白いスカートの衝撃
中学に入学してから数週間が経った。
新しい生活にも慣れ、友達もできて、それなりに楽しく過ごしている。
——そのはずだった。
けれど、心の奥にずっと引っかかるものがある。
「この制服、本当に自分に合ってるのかな……?」
学ランを着て、ネクタイを締めるたびに感じる違和感。
みんなと同じはずなのに、なぜか”何かが違う”気がしてならなかった。
そんな気持ちを決定的にしたのは、放課後の女子テニス部だった。
ある日、何気なく校庭を歩いていたとき——彼女たちの姿が目に飛び込んできた。
真っ白なプリーツスコートを翻しながら、楽しそうに走る女の子たち。
軽やかに笑い合い、ポニーテールを揺らし、颯爽とコートを駆け抜ける姿。
その可愛さに、思わず衝撃を受けた。
「……すごい、可愛い……」
思わず呟いてしまう。
今まで、女の子を”可愛い”と思ったことはあったけれど、それはどこか遠いものだった。
でも、今目の前にある光景は——“憧れ”だった。
「俺も、あのスカートを履いて、あの中に入りたい」
そう強く思ってしまった。
(え……なんで……?)
動揺する。でも、心の奥ではもう気づいていた。
この感情は、ただの興味じゃない。
——「自分も女の子になりたい」
そう思ってしまったのだ。
家に帰っても、その気持ちは消えなかった。
クローゼットを開けると、そこにはかすみに着せられた女の子の服がまだ残っている。
震える手で、その中から一着を取り出し、そっと身に纏う。
スカートの軽さ。ブラウスの柔らかさ。
学ランを着ていたときとは、まるで違う感覚。
鏡の中には、“可愛い女の子”が立っていた。
(やっぱり……俺、本当は……)
女子テニス部のスカート姿を思い出しながら、スカートの裾をそっとつまむ。
もう、ごまかせない。
——“女の子になりたい”。
その気持ちが、さとしの心の中ではっきりと形を成し始めていた。