1.アイドルか天使か、それとも‥オッサンか!?
「ヤベェ、俺、今週末、天使とデートする」
昼休みの教室。
突然そんな宣言をした俺──斉藤 翔に、周囲の空気が一瞬で静まり返った。
「え、なに? 宗教ハマった?」
「ううん、出会い系」
幼馴染の藤原 玲奈の冷めたツッコミにかぶせるように、俺はスマホを突き出した。
画面には、まばゆい笑顔の美少女──リサちゃん♡
「こないだ“ココロコネクト”で知り合ったんだよ。最近めっちゃ流行ってるやつ。AI認証でサクラも少ないし、マッチング率95%超えってヤツ!」
「それ、CGじゃね?」
隣でぽつりと呟いたのは高橋 健太。健太も俺の幼馴染で、最近、高校に入学した直後に、玲奈と健太は付き合いはじめた。
この物語が『幼馴染とのイチャコラストーリー』だとしたら俺は、ただのモブでしかない‥。
家が近いこともあって、以前はよく三人で遊んでいた。
玲奈をちょっと意識したことがないとは言わないけど、本気で好きだったかと聞かれると微妙なところ。
だから、二人が付き合っても、心から祝福できた。
でも──そうなると、ひとり取り残されたようで、寂しくなったりするわけで‥。
ネットで友達を探してみたりしてみたって‥いいだろ?
「CGなわけないって! 今週末、会う約束してんだぜ? CGなら即バレじゃん」
動画の音量を上げた。
「声だって、めっちゃ可愛いし♡」
『それじゃ翔くん、週末楽しみにしてるね♪ ばいばぁ~い♪』
『……それじゃ翔くん、週末楽しみにしてるね♪ ばいばぁ~い♪』
『……それじゃ翔──』
無限ループし始めた声に被せるように、健太がスマホを押しのけた。
「ハイハイ、リアルで会った時は“眼”のAR機能はONにしとけよ」
「なんでだよ? リアル確かめるならOFFだろ?」
「だってお前‥天使だと思って会ってみたら、オッサンかもしれねーだろ? ぶふっ」
「‥‥っなワケねーだろ!」
「ねぇねぇ、週末会うってことはぁ、初デート? 初デートだよねぇ? どこ行くの~? どこまでイクのぉ~?」
玲奈め‥俺の弱点を知りつつプレッシャーをかけてきやがる。
そう、俺は未だに、女の子と二人でお出掛けとか‥デ・デートとかをしたことが無い。
「そうだよ‥。初デートなんだよ‥。あー! 今から緊張してきたー‥ぜってー会話とか途切れちゃいそう‥。頼む、助けてくれろ~」
「なら、『デートアシスタントアプリ』入れとけよ。ちゃんと“眼”とリンクするやつ」
「……そんなのあるのか?」
「何種類かあったと思うぜー‥評価はマチマチだけどー‥おススメはコレかな?‥‥シェア送った」
俺のスマホの着信音が鳴る。
「そのアプリを入れて“眼”と繋げとけば、状況をAIが判断して会話のネタとかを視界に提示してくれるってよ」
「そんな便利なアプリが‥‥」
早速インストールすることにした。
‥Now Loading‥
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“それ”が常識になった時代
西暦20XX年。
数年前に東ヨーロッパの方で発生した新型ウィルス‥通称『ヴィズ・ウィルス』は、瞬く間に世界中に蔓延した。
風邪とよく似た症状で致死性は低かったが、恐ろしい後遺症を残す。それは──視力の喪失。
そこで登場したのが、人工眼球移植技術『ネオオプティクス』。
機械と有機組織を融合させた次世代義眼は、多くの若者に移植され、今や“当たり前”のものとなった。
この『眼』には、ただの視力補助だけでなく、様々な機能が搭載されている。
・夜目対応+望遠カスタム
・健康モニタリング(血糖値や血圧の変動検知)
・高精度な認証セキュリティ
・そして最大の目玉機能──AR表示(拡張現実)
現実と区別がつかないほどリアルな映像が、眼に映る。
美男美人を見たら、つい口をついて出るのが──
「それ、CGじゃね?」
もはや、時代を象徴するジョークだ。
アラーム機能で寝坊は減ったし、忘れ物も激減。
今では“眼”なしじゃ日常生活もままならない。
──そう。俺たちは、そんな時代に生きてる。
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《『チャット・キューピット』のインストールが完了しました。“眼”と接続しますか?》
「……Yes」
──この出会いが、国家の存続にまで関わっていくことになるとは、このときの俺は、夢にも思わなかった。
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