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かなりや  作者: やうた まゆ 
Ⅱ.冬の夜の風
20/39

20.はじまり


裏道にたたずんでいたそれは、一目で妖精と分かった。


背はアキトと同じくらい。

帽子を深く被って、細長い目を爛々と光らせている。


肩から斜めに紐をかけて、何かをぶら下げていた。

街の人とはあまりに違う、シワのついた長いコート。


その妖精が建物の影から、アキトをじっと見ていた。


「あの……こんばんは。あなたは妖精さん?」


アキトは緊張しながら挨拶した。


恐ろしい見た目だったけれど、不思議と怖くはなかった。


「……ああそうとも。礼儀正しい子どもさん。おまえさん……この街の人間か?」


「僕、街の外から歩いてきたよ」


「街の外……」


妖精は柵の方を見て目を細めた。


「俺は街の外へはほとんど出たことがない。街の外には何があるんだ?」


「原っぱと、森と、川かな」


「お前さんの家は?」


「丸太小屋に住んでるよ。この街は綺麗だけれど、ちょっと眩しすぎるね」


「お前さんの家は眩しくないのか?」


「夜は暗くて静かだよ。丸太小屋はね、ダルマストーブがあって薪を燃やすんだよ。僕、電気より火の明かりが好きだな」


妖精は俯いて考え込んだ。帽子の影に隠れて顔は見えない。


「そうか……。そこには、お前さんの他にも誰かいるのか?」


「うん、僕みたいな子どもが何人かいるよ」


「いいなあ、そこへ行ってみたいなあ」


妖精は口元を横に広げて笑った。


「うーん……僕以外の子どもたちは、妖精さんに会ったら、びっくりしちゃうかもしれない」


アキトは少し考えてから、口を開いた。


「あの……あのね、妖精さん。もし、知っていたら教えてほしいんだけれど」


アキトは少し迷いながら、思い切って聞いてみた。


「僕たち、本当は街へ入れてもらえないんだ。でも、どうしてなのか分からなくて……妖精さんは、何か知らない?」


妖精は黙って、しばらくアキトを見た。

そして目を細めた。


「お前さん……妖精の匂いがするな。お前さんも妖精か?」


アキトは戸惑った。


「……僕、分からない。そう言われることはあったけれど……」


「聞いたことがあるな。取り替え子だったか。妖精かもしれない子どもを、街の外で世話していたはずだ。お前さん、そこの子どもだな」


「僕たちが妖精かもしれないから……街の外なの?」


妖精は口の端を思い切り広げて笑みを浮かべた。


「怖いからだ」


「僕たちが……?」


「ああ。分からないものは怖いんだ。遠ざけようとしても、無駄なのに」


妖精は嘲るように笑った。


「あの……教えてくれてありがとう。よかったら……また、会えないかな。今度、丸太小屋の近くの川辺に来てみない? そこは景色がよくて、とても気持ちがいいんだ」


「川辺……」


「そこを流れている川に沿って、川下にずっと歩いてきてもらえれば、僕、川辺で待っているよ」


「……お前さんは優しい子どもだな。……わかった。七日後の夜明け頃に行こう」


妖精は口の端を持ち上げて笑った。


アキトもにっこり笑って、右手を差し出した。


妖精も右手を差し出し、二人は握手した。妖精の手はひんやりしていた。


「……僕、そろそろ帰らなきゃ」


言いながらアキトは思い出した。


街の入り口の鍵は閉まっている。どうやって外に出よう。


まごついたアキトを見て、妖精は怪訝そうな顔をした。


「どうかしたか?」


「街の外に出たいんだけれど、鍵を閉められちゃったんだ。どうやって帰ろうかな」


アキトは考え込んだ。

珍しく、後先考えず、無鉄砲に街へ飛び込んだのだ。


「それなら俺が手伝ってやろう。ついてこい」


言うなり、妖精は歩き始めた。

アキトは慌ててついていった。


妖精は草をかき分けて、柵の前に立つと、柵を手のひらで撫でた。


すると、妖精が触れたところが切れて、柵の棒がカランと地面に転がった。


子どもが通れるくらいの穴ができていた。


「ここは草の影になってて見えにくい。次からここを使えばいい」


「あ、ありがとう。魔法使ったの?」


「いや……」


妖精はそれ以上言わなかった。


「それじゃ、七日後の夜明けに待ってるね」


「ああ、川下に歩いていく」


アキトは微笑んだ。


そして真っ暗な夜の中に帰って行った。


アキトの後ろ姿を見送った妖精は、ペロリと舌で口を舐めた。


赤錆色の帽子を指で押し上げる。


「あの子はもったいない……」




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