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New World   作者: 池宮樹
ある男の回想 前世から幼年期まで
6/22

第二話 テンプレ展開とゆるふわ幼女様 (改稿版)

 次に目を開いた時、ただひたすら真っ白な場所に俺はいた。


 不思議なことに、全身を蝕んでいたあの異常な熱さも冷たさもまったく感じていなかったし、その時はそれを思い出すこともなかった。遠い昔にどこかで感じていた気がする、ゆったりと包み込まれるような優しさに全てを委ねてもう一度目を閉じた。


 全てはまるで夢のように。


 ごくごく『平凡な人生』を送ってきた自分がまさか『平凡な異常事態』(テンプレ)に巻き込まれていたなんて気づくこともなく。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「……知らない天井だ」


 2度目の目覚めとともにお決まり過ぎるフレーズを吐いてしまった俺は、ようやく自分がどこか見知らぬ場所にいる事に気づいた。

 

 右も左も上も下もないおかしな世界。どうやら俺はまだ夢を見ているようだと、夢の中で夢だと思うなんておかしな話だなとか思いながら、しばらくぼ~っとしていた。

 

 まぁぼんやりしながらもゆっくりと右腕を動かすと、思ったとおりに動く右腕。ちゃんと夢の中でも自分の腕が動く事がなんだか楽しくて拳を握り締めたり手を開いたり、お腹に手を当ててみたり……したところで気づいた俺は『飛び起き』た。


 そうすると何故か今まで右も左も上も下もなかった世界に上と下が出来て、『立ち上がる』ことが出来たのである。あわてて周囲を見渡すとそこには今までその世界に存在しなかったはずの奥行きが。それもただの奥行きじゃない。俺の目に飛び込んできたのは、地平線の遥か彼方まで果てしなく続く白。色の変化もなく、濃淡もないただひたすらに白い空間。あの時変に冷静じゃなくてホントよかった。体験した俺だから分かる、あんなとこに一日いたら人間なんて簡単に狂っちまうだろうから。



 今から思えば、最初起きた時に異常極まりないあの場所で2度寝をぶちかましたあげく、二度目に起きた後もテンプレ口走ってた俺って大概大物だと思う。……鈍いだけともいうが。


 

 まぁその時の俺は、そんなありえない変化を見せた世界への驚きよりも、自分の体に起きていた不自然さへの驚きにテンパってて、そういったことの重大性に情けない話、まったく気づかなかっただけど。


 だって痛くないんだぜ? まず自分の目でお腹を見ても傷はないし、錯覚かと思って両手で腹を触っても、あれだけ出ていたはずの血の跡がどこにもありゃしない。そもそもあれだけ深々と刺されたはずなのにかすり傷一つないっていうのは……、と考え込んだところで、あらためて周囲を見渡すとさっき言ったような俺の目に映ったのは、さっき説明したとおりのだだっぴろいだけの白い空間。


 この時点でようやく自分の身に起こっている異常事態に気がついて、冷や汗を大量生産しながら回転させ始めた俺は正直色々と遅かったと思う。


 ――おかしい。俺はあの誰だか良く分からない女にいきなり包丁でどてっぱらをいかれたはずだ。あの出血量ならどう考えたって死ぬ。それでなくてもあそこまで深く刃物が刺されば普通に助かるわけがない。それにもし万が一助かったのなら、どれだけ俺が目を覚ますまでに時間がたったにせよ、まったく痛み一つ無く大丈夫ってことは無いはずだ。


 そこまで思い至った俺があらためて周囲を見渡すと、そこに広がるのはやはり無限にも思える白。それがただただ広がる空間であり、どうまかり間違っても病院ではなかった。


 ――おかしい。そもそもここはどこだ。こんな真っ白でだだっ広いだけの空間なんて、少なくても病院じゃないだろ。そういやさっきテンプレネタを思わず口走っちまったけど、なにもない白い空間とかもしかしてっつうかもしかしなくても、いわゆるひとつの『お約束』(テンプレ)とかいうんじゃないだろうな? まさか!?



 そうしてとにかく現状を確認しようとした俺は、次の瞬間唐突に気づいた。否、気づいてしまった。



 いつのまにか俺の足元にいらっしゃった、太陽の色としか言いようがない髪の色をしたゆるふわカールの幼女の土下座に。



 ……えと、どういうこと?



 ――結論からいうと『お約束』(テンプレ)だったわけで。まったくもって笑えない話。



 と、これが俺と幼女な女神様とのファーストコンタクトである。『事実は小説よりも奇なり』とはよく言ったもんで、まさか自分の人生の中で幼女に土下座されることなんてことが起こることも、ましてやそれがその幼女が『神様』だなんてことも24年間の人生の中で一瞬たりとも考えた事なかったもんな。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 たっぷり1分以上目を点にして、日本人の俺から見ても見事な金髪幼女の土下座を見ていた俺は悪くないと思う。人間ホントに予想外すぎることが起きると硬直するんだということを俺はその時にしっかり学んだ。


 一回体験してみるといい。微動だにできないから。


「……え~と、どなた様でしょうか?」


 で、さらに3分たっぷり時間をかけて出てきた言葉がコレ。我ながら間抜けすぎる。


「はひぃ……、わたちは『かみしゃま』でしゅう……」


 再度の硬直。


 とんでもなく嫌~な予感。どうでもいいけど何でいい予感は簡単に外れるのに、いやな予感って奴はどうしてめったに外れないんだろうな。すごく理不尽だと思う。



 さらにしばしの沈黙。



 そして耐えかねた俺が「あの」って言おうとしたその瞬間――神様はぐしょぐしょに泣き濡らした顔を上げてこうおっしゃった。


「もうぢわけありちぇぇぇん! わたちのせいであなたをしなしぇてちまったんでしゅう!」


 もうそれはまさにネット上に氾濫しているそういう小説そのままの展開だったわけで。


 だから……。


 ……。


 …………。


「嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」



 そう絶叫した俺は悪くないと思うんだよな。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺の魂の絶叫からどれほど経っただろうか? よく覚えていないが俺が放心状態から帰ってくるとそこには未だ土下座状態の神様がぐずぐずと泣きつづけていた。まぁ言いたいこともつっこみどころも山ほどあったが、とりあえず一応自称神様とはいえ4歳か5歳にしか見えない幼女様にいつまでも土下座させていたことに気づいた俺は、あわてて言った。


 だって絵的にまずいだろ、幼女に土下座させてる24歳(男)とかどこの外道だよって話。


「と、とりあえず土下座はやめてください! えっと神様でいいんですよね?」


「はひぃ……」


 俺の言葉に反応してくれたのか、ようやく再びお顔をお上げになった幼女様なんだが、さすがに神様というべきか何というか。



 神々しいまでにかわいらしかった。


 

 ゆるやかにカールした太陽の輝きを思わせる黄金色の髪に大きくてパッチリ開いた最高級のサファイアのような青い瞳。凡百の芸術品など足元にも及ばないほどの顔立ちに、子供らしいあどけなさを示す表情と、とにかく完璧な愛らしさであった。


 そして何故かほのかに光る彼女の白い服(?)ともあいまってその時俺が感じた印象は、『わたあめみたいにかわいい幼女様』。実際わたあめ渡したら飛び上がって喜びそうなの性格しているのが分かるのはもう少し後の話だけど。


 そんな彼女に思わず目を奪われつつも、我に返った俺は何とか話を聞こうと女神様――以降呼び名を「幼女様」で統一することにする におそるおそる問いかけた。


「え~とつまりあなたは神様で、俺はあなたのせいで死んだと、そういうわけですか?」

 

「はひぃ……あってましゅ……」


 あ~、も~、典型的なテンプレだよな。よくわかんない理由で死んだと思って目を覚ましたら白い空間で、神様が幼女様で、死んだ理由がその幼女様のせいとかどこまでテンプレなんだよっていうくらい完全無欠のテンプレだった。


 夢だとは思わなかったのか? と不思議に思うかもしれないが、残念ながら世の中っていうのはどこまでいっても、たとえ死んじまった後でも甘くないらしい。この時俺が感じていたのは確かな現実感。誰でも一度は経験があると思うんだが、夢の中で夢みたいな事に出くわすと「あ、これは夢だな」って思ったことがあると思う。その夢らしさっていえばいいのか、とにかくそういうものがこの時はまるでなかったんだ。何というか我に返って落ち着いてからの全てに、確かに現実の手触りがしたというか。ただひたすら広がる白い空間も、目の前の幼女様も、水道の蛇口を開けば水が出るのと同じレベルで、確かに現実リアルだった。


 そうやって自分の五感から伝わって来た情報が俺に告げたのは最悪の結論。分かってしまったのだ。この後自分に告げられるであろう言葉が。俺だって伊達にネット上に星の数ほどあるそういうネット小説を読みまくっていたわけじゃない。この後自分に待っている運命は読めた。でも、それでも聞かずにはいられなかったんだ。……たとえ1%でも望みがあるなら、と。



「……俺生き返れますよね? 勿論」


「……」


 目に涙を溢れさせながら絶望を顔に貼りつける幼女様。その顔が何よりも雄弁に答えを語っていたが、俺はかすれる声でもう一度尋ねる。本当は聞きたくなんてない。でも聞かざるをえなかった。そうしなきゃ何も前に進まなかったから。だから聞いた。


 

 ――自分自身への死刑宣告を。



「……俺、生き返れますよね?」


「……ご、ごめんなしゃ……ごめんなしゃい……」


「…………」


「無理……なんでしゅ」


「……神様ですよね?」


「はひぃ……」


 びくびくと脅えながら再びそのサファイアの瞳から涙が頬を伝う。


 その姿を見ながら、小さく、そして深く溜め息を、一つついた。

 

 俺の人生はどうやら終わったしまったらしい。この後どうなるかおおよそ想像もつくが、少なくても『中村 秀人』としての人生は終了なのだ。


 そう思うと今まで生きてきた自分の人生が思い出されるのと同時に視界がゆがみ、涙が溢れてきた。


 古い写真のようにぼやけた幼い頃のなんでもない記憶や、実家の兄貴と俺の成長を刻んだ柱、高校時代にやってきた遅い初恋と初めての失恋、大学生活のために一人暮らしを始める俺を送り出すおふくろのうれしそうな、それでいてどこかさびしげな笑い顔。


 そんな記憶の中にある絵がいくつも浮かんでは消え、浮かんでは消え。


 

 それからしばらく音もなく俺の目から涙が溢れ続けた。ただ静かに。再び沈黙の中、幼女様がすすり泣く小さな声だけが白い空間へと溶けていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 その先の事はあんまり説明しなくても分かってもらえると思う。だってテンプレだし。ちなみに俺が死んでしまったのは、予定調和として悪い事をする役割の神様がいるらしく、その悪い事担当の神様が起こしたことをきっかけにした余波を、見た目通り経験不足だったらしい幼女様が上手くカバーしきれなかったのが原因だったそうな。


 その説明を聞いたとき思ったのは「神様も大変だ」ってこと。実に俺らしい間の抜けた考え。


 ……ついでに念のため確認したところによると、あの頭のおかしな女による俺への殺人未遂事件自体はどうやったって起こっていたらしい。ヤンデレとストーカーは本当に勘弁して欲しい。誰か『混ぜるな危険』ってラベル貼っておいてくれ。


 まぁあの女の子のことはさておき、俺は神様達の予定外に死んだ人間だからどこかの世界に転生して欲しいと、やっぱりどこまでもテンプレートな流れは続き、最終的に俺の膝の上に座って反則級の上目づかいの幼女様は小さな鈴が鳴るような声でこう言った。

 

「あなたはまちがって死んだ人なので別の世界に転生してほしいんでしゅ!」


「そこはいわゆる人間の作った『物語の世界』なら基本どこでもかまいまちぇん!」


「せめてものお詫びにわたちにできうるだけのことをさせていたたきまちゅ!」



 ……とまぁ、俺は自他共に認める年上の優しいお姉さん好きで、理想のタイプは言わなくても分かるだろうがどこかの寮の管理人のお姉さんなんだが、つまり何が言いたいかというと断じてロリでもペドでもないってことがいいたいんであって、つまり結論としてこの時は危うくあと半歩でお持ち帰り(=幼児誘拐)という最低の犯罪者になるところだった。


 ていうか(上目遣い+うるうるの碧い目+綿アメ金髪幼女)とか過剰搭載すぎてどんだけ反則だよと、突っ込まざる得ないよな。



 話が脱線してしまった、俺の悪い癖だ。え~、あ~、つまりさっきまでの話、要約するとこうなる。


 『チートにしてあげるから物語や漫画やゲームの世界に転生してください』と。



 ……ここまで来ると実はドッキリじゃねえのか? と疑った俺は悪くないと思う。まぁもちろんドッキリのほうがよかったんだが。


 とはいえここまで来れば俺も腹を決めた。ジタバタしても仕方ないし、健全な日本人の男の子だった俺だから一度も「そういう展開」に憧れなかったか? といわれると嘘になったから。


 正直念入りにそういう妄想はかなり経験済みだった。……厨二でスマン。


 とりあえず最後まで幼女様のありがたいお話を聞き終えた俺が、最初に彼女に頼んだのはこの世界に遺していく俺の家族へのフォロー。親父、お袋、2つ上の兄貴。色々あったけど大切だった家族。完全な不可抗力だったにせよ親よりも先に死ぬという親不孝をし、後のことを全部兄貴に押し付けていくことには変わりない。今回のことは俺にとっても天国から地獄だったけど、俺の家族にとっても間違いなくそうだったから。



 ……それにしてもタイミングが悪すぎる。就職が決まった連絡をした日にその息子が死ぬとか、お袋がショックでおかしくならないかそれだけが本当に心配だった。


 だから家族が俺が死んだせいでおかしなことにならないように、そして俺がいなくなった分幸せな人生を歩めるように助けて欲しいとお願いすると、幼女様はまたえぐえぐ泣きながら過不足無く俺の家族が幸せになれるようにフォローしてくれると約束してくれた。なんか本人曰く俺の優しさに感動したらしい。最近の人間さんには珍しいとも言われたが普通だよな?


 次に俺が向かう世界、これがなかなか決まらなかった。究極の選択とはあれのことをいうと思う。候補は二つ。一つは言わずもがな、俺にとって第二の現実といっても過言ではなかったMMORPG《New World》の世界。もう一つは……甘酸っぱいラブコメ漫画の世界。うん、何も言わないでくれ。切なくなるから。



 そうしてあ~でもない、こ~でもないと死ぬほど悩んだ結果俺が選んだのは、かわいい女の子とキャッキャウフフしたい男子中高生の夢ではなく、魔法使いになりたい男の子の夢、《New World》の世界に転生させてもらうことだった。厳密にいうと《New World》を基にした新しい現実世界なのだが、その辺の話はまた別に話す機会もあるだろう。



 とにかくそうと決まれば次は転生といえばお決まりのチート能力である。阿といえば吽、ツーと言えばカー、転生といえばチート能力だ。これもすごく悩んだ。硬くも柔らかくもない不思議な床に、まるでネコやライオンのように背中をこすりつけながら一生懸命考えた。


 ちなみに俺がごろごろしているのを見て真似して楽しそうにごろごろしてた幼女様のかわいさは、写真集出したらベストセラー間違いなしだったとだけ言っておこう。


 

 悩んだ結果は俺が実際に幼女様にお願いしたのは次のとおり。


 一つ、今現在俺が持ってる現状の知識の保護。転生して成長していく過程で有用なゲーム知識を忘れたりしたら大変だからと思って頼んだそれは、思いもよらないものに成ってしまうことになるんだが、これもまたゆっくり話す機会があるだろう。


 一つ、いわゆるダブルジョブ化。戦士職と魔法職の2つの能力を併せ持つ事ができる特別な力、全てのMMORPGプレイヤーが一度は妄想するであろうそれを叶えてもらう事にした。これによって俺はいわゆる「魔法戦士」にだってなれるようになったわけだ。この一点に限ってはゲーム時代の仲間達に自慢したら集団で石を投げられる自信がある。


 但し結果的にこのダブルジョブ化こそが、俺の波乱万丈の第二の人生を決定づけることとなることをこの時の俺はまだ知らない。


 一つ、ゲームには本来存在しない新しいアイテムや概念を俺が考え出して作ることができるゲームへの介入権利。例えば俺が新しい発想で本来存在しないアイテムや魔法などを作ることが可能になる力といえばいいだろうか? ただこれは行き過ぎると万能になって面白くないと思ったので、ちゃんと理にかなったものでなければ駄目だという制限をつけてもらった。



 そして最後に……女へのトラウマを無くして欲しいとお願いしました。だって切実だよ? あの変態ヤンデレ女のせいで、あっちの世界で彼女の一人もできん人生とかイヤ過ぎだろ? そんなものわざわざ頼むようなことじゃないだろ? ってもし思ったのなら一回お前も刺されて死んでみろと言わざるを得ない! もしくは想像してみろ、第二の人生で女日照りとか泣くに泣けないぞ、それ。


 

 という感じで他にもいくつか細々としたことをお願いすると幼女様はちっちゃいかわいらしい手で必死にメモを取りながら「間違いなくちゃんとやりましゅ!」と言ってくれた。この時も攫って逃げようかと足が半歩動いたのはご愛嬌だ。もう一度いうが俺の理想のタイプはどこかの寮の管理人のお姉さんだ。誰かとかぶってるだと? そんなことは知らない。


 以上のように俺がお願いをし終わると幼女様は俺に不思議そうな顔をむけてきた。


「あの~ほんとにこれだけでいいんでしゅか? 遠慮しちゃだめれすよ?」


「え~と、結構自分的にははっちゃけたつもりなんですが?」


「もっと自分に正直になってくらしゃい! 無敵にしてほちいとか! 世界の半分が欲しいとかないんでしゅか?」


「……いえ、ないです」


 どうやら幼女様、俺が遠慮していると思っていたようで。確かにこういうテンプレものだと主人公たちはみんな遠慮ないもんなぁと思ったのだが、俺は正直長年の夢であったダブルジョブ他だけで既にお腹一杯だったのでそれ以上望む事はなかったのだ。それにはどちらかというとマゾゲーマーだった自分の主義が反映されていたんだと今なら分かるけどな。


 俺が本当に言葉通りに満足しているのが分かったのか、幼女様は不思議そうな顔つきから今度は尊敬する人を見る顔に変わる。どうやら幼女様の中で俺は「謙虚で優しいお兄さん」指定されたらしく、なんて素晴らしい人なんだろう~という目で見つめられるのは大変むずむずした。



 そんなこんな色々ありつつも長い時間なのか、それとも24年の人生を過去にして新しい人生に飛び込むまでには短い時間だったのか良く分からないが、そのための準備が終わったところでふと思いついたことがあり幼女様にお願いすることに。


「あの。鏡……出してもらえませんか? 全身を映せるような大きなやつを」


「鏡……でしゅか?」


 俺のその言葉の意図が分からなかったのだろう、小さく首をかしげながらもその小さな手をあげて彼女は俺の願いどおり俺の全身どころか一戸建てを丸ごと映し出せるような鏡を用意してくれた。それにしてもこの時気づくべきだったかもしれん。


 ……神様ってやつは人間のスケールでは物事を考えてはくれないことに。ただそれこそ「神ならぬ身」である俺にそんな事ができるわけもなく。


 それはともかくとんでもなく大きな姿見に自分の全身を映す。


 少し切れ長の目以外特にかっこよくも悪くもない平均的な顔立ちとコンプレックスの元だった平均よりも小柄な体という見慣れた姿がそこには映っていた。特に思いいれもなかったはずなんだがな……と思いつつ自分の姿を、記憶に、魂に焼き付けた。せめて自分だけはこの自分をおぼえていようと思って。


 鏡に映る俺の姿に俺の思いが伝わったのか幼女様がまた泣き出しそうになるが、泣き出す前に彼女と目線が合うように屈みこんだ俺はこぼれだした涙を親指で拭いながらこういってあげた。


「……神様のせいじゃないですよ。人生なるようにしかなりませんから。だからもう泣かないでください、泣き顔に見送られるよりは笑顔のほうがいいな~とかダメですか?」


「……これでいいでしゅか?」


 そういいながら最高にかわいらしい泣き笑いの笑顔で俺を見つめる幼女様に背を向けいつの間にか現れていたアンティーク調のドアを開いて俺は新しい、そして思いもよらない人生への第一歩を踏み出した。



 あぁ、ひとつだけアドバイスを。もし俺のようなテンプレートな転生に巻き込まれることがもしあったのなら神様へのお願いはきちんと正確に。だって彼らのサービス精神はマジで半端じゃないから。



 ――面倒ごとに発展する事請け合いである。

ご意見、ご感想、誤字脱字の指摘など幅広くお待ちしております。

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