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魔法使いはブチ切れ!

「面倒臭いねこれ」

「だから言っただろ」

 一通り聞いたセロットは素のトーンで言い放った。

 タノスもやや眉間にしわを寄せながら黙って話を聞いていた。


「……整理するかぁ」

 ため息をつきながら、セロットが喋り出す。

「トニフ教団はそもそもトー国に在籍してた大臣の息子が始めたもので、最初から国との癒着が強かったと。

 度重なる代替わりと幹部メンバーの更新を経て、過激思想を持つものが中核に居座ったわけだ。

 表向きは悪魔の代行者を見つけ、罰するとしておいて実際は強い能力を持った人を自分達の手駒にして教団の力を増やしていった」


「んで目をつけたのがエバスのお母さん、ナリス」


「そしてナリスを確保したいって目的を持ってるのがトニフ教団だけじゃなくて、教団と手を組んでる組織の頭」


「そいつはナリスの能力じゃなくてナリス自体に固執してるんだよね?」

「ほぼ間違いなくな。

 確保したらなんらかの手段で自分の元に持ってきて離さないつもりだ」

「やな男だね~。

 あれ、教団も組織もエバスのことは把握してるんだっけ?」

「知ってはいるが、今どこに居るか捜索してるらしい。

 最も、ナリスの確保が最優先だから後回しだと思うが」

「だよね。

 ……んで、その組織を考え無しに壊しちゃうと構成員約2万人が野に放たれる」

「ついでにトニフ教団は後ろ盾を失って力が下がる。

 トニフ教団が崩壊したらトー国の防衛力が薄くなるな。

 異世界から来訪した侵略者の撃退はトニフ教団が7割だ」

「でもそれ、教団ばっかりに頼ってきたツケが回ってくるのがいつなのかってだけだよねぇ。

 アフターケアのし甲斐がありすぎだなこれ!」

「本当にやる気かお前」

 タノスがボヤく。

「いや~依頼の500倍は労力かかりそうだもんねこれ。

 まったくも~」

「国がどうなろうと俺達は約束を果たしてくれさえすりゃいい。

 まさかさっき言った言葉――」

「そうビビらなくても大丈夫だよ」


「500倍大変だけど、僕は"できない"、なんて言ってないからね!」

 自信たっぷりに笑うセロット。

「それにもう、大体どうするかは思いついてるんだ。

 もう少し情報が欲しいとこだからそれは教団か組織から差し向けてくる次の追手に聞こうかな」

「俺達からあと1時間程しても連絡が無かったら"失敗した"と見なされて次の手を打ってくる。

 ……と言ってはいたが、もう既に向かって来ていてもおかしくない。

 なんなら進路の途中で別動隊が張ってるかもな」

「両方来てくれれば願ったり叶ったりだなぁ。

 ん~」

 セロットは右手を頭にかざし、考え込むような素振りを見せる。


 6秒後、セロットは手を離してニヤリと笑う。

「よし。

 ここから海の向こうの城まで妙な魔力の気配は無いね、今のうちに土の中にでも隠れてなよ」

「……今ので本当にわかったのか?」

「そこはほら、大魔法使いを信じて!ね?」

「……」

「祭木、そいつが言ってるのは間違いない。

 待機させてる虫が僅かに揺らいだ」

 祭木と呼ばれた角刈りの男は、地面に突っ伏している仲間の顔を見てため息をつく。


セロットが広げた魔力による感知は一瞬。

長髪の男が待機させていた虫はその魔力を感じ取り、本体へ揺らぎを伝える。

セロット以外の誰も、身体で直接魔力探知されたことに気付くことは出来なかった理由。

それに祭木が気付く。

「なーるほどな。

 気配の変化か」

「お!正解~。

水は生物じゃないから気配を似せるってのは無理だけど、感知を一瞬出した後に水中にバラけさせればいいだけだからね」

森の中を広がった魔力は植物と類似した気配に。

水辺から先は感知のために出した魔力を水中へ溶け込ませ、分散。

(簡単に言うがやってることは相当キショいな)

祭木は、セロットのやっていることが次元の違うレベルであることを理解し怪訝な顔をした。

「ところでさぁ」


「君らは、"どっちから"雇われたの?」


 ――――――――――――――――


 痩せこけた顔つきに銀髪のやや長めの癖っ毛の男と、フード付きの灰色のマントで身体全部を覆った何者かが2人で行動し、空中を闊歩していた。

 銀髪の男はセロットの魔力を感知しながら移動し続ける。

(雇った傭兵から通信があった場所からそう離れていない。

 魔力の跡も見失っていない……そろそろのはずだ)


『無闇に交戦するな。

 あの2人組で敵わないとなると鍵の強奪は失敗に終わる可能性が高い、交渉しろ』


 ボスの言葉を思い返す銀髪の男。

(上手くいくのか?

 事前情報では銃を持った男よりも明るい子供の方がヤバいって言ってたはずだが――)


 銀髪の男と灰色のマントが何かに気付く。

 空中の移動をやめて下へ降り、森の中へ入った時だった。


 銀髪の男は冷や汗をかく。

 同じくして数百メートルは先からこちらへ少しずつ近付いてくる存在の、強すぎる魔力の気配。

(……俺、死なないよな?)

 灰色のマントは思わず両足に力を込める。

 危険を察知した本能が、いつでも逃げられるよう身体に呼び掛けていた。

「落ち着け。

 まず俺が切り出す」

 銀髪の男がそう言って数秒後。


 顔や手が真っ赤に染まり、全身にはち切れんばかりの筋肉が備わった2m以上はあるセロットが現れた。

(は?)

 その後ろにタノスも居たが、それどころではなかった。

「君らかぁ僕らの邪魔するのはさぁ」

 ドスの効いた低い声で唸り声のごとく喋ったセロット。

 表情、声色、魔力の気配からとてつもない怒りを放っていた。

(めちゃくちゃ怒ってるじゃねぇか!)

 銀髪の男の冷や汗が増える。

 灰色のマントが左足を1歩後ろに退いてしまう。

「待て待て!

 少し落ち着いてくれ、俺達は何も戦いに来たわけじゃない」

「あぁ?」

「交渉しに来たって言ってるんだ。

 対価は相談次第になるだろうが、うちのボスは可能な限り叶えるって言ってた。

 ……まずはその魔力、少し引っ込めてくれたりしないか」

「なぁにを交渉するって!?」

「ただ鍵が欲しいだけだ!俺達は!

 頼むから話を聞――」

「鍵か」

 セロットの魔力が引っ込む。

 後ろのタノスは無表情だった。

(こ、これでようやく話が出来るか)



「僕はさぁ」


「エバスの願いを叶えるためにこの鍵を受け取ったんだよ」


 セロットの魔力は、さっき以上に膨れ上がる。

「対価だのなんだの言ってる時点で君らと話すことなんてないんだよ!

 もう許さないからなぁぁ!!」

 全身に魔力が漲り、戦闘態勢になるセロット。

(オイオイ嘘だろ!)

 灰色のマントが我先にと逃げようとしたした瞬間。


 2人に認識出来ない速度で動いたセロットの拳を、灰色のマントは真横から喰らい吹っ飛んだ。

 大木を何本も折りながら灰色のマントが森の奥で動かなくなる。

「畜生!」

 銀髪の男は真横に居るセロットの方を向き、両手を広げる。


 銀髪の男の手のひらから放たれた魔力は姿を変え、何本もの細い布になりセロットに付着。

 すると、布の反対側が全て地面に突き刺さり完全に固定される。

(1秒は絶対に壊れない!

 こいつの攻撃範囲外に一瞬移動して周りに罠を張る!

 あとは鍵の在処を見極めて奪うしか――)


 またも目にも留まらぬ速さで移動したセロットは、片手だけで銀髪の男の胴体を両腕ごと掴んだ。

「!?」

 布は、無理矢理破壊されていた。

「ぐっぉおおああ!」

(なっなんで!!

 誰も1秒以内に破壊出来たこと無いんだぞ!?)

「こんなちんけな能力で僕を止められるわけないだろうがぁ!」

 片手だけで銀髪の男を掴んだセロットは、炎のように燃える真っ赤な顔を近づけながら言う。

「お前のとこのボスは何で鍵を欲しがる!?言え!!」

 銀髪の男は身体を握られる痛みに耐えながらも思考する。

(表向きにしか話せねぇ。

 ナリスって女をボスの所に匿って教団から隠すためには今鍵を得るしか無い!

 でもこいつ、"教団にナリスを引き渡さず歌声の能力を使わせてやることでナリスの命を守る"っつったって怒りを煽るだけだ……っ)

 骨が軋む音が内側から響き始めた。

「ごおぅっ……」

「何を考えてる!?

 言わなければこのまま潰しちゃうけどいいのかなぁ!?」

(いや無理っ!

 死ぬっ……だがボスの意思は守る!)

「わ、わかったっ!言う!言うからこれ以上っ……握るなっ!」

 セロットの加圧が止まる。

「はっ……はぁっ……

 ぼ、ボスはな。

 ナリスを安全な場所に移動させたいだけだっ……」

(鎌かけてやる)

「お前も知ってるだろ、ナリスの歌声のことを」

「あぁ?

 歌声のせいで教団に追われてるんだろ!?」

(よし……それを知ってるかどうか確証が欲しかった)

「だったら話は早い。

 教団と組んだ手を離すのは良くないが、貴重な能力を持つナリスを教団に引き渡したらな……能力だけ引っこ抜かれる可能性がある」

「!」

「だが引っこ抜きに失敗して能力が消えた事例もある!

 ボスは、ナリスの場合消えるタイプなんじゃないかと睨んでる。理由は聞かされてないがな。

 だから先に教団に引き渡すのはどっちにとってもリスキーだと判断してる!

 こっちが先に確保すれば命の保証も出来る!」

 銀髪の男は焦りながらも冷静に言葉を選んだ。

(どうだ?

 ボスの真意はボカした!

 納得しやすい理由ではあるはず……っ)


「鍵を奪おうとしてきた君らの話を信じろって言うのか?」


 セロットは空いている左手の指で銀髪の男の顎を打った。

 脳が揺らされ、程なくして銀髪の男は気絶した。


 銀髪の男をゆっくり地面に下ろしたセロット。

 森の奥から姿を現したタノスが言う。

「こっちも気絶してたぞ」

「オッケー。

 どうだった?僕」

「……誰がどう見ても怒り狂ってただろ」

「タノスがそう思うなら大丈夫だね!

 いえーい」

 既に元の大きさに戻ったセロットは2本指を立ててピースサインをとる。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 2時間前。

「で、どうするつもりなんだ」

「えっとねぇ」


「まず、組織の追手が来たら僕は滅茶苦茶怒って話が通じないイメージを植え付ける」

「何?」

「祭木達は組織から雇われたけど、『鍵を奪え』に加えて『極力戦闘は避けろ』って言われてたわけじゃん?

 半殺しにしてでもナリスを手に入れようとしてた教団に比べると相当消極的なんだよね」


「手荒にすることでエバスと対立するのを恐れてるんじゃないかな。

 その意思を再確認するためにも追手の出方を見る。

 祭木から連絡がいった後に僕らのとこに来る追手が取る行動は多分"交渉"だと思うんだ」


「最後に取る手段が上手くいくためにも、ここは交渉をガン無視していく。

 教団は全員専用のわかりやすい服を着てるってエバスが言ってたし、見分けは楽でしょ」

「そうとも限らないだろ。

 教団が組織のことを邪魔に感じてたら――」

「大丈夫大丈夫」


「拘束して触れながら質問すれば、僕は魂の揺らぎ方で嘘ついてるかどうかわかるから」

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「で、どうだったんだ」

 タノスが訊く。

「森の中に木を隠そう!って魂胆だね。

 僕らに喋ることで教団と組織に亀裂が入るのを恐れて、尚且つボスがナリスに執着してることもずらして隠した。

 喋ってる最中の魂の揺らぎが分かりやすいタイプだったし、間違いないねこれ」

「ボスの人物像が見えてきたな」

「うん、やっぱり最初に思いついたプランで良さそう!

 ところでさ、そっちの子血出たりしてなかった?大丈夫?」

「気絶はしてるが無傷だった。

 ……何したんだ?」

「ふふ。

 名付けて"スーパー安心パンチ"ってことにしよっかな!?」

「……」

「無言の圧がチクチクするよ~!

 えっとねぇ、殴る時に"防護魔法"と"睡眠魔法"、それと"自分の攻撃の威力を外に逃がす魔法"を使ったんだ」

 無表情で聞いているタノスだが、内心は戦慄していた。

(あの一瞬でか……)

「睡眠魔法で殴った瞬間に気絶!あとは威力逃がして念のため守っておく!

 女の子に怪我させたとなったら大魔法使い失格だからね!」

 今度は両手でピースサインを取り、タノスに見せつけてきた。

(あの女、魔力や霊力で自身への干渉を防いでなかったんだろう。

 だとしても精度が高すぎる)


(完全にパワータイプだと錯覚させた上でそんなものを撃ち込まれたら余計にキツい。

 魔力による防壁に一点集中せざるを得ない……)

「まぁ身体のあちこちが痛みはするだろうけどね。

 こっちもちょっと骨折ったけど少し治しておいたし大丈夫!

 行こう行こう!」

 セロットはそう言いながら、再び走り出す。

 仰向けに倒れている銀髪の男を横目に、タノスも足に魔力を込めながら走り出した。



 それから1時間後のことだった。

「あっ!

 また会ったね~おじさん!」

「おや、これはこれは。

 また会えてワタクシも嬉しい限りですよ」

 商人の男がニヤニヤと笑う。


 岩山を登っている最中の、すぐ側が断崖絶壁になっているやや開けた場所に商人の店があった。

 男はにこやかに笑いながら、タノスにも会釈した。



 タノスが銃を取り出し、銃口を商人の男へ向けた。

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