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魔法使いは買い物上手

「撃っていいな?セロット」

 銃口を商人の男へ向けたタノス。

 商人の男は冷や汗をかきながらも、上がった口角をそのままにしている。

「うん、いいよ」


「でも狙うのはおじさんじゃなくて、商品の方にしてみて」

「……?」

 タノスは銃口の向きを僅かに変え――


 引き金を引いた。



 弾は商品に届くよりも少し手前で弾かれ、地面に落ちた。

「!」

「だよねー」

 驚くタノスと、わかっていた風に言うセロット。

「無駄なことはやめて、そちらのお兄さんも買い物していけばいい。

 なにせ俺はあんたらを害するつもりは無いんだし」

「嘘をつくな」

「タノス、その銃そのまま同じ場所向けててね」

 そう言うや否や、セロットはスタスタと歩いていき――

 店の中に入り、商品の前に立って左手を出す。

 左手の平は、丁度銃口が狙う先と重なった。

「はい、もっかい撃ってみて!」

「なんだと?」

「いーからいーから!

 仮に当たっても平気だし、多分当たらないと思うから!」

 タノスは少しだけ躊躇する。

 セロットの推測を信じていないわけではないが、銃弾の行きつく先がセロットの手のひらであることが引き金を重くした。

「平気だからほら、撃って!」

「……チッ」

 軽い舌打ちの後、タノスはゆっくりと引き金を引いた。


 弾は、セロットに届く前にまたしても弾かれて地面に落ちる。

 見えない何かに弾かれた銃弾を見やった後、セロットはニヤリと笑う。

「やっぱり。

 守られてるのはおじさんと店自体でしょ」

「……それがどうした?」

「いやー、段々わかってきたなぁと思って!」

 セロットは商品をじーっと見つめ始める。

(……!?

 何やってるんだあいつ――)

 そして――


「よし、これに決めた!

 おじさん、これ買うね」

 セロットが指さしたのは、一つのハンカチ。

 ベージュ色の、ツルツルとした触り心地ながらも少し使用感が残っている。

 一か所だけ、破れた部分を赤い刺繍で縫った跡があった。


 商人の男の顔色が青ざめた。

「なっ……えっ!」

「ん?どうしたの?」

「いや、いや!

 なんでこんなにも怪しいとわかりきったのに買い物を始めるんだお前は!?」

「えー?

 それとこれは別でしょ?」

「普通これ以上関わらないように――」

 商人の男はセロットの顔を見た。


 燃えるようなオレンジ色の炎の形をした顔が、ニヤリと笑う。

 黒い目から放たれる視線は、自分の心の奥を見透かしているような気がした。

(ま、まさかこいつ……っ!)

「そんなこと言ったってさ」


「抵抗出来ないんでしょ、"その能力"」

 セロットは代金を商品の横に置き、ハンカチを手に取った。

 それ以外のことは何も起きる様子が無い。


 だが確かに、セロットはハンカチを"購入"した。

「いやー綺麗なハンカチだぁ!

 僕の宝にしよーっと」

 商人の男の首筋から冷や汗が垂れ続ける。

「それでさぁ」


「僕が君に"このハンカチ"をあげるかどうか……

 それを決めるために、まずおじさんのこの能力について全て教えてくれないかな?

 あとおじさんが誰なのかも!」

(こい……つ……っ!)

 タノスは銃口を下ろし、セロットの近くへ来る。

(こうなったならもうセロットの手のひらの上だな。

 買われたくない商品をわざわざ置く……リスクを含ませることで能力の力を底上げしているのか?)

「どうせこの商品、僕らの目の前に現れた瞬間に無作為に選ばれて"出現"するんでしょ」

「うっ!?」

「!?」

「じゃないとあんな表情しないよねぇ、商品見た瞬間にギョっとしてたおじさんの顔、凄かったよ?」

 商人の男は、自らの油断に対する悔しさで言葉を失う。

「ねぇどうする?

 別に返さなくても僕がありがたく使うだけで――」

「……俺の負けだ」

 商人の男は握った拳を震わせながら言う。


「話すからそれを返せっ!!」

 息を荒げながら叫ぶ男。

 ニヤニヤと笑うセロット。


 男は、観念した様子で話し始める。

「……俺はダクルっつう商人だ。

 組織だの追手がどうの言ってたが、そんなもんは知らん。

 この能力で宝漁りしてるだけさ」

 宝漁り、という言葉を聞いたタノスはようやく能力のからくりに気付き始めた。

(!

 ということはこいつの狙いは――)

「もう気付いただろうが、俺の能力で開いた店で"買われなかった商品"は俺の物になる」


「最初に店に来て"店を利用した客"を捕捉して、俺の思うタイミングでそいつの近くに店と俺を瞬間移動させる。

 商品は移動先の近辺から見つかる一定以上の価値あるレアアイテムが無作為に選ばれるってわけだ」

 ダクルは小さく舌打ちをした。

 タノスはやや軽蔑するような目でダクルを見た。

(敵意は無いが、かかったターゲットを利用して自分だけ儲ける腹積もりかこいつ。

 警戒し損だな……)

「回数の上限は?」

 セロットは更に質問する。

「5回だよ。

 もうお前らあと2回でどうせ終わりだが、次で1つも買い物しなければ俺の能力は中断される。

 次は買うなよ!いいか!?」

「あと2回も買えるんだね!次は何が出るかなぁ」

 叫ぶダクルを意に介さないセロット。

「あぁそうそう、この店を出せるタイミングっておじさんが操作してるみたいなこと言ってるけどさ」


「こんなに楽にアイテムが手に入るなら、言ってないだけでもっと僕らに有利な仕組みあるよねぇ?」

 ダクルの息が詰まる。

「僕が思ったタイミングでも、店は出てきてくれるんじゃないの?」

「!」

「!?」

 セロットは能力のメリットデメリットのバランスが、今ある情報と推測しているタネでは釣り合わないことをわかっている。

「……そうだ」


「お前が一言、俺の名を呼べばこの店は……出る」

「おー!

 それをお客さんに教えないなんて、それじゃ商人としては三流だね~?」

「一流の商人は手の内を全て明かすような真似はせんだろう……」

「あっはは、なんだわかってるじゃん」

 タノスはため息をつき、肩の力を抜いた。

(こいつの姿が消えたらすぐに呼んで終わりだな。

 余計な邪魔だった)

「他には何か隠してない?」

「もう全部喋った、だから早くそれを返せ!

 ほら!」

 焦るダクルは左手を出し、セロットを急かす。

 タノスは、セロットが持つハンカチを注視する。

(見たところ魔力や霊力を発してるわけじゃなさそうだが……

 どこかの国の通行証代わりにでもなるのか?)


 セロットは、ハンカチを自分の服の中に仕舞った。

「えっ」

「……」

 目を丸くするダクル。

 少し驚くも、セロットが何を言うのか待つタノス。


「やっぱりまだ返してあげない!」

「な、何故っ!」

「いやー、まさか騙されてたなんて思わなかったからねぇ。

 酷いことされちゃったし、これじゃ僕の気が収まらないなぁ!」

「ぐ……くっ……

 わ、悪かった!俺が悪かったっ!」

 慌てふためくダクル。

「そうだ、次に俺を呼んだ時だ!

 今までかき集めたマジックアイテムを持ってくる!そのうちどれか3つだけタダでくれてやる!」

「それは申し訳無さ過ぎるから遠慮しておくよ、ダクルが可哀想だし」

(どの口がっ!?)

(お前がそれを言うな……)

 ダクルとタノスは口に出さずも、同じことを考えた。

「そうだね、せっかくだから残りあと2回!

 お店を利用するとしよう!」

「っ!」

「どこからどんな商品が選ばれるかわからないからね、もしかしたらすんごいの引いちゃうかも!

 と、いうわけで――」


「行くよタノス!」

「うあぁっ!」

 洞窟の中へと走り出すセロットの背を見て声を上げることしか出来ないダクル。

「あいつを狙ったのがお前の運の尽きだ、同情する気にもならないがな」

 そう言い残し、タノスもセロットを追って走り去っていった。

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