表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

マグマ・ダンス

ダクルは洞窟の前にはもう居なかった。

ダクルが居るのは、人の居ない廃村の中にある小さな小屋の、更に地下に造られた部屋。

木のテーブル、緑色のツタで出来た編み物を被せた石の椅子。

食料保存用のツボが数個、奥には別の部屋があり木箱が十数個保管されていた。

寝床にはやや厚みのある布団が敷かれている。

(やっと……ようやく見つけたんだぞ!?

なんとしてでもアレを取り返さないと……っ!)

テーブルについた右手に力が入る。

(あいつは間違いなくあと2回俺を呼び出す!

交渉するしかない。集めたマジックアイテムの中で金にせず保管してある物からあいつが飛びつきそうなものを――)

ダクルは目を丸くする。

(まさか……それが狙いか!

俺が隠し持っているマジックアイテムをあいつは欲しがっている?)

早歩きで奥の部屋へ行き、木箱を眺める。

(……ならばむしろそれでいい!

あのハンカチさえ取り返せれば!)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「今すぐ探して来て!」

涙を浮かべながら叫ぶ妻。

「なんであなたはいつもいつもそうやって……っ!!」

うろたえ、顔を歪ませるダクル。

割れた花瓶の破片を踏みながら、ダクルは無我夢中で家を飛び出す。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


(必ず取り返す……!)

冷や汗を額ににじませながら木箱の中を漁ろうとした瞬間、あることを思い出す。

「っ!」

(そうだ!

今ので反応しているはず!)

服の裏側を探り、拳大程の大きさの丸い球体の感触を手にする。


彼が取り出そうとしているのは、とある国で造られている魔力を感知するマジックアイテム。

透明の丸い球体で、頂点・底・側面4か所の計6か所に均一に小さな黒い点が描かれている。

魔力を感知し、その種類と傾向・大きさによって特定の場所に特定の色が浮かび上がるようになっている。


ダクルがこれを常に持ち歩いている理由は、自身の能力がターゲットの魔力の強さによる影響を受けるからであった。

(2回目まであいつは微塵も魔力を出していなかったが、さっき銃弾を受け止めようとして一瞬魔力を引き出していた!

これは薄い魔力にも反応を示して本来の魔力量や性質を映し出す……!

ハンカチが見つかっただけではなく、他のマジックアイテムも質がいつもより高い。

もしかすると――)

ダクルの予想は、直径5ミリ程の大きさの色。

今まで会ってきた者達も、魔力を隠していない場合でも直径5ミリの色が出ていた。

隠していてなお5ミリ、実際はもっと大きいはず。

そう予想しながら取り出した球体に映ったのは――


「はっ……」

ダクルの血の気が引く。


球体の中心に、直径1センチ程の混ざった色が映し出された。

(なんだこれは!?

あんなに隠していてこれほどの大きさ……魔力を引き出したらあいつは……)

混ざった色は魔力の性質が複数あることを意味する。

中心に位置するということは、傾向が割り出せないことを意味する。

(この球じゃ測り切れない!何もかも!

それほど異質……ハンカチだけでなくレアアイテムばかり並べられた理由はこれか)

止めた呼吸をゆっくり再開させ、深呼吸する。

まだ緊張が解けないままだが、ダクルはやるべきことを考える。

(なんでもくれてやる!

そしてハンカチを取り戻したならあいつと二度と会ってはならん!)

改めて木箱を漁ろうとするダクル。


その瞬間、ダクルの身体から急に魔力が発せられる。

「!?」

(これは俺の能力が発動する時の予兆!

つまりこれから――)


("4回目"が発動する!!)


――――――――――――――――


次の瞬間、ダクルの目に飛び込んで来たのは溶岩渦巻く洞窟の中。

同時に、熱波が皮膚に届き一気に汗をかく。


すぐに"店"の範囲内に潜り込んで来たセロットとタノス。

「うああああ!!」

「やっほー!

ちょっと時間欲しいから呼んじゃったよ!えへへ」

視界の奥で隆起した溶岩が触手のように伸び、セロット達めがけて飛んで来る。


もちろん溶岩の攻撃は、"店"の境界に当たり飛び散り、セロットとタノスや店にも一切のダメージを与えていない。

「うひょぉ!便利便利」

(こ、こここ……こいつ!こうやって俺の能力を使うために!!)

「なんだあの店は?」

「店自体が結界のようなものらしい。増援か」

奥でこちらを見ながら様子を伺う灰色のマントを着た者が2人。

そして、店の裏側にも灰色のマントを着た者が3人。

「助かったよダクル!」

「なんてことするんだお前はぁ!」

顔面蒼白のダクルの目は、セロットと灰色のマントの男を交互に見る。

「おー、ダクルは勘がいいね。

もう何が起きちゃったのか理解できた?」

ダクルは、セロットとタノスが何らかの組織に追われていることを知っている。

戦闘中に呼び出され、防御に自身の能力を使われ。

そして、顔を見られた。

(俺は完全にこいつらの仲間だと思われている!)

「きっ……ぐぅっ」

"聞け"、と灰色のマントに対して叫ぼうとしたダクルは言葉を呑み込む。

(ダメだ!

こいつを切り捨てるのだけは!!)


ダクルはまだハンカチを取り返していない。


「そうそう!

ダクルは僕達を見捨てないよね~?見捨てられたら寂しいよぉ」

「もう十分なんじゃないのか、セロット」

セロットの身体にまとわれた魔力は揺らぎながら密度が濃くなっていく。

「はいはーい。

というわけでダクル、2つ買うね」

セロットはすかさず2種類の貨幣を出し、一番左の商品と――

一番右にある、唯一通貨の違う商品に手をつけた。

「っ!?」

「いやー、たまたまこの通貨持っててね。

丁度いいからここで使うだけさ」

灰色のマント達はセロット達に攻撃を仕掛けない。

その代わり、魔力を高めそれぞれ何らかの準備をしていた。


「つ……次だ」

ダクルが言葉を喉の奥から絞り出す。

「次に俺を呼ぶ時までにお前を唸らせる収集品を持ってくる!

だから!頼むからあのハンカチを――」

「オッケー、しっかり吟味してきて!

んでタノス、"6人共"まぁまぁやれる相手だから気を付けてね」

「わかってる」

「あとは流れでなんとかなるなる」


「ということでもう帰ってくれて大丈夫だよ、ダクル」

セロットはそう言うと、振り返り灰色のマント達に向き直る。

(チャンスはあるっ!あるっ!!

急げ、急ぐんだ俺……!)


「"戻れ"」

ダクルがそう言った瞬間、ダクルと店は消え――


灰色のマント達が魔力を解放する。


同時に、セロットの足元から半透明の管のようなものが四方八方に一瞬で伸びきった。

洞窟の壁や天井の付近で管の先が球体になっており、管の全てと繋がっているセロットの足元も球体になっていた。

管のうち2本が、背後に居た灰色のマント2人の身体を貫通していた。

「「!?」」

だが、実害は一切なく視覚的に見えるだけだった。

半透明な管の出現に一瞬身構えた灰色のマント達5人。


生まれた隙が、タノスの撃った銃弾に反応するのを遅らせた。

後ろに居た3人のうち中央に居た灰色のマントの胸部を狙った弾丸をギリギリでかわされる。


"パチン"


タノスが指を鳴らすと同時に、壁に着弾した弾丸から生まれた衝撃波が3人を吹き飛ばす。

前方に居た灰色のマントは両手を前へ伸ばす。

下から湧き上がった3つの溶岩の柱がピタリと止まり、膨らみ――

セロットめがけて溶岩の大きな弾を撃ちだす瞬間。

「"駆けだしの死神(デケイ・デバウル)"」

そう唱えたセロットの前に、3頭身程の精霊のようなものが出現した。

顔には中央に横線が大きく1本引いてあり、青いナイトキャップをつけて星柄の寝巻のようなものを着ており長い両腕を力無くだらんと垂らしていた。


溶岩の弾は、小さな死神の手前で見えない壁に弾かれ飛散した。

「!」

溶岩使いの横に居た灰色のマントが口を開く。

「壁は半径約5mの球状」

「わかった」

溶岩使いが溜めていた魔力を解放し、周囲から巨大な溶岩の柱が伸びる。

「っ!

壁に近付くな!!」

小さな死神を包む壁を感知能力で看破した灰色のマントが、全員に聞こえるように叫んだ。


「まず一人~」

セロットが呟く。

タノスの衝撃波で吹き飛んだうちの一人は壁に張り付いた後、足に魔力を溜めてタノスを狙おうとしていたが――


「……っ!」

手足は全て瞬時に壁に飲み込まれ、そのまま身体全体も壁の中に取り込まれていった。

感知能力を持った仲間が叫んだことによって、壁の全て……天井でさえもセロットの操作範囲内であると認識した灰色のマント達。

(複数の能力持ち。

接近させて身体強化でこちらを殴ってくる腹積もりか)

蠢く壁から離れることに成功した2人のうち1人の左腕が変形し、身体に似合わぬ巨大なかぎ爪となる。

もう1人は既に能力を使用し続けているが、まだ効力を発揮しない。


戦闘を開始して5秒しかまだ経過していない中、セロットは喋り出す。

「さ~て君達に問題」


「僕の能力はいくつあるでしょ~か!」

そう言うと同時に、透明な管の1本に触れたセロット。


灰色のマント達がギリギリ目で追える程の高速で管の伸びた先まで瞬時に移動。

移動しながらセロットが振った腕は赤く、殺傷力は十分だった。


溶岩使いは、足元近くの溶岩を隆起させることによって身体を動かしセロットの攻撃をかわしていた。

腕の部分に浅い切り傷が出来る程度で済むも、冷や汗をかく。

(この管は高速移動専用の術!

だが術者以外が使えるか、使った場合のデメリットは?

そんなことを考える暇は無い!対応!この動きへの対応を完了させ焼き殺す!)

溶岩使いの思考が迷いを生み出すことは無かった。

そして、まだ戦闘不能になっていない他の"4人"も同じ考えであった。


セロットの眼前に既に迫っていたかぎ爪の男。

溶岩の柱のうち3つがタノスを狙い飛び、タノスは壁に向かって跳んで回避。

元居た足場が溶岩によって破壊される。

「おっとぉ」

セロットは壁を蹴り中央へ移動、振られたかぎ爪を避ける。

溶岩によって破壊された足場のうち残っている部分に右足だけ着地。


着地した足場の横、溶岩の中から出現した牙の生えた蛙のような大きな生物。

大きく開けた口がセロットを呑み込もうとするも、セロットの足場はひとりでに動き後ろへとセロットを移動させた。

よく見ると、蛙のような生物の頭部奥に灰色のマントを羽織った者が居た。

(かわされ……っ!

あいつがセロットごと鍵を燃やす心配をしなくていいのはそうだが――)

「ほらほら出し惜しみしない。

岩とお友達その2になっちゃうよ?」

セロットは、生物のようなものを操る男があと2種類別の生物を召喚する準備を整えていることを見破っている。

「貴様――」


"パチン"


後ろの方で起きた衝撃波。

銃弾を避けた先を予測され、2発目の銃弾と着弾した際の衝撃波で左腕が吹っ飛んだ灰色のマント。

壁から生まれた足場に立っていたタノス。

もちろん、足場はセロットが生成していた。

「ぐうっ……」


「"飛翔べ!"」

左腕を無くしながらも叫んだ男の魔力を媒介に出現した、頭部だけ鳥のような人の形をした黒い影。

6本ある腕、8本ある指に魔力を集中させながら飛ぶ"それ"は、タノスを狙う。

同時に、タノスの背後に出現した溶岩の柱がタノスの背中を狙い伸びる。

(速いな)

タノスは足場を蹴りながら、蹴った瞬間の衝撃を能力で増幅させる。

高速で跳んだタノスは、感知能力を持った灰色のマントの手前へ着地。

跳ぶ際に魔力で守った足は無傷。

目の前の相手が別の足場へと跳び、距離を離すと同時にかぎ爪の男が足を変形させながら横から跳んで来る。

「!」

変形させた足をタノスではなく、横に展開し自身を守る。

天井から盛り上がり伸びた岩が激突し、吹っ飛ぶ。


真っ二つになった蛙のような生物。

タコのような生物と狼のような生物を携えた男。

溶岩を操る男も、同時に同じ場所を見た。


「うぁっ」

「エウエ……エウエ」

小さな死神は、いつの間にか左腕を無くした男の頭部を背後から両手で掴んでいた。

顔にある線は大きく開き……牙がいくつもついた不気味な大口から小さな声が囁かれる。

影を出した能力を持つその男は、白目を剥いて意識を失った。

「!?」

その小さな死神が、見えない壁を生み出す能力と思い込んでいた灰色のマント達。

感知能力を持った男が真っ先にその仕組みに気付く。

「バリアは"別"!

負傷した奴をあいつは自動的に狙うっ!」

「正解!」

再び管を使って高速で移動したセロット。

移動する直前の動作を見切り、高速移動するセロットの腕による攻撃を完全に回避した感知能力の男。

「とはいえ君ら、まだまだ想定足りなすぎだね!」

「何から何まで癪に障るガキだ!!」

ブチ切れたかぎ爪の男は、精密に動き回りセロットに攻撃を繰り出し続ける。

あちこちから迫る岩をもろともせず、切り裂き、かわし、セロットを逃がさない。


意識を失っても尚、自身の能力が動くよう直前に仕掛けた男。

黒い影は大口を開け、何かを叫んでいるような顔をしながらセロットの背後に迫った。


セロットの体表が赤くなる。

一瞬で体長が2倍程になったセロットが両腕を振るう。

背後の影と、目の前のかぎ爪の男を吹っ飛ばし――

次に狙うは、溶岩の男。

(来い)

溶岩の男は、仲間の邪魔にならないようにしながらもあちこちに溶岩の柱を設置。

その上で常にタノスを溶岩で追い回していた。

(いつか俺に矛先が来るのはわかってんだ)

溶岩の男が居る位置は、最初にセロットが居た場所。

全ての管の中心。

そして、身体を元のサイズに戻したセロットが管に触れる。

(移動する速度は上下しない!完全に固定!)


(ルートがわかってるならこの攻撃は当たるだろうが!)

溶岩の男が精密に操作した溶岩。

次の瞬間、高速で管を介して移動してくるセロットの頭部を2方向から溶岩のレーザーが撃ち抜く。


溶岩のレーザーは放たれ――

溶岩の男は、姿勢を低くして放ったセロットの掌底を腹に喰らっていた。

「がっ」

その威力は、並の魔力量を持つ者が最大限防御していなければ気絶するレベル。

壁に激突した男は、セロットの直前の動きを目で追えていた。

(反応……しきれないっ……)

「そういうとこだよ~。

引き出し増やさないとね」


セロットは管を使わず、一度真下に移動。

間髪入れず溶岩を足場に蹴り、溶岩の男の目の前まで移動。

曲線になっていた管とは違い、直角に移動したセロットの動きを想定出来ていなかったことが敗因なのは明らかだった。

溶岩の男は壁に飲み込まれ、意識を失う。


真上から迫ったかぎ爪を避けたセロット。

タノスの攻撃によって大穴が空き、消滅するタコのような生物。

肩に傷を負ったタノス。


タノスの背後まで迫った感知能力の男。

(こいつ"も"遠隔感応が効かない!

脳にかけてるプロテクトが分厚すぎる!)

男の能力は感知だけでなく、相手の意識へ影響を及ぼすことも出来る。

だが遠距離から放った攻撃は弾かれた。

(なら直接!

今しか――)

気配を極限まで薄め、近付くことに成功。

タノスの後頭部へ伸びた手。

消滅しかけたタコのような生物が、ゲル状になりながらタノスと感知の男めがけて突進。

2人まとめて包み込むことで、感知の男の能力をタノスに確実に当てる作戦。


タノスの眼に映ったのは、ゲル状になった生物。

その生物は水のような性質を持ち、光を反射し――

タノスの背後に何者かが迫っている状況を映していた。

(!)

タノスは気付いた瞬間、前へ深く屈み銃を持っていない左手をつき――

左足に力を入れ、後ろを力一杯蹴った。

「っ!?」

魔力をまとった蹴り。

魔力をまとって防御した感知の男。

だが、蹴り飛ばされ宙に浮く。

(何故気付かれたっ……あと少しだったのにっ……!)

ゲル状の生き物はタノスを呑み込む。

魔力で身体を覆い尽くしたタノスは、そのまま銃を構えようとする前に、ゲル越しにその向こうの景色を見た。


折られたかぎ爪。

小さな死神に頭を掴まれた男。

数度の殴打を喰らい、残っていた足場を背に拳を叩き込まれた生物を操る灰色のマント。

意識を失ったその男の上に立つセロットの左手に集中していた魔力が飛散する。

「残り1人!」

本体が意識を失っても尚動いていた影は、伸びた3つの岩にすり潰され、消滅していた。


ゲル状の生物は消滅する。

感知能力の男は、魔力を足に集中させ溶岩の上に着地。

冷や汗が止まらない。

未だに全ての壁と天井、そして2つある出口の奥まで全ての岩がセロットの操作範囲内であることをわかり切っている。

彼は脱出を諦めざるを得なかった。

「おー、お分かり頂けたかな?」

「……」



男が魔力を両手に集中させ、自らの首をはねて自害するよりも早く――

背後の壁から伸びた6本の岩が、男の両腕を拘束。

「っ!!」

そして辿り着いたセロットは宙に浮きながら男の首を掴んだ。

「させないよ~。

どうせ喋らないだろうし記憶を直接見るとするよ」

セロットは、即座に右手に鍵を生成。

男の左こめかみに刺し込んだ。


――――――――――――――――


「ほとんど知りたいことはわかったね、相手の想定が甘くて助かったよ」

それから10分後。

セロットは6人全員の記憶を読み取り、かぎ爪の男と溶岩の男にとどめを刺した。

「感知能力持ちが脳へのプロテクトが一番強いから、教団の奥深くの秘密を保持していても問題無い。

万が一の時はすぐ自害するように教育済み……ははは!上をとことん知らないと見たね」


「教団は"歌姫"以外にも目を付けてるいくつかの能力を手に入れるつもりだ。

主要な能力が揃ったところで、過去に何度かいざこざのあった隣国を攻め落とす計画らしい。

何でも、隣のお国は信じる神が複数存在するもんで価値観の争いが強いみたいだね~」

「くだらんな」

「どこ行っても絶えないね!

放置すればただの侵略国家だ、隣国だけじゃ済まないのは明らか。

エバスには感謝しなきゃ」

そう言うセロットの横で、タノスは気絶している4人を見る。

「こいつらは殺さないのか?」

「僕が命を奪うのは"相当イカれてる奴"だけだよ。

さっきの2人は任務を理由に人殺しを繰り返して楽しんでるタイプだったからね。生かしたらそりゃあねぇ」

(俺ならそんな教団に仕えてる時点でこの4人も生かすのは危険だと思うが……)

「僕らはここで立ち止まれない、とはいえ一瞬の選択があちこちの未来に影響を及ぼす。

だから今は僕自身の判断でこうしてる。

でも、殺さないに越したことはない、だよタノス」

普段の余裕そうな高いトーンではなく、落ち着き払った静かな声でセロットは言った。

「……ああ」

タノスは、まだその基準が測れない。

だが、今までセロットの示す基準に反対したのは最初の1回だけだった。

(まだ納得出来ないが、こいつの人を見る眼は確かだった)


(お前がそう言うなら、俺はこれ以上何も言わない)

セロットはタノスに言い聞かせるように、いつも似たような事を言った。

殺すか殺されるか、それ以上に優先されるものはない世界で生きてきたタノスにとっては未だに受け入れがたい。

そう思う心は、無意識からその先まで変化し始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ