3.次のチャンスがあるらしい!
翌週───
昼休み、三人で屋上に集まった。
話題はもちろん、俺の初デートについてだ。
「‥‥‥ってなワケで、醜態を晒してきました‥」
「へー、でも『またね』って言われたなら、良かったんじゃない?」
「お前にしては頑張ったほうだろう。うんうん。よくやった」
こいつら、俺の人生始まって以来の大イベントに対して、その程度の感想しか言えんのか‥。
これが『リア充』ってヤツですか? ヤツですね。くっそーー!
「そういや、健太に勧められたアプリ‥何だよ、あれー‥」
「お前、あれ使ったんか?」
「使ったよー‥こちとらテンパってたから。そしたら《編み物や盆栽について聞いてみましょう》とかって‥あれ、マジで言ってんのかよ」
「きゃははっ! 何それ、ウケる!」
「それ、彼女に訊いたの? そのまま?」
「ああ‥‥だからテンパってたんだってー‥」
「あーっはっはっ! 編み物! あははっ! 盆栽って! ひぃーーひぃーーっ!」
‥玲奈さん、笑い過ぎでは?
「ぷっ‥で? 彼女は何て?」
「えー‥どっちか選ぶなら編み物だって‥ばあちゃんがやってたからって‥」
「ははっ‥すげーな‥まじ天使かもな‥。普通なら呆れるぜ。くっくっくっ」
「逆に、俺はどっちに興味あるんだ?って聴かれたから、盆栽って答えた‥」
「ぶふっ! ひっひっ‥もう‥だめ‥ふぅーやめ‥あはは‥」
クソッ! 玲奈め!
「そのあとアプリが何て言ったと思う?《会話が弾んでますね》だってよ」
「ひゃーっひゃっひゃっ!! もう苦しいから‥あはっあはっはっー‥」
笑い過ぎて死ね!!
「やっぱ、無料のアプリだしな。そんなもんなんだろ。くくくっ」
「そういえばさー‥喫茶店で、ARをOFFにしてみようと思ったんだよ」
俺は自分の『眼』を指さした。
『AR機能OFF』‥『AR機能ON』‥今は問題なく動くな。
玲奈と健太は一瞬見つめ合って、健太が残念そうに言った。
「あら‥天使ちゃんの正体、見ちゃったの?」
ん? 今の間はなんだろう‥?
「いや、それがさ、その時、なぜだかエラーが表示されて、AR機能OFFれなかったんだよね。今は問題ないんだけど‥」
健太がちょっと嬉しそうな顔になる。
「そっか。なら、天使ちゃんの正体は、まだ見れてないんだな?」
「ああ‥‥。てか、お前ら、何か知ってるのか?」
「うーん‥言おうかどうか迷ったんだが、そういうことなら、やっぱり、ちゃんと伝えておいた方が良いんだろうなぁ‥。な、玲奈。」
「そうだね、知らないほうが幸せなこともあるかもしれないけど‥真実は早目に知っといたほうが良いと思うよ」
俺に哀れんだ顔を向ける玲奈‥。
「な、なんなんだよ?真実って‥‥」
「実はな、土曜日、俺と玲奈も、その喫茶店に居たんだよ。たまたま。偶然」
「はぁぁあああ~!?‥じゃ‥お前ら、全部見てたの!?」
「いや、たまたま立ち寄ったときに、お前が‥《《一人で》》座ってるのを見つけて‥」
「ぇ‥?」
「声掛けようかとも思ったんだけど、ちょっと様子を見ようって‥‥。そんで、結構離れた席に座ってたんだよ」
「ぇ?え?‥俺‥‥《《一人》》‥だった?」
「うん‥一人だった‥よね。」
「ああ‥‥」
頭の中に、世にも奇妙なBGMが鳴り響く‥。
何これ‥?
彼女‥リサちゃんは‥天使でも、オッサンでもなくて‥‥存在すらしてなかったってこと???
「‥‥‥ぷっ!あははっ!ごめん、ごめん、すぐに彼女も戻ってきたから、たまたま席を外してたとこだったんだろ?」
「な゛‥‥。あー‥お花を摘みに行くって‥途中で席を立ったわ‥。え? じゃあ、彼女はちゃんと居たんだよな?な?」
「うんうん。すまん、ちゃんと彼女は実在していたよ。うん」
「ょかったぁぁぁーー‥焦らせんなよぉーー‥世にも奇妙なトコ行くかと思ったぁー‥」
「まぁ、まぁ、そんで、俺らはAR外して彼女を見たんだよ」
まじ!?
「さあ! 果たして彼女はCGだったのか、CGじゃなかったのか、どっちでしょーーかっ! デーデン♪」
「俺はリサちゃんを信じてるから『CGじゃない』に決まってんだろ! 信じてるからー!!」
「CGではない、ファイナルアンサー!?」
「あーもう! そういうのいいから! ファイナルアンサー!」
「ファイナルアンサー『CGではない』‥‥果たして彼女はーー‥‥‥‥」
・・・・・・・・・・・ゴクリ。
「CGーー‥‥‥‥」
・・・・・・・・・・・いや、溜めすぎだろ!
健太が残念そうな顔で俺を見上げてくる‥。
・・・・・・・・・・・え?‥CG?‥オ・オッサン?
「ではありませんでした!! おめでとう!!! 本物の天使ちゃんでしたーー!!!」
「ぁ‥だ・だろ~? 信じてるって言ったじゃん。ふぅ~‥」
一瞬、疑いそうになったことは忘れよう。
疲れた‥。凄く疲れた‥。
そだ、リサちゃんの動画を再生して心を落ち着かせよう。
『それじゃ翔くん、週末楽しみにしてるね♪ ばいばぁ~い♪』
『……それじゃ翔くん、週末楽しみにしてるね♪ ばいばぁ~い♪』
『……それじゃ翔──』
「いや~~~‥まさかCGじゃないとは‥。あんな天使が、どうしてどうして翔と出会ってしまったんだろう‥」
「運命‥ってやつじゃないかな。ふっ‥しかし、まさか、お前らもあの喫茶店に居たなんて‥‥あ、そうだ。『お花摘みに行ってくる』って、なんか意味あるのか知ってるか?」
「ぇ‥‥お前、それ知らんのか?『お花摘みに』ってのは、お手洗いに行ってくるってことだよ。トイレ」
「ぁ‥あーーーなるほど、なるほど、それでか。戻ってきた時、お花なんか持ってないし、変だな?って思ってたんだよ。あはは」
あつぶねー‥あの時、リサちゃんに聴かなくて良かったー‥‥
密かに胸をなでおろしたとき、俺のスマホがメッセージの着信を知らせてきた。
リサちゃんからだ!!
『今週末も、もし良かったら会いたいな☆』
画像が添付されている。
開くと‥豊満な胸元を強調した制服姿のリサちゃん♡
健太が横から覗き込んでくる。
「うっわ! エッロ!! その胸はCGじゃね?」
「やめろ馬鹿っ! CGじゃねえーっつーの!!」
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響いていた。
今週末、またまたデートでしょうか!?
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