう!」
「セイスには大箱の方がいいかもしれないと思うなあ」
霜華が手帳に書いたお土産を買って帰る人のリストを参照する。霧矢からお土産代はすでに預かっており、土産購入は霜華たちに一任されていた。
「霧君が指定した人は、晴代、会長さん、護君、西村君、有島さん、ユリア、セイスだね」
「ご近所さんにもあげるかもしれないから、もう少し多めに買ってもいいかもしれないわ」
箱をいくつか取り上げると、まとめ買いする。
「お…重いよう……」
「これ持って、街歩くのは結構きついかも……」
どこか抜けている理津子と霜華は今になって後悔する。仕方なく、郵便局に駆け込んだ。
「この荷物全部、配送お願いします」
理津子が送り状を書き込んでいる間、霜華と風華は郵便局の中をうろうろしていた。
「…こっちの世界って、こうやって手紙とか荷物を送るんだ……」
霜華は風華を見る。二重属性の都合上、風華はこちらの世界に来ることはできなかった。そのため、こちらの世界のことも結構疎い。霜華は、何度もこちらの世界に来たことがあり、大体のことは知っているが、風華にとってはすべてが新鮮な体験だった。
「それにしても、霧君、今何してるのかな……」
霜華は腕組みする。霧矢から護衛の仕事を引き受けたとだけ聞いていたが、それ以上のことを霜華は知らない。理津子は霧矢を信頼しきっているので、何も言わなかったらしいが、霜華としては一抹の不安が残っていた。
「終わったわ。次、どこに行きたいかしら?」
手続きを終わらせた理津子は、次の行先を尋ねる。霜華は風華の顔を見て、希望を聞いた。
「……晴代のリクエストに応えてみようよ。池袋だっけ、そこの本屋さんでしょ」
「霧君はダメって言ってたけどね。私もどうしてダメなのかわからないんだけど……理津子さんは心当たりあります?」
「…私も、よくわからないわねえ……池袋って言ったら…あんまりピンと来るものはないんだけど……」
理津子も思い当たることはない。三人とも、なぜ霧矢があそこまで拒絶したのかわからず、首を傾げていた。観光自体を禁止するとは、いったいどれほどのものなのだろう。それだけでも興味がわいてくる。
見るなと言われると見たくなるというのは、どの人間でも同じことだった。
そのまま三人は、浅草の地下鉄乗り場へ向かった。




