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Absolute Zero 3rd  作者: DoubleS
第二章
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いろいろな本性と苦悩 2

「あんたは、共学とかに憧れてたりするのか?」

「憧れてなければ、こんな話なんてしないわよ。同年代の異性と話す機会なんて、めったにないから、いい機会だと思って」

「あんたが、わがままお嬢様と言われているわけがなんとなくわかったよ。普通の人なら、それはわがままじゃないけど、あんたのような身分の人間にとって、その願いは度を越えているものだったんだな」

「ほんと。私たちの世界にとって、普通の人のわがままは当然に通り、普通の人の普通の願いはわがままになるのよ。面倒くさいったらありゃしない」

 これが、京浜製薬社長令嬢の本性か。見ず知らずの他人に対しては上辺だけ、良家の令嬢を装うものの、本心では自由を求めて、不満が渦巻いている。それを知る者は身内のみであり、ゆえに、外部の人間はわがままお嬢様と言われても首を傾げるだけだ。

 彼女が求めているのは、外の世界との接触。箱入り娘の彼女にとって、その機会は限られていた。そして、霧矢の存在は、彼女とは縁遠い農村の一般平民。雪国の商店街で暮らす、地味な小市民。彼女の世界とはかけ離れた世界の住人だった。

「ある意味では、僕も幸せな人間だったかもしれないな。そう考えると特にね」

 銀の皿の上に載っているクッキーをつまみ上げると、霧矢は口の中に放り込む。一枚で霧矢の小遣いが吹き飛ぶくらいの銘柄だが、この際だからもう気にしない。

「ほんとはね、護衛は古町さんだけにお願いする予定だったのだけど、私が駄々をこねたのよ。誰か、同年代の異性という話し相手を、一人つけてくださいって」

(……塩沢の野郎……隠してやがったな……)

 霧矢は一人歯噛みする。この仕事が終わったら、恨み言の一つや二つは言ってやらないと気が済まない気分だ。どうして先にそれを言わなかったのかと。

「それにしても、選ばれた人が、三条博士の息子さんだったって聞いた時には本当にびっくりしたわ。私は父親の付き合いの関係で、彼とは結構面識があったりするのだけど、あなたの博士との関係は結構薄いらしいわね。だから、私の父にも会ったことはないのでしょう?」

 霧矢はうなずく。そもそも、父親と過ごす時間は一年間で一月あるかないかだ。ただでさえ薄い関係の父親の交友関係を知るはずもなかった。

「別に僕としては、この仕事は腕試しのような感じで引き受けたわけで、それ以上のことはあんまり求めていない。上流階級の人とお近づきになりたいとか、そんなことは微塵も考えてないからな」

「考えてなくても、今もうそれは叶っているわよ。ご愁傷様」

 霧矢は、舌打ちすると、美香に手を差し出した。彼女は突然差し伸べられた手を見て、首を傾げながら戸惑っている。

「……本当にあんたは面白いお嬢様だ。改めて自己紹介しよう。僕は三条霧矢。よろしく」

「…私は、片平美香、よろしく」

 お互いの手を握る。両者とも、相手を面白い人間だと認識した瞬間だった。

「パーティーじゃ、また、さっきの猫かぶりに戻るのか?」

「そうするしかないわよ。まったく、お嬢様らしくとか、どうしてこううるさいのか…」

 ぶつくさと不満を言いながら、彼女は部屋を歩き回る。その様子はわがままお嬢様そのものだった。自分の身の回りが堅苦しすぎることが残念でならないといった表情だ。

「うるさいのは、さっきのメイドさんと執事殿か? それとも、片平社長か?」

「父親はそれほどうるさくないわ。うるさいのは執事の川内やその他の使用人、レイはそれなりに理解を示してくれるけど」

「レイってさっきのメイドさんか?」

「そうよ。私が小さいころから世話してくれている。姉代わりみたいな人よ」

 霧矢はうなずくと、高級そうな金塗りの壁掛け時計を見る。アンティークそのものの振り子時計は、静かに時を刻んでいた。

「……パーティー開始まで、あと六時間強と言ったところか。現在、午後四時十分前。もうすぐ、水葉さんと交代になるが、一つだけ、聞いておきたいことがある」

「何かしら」

 霧矢は、美香をソファーに座らせる。先ほどから薄々思っていたことを、口に出した。

「…もしかして、今回のストーカーって、あんたは別にそれほど疎ましく思ってはいない。撃退を頼んだのは、あんたの父親で、あんたはそれをあまり望んでいなかったりするんじゃないか。そうだろう?」

 腕組みしながら、口笛を吹き始めた。霧矢は目を瞑った。

(……何か少しだけわかってきたような気もするぞ……)

 霧矢は今まで得た情報を整理しながら、自分なりの仮説を立てはじめる。わかっていることはあまり多くないが、それでも、輪郭ぐらいは浮かび上がらせることができる。

 おそらく、相川探偵事務所にストーカーからの警護として依頼をかけた際、相手の正体が不明と伝えたが、それはきっと本当だろう。正体がわかっているのであれば、相川探偵事務所とはまた違った、報酬次第で何でもするような裏組織に依頼すると思われる。

 相手の正体がわからないのは確かだが、美香はそれが誰なのか、大体知っていると思われる。そして、彼に何らかの期待をかけているのも事実。そして、彼女はそれをストーカーとしてではなく、もっと別のものとして認識している。

 しかし、彼女が何を求め、何を考えているのかは、あまりはっきりしない。霧矢の考察はここで止まってしまう。

「あなたは、意外と考え込むタイプなのね。それは父親譲りみたいね。その冷静さとか、考える仕草なんかは、まったく同じものと言ってもいいわ」

「そりゃ、血は引いているからな。多少似ててもおかしくはないんじゃないのか?」

 言葉とは裏腹に、母親似と言われることが多かった霧矢が、父親に似ていると言われるのは珍しいことで、霧矢は内心では妙な気分を味わっていた。

 自分よりも彼女の方が、他人であるにもかかわらず三条淳史のことをよく知っている。別に嫉妬などはしないが、微妙な思いを抱くこともまた事実だった。

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