突然の別れ
桜の花びらが風に舞い、季節は確かに移り変わろうとしていた。
「え……引っ越す?」
かすみが、申し訳なさそうにうなずいた。
「うん……パパの転勤で、急に決まっちゃって……」
「そんな……」
さとしの胸の奥が、ギュッと締め付けられる。
いつも無理やり引っ張り回してきたくせに、いざいなくなると言われると、心の中にぽっかりと穴が開いたようだった。
かすみは、さとしにとって”理想の女の子”だった。
明るくて、活発で、強引で。
でも、さとしのことをちゃんと見ていて、可愛くしてくれるのが嬉しくて……。
——そんな彼女が、いなくなる。
「寂しくなるね、さとしくん」
かすみが微笑む。
「……別に」
「またまた~。今にも泣きそうなくせに」
「泣かないし!」
強がってみたものの、目の奥がじんと熱くなる。
「でも、大丈夫だよ。さとしくんなら、ちゃんと”可愛く”なれるから」
「……は?」
「私がいなくても、女の子みたいに振る舞えるし、スカートも履きこなせるし、ほら……下着だって」
「なっ!!?」
最後にまでそんなことを言ってくるかすみに、さとしは顔を真っ赤にした。
「だから、安心してね♪」
最後まで、かすみは”かすみらしく”さとしをからかいながら、街を去っていった。
そして、春——中学入学。
かすみのいない春。
制服は、学ランだった。
短髪で、周りの男子と同じように見えるはずなのに、なんとなく違和感を覚える。
スカートの軽やかさも、ブラウスの柔らかさもない。
それが、少しだけ寂しく思えた。
「……まさか、な」
ふと、自分のスカート姿を思い出し、さとしは頭を振って打ち消した。
でも——胸の奥に残る”感覚”は、まだ消えていなかった。