9.アットホームな反政府組織
「はじめまして、斉藤 翔っていいます。よろしくお願いします!」
深々と頭を下げた。
オフィス‥いや、アジトには四人の‥反政府組織メンバーがいた。
おばあちゃん、、、お父さん、、、お母さん、、、お姉ちゃん?
「‥リサ‥の、ご家族?」小声でリサに確認してみた。
「あははっ☆ 違うよ? アークライトのメンバーで、あっちのおばあちゃんが藤堂さん、こっちのおじさんは天野さん、その隣にいるおばちゃんが黒崎さんで、奥のお姉さんが忍さん。あー、ほんとだ! こうして改めて見ると、普通の家族みたいにも見えるね。幸せ家族だ♪」
「ははは‥」
「でも、家族みたいなものだよね、ね?」
リサが四人に向かって同意を求めている。
おばちゃん‥黒崎さんが同意した。
「いっつも一緒に居るからねぇ、家族と過ごす時間よりも、ここに居る時間の方が長くなっちまったさね。」
小太りでおかっぱ頭の、どこにでもいそうなおばちゃん。
おじさん‥天野さんも同意した。
「あれ~?僕はずっと前から家族同然だと思っていたよ?」
細身で背が高く、眼鏡と白衣が似合っている。
ばあちゃん‥藤堂さんは‥?
「なんだってこんな手の掛かる連中と一緒に居るんだろうねぇーまったく‥ぶつぶつ‥ぶつぶつ‥」
じいちゃんと同い年くらいだろうか? 白髪でお団子頭。白衣を着てタブレットPCを眺めている。
ぶつぶつ言ってるばあちゃんに、じいちゃんが何やらケチをつけて言い合いになっている‥。
仲睦まじい? 老夫婦のようだ‥。
そして、お姉さん‥忍さんはパソコンに向かったままだ。
猫耳パーカーを着て、椅子の上で体育座りしている。
俺の視線に気づいて手をあげて応えてくれたので、軽く会釈を返す。
アットホームな反政府組織アークライト‥か‥。
「あとね、お兄ちゃんもいるんだけどー‥買い出しかな?」
リサがオフィス内を見渡しながら、軽く肩をすくめた。
「こりゃ、大家族だ」
どんな活動をしているのか、とても気になる。
みんなが居るオフィスとは反対側を振り返ってみると、レジカウンターの向こう側にショーケースや商品棚が並んでいる。
「こっちの奥は?」
近付いてみると、一番奥の自動ドアが開いて──
『戻りましたー!』
目を疑った‥。というか、脳がバグった‥。
お兄さんは、通りに面した入り口からオフィスに入ってきた。
フードデリバリーのような荷物を背負って、レジカウンターの横をすり抜けてオフィスへと入ってきた。
「あれ? キミが噂の翔くん、だね? 俺は坂口。よろしくね!」
とても爽やかな青年だ‥。
「ぁ‥よろしく、です」
今はお兄さんよりも、この場所のことが気になる。
眼科の診察室から廊下を歩いて‥エレベーターで随分と地下深くに下がった‥はず。
なのに目の前には地上の出入り口がある‥。
これは‥CGじゃね?
俺が目を白黒させていることに気付いたリサが、レジカウンターの方へ案内してくれる。
「驚いたでしょ☆ 実はあのエレベーターに秘密があるのです。下に降りてるように感じさせておきながら、ちょっとずつ上に上がってー‥また下がっただけ。だから上へも下へも行ってなくって、同じ階のままなのよ」
「はぁ? なんだって、そんな手の込んだことを‥‥」
「面白いでしょ? ここの人たち、他人を驚かせるのが好きなのよ(ニヒッ)」
いたずらっ子のように笑うリサもきっと、そういうのが好きなんだろうなぁー。
全メンバーが揃ったところで、奥の会議室へ移動して説明を受けた。
普段はカモフラージュのために、IT系のパーツショップとネオオプティクス用のアプリ開発を行っている。
オモテには『パーツショップ アークライト』と看板が掲げられている。
ネオオプティクスの最新情報も入手し易く、実益を兼ねているとか‥。
ばあちゃん、おばさん、おじさんは『ネクスト』を、
姉ちゃん、兄ちゃんは『プラス』を、装着している。
姉ちゃん、兄ちゃんの『プラス』は、AIアシスタントが見えたりはしないらしい。
俺のアイリスが人格じみたものを持っている話にも興味津々だった。
俺は、今後もここに出入りしても不自然じゃないように、アークライトのアルバイトとして雇われる体裁をとることになった。
「そういえば、月額1,200円のサブスクって‥どうにかなりませんか?」
関係者なら割引くらいしてくれても良いんじゃないかな? ね?
すると姉ちゃん‥忍さんがキョトンとした顔で言った。
「あれ?そんな設定、してたっけ??拓哉、確認よろー」
拓哉と呼ばれたのは、兄ちゃんだ。
「はいよー‥‥ぁ‥テスト用に入れたデータ、そのままだった!」
忍さんと拓哉さんがパソコンに向かって、あーだこーだと言い合っている‥。
しばらくして、拓哉さんが俺にOKサインを出してくれた。
‥アイリス?
《限定機能が解除されました。アバターを変更します》
キラリン☆
妖精アバターキターーー!!
拓哉さんに「いいね」サインを送る。
「アバターって、どんなふうに見えてるんだい?」
お父さん‥いや、天野さんが興味深そうに訊いてきた。
「んーっと、こうー‥視界の隅の‥この辺りに、常に浮かんで見えるんですよ」
首を回しながら答える。
すると拓哉さんがPCのモニターを回して、アバターのモデル画像を見せてくれた。
「こういうヤツが見えてるはず。だよね?」
‥‥何それ‥‥モニターに映し出されている妖精は、まったく可愛くない。中年のおばさんじゃん‥。
「違いますね。もっとロリっとしてて、めっちゃ可愛いヤツっすよ」
リサが嫉妬したのか‥コワい顔を向けてくる。
拓哉さんは首を傾げてながらモニターを確認する。
「あれー? おっかしいなー‥このデータがアップされてるはずなんだけどなぁ‥‥」
正直、その中年妖精なら、イルカの方がましだ‥。
《♡》
「『プラス』の方か、アイリスの方か、翔くん自身なのか、何らかのフィルターが適用されているようだねぇ‥。やっぱり翔くんはイレギュラーだなぁ。じっくりと観察させてもらうよ? フフフッ」
天野さん‥目つきがコワいです‥。
その時、ばあちゃん‥藤堂さんが慌てたように騒ぎ始めた。
「こりゃー大変な騒ぎになるかもしれんぞー!」
みんなが何事かと藤堂さんの周りに集まると、藤堂さんはネットニュースの記事を大きなモニターに転送した。
『観測史上最大級の太陽フレアが発生しました』
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