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狩人さんおいでませ

月が真上まで昇り切った頃。

森の中を、音を立てず進む2人の男。

どちらも黒い厚手の服を着ており、麻で出来た手袋をしていた。

黒い角刈りの男がハンドサインを送る。

(火の香りがする)

それを見た黒い長髪の男も、ハンドサインで返事をした。

(火がギリギリ見えないところまで接近する)


木の間を液体のようにすり抜け、軽やかな足取りで枝に飛び乗り再び跳ぶ。

魔力を最大限に抑え、外への流出を防ぎながらセロット達を追う2人。

異世界を渡り歩くには十分過ぎる技術。

加えて魔力量も、並の使い手では敵わない程の力を持っていた。

その2人からまだ遠く離れた場所。

火の出元。



放置された焚火と、その周りに置いてある2つの岩。



そこからやや左奥にある木の陰に、その場で作った弓矢を構えて微動だにしないセロットが居た。

(あともうちょいだな)

構えた弓矢は下に向けられ、セロットは木に寄り掛かり一体化するかのような姿勢を取っていた。


焚火の右奥、木の枝の上に乗って銃を片手に持ちながらタノスはセロットの方をチラリと見た。

(どうかしてる)

(40分もの間……あの姿勢で微動だにしていない)


セロットは完全に動きを止めるため、瞬きもせず、筋肉の微細な動きも止め――


呼吸さえも止めていた。

加えて魔力のコントロールにより、木が薄っすらまとって放出している魔力と同じ波長で魔力を出し続けていた。

視力と聴力に頼らず、この状態のセロットを魔力感知だけで見つけようとする者が居たなら――


それは、不可能である。



再び木の枝を足場に跳んだ2人の男。

次の枝に飛び移ろうとする中、ついに焚火のある場所を目視した。

(!

焚火の周りに2人――)

目視した焚火の周りに居る、人影のようなもの。

((違う!))

岩にかけられた幻覚を見破ると同時に、枝に着地する2人。



2人の男の意識が乱れたのを感知したセロットが、両腕を上げて木の陰から矢を放った。

着地すると同時に枝から離れ、後ろへ跳んだ2人の男。

角刈りの男の左足を、セロットの放った矢が貫通した。

「っ!?」

セロットと男の距離は、およそ300mはあった。

普通に矢を撃ったのなら、まず届かない距離。

届いたとして、数秒はかかるはずだった。

(バカなっ)

セロットは矢の内部に2種類の魔法を込めていた。

片方の魔法により、放った瞬間から速度は倍以上に上昇。

対象に着弾した瞬間、2つ目の魔法が発動。

魔力で出来た発光する紐のようなものが現れ、セロットの弓と男の左足を繋いだ。

「はい捕まえた」

ニヤリと笑うセロット。

銃の引き金を引いたタノス。



森の中で、大きな衝撃波が起こった。



長髪の男の右にあった木に着弾した弾丸。

タノスの能力で、着弾した部分から大きな衝撃波が発生する。

2人の男は右側から起こった衝撃波で左へ吹っ飛ぶも、枝を器用に使い上へ飛んだ。

(!)

だが、あることに気付いた角刈りの男は途中で枝を掴み吹っ飛ぶ勢いを殺した。


彼の脳内を、思考が一瞬で駆け巡った。

(俺の足を撃ってきた奴の魔力が大きくなり近付いてくる。

俺の足についた魔力の紐は僅かに発光してる。

吹っ飛んだ時この紐に引っ張られる感触は無かった。恐らく見失わないことを目的とした術)


(体制を立て直す暇は作れない。

逃げの択は捨てるしかないな)

角刈りの男は、枝から手を離し――


大木を蹴って、森の中へと急降下し始めた。

それを見た長髪の男は、角刈りの男の意図をすぐに察し同じように急降下する。


(時間稼ぎは無しか~。

援軍は来ないと見ていいかなこれは)

逃げずに向かってくる2人の男を認識したセロットは、弓を持っていない方の左手に魔力を集中させる。

そして叫んだ。

「タノス!

この2人以外に誰か来たら撃って!」


「それまで待機でお願い!」


タノスは返事をせず、森の中の闇へ消えた。

(あの2人は逃げる択を捨てた。

そしてかなりの手練れだ)


(もしもこれで俺の方に向かってくるなら一番早く戦いが終わる。

だが多分そうはならない……)


セロットは魔力を十分に開放していた。

(あの魔力量を見て戦力を分けるようなバカな真似はしないだろう。

それを誘うためにセロットはあえてああしてる。

……クソッ)

タノスは、セロットがその選択をしたのが自分の力不足によるものだと強く思っていた。



セロットと2人の男が出くわす。

互いの距離、約10m。


長髪の男の身体のあちこちに青い羽を持った小型の虫のようなものがついており、同じ虫が男より速く頭上を飛んでいく。

虫をコントロールするため止まった長髪の男。

魔力をまといながら前へ出た角刈りの男。


角刈りの男はセロットとの距離が5mまで縮まった瞬間、足の中に集中させていた魔力を一気に解き放った。

超加速した男がセロットの右脇腹を手で抉り取りながら横を通り抜けた。


その瞬間、男は目を見開いた。

(嘘だろ)


抉り取った感触から、それが本体ではないことに気付く。

魔法が解け、ただの土くれに戻った偽物のセロット。

ただし……魔力の紐を繋いでいる弓は本物だった。



長髪の男が、背後から首根っこを掴まれ動けなくなっていた。

「引っかかった上にわからなかったでしょ」

「俺の探知をすり抜けたのか……っ」

「僕、なかなかやるでしょ」

長髪の男の能力によって出現した虫は、半径3mに入った生物の魔力と気配を感知する。

感知する上、飛んでいる虫には"生物を感知した瞬間対象に攻撃する"という命令が下されていた。

本体が気付かなくとも、自動的に近づいた敵を攻撃する強力な虫。

対象の指定から植物を外すことで、周りの木や草に反応しないようにもコントロールしていた。


幻術で自身の姿を消した上、魔力と気配を植物と同じ波長に変質させていたセロットには無意味だった。

「あとは君だけ」

長髪の男は、セロットの魔法によって鎖でグルグル巻きにされ地面に突っ伏した。

角刈りの男は息を吸い込み、全身に魔力を集中させながら目の前の相手を見る。


セロットは身長も身体の色もそのままに、全身に魔力を行き渡らせ接近戦の準備を終えていた。

「どうする?殴り合ってみる?」

角刈りの男はまだ自身の能力を見せていない。

だが、能力を使うか決める前に質問をした。

「……お前、その魔力量は全開か?」


セロットは3秒考え込んだのち、ニッコリ笑いながら言った。

「うん!これで限界だよ~!」


角刈りの男は、身体中に行き渡らせた魔力を鎮め……戦闘態勢を解いた。

「どう考えたってその言葉を信用しろってのは無理がある」

「えぇっ。

本当かも知れないじゃん」

「全力を出してる奴の眼じゃないだろ。

……降参だ、そいつを離してやってくれ」

「離す?」


「まだ能力を解除してないのにかい?」

「……」

セロットの周囲に居た虫達は既に消えた後だった。

辺り一帯に虫の姿は無い。

「よーし、じゃあいい事を教えてあげよう!」

「?」


「僕は誓って君達を殺したりしないよ!

君達のバックについてる人達をどうするかはその時決めるけどね」

「何に誓えばそれだけ自信満々に言えるんだよ」

「何ってそりゃ」


「僕自身!」

腕を組み、自慢げに笑うセロット。

角刈りの男は目を細め、呆れ顔になる。

呆れ顔になっているのは、地面に突っ伏している長髪の男も同じだった。

「……そこは普通神とかにするだろうよ」

「神はダメダメ!あいつマジで信用ならないから!

まさかと思うけど君、神に祈ったりするタイプ?」

「いーや」

「あ~良かった。

もしそうだったらこれから1時間かけて神のどうしようもなさを語らなきゃいけないとこだったよ!」

雑談に変わり始めたような雰囲気を遠くから聞くタノスは、舌打ちしそうになるのを抑える。

(何やってんだあのバカは……)



「わかった、本当に俺達の負けだ。

それでいいよな?」

長髪の男が返事をする。

「ああ。

情報喋ったらこれ解いてくれよ」

セロットの言っていたことは正しい。

長髪の男は、ここから2kmは離れた海沿いに虫を数十体待機させていた。

更に、自分の身体の中と角刈りの男の身体の中にも虫が一体ずつ。

起動すれば海沿いへと身体ごと高速で移動する、万が一の時の逃げの手段を確保していた。


セロットは既に2km先の魔力を感知していた。

「能力解いてもいいのに」

「あれ解くと帰りが面倒なんだよ……」

「あーそういうね、気持ちちょっとわかるよ。

んじゃそのままで良いから僕とお喋りタイムだ」


「おーいタノス~!

もういいからこっち来て~!」



タノスが合流すると、長髪の男が先に口を開いた。

「俺達はある教団から依頼を受けてその"鍵"を奪いに来た。

金になりそうだから受けただけだ」

「タニフって名前のやつだよね。

調べはついてるよ」

「……」

セロットの言葉に何も反応しない2人。

タノスは横目でセロットを見る。

(トニフじゃなかったか?)

「もしかして情報ってそれだけ?」

「詳しいことは聞かされてない。

仮に知ってたとして、それ以上喋ったら俺達の身が危なくなる」

「君ら強いし大丈夫だと思うけどなぁ」

セロットは男2人を交互に観察する。

「うーん……」

「もういいだろ、早くしないと他の追手が来るかも知れないぜ?」

「よしわかった」

手を目の前で合わせたセロット。


「こうしよう!

君らは僕に知ってることを"全て"話す。

その代わり――」


「僕は君ら2人の安全を保障して、依頼者達をやっつける」

「"達"?」

「教団とその悪事に関わってる他のヤツも、さ」

「……」

「どう?

僕超強いから国全部敵に回したとしても負けないよ?」

長髪の男は、角刈りの男に目配せする。

角刈りの男が口を開く。

「一つ質問させろ。

やっつけた結果国が面倒なことになる、ってわかったら約束を反故にすることがあるか?」


「正直に答えろ」

「んふふ」


「面倒なことになるなら、アフターケアもしていくよ。

介入できる範囲でね」


「反故にはしないよ」


角刈りの男は、ため息をついて数秒したのち口を開く。

「少し長くなるがいいな?」

「交渉成立だね!」

「ああ」


「まずトニフ教団についてだが」

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