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冬来りなば、恋遠からじ  作者: 当麻月菜
冬来りなば、恋遠からじ

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47/49

1

 ふわふわと揺蕩う意識の中で、カチリと音がした。それは、あるべき場所にあるべきものが嵌った音だった。


 初めての感覚なのに、私はそれを知っている。間違いない。常盤の結界が修復されたのだ。


 自分を苛む罪の意識が少しだけ軽くなったと同時に、重大なことに気付いた。それをできるのは、雄斗さんしかいない。でも、何も知らない彼が……どうして? 


(雄斗さん、今どこにいるの?)


 心の中で何度も彼の名を呼ぶ。何度も、何度も。


 私の祈りが通じたのか、視界が真っ白に広がり、彼の姿が目に映った。


「ったく、遠いな……どこまで歩かせる気だ」


 ぶつくさ言いながら、真っ白な空間を歩くのは、間違いなく雄斗さんだった。その姿に、泣きたくなるほど安堵する。 


 駆け寄って目の前に立つけれど、雄斗さんには私の姿は見えないようで、足を止める気配はない。


 それでも私は嬉しくて、彼と肩を並べて歩く。手を伸ばしても、すり抜けてしまうから、強引に自分の手をねじ込む。


「絆錠の法師……かぁ」


 雄斗さんはそう言うと、自分の胸に手を当て首を傾げた。


 彼の言葉に、私は息をするのも忘れるほど驚いた。私は彼に、一度たりとも”絆錠の法師”という言葉を出していない。けれど、彼は既に知っている。


 それってつまり、鍵となる器──絆錠の法師となることを、彼は受け入れてくれたのだ。


 どういう経緯で受け入れたのかわからないが、彼の人生を大きく変えることであり、私と固い絆を結ぶことでもある。それをちゃんと理解して、承諾してくれたのだろうか。


 もし、全てを知って受け入れてくれたのなら、これ以上の喜びはない。けれど信じきることができない。


「充芭がなんかごちゃごちゃ言ってたけど、結局良くわかんなかったな……ま、いっか」

「えええええええぇっーーーーーーーーーーーー!!」


 想像の斜め上を行く雄斗さんの発言に、思わず絶叫してしまった。


 しかし、声も聞こえないのであろう、雄斗さんの歩調は変わらない。


 常盤の結界から去った後、幾度も悩み、憂い、最悪のことまで覚悟したけれど、結末はこんなものだった。


 悩んだことも、歩んだ軌跡も決して無駄ではなかったはずだ。だって珍妙で、大雑把だけど、ストンと私の胸に綺麗に収まったのだから。


「……あいつ、そろそろ目を覚ましているといいけどな」


 誰のことを指しているのだろう。雄斗さんは今までにない程、優しい笑みをたたえている。


「瑠華」

「はい!」


 名前を呼ばれ、つい返事をしちゃったけれど、そういえば雄斗さんには私の声は届かなかった。……恥ずかしい。


「早く戻って、瑠華に会いてぇな」


 雄斗さんのその言葉を耳にした途端、私の身体は歓喜で震えた。


 かけがえのない人が、自分の名を呼んでくれること、会いたいと言ってくれること。そして、笑顔を見せてくれること。それは、言葉にできないほどの感動を呼ぶ。


 あえて、この気持ちに名前をつけるとしたら、きっと「幸せ」と呼ぶのだろう。


 私も早く雄斗さんに会いたい。この気持ちを伝えたい。


 そう思った瞬間、見えない力に引かれ、私の視界は闇に閉ざされてしまった。




「おはようございます」


 目を覚ました私に、荘一郎さんは穏やかに声を掛けた。しかし、その口調とは裏腹に、荘一郎さんはつらそうな表情で、ベッドの横に立っている。


「……あ、あの……どうされました?」


 半身を起こすと、体が軽くなっていることに気付く。自分を蝕んでいた魔霧は、全て浄化されていた。


 朝日が部屋を明るく照らしている。窓に視界を移せば、晩秋の青空が広がっている。


 あれから、どれくらい経ったのだろう。しかし今は、そんなことを荘一郎さんに質問できる雰囲気ではない。


 傍にいる荘一郎さんは、口を開いては閉ざしを何回も繰り返している。荘一郎さんの言葉が出るまで、私は静かに待つ。


「このようなことを、お願いするのは心苦しいです。が……」


 何とかそれだけを口にした荘一郎さんは、今度は申し訳なさそうに俯き、次の言葉を言えずにいた。なので今度は、私から問いかける。


「荘一郎さん、その願いは雄斗さんのためでもあるのですか?」

「はい」


 即答した荘一郎に、私はふわりと微笑んだ。


「私でできることがあれば、なんでも言ってください」


 雄斗さんの為なら、何でもします。そう付け加えたら、やっと荘一郎さんは、詳細を語ってくれた。


 荘一郎さんが私に望んだのは、驚きと不安が混ざった──突拍子もない提案だった。

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