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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

矢印はいつ向かい合う

作者: 水溜り ㌔

この話を読んださいに起きた不都合に私は一切の責任は負いません!タグとあらすじをよく読んだ人はどうぞゆっくりしていってください。



「すきです」


別にそんなに好きでもないけど、そういう恋した台詞を言うのはなんだかドキドキするの。

本当に恋したみたいな錯角。空気がガラスの砂並みにキラキラして、吸い込むと死んじゃいそうなくらい胸が痛いんでしょ?

目を少し細めて、ゆっくりゆっくり蜘蛛が餌を引っ掛けるように笑いかけると、うっすら埃が積もりがちな写真部の部室で、落書きだらけの木製のイスに座っていたセンパイは無表情のまま読んでいた物語から私を見上げた。


知ってる。私は知っている。


センパイは無表情で何考えてるかわかんないような顔して、実は今頭の中で会議中。ちびっこセンパイが何人もいて、「あーだ!」「こーだ!」「そーだ!」って意見を言い合ってる。

私がなんでこんなこと言うんだとか。髪の毛が長いなあとか。どうしようこのまま黙っておくのはヤバイ、とか。

それでも瞳はゆるがない。人形にはめるガラス玉みたいにぴくりとも。

瞬きが規則正しく繰り返される。

長くてピンとした睫が私の左斜め上の換気扇から降ってくる太陽の光で虹色に光っている。

いつの間にか、私は笑みを引っ込めて、センパイを深く見つめていた。


「本気?」

「本気じゃないように見えますか」

「…いや」


でも、と続けようとするセンパイの憎たらしい唇を、私の唇でふさいだ。

ガチッ。勢いがよすぎて、歯が当たった。

「ん!」

センパイも口を押さえて少しもごもごしてる。

対するこちらも涙目で、示しがつきそうにない。

けど、もう勢いしか、ないのもわかる。


「センパイは私のことどう思ってるんですか?嫌いってわけじゃないんでしょう?」

「そりゃ嫌いじゃないよ。栄子えいこちゃんは俺のかわいい後輩だし」

「なら、付き合ってください」

「どうしてそうなった」

「友達や後輩であっても、キスしたときにもっと嫌そうな顔するものですし。それに、私の顔は良いほうなことも含め、センパイの好みは黒髪ロングの清楚系。私にぴったりです」

「違うよ。俺はけっこうボブカットも愛してるし、栄子ちゃんは少し電波が入ってる」

「センパイがボブカットが好きなら私は髪の毛切ります。とゆうか、人を電波キャラにするなんて失礼な人ですね。愛ゆえの行動です。仕方ないなって受け止めてください」

「仕方ないな」

「はい」

「はい、って…」


めったに笑わないセンパイがふふって思わずリスが漏らすため息みたいに笑う。

私の涙目はまだ続いていて、センパイが笑った途端に何かの衝動がところてんさながらに喉から目のくぼみへ押し出されていく。


「はくちゅっ!」


くしゃみだった。

口説く最中にくしゃみなんてすごくかっこ悪い。

「大丈夫?」センパイは今度はすこし吹き出し気味に私に問いかける。


「これくらい大丈夫です。すいません」

「そっか、もしかして埃にやられたのかな」

「かもしれません。今度大掃除しなくちゃ」

「そうだね、最近みんな来てないから、俺と栄子ちゃんタッグでやらなくてはいけないかもしれないね」


小さくてうす暗い小部屋に男女二人きり。先輩と後輩。

文字で書くとなんともいかがわしい響きなんですね。

今は寒い時期だから、裸にはなれないけれど。


「……それは、」

「ん?」

「二人きりなんて気まずくて掃除できませんからお先に失礼しますって、私に言われないようにここで付き合うって言っておきますか?」

「…断ると俺は顧問と薄暗い部屋の中で二人っきりかあ」

「断ることを考えるなんて人でなしですね」

「ごめん」


あからさまに傷つきましたと表情を作れば、すぐに謝ってくる。

センパイは簡単に笑顔を作って、私に「俺は栄子ちゃんのことなんでも知ってる」と言う。


知ってる。私はセンパイが私のことをお見通しなことくらい。

それくらい私が好きなことくらい。

だから告白したの。

私は甘やかされたいし、恋をしてみたい年頃だから。

センパイの考えてることわかるよ。

私を自分のものにしてみたいんだよね。


あげるから。

センパイは早く私に「すきです」って言って。

さっきから心臓がきりきり痛むの。

体温調節があまり得意じゃなくなったの。


「俺は知ってる」


何を。


「栄子ちゃんは嘘つきで、理屈屋で、ちょっと変なこと」

「喧嘩売ってますか?」

「最後まで聞いて。」


ぬう、私は欠点を並べられるのは嫌いです。

センパイは私を深く見つめる。

皮膚を破いて、筋肉を裂いて、髄を舐めるように。


センパイの息が近い。

いつのまにこんなに近づいたんだろう。


「君は知ってる」


何を。


「そんな君を、俺が好きだって言うこと、と」


、と?



「そんな俺が、さっき先輩とヤッてたこと」


薄っぺらい、実に薄っぺらい笑顔。

センパイは笑い、私の髪に触る。

そして「栄子ちゃんは切らないほうがかわいいよ」って言う。


体が、凍りそう。




酢酸臭くて、黒いカーテンが窓に張ってある小さな部屋。

荒い呼吸と二つの裸体。

私ができないようなエロいキスをして、私ができないような、センパイを気持ちよくさせることをたやすくやってしまう私の三個上の先輩。

センパイが高校一年のときに三年だった人で、私はそのときまで名前と噂しか知らなかったけど、センパイが漏らした「好き」ですべてわかってしまった。


私は知っている。

薄い扉の向こうで、センパイたちが何をしてたのか。


センパイは私を知っている。

センパイをもし食べたとしても先輩の味しかしないように。

私を食べてもセンパイの味しかしないこと。



「ごめんね、栄子ちゃん」


これは、べつに恋ではないの。だからこの涙はフェイクです。

失恋とかぜんぜんしてません。

憧れとか、尊敬とか、好みの問題で私はセンパイを気に入っていて、それが先輩に盗られた気分になって惨めになってるだけです。

だけど、でも。でも。


「私はセンパイを幸せにします。好きにさせて見せます。私、けっこう料理とか得意です。将来の夢はお嫁さんです。でもセンパイが言うなら、何だってなれます。宇宙飛行士とか!今から猛勉強します。わたしっ」

「うん」

「本気なんです。本気なんですってばあ!」

「うん」

「笑わないで、聞いてくださいっ…」

「、うん」

「わたしじゃだめですか?先輩に勝てませんか、?」

「ごめんね、ごめん。大切な人なんだ。」


傍に居たいんだ。

絞りだした声が、耳元から聞こえます。

センパイが、泣いています。

私をあやすように抱きしめて、謝っています。


知ってます。私は知っています。

センパイだって知ってます。


「私、浮気なんかしませんよお!毎日いってらっしゃいのキスしたり、ご飯おいしいねって夕ご飯一緒に食べたり、センパイが浮気を疑ったりしたら体の隅々まで調べていいし、子供も生めるし、結婚だって、できるし!」

「うん、そうだね。そうなれたら、明るくて楽しそうな家庭になるだろうね」

「この、人でなし!おバカ!センパイは人の気持ちをよく考えてください!」

「ほんとごめん」

「謝るんだったら!幸せに…なって、くださいよぉ!なんで心配させるんですか。センパイが泣いてばっかりいるから、私は仕方なくっ」

「うん」

「あんな、最低な男のどこがいいんですか。あのヤリチン!浮気男!いっぱい持ってるなら、センパイの一人や二人くれてもいいじゃないですか!ねえ!」

「仕方ないよ」

「なにが…」


「好きになっちゃったらもう、仕方ないんだ」


泣いている、センパイが。

涙の雫をひとつひとつ丁寧に生産して、シャツの上に落としていく。

綺麗だったから、思わずセンパイの頬を舐めていた。

「ん!」

早く気付いて、先輩。


「栄子ちゃ、なにすっ」

「いえ…、おいしそうだったので」

「だったので、って…」


早く大切なものに気付かないと、盗って行きますよ。

卑怯でも、なんでも手段はいといません。


それとも、センパイのことは遊びでしょうか。

なら、私にください。

全身全霊で愛しますから。






女には孕むとゆう最終手段があることを、どうかお忘れなく。

浮気者の先輩が純粋にセンパイを愛してたらセンパイとしてはハッピーエンドだけど、そうじゃなかったら栄子ちゃんエンドです。

センパイは栄子ちゃんエンドでも幸せになれる。けど、先輩がセンパイを純粋に好きで、それを伝える前に栄子ちゃんが子供作ったらセンパイは責任を取るだろうから、先輩だけ可哀相なバッドエンド。

センパイはそのときだけ悲しいけど、栄子ちゃんとの子供がすごく愛しくなって幸せエンド。

栄子ちゃんはセンパイが一緒なら幸せエンド。


裏ルートで、栄子ちゃんがセンパイとの子供作って結婚して幸せエンドになった後、先輩が栄子ちゃんと子供を殺してセンパイの目の前で自分も死ぬエンド。全員バッドエンド。

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