表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇帝への道 ― ナポレオン・ボナパルト  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/40

第七話:権力への意志 第一執政ナポレオン

エジプト遠征軍の撤退は、表向きには「計画的帰還」とされた。

しかし現実は、勝利でも敗北でもない、ぎりぎりの均衡の上にあった。

イギリス艦隊が地中海を支配する中、ナポレオンはわずかな護衛艦とともに、密かにエジプトを離れる決断を下していた。

夜の海。

黒い波が船腹を叩く。

兵士たちは沈黙していた。

勝利の凱旋ではない。敗走でもない。

ただ「帰還」という名の移動だった。

ナポレオンは甲板に立ち、遠ざかるエジプトの影を見つめていた。

ピラミッドの記憶。

砂漠の熱。

ロゼッタストーン。

そして、置き去りにしてきた軍。

「ここは終わった場所ではない。」

誰に言うでもなく呟く。

「始まりだった。」


数週間後。

ナポレオンはフランス本土に上陸する。

ナポレオンの帰還は、瞬く間にフランス全土へ広がった。

エジプト遠征は成功か失敗か、評価は定まっていない。

しかし民衆にとって重要だったのは、そんなことではなかった。

「常勝将軍が戻ってきた」

それだけで十分だった。

パリの街には人があふれた。

「ナポレオン司令官だ!」

「エジプトから帰還した英雄だ!」

歓声は通りを埋め尽くし、彼の馬が進むたびに群衆は道を開いた。

その中心に立つナポレオンは、ただ静かに前を見ていた。

一方、総裁政府の中枢では、重い沈黙が広がっていた。

総裁の一人、バラスは書類を握りしめながら呟く。

「やつを追い落とすにも、この人気では……」

ナポレオンの名は、もはや軍人の一人ではない。

民衆の象徴になりつつあった。

「英雄を敵に回せば、国家が割れる」

誰もがそれを理解していた。

だが、このままでは国家の主導権そのものが奪われる。

そこで彼らが選んだのは「排除」ではなく「制御」だった。

元老院に働きかけ、ナポレオンを制度の中へ取り込む。

同時に、五百人会議——革命後の立法機関——の掌握を試みる。

「彼を制度の中で飼うのだ」

それが総裁政府の結論だった。

しかし、それは誤算だった。

ナポレオンはすでに「制度の外の力」ではなかった。

制度そのものを動かす存在になっていた。


霧の深い朝。

パリ郊外サン=クルー。

五百人会議が召集される。

議場は緊張に包まれていた。

「ナポレオンが来る」

その事実だけで空気が張り詰める。

議員たちの間には怒号と不安が渦巻いていた。

「独裁者だ!」

「軍人が政治を支配するのか!」

そのとき、ナポレオンが現れる。

軍服のまま、静かに議場へ入る。

しかし、かつての戦場とは違う。

ここには銃声も砲声もない。

あるのは言葉だけだった。

議場は混乱に包まれる。

怒号が飛び交い、議員たちが立ち上がる。

「ここは共和国だ!軍人が支配する場所ではない!」

ナポレオンは一瞬、沈黙する。

そして低く言う。

「私は共和国を救うためにここにいる。」

だがその声は、もはや一個人の声ではなかった。

外では、別の動きが進んでいた。

元老院はナポレオン支持へと傾き、軍はすでに彼の指揮下にあった。

パリの実権は、静かに移動していた。

戦わずして、配置は決まっていた。

やがて、政治の中心は崩れていく。

総裁政府は孤立し、五百人会議は分裂する。

誰もが気づいたときには、すでに遅かった。

ナポレオンは議場の外へ出る。

冷たい空気。

静まり返った庭園。

そこに副官が歩み寄る。

「すべて整いました」

ナポレオンは短く頷く。

そして、宣言される。

「第一執政」

フランス共和国の最高権力者。

それは王でもなく、総裁でもない、新しい形の権力だった。

パリ中に報が広がる。

「ナポレオンが国家の頂点に立った」

民衆は歓声を上げる。

「英雄が国を救った!」

その夜。

ナポレオンは窓の外を見ていた。

静かなパリの灯り。

戦場とは違う静寂。

しかし彼は知っていた。

ここからの戦いは、終わらない。

むしろ——始まったばかりだ。

「フランスは、ついに一つになった」

そう呟きながら、彼はゆっくりと軍帽を机に置いた。

その影は、もはや将軍ではなく——国家そのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ