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冬来りなば、恋遠からじ  作者: 当麻月菜
横浜の日常と、雄斗の非日常

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13/49

5

 探し人を見つけたい気持ちは強くある。一日でも、一刻でも早く見つけ出さなければと、もう一人の私が、ずっと急き立てている。


 でも、雄斗さんの傍にいたかったのは、一人になるのが嫌だったから。


 一度背を向けたら、二度と会えないことを知ってしまった今、じっと待つことに耐えられなかった。


 とはいえ無理矢理ついてきてしまったものの、見たこともない建物で過ごす時間は、私を不安にさせるものだと思っていた。


 それなのに私は、初めて口にする飲み物に抵抗感を持つこともないし、居心地悪さなんてちっとも感じることなく、窓の外の秋晴れの空のように、穏やかな気持ちでここにいる。


 不思議な気持ちを持て余して、歩き回りたい気持ちはあるけれど、おとなしくしていろという雄斗さんの言葉を忠実に守り、私は応接椅子にちょこんと腰掛けている。


 やることもない私を憐れに思ったのか、佐野さんは「暇つぶしにどうぞ」と、表紙の美しい異国の絵本を渡してくれた。


 でも、興味をそそられ頁をめくったのは、僅かな時間でしかなかった。わたしは、絵本よりも雄斗さんの行動を見ていたかった。


 見すぎて怒られるかな?と不安に思っているものの、私の視線は彼に釘付けだ。


 雄斗さんは一見、整った容姿に冷たい双眸。人を近づかせない雰囲気があり、言葉遣いも決して丁寧とは言えない。


 それでも、言葉から滲み出る優しさは、私の元に伝わってくる。


 雄斗さんに依頼できた人たちは、皆、幸せ者だ。その中に私も含まれていることが嬉しくて、口元が緩んでしまうのを隠せない。


 再び、こんな気持ちで誰かを見つめることなんて、ないと思っていた。高緒姐さまを見つめる気持ちとは、ほんの少し違う、くすぐったくて、見ていることに気付いて欲しいけど欲しくない、そんな曖昧な気持ち。


 今までの経緯を雄斗さんに話し終えたとき、正直、不安だった。そして、自分を傷つけるかもしれない怖い存在だとも。けれども、それは全て私の杞憂に終わった。


 雄斗さんは安全に休める場所と、暖かい食事を与えてくれた。その表情は、穏やかとは言い難かったけれど。怒っているわけではないそうだ。


 私は小首を傾げて再び雄斗を見つめる。


 整った横顔は、何を考えているのかはわからないが、それでも依頼者の為に心を砕いている姿はとても美しく、まるで異国の絵本に出てくる挿絵のよう。


(どことなく、あの人に似てる……)


 もう二度と手の届かないところに消えてしまった、私の<全て>だった人に。


 目を閉じれば、色鮮やかに思い出す。銀色の長い髪、片方の口元だけ持ち上げる独特の笑顔。腕を組み、こちらを見つめる姿。


 けれど、もう二度と本物の姿を見ることは無い。


 唯一無二の存在だったあの人が消えてしまった今、私はどこにも戻る場所なんてない。ただ、残された使命を全うするだけ。


 それは、もう十分にわかっている。けれど、ふとした瞬間に襲われる孤独には勝てない。


 だから、自分に言い聞かせる。


 大丈夫。私は絶対に絶望なんかしないと。  


『お気張りなんし、瑠華。あんたは、強い子だ。大丈夫』


 不安になった時、私はいつも高緒姐さまに言われた言葉を思い出す。


 そう──大丈夫。


 曖昧な理由だけれど、今度こそ間違っていない。私は、ちゃんと前に進んでいる。そして絶対に、この世界でたった一人の人を見つけ出してみせる。


 思いの強さで、必ず。




「佐野さんが貸してくれた本はつまらなかったか?」


 雄斗さんの声で、はっと現実に引き戻された。


 机に積まれた絵本と、私を、交互に見る雄斗さんから気遣いが伝わって、胸の奥がジンと熱くなる。


「あ、いいえ。それよりも……」


 あなたを見ていたかった、と言いかけて、慌てて口を噤む。何だかそれを言うのは、恥ずかしい。


「ん?…あっそうか、腹が減ったのか?」


 ポンと手を打ち鳴らした雄斗さんは、上着から懐中時計を取り出して時間を確認する。時間は正午を少し過ぎた頃。


 昨日の一件から、彼はやたらと私の食事に気をつかう。朝食の時も、もっと食べろと、千代さんにお代わりまで頼んでくれた。


「もうこんな時間かぁ……すまねえな。すぐ佐野さんに用意させるから、もう少し待っとけ」


 雄斗さんはそう言い捨てると、階下にいる佐野さんの元へと、足早に出て行った。


 一人残された私は、呆気に取られ瞬きを何度も繰り返す。それから、思いっきり破顔した。


 やっぱり高緒姐さまの言う通り、横浜に来て良かった。

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