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聖女召喚されたが男尊女卑が凄かったので1時間で帰ってきた

作者: セト

 その日、飯島花菜(25)はめちゃくちゃ急いでいた。

 電車の遅延により、大事な商談の時間に遅れそうだったからだ。

 人通りの少ない道を全力で駆け抜けていた時、急に落下する感覚に襲われる。

 まさかマンホール蓋が開いていた!?

 もの凄く焦ったが、次の瞬間には着地感を覚える。

 同時に驚愕する。

 よくわからない城のような場所に立っていたからだ。


「ここ……どこ ?」

「うおおおっ! 召喚に成功したぞ !」

 

 目の前にいた王様のような壮年男性が喜びの声を上げる。

 周りにいた剣やら槍やらを持ったよくわからない兵士や偉そうな男性たちが同じように喜ぶ。

 一体何なの?

 花菜は戸惑ったが、とりあえず日本語で話しかけてみる。


「あなたたちは、どなたですか ?」

「我々はブリンシア王国のものです」

 

 まだ若くて優秀そうな男がそう答えた。

 明らかに全員日本人ではないのに、日本語がちゃんと通じている。

 しかしブリンシアという国なんてあっただろうか?

 そんな花菜の疑問は彼らによって解かれる。


「あなたを異世界から召喚したのは我々です。足元の魔法陣によって召喚しました。それには言語理解の魔法も組み込まれているため、我々の言葉も理解できるはずです」


 確かに言葉は通じている。

 花菜は日本語を話しているつもりだが、実際は違う言語を話しているということだろうか?

 いや、そんな事はどうでもよかった。

 それよりもなぜ召喚されたのか、そもそも人を勝手に呼び出すのはどうなのか、と花菜は感じた。


「どういう理屈で召喚されたのかよくわかりませんが、私を元の世界に帰してくれたりはしないんですか?」

「元の世界に帰すですと? 今召喚したばかりなのにそれはないでしょう、わははは!」


 相手の言動に、だんだんイライラしてくる。

 花菜にも事情があるのに、勝手に召喚しておいて、なぜそんなにでかい態度を取れるのだろう。

 確かに多勢に無勢で花菜にとっては不利な状況だが、それでも生まれながらの気の強さが徐々に出てくる。


「いい加減にしてください。私には私の事情があるんです。それを勝手に呼び出しておいて、帰さないというのはどう考えてもおかしいと思います」

「ほう? 威勢が良いことですな――女のくせに。そこまで強い口調の女は、この国にはおりませんからな。なかなか気の強い女で、我々としても嬉しいことです」


 出会ってまだ五分も経っていないのに気づく。

 この国は日本とは比較にならないほど、男尊女卑が進んでいるのではないか。

 女の癖にとか、女なのにとか、花菜はそういった言葉が非常に嫌いだ。

 特に威勢の良さなんて男も女も関係ないだろう。


「そんな、たかが女を呼び出したのはなぜですか? 私はたまたま呼び出されたのか、狙って呼び出されたのか、どちらなんですか?」

 

 花菜の質問に若い男が答える。


「才能のある者を狙っています。異世界人は呼び出された際、特殊な力を得ることがあります。特に女性であると聖女になるというのが、我が国の言い伝えなのです」


 望んで女性を狙っているんじゃないか!

 散々女であることを馬鹿にしておいて、結局はその力に頼ると。

 花菜はだんだん呆れだしてくる。

 よく見れば、ここに集まっているのはほとんど男だ。

 男子から老爺までいる。

 反対に女性は侍女のような人たちが数人いるだけだ。

 彼女たちは隅っこで感情がないかのように無表情で立っている。


「つまり私はいま、不思議な力を得て聖女になっているということですか?」

「おそらく……。それを確かなものにするために、少し魔力量を計らせていただきたい」


 そう言うと、若い男が花菜のところに砂時計を持ってきた。


「魔力が高ければ高いほど、流れる砂の速度が速くなります。逆に魔力が全くなければ、砂時計はぴたりと止まります。触れていただけますか?」


 言われた通りにするのは少々癪に障るが、自分に魔力があるのかは花菜も気になっていたので、試しに触ってみる。

 パリン!

 砂が速く落ちたり遅く落ちたりとか、そういう以前に砂時計がぶっ壊れてしまった。


「これはどういう意味ですか?」

 

 花菜が尋ねるが、彼らもすぐには答えられない。

 ただただ驚いて目を丸くしている。

 どうやら想定外だったのか、皆で集まってヒソヒソと相談し出す。

 それから今度はよくわからない水晶のようなものを持ってきた。

 

「この水晶は魔力量によって色が変わります。最も弱いのが透明、最も強いのが黒です。歴史上、黒を超えた聖女が三人います。彼女たちが触った時は真っ黒になり、さらに水晶にヒビが入ったそうです」

「さすがに、それはないでしょうがなぁ」

 

 王がニヤニヤと笑う。

 いちいち上から目線が腹立つ。

 ともあれ、触るだけでいいとはお手軽で便利だ。

 花菜は水晶に触れ――バキバキパリンッ!

 水晶は黒どころか虹色になった上、粉々に破壊された。


「全然言われていた事と違いますけど、わざと嘘を教えているのですか?」


 花菜が尖った声で尋ねるも、彼らからの返事はまたも返ってこなかった。

 全員、口元に手を当てて、とにかくびびった様子だ。

 また男だけで集まって、ヒソヒソ話を始める。

 仮にも花菜が聖女だとするなら、この世界で相当なポジションになるだろう。

 そんな人間を完全に無視して、自分たちだけで相談するなど如何なものだろう。

 10分ほどしてもまだ話し合いは終わらない。

 我慢しきれなくなった花菜が、かなり大きな声で伝える。


「私、急いでいるって言いましたよね! 何いつまでグダグダ話してるんですか!」


 ビクビクッと肩を跳ねさせる男たち。

 彼らは全員で花菜の近くに寄ってくる。

 さっきまでの大きな態度とは一変して、かなり殊勝な表情になっている。

 王様は言う。


「無礼の数々、大変失礼しました。こちらの宰相によると、実は先ほどあげた三人以外にもう 一人、水晶にヒビを入れた者がいたそうです。歴代最高の大聖女と言われるイイジマ・タエという女性です。水晶が虹色になった上、いくつものヒビを入れたと記録があります。魔力量はおそらく世界一でしょう。彼女はその力を使って大活躍をしたそうです」


 イイジマ・タエ。

 それは花菜の祖母(90)と同じ名前だった。

 偶然だろうか?

 確かにそれほど珍しい苗字と名前ではない。

 しかし、どうしても花菜にはそう思えなくて質問する。


「その大聖女様は、世界中で大活躍をした後どうしたのですか?」

「元の世界へ帰られたそうです」

「それは何年ぐらい前でしょうか」

「文献によると 70年ほど前に活躍されたとあります」


 その答えを聞いて、間違いなく田舎のお婆ちゃんだと花菜は確信した。

 祖母は若い頃、五年ほど海外留学をしていたことがあるらしい。

 しかし、どこの国に行ったのかと聞いても異世界よ〜とはぐらされることがよくあったのだ。

 実はあれは、はぐらかしているのではなく、事実だったのだ。

 でも祖母に特別な力があるとは聞いていない。

 隠しているのか、それとも地球に戻るとこちらでの力は失ってしまうのか。

 それはわからないが、祖母である可能性はかなり高くなった。


「もしかするとそれ、私の祖母かもしれません。同姓同名です」


 これを聞いた瞬間、もともとだいぶ頭が低くなっていた彼らは、すぐに膝をついて非常に畏まった態度を見せた。

 最も偉いであろう王様までするのだから、相当な敬意を示していることになる。

 それもそうだろう。

 歴史上の大聖女の孫がいて、しかも大聖女を超えるであろうポテンシャルがある。

 祖母は水晶を破壊まではしなかった。

 しかし花菜は虹色に変化させた上、粉々に破壊してしまったのだ。

 彼らがそういった態度になるのも十分理解できる。


「どうしてあなた方は、聖女召喚をされたのですか? 私に何をして欲しいのですか?」


 王様は恐る恐ると言った様子で答える。


「我が国は現在、隣国と国の発展において競い合っている最中でございます。彼らに勝つためには、あと一歩足りないという状況です。そこで聖女様のお力を借り、この国をより発展させていきたいのです」

「他力本願というわけですね。国を発展させるのに必要なのは聖女の力以外にも多くあると思います。政策、経済、教育など、そういったところに力を入れるのが先ではありませんか?」


 図星だったのか、苦虫を噛みつぶしたような顔をする王様と一同。

 まぁでも、花菜は納得できるといえば納得できる。

 人を勝手に呼び出しておいて、女だからと見下すような人たちだ。

 他力本願で隣国を出し抜こうという考えがあっても、不思議ではない。

 

「隣国はどのような国なのでしょう?」


 その質問をすると、王様や他の者たちの感情が強く滲み出た。

 憎々しげな顔で早口で話し出す。


「非常に意味不明なことばかりする国です。男女平等を掲げたり、女性進出をうたったり、また権威主義を否定しております。権威を失った国に一体何が残りましょう? 女に発言の場を与えて、それが一体どんな発展に繋がりましょう? ですから、我々はそのような国に負けてはならないのです!」


 こりゃ酷い……というのが花菜の感想だ。

 日本もまだまだ男尊女卑の部分が残っているとは言われるものの、この国に比べたら天と地ほどの差があるかもしれない。

 そもそも女性を何だと思っているのだろう?

 そこで花菜は隅に立っていた侍女を呼んで色々と話を聞くことにした。

 彼女たちは発言一つするにも、とにかく男たちの顔色を窺うようだった。

 そして口には出さなかったが、日ごろ厳しい環境に置かれているのだろうと推察できた。


「例えばですが、廊下を歩いてる時などに、ここにいる男性たちに胸やお尻を触られたりする事はありますか?」


 どうにも答えにくそうだったので、自分に耳打ちするように頼む。

 すると、彼女たちは花菜の耳元で答える。


「毎日です」


 セクハラ三昧かい! 

 花菜はだんだんとこの人たちを矯正しなくいけないのではないか、という気になってくる。

 そこで男性たちにセクハラやパワハラの概念を伝え、そういったことをしないように伝える。

 男性たちは嫌そうな顔をしていたので、花菜はかなりでかい声で怒鳴る。


「そういうのやめてくださいって言ってるんです! わかりましたかッ!!」


 花菜の感情に呼応するかのように城が揺れる。

 地震でも起きたかのように揺れ出したのだ。

 とはいえ、震度はそれほど大きくないだろう。

 だから慣れている花菜は普通に立っていたが、王様たちは様子が違った。

 この国では地震などめったに起きないのだろう。

 慌てふためいて、あちこちを走り回ったり、神に罪の懺悔を始めたりする。

 中には剣を抜き出して、敵はどこだと叫んでいる剣士までいた。

 この様子を見て花菜が真面目に思ったのは、この人たちには教養が足りてないのではないかということだ。

 仮にも城のこんな場所に集められているのだから、国の中では上位の存在なのだろう。

 その上位に値する者たちが、このようなあり方、知力では、隣国に追い抜かれそうになるのも当然だ。

 地震が収まると花菜は彼らをまた集める。


「もしかしたら、今のは私が起こしてしまったものかもしれません。その点については謝りますが、あなた方を観察して、この国に足りないものが分かりました」

「大聖女様、それは一体何だと申しますか!?」

「まともな感覚です」


 そう、この国の、特に男たちにはまともな感覚が備わっていない。

 それが国を堕落させているのではないかと考えた。

 まともな感覚とは何かを花菜は滔々と説いていく。

 女性を不当に扱わないこと、女性の地位を向上させること、権力を振りかざさないこと、識字率を上げること、そして読書ができるようになること。

 これを聞いた王族たちは、やはり納得がいかないような顔をしている。


「それは隣国がとっている方針であり、我々が彼らの真似事をしてしまっては ……」

「まだわからないのですか? あなた方は間違っていて、隣国の人たちが正しいと言っているんです。あなた方はこれから先、もっと隣国に差をつけられるでしょう。そうなりたくないのであれば、私のアドバイスを聞いた方が良いのではないかと思います。別に聞きたくないのであれば、ご自由にどうぞ」


 彼らは今度は花菜に断りを入れてから、相談会を始めた。

 その相談会はだいぶ長かった。

 三十分ほど待っただろうか。

 もうここに来て、トータル一時間が経とうとしている。

 商談のこともあるし、一刻も早く花菜は帰りたくなっていた。

 苛立つ気持ちをぶつけるように、


「まだ相談してるんですか! いつまで相談したところで、結果は変わらないと思うんですけどッ!」


 やはり感情に呼応してしまったのだろう。

 再び地震が起きた。

 彼らはまたしてもビビり散らかして、地震が収まるまであまりにも無力だった。

 この頃になると、もう誰も花菜の大聖女としての力を疑うものはいない。

 ちょっと怒っただけで地震が起きてしまうのだ。

 本気で怒らせてしまったら城が崩壊してしまうかもしれない。

 そういった恐怖感が王たちを襲っていた。

 彼らは平身低頭して謝る。


「どうか大聖女様、お怒りの気持ちを治めください……」

「もう怒ってはいませんよ。それで、私の提案は受けるのですか、受けないのですか」

「もしそれをしたとして、この国はさらなる発展が見込めるということですか ?」

「それもありますし、そもそもセクハラをするというのは、人として最低の行為です。発展とか以前に人としてちゃんとしましょう」

「ははぁ!」

 

 最初に来たときとは別人かと思う位、素直に何でも言うこと聞き出す王様たち。

 今はもう日本でも見ることがほとんどない土下座まで決めちゃっている。

 形だけかもしれないけど、一応改心の兆しは見せているので、花菜は胸のポケットからAIボイスレコーダーを取り出す。

 最近よく使っていたもので、こちらでも一応は起動するようだ。

 そこで先程のパワハラやセクハラの概念も含め、読書や人権の重要さなどをボイスレコーダーに記録していく。

 そして、頭の良さそうな宰相に使い方を教え、あとで内容を紙にメモしておくように伝える。


「大聖女様ともなると、このような魔法を使えるのですな!」

「まぁ、そんなところです」


 魔法でもなんでもない文明の利器なのだが、そこは魔法にしておいたほうが都合が良さそうなので黙っておく。


「もうこの国に私の力は必要ありません。必要な事は全て伝えました。むしろ私のような大きな存在は邪魔になります。ですが、忘れないでください。私はあなた方をいつまでも見ています」

「はっ。肝に銘じます!」

「では、私をそろそろ元の世界へ帰してください。もちろん帰れる方法があるのですよね?」

「もちろん、ございます」


 よかったーと花菜は内心安堵する。

 もしこのままこの世界にいろと言われたら泣き出すところだった。

 彼らは素直に元の世界に戻す魔法陣を発動する。

 花菜の足元がパァと光り出す。

 別れ際、花菜は念のため釘を刺しておく。


「くれぐれも私の言ったことを守ってくださいね。破った時は、また城が揺れちゃうかも!」

「ひぃぃ!」


 王様たちのビビり散らかして歪んだ顔を見ながら花菜は元の世界へと戻る。

 景色が城から、召喚前のものに変わった。

 日本に無事帰れたことに、ホッと一安心する。

 胸に忍ばせておいたボイスレコーダーはなくなっていることから、単なる夢ではないということだ。

 ボイスレコーダー代ぐらいは出して欲しい気持ちになったが、普通はできないような体験ができたので良しとしよう。


「やばい! 商談が!」


 近いうち、花菜は田舎のお婆ちゃんのところを訪ねようと決めた。

 そして異世界での出来事を詳しく聞こうと、ワクワクした気持ちで走り出した。



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― 新着の感想 ―
70年以上も昔に、異世界留学ww タエ婆ちゃんスゲ~!! ひょっとして、祖母も孫も聖女の力が現界でも、普通に使えたり 花菜の商談は、120%こちらの有利で締結ですね 年内に、花菜は役員になりそう
異世界なんだからそもそも「男女の定義」が日本人と同じかわからん。 食生活(栄養学)や生理痛の薬が未発達な世界観だと月の物の周期で精神が不安定になりやすいので、 そっち解決してからじゃないと言質取られ…
単なる文化侵略かな 魔力とか、スキルとか、異種族とか、いろいろな要素がありそうな異世界で地球倫理を掲げる愚かしさよ 実は魔法は女性しか使えなくて、女尊男卑社会とか普通にありえる
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