勝負しようぜ!進藤!
「勝負しようぜ! 進藤!」
響き渡る溌剌とした宣言が、クラス中に呆れた笑いの拍手を生成させた。迷いなく人差し指を俺に照準を定めた大輝は、勝敗の行く末を確信しているように勝ち気に笑っている。一度たりとも勝てたことのない、むしろ惨敗しかしていない人間とは思えない。
「……別にいいけど」
「おうよ! 今回こそ俺が勝つからな。ぜってぇ手を抜くなよ!」
釘を刺す言葉に「手の抜きようがない」とは言わず、開いていた参考書に視線を落とした。大輝ははっきり言って下から数えた方が早い、お世辞にも成績優秀とは言えないやつだ。
対する俺は入学してから学年一位以外を取ったことがない。一応断っておくが自慢として鼻にかけてはいない。
親も教師もクラスメイトも。そして俺自身も「一位であることが当然」であるのが普通のことだからだ。わざわざ褒められることもでもない。特段話題になることでもない。この世の”決定事項”であることに、誰も何も騒ぎ立てたりしない。
ただ一人を除いては。
「お前、学年一位の進藤だよな! 次のテストで俺と勝負しろ!」
あの時も大輝は今のように俺を指差し、仁王立ちで自信満々に宣言した。
正直、持ちかけてきたくせにまったく「勝負」にならないし、初対面の相手に馴れ馴れしい態度が苛立った。未だに理解ができないことも多々あるが、予測不可能なことばかり言ってくる大輝に面白さが芽生えているのも確かだ。
「今回も勉強教えなくていいの? 俺はいつでも歓迎するけど」
「いいや、おめぇからは手は借りねぇよ! 自力で叩き潰してやる」
拳を掌に打ち付けて不敵に笑う大輝は、やはり俺には理解できない。補習に毎日参加して勉強に励んでいるのは認めるべき努力だが。
「そんじゃクラスに戻るわ。じゃあな、進藤!」
豪快に手を振って立ち去った大輝の背中を見つめる。
君のお陰で嫌いだった苗字が好きになりそうだ。勝ったら言ってやってもいいかと、もう一度参考書へ視線を落とした。