ママとかすみと僕
夕暮れの街角で、さとしは息を呑んだ。
目の前に立つのは、自分の母。
——女子高生の制服姿の自分を見つめる母の表情は、驚きと……どこか懐かしさを含んでいた。
「さとし……」
母がゆっくりと近づいてくる。
隣ではかすみが静かに微笑み、さとしの背中をそっと押した。
***
「そういえば、あなたたち、小さい頃からよく一緒に遊んでいたわね」
帰宅後、リビングで母が優しく微笑んだ。
「おままごとをするとき、さとしはいつも女の子の役だったのよ」
「えっ、ママ、それ言っちゃうの?」
さとしが顔を赤らめる。
「ふふ、ごめんなさい。でも、懐かしくて……ね、かすみちゃん?」
「はい♪ さとし、昔からすごく可愛かったですもんね」
かすみが母の隣でクスクス笑う。
母とかすみは、昔から仲が良かった。
そして——。
母はふと何かを思い出したように、さとしを見つめた。
「ねえ、さとし。前に、一度聞いたことがあったわよね?」
「……え?」
「あなた、本当は女の子みたいになりたいんじゃないかって」
さとしの胸がドキッと鳴った。
母の優しい眼差しが、まっすぐに自分を射抜く。
(僕は……僕は……)
そのとき、母がふと微笑みながら言った。
「そういえば、昔、一緒に下着を買いに行ったこともあったわね」
「えっ!」
さとしの顔が一瞬で真っ赤になる。
「えー、なにそれ!? さとし、お母さんに買ってもらってたの?」
かすみが驚いたように笑う。
「ち、違うよ! ただ、その……なんとなく、試しに……!」
「ふふ。でも、あのときのあなた、とっても嬉しそうだったわよ?」
母は穏やかに微笑んだ。
さとしは、自分の鼓動が早くなるのを感じた。
(やっぱり……僕は……)
(僕は、可愛くなりたい——!)
***
それから数日後。
さとしは再び、かすみの部屋にいた。
「さあ、さとし。もう一度、可愛くなろうよ」
クローゼットから取り出されたのは、ふんわりとしたスカートと、可愛いリボンのついたブラウス。
そして、柔らかなレースのついた下着。
「……!」
胸が高鳴る。
かすみの前で、ゆっくりと制服に着替えていく。
ブラウスのボタンを止め、スカートのファスナーを上げ、最後にリボンを結ぶ。
鏡に映るのは——。
「うん、やっぱり可愛い!」
かすみが嬉しそうに言う。
さとしの頬は熱を持ちながら、それでも心の奥がじんわりと温かかった。
(僕はもう、迷わない)
(女の子みたいに、可愛くなりたい——)
こうして、さとしの”本当の自分探し”が、再び始まった。