俺はお前らを許さない!!
勢いで書いたネタの集合体で神坂くんがなんとなく少女漫画展開をはたから見る話、というやつです。
原案もいいところなので大した話ではないですがせっかくなので彼の苦労が報われますようにの気持ちで投稿しておきます。
神坂、お前が良い感じになる長編頑張るからな。
2024.10.16
なんか急にPVが4桁とか爆増してスマホをぶん投げました。みんなどこから来たんですか!?
連載版もはじめました。神坂をよろしく。
https://ncode.syosetu.com/n1764jr/
お前じゃなければ良かったんだ。
「俺、春陽と付き合うことにしたんだ」
お前だけはだめだったんだ、お前じゃないなら俺は素直に祝福できたんだ。
「そうか。一応聞くけど、なんで?」
「ええっと……ええ、なんか恥ずかしいな、俺ら幼馴染だし、やっぱ俺の近くに春陽がいてくれたらいいなって思ってさ」
「ほーんそうかそうか、そうだよな、市山サッカー部の手伝いとかしてたもんな」
サッカー部っていうかお前のな、という言葉を飲み込む。
目の前の男……、友人だったそいつはそうなんだよ! とか言って嬉しそうに笑っている。なに笑ってやがるクソが。
「おめでとさん、まあ、それならお前との友情は今日限りだわ」
「え? なんだよそれ、なんでそうなるんだよ?」
「おめーの目が節穴だからだバーーーーーカ! クソが! あとで後悔しても俺は一切合切手を貸さねえし、手どころか顔も貸さねえからな! ブワァーーーーーーカ!」
◆
神坂優。俺である。
端的に言うと、俺は友達が多いけど少女漫画の恋愛しないレギュラーキャラ、って立場のやつである。マスコット枠と言い換えてもいい。
職業は高校生。普通の高校二年生だ。異世界転生とかしていないごく普通の。とりたてて特技も面白味もない。
一つだけ俺の人生の変わった話があるとすれば、やたらと俺の周りには少女漫画みたいなことしてるやつが多い。中学の時からずっとそうだ。多分これからもそうだ。
しかもすんなりいかないタイプの恋愛が多い。さっきの、あれはサッカー部で去年同じクラスだった楠井 秋人だが、あれには女の幼馴染が二人いる。
晴れて彼女になった市山春陽と、もう一人、その市山に良いように使われ邪魔されている影山 雪那。
良いように、邪魔されてっていうので察してほしいが要は秋人の中の市山の評価っていうのはそのほとんどが影山さんの功績だ。幼馴染だから気づかないことも使いやすいことも反抗できないこともあるんだろう。
秋人がそんなぼんくらだとは思わなかった。ちょっと考えればわかるのに。というわけで俺はあいつと友達辞めることにした。俺何回も影山さんのおかげだねって誘導したからな! 聞かなかったのおめーだからな!
「あっ、影山さん」
「神坂くん」
落ち込んで、は見えないが俺の知らないところでいろいろあるに違いない。平静を装って話しかけるといつも通りに見えるので女子っていうのはこういうとき本当に強いなと思う。
俺が話しかけるのは「俺にしとけよ」的な奴ではない。
なんというか……俺が関わると「いいほうに」進むのだ。いつもそうである。
「さっき秋人から、市山と付き合うって話聞かされて……でも俺、知ってるんだ、本当は影山さんが全部……」
「雪那、だれそいつ」
「一条先輩……」
「え⁉ 一条先輩⁉」
過去一の大物が出てきて思わず飛び上がる。一条 夏生といえば芸能人で生徒会長という設定盛りすぎのうちのメインヒーロー枠の一人だ。そうか、影山さんは一条先輩なのねなるほどね。
「神坂くんは、去年のクラスメートで……あの……ぜんぶっ、ほんとは……知って……っ」
「雪那」
一条先輩の出現で安心したのか泣き出す影山さん。これお互いにもういろいろ知っててイベントやってるんだろうと思う。実際のところは知らん。今までの奴らも知らん。ただ俺が事情知っててこういうことしてるやつら、高確率でそのあと付き合ってるからそういうことなのだと俺は解釈している。
ちなみに俺にそういうイベントは一切起きたことがないのである。クソが。やっぱり顔か? 俺がパッとしないマスコット枠なせいなのか? 秋人なんかより確実に見る目あるんだけどね俺のほうが!
「一条先輩いるなら俺の心配とか思い過ごしかもな! えーと、一条先輩」
「なに?」
早くどっか行け、という圧を感じる。俺だってこんなところいつまでも居たくないのだが、とどめの一言を告げておかないと後でひどい目に合う。経験則なので言っておく。
「俺、二人の味方っすから!」
「え……」
「じゃっ! 影山さんまたな!」
「えっ、ちょ、か……神坂くんっ!」
俺は影山さんの努力わかってますよ&でも俺そういう目で彼女を見てませんよ、というのは本当に本当に大切だ。言っておかないと後でうっかり敵対視されることがある。俺を当て馬枠にしないでほしい勘弁してほしい。俺そういうしんどい恋愛に組み込まれたくねーもん。
至極真面目な話をすると、これらのマスコット役は好きでやっているわけじゃない。なんか勝手にそうなる。俺全然関係ないのになぜかいつも渦中にいる。まあこれは男友達側のせいだ。
顔のあるモブというのは、なんなら主軸に組み込まれやすい。本人が恋愛しなくても周囲の恋愛に感づいてキーマンになったり相談される役だったりするせいだ。
ここは現実世界、俺は特徴のない高校生。本当にそれだけのはずなので世界がおかしいのである。
好きでやってない、勝手にそうなる。だからうまく立ち回らないとめんどくさいことに巻き込まれる。俺はそれが大嫌いだ。
秋人と市山が付き合ったのも、影山さんと一条先輩がよろしくやってんのもそれは構わない。今日は乗り切った問題は明日なんだよなあ! 明日腹痛で欠席ってだめかなぁ、と思うが数学で小テストあるって言われてた。だめだ。詰んだ。
◇
「わたし、もう二人といるのやめることにしたの」
で す よ ね! はいわかってましたーこうなることわかってましたー! わかってたけど回避できませんでした! なに、俺にうらみでもある⁉
時刻は放課後、場所は廊下。秋人、市山、他クラスメイトと俺や俺のクラスメイトの何人かがカラオケ行こうかと固まってたところだ。
俺はいかないって言ったんだけど、まあ相談だけ付き合えよと連れてこられてのこのこ来たら秋人はいるし市山はいるし、でも影山さんはいないしで「うわ終わった」と思ったね。
昨日の友辞め宣言のせいでなのか秋人は俺のほうを気にしていて、でも話しかけていいのか迷ってるっぽかった。俺よりここにいない影山さんを気にしろ。お前これから超後悔イベント始まるから。そんでそこに一条先輩来るから。
そんなこと考えてたら案の定、出てくる影山さん。
市山がなんてことないように「雪那も行こうよ」なんて言ってるが俺は知ってる、市山はそんな優しくてかわいいやつじゃない。
あれはいわゆる、「ごめん、でも……私も秋人がずっと好きで……でも雪那も大切な幼馴染だから、これからも三人でいようよっ」みたいなやつなのだ。性格悪いぞ市山。
「ううん、今日はいいや、わたしはやめておくね」
「そっかー影山こないのか、また誘うわ」
「うん、ありが「それって私のせいっ?」……なに、春陽」
で、た、よ、「それって私のせい」そうだよお前のせいだよ、と言いたいのを飲みこむ。まわりは何事かと息をのんで三人の動向を見つめている。
市山はここで「雪那の気持ちわかってたのに」的なことを言い出して、影山さんが失恋したことをさも自分のせいみたいに言うのだろう。
予想される反応としては、①秋人が「春陽のせいじゃない!俺だって…」って言いだす。②「ごめん、雪那、俺知らなくて」って言いだす。③「なんで今なんだよ……」って被害者面する。
ここまで鉄板想像できるなら俺は少女漫画家になれるんだろうなあ、といつも思う。いやならねーけど。日常生活これなのに仕事にしたくねえ。無理。
影山さんがちらりと俺を見る。昨日のあれのこと考えてんのかな。でもここで俺がでしゃばる必要はない、多分一番いいタイミングで一条先輩が来る。俺がやればいいのは空気を読まない発言を一言だけでいい。
「ねえっ、雪那ごめんね……私っ」
「そうだよ、だからわたし、もう二人といるのやめることにしたの」
こうして冒頭に戻ってくるのだ。
たった一日でよくここまで思い切れたもんだと感心する。今までは別のヒーローがいたって、それでも多少みんな引きずってた。そりゃあ好きだと思ってたんならそうなるだろう、くらいの感想は俺だってある。
影山さんは見たことないタイプだ。強いなあ。
「どうしてそんなこと言うの?」
「だって春陽が私のこと見下すから。ねえ、秋人、去年の合宿も、秋人の入院も、春陽はなにもしてないって知ってた? 私もう疲れたんだよね、二人といるの」
わー! 初めて見るパターン! これは最近流行ってるざまあってやつだろうか。異世界ものでしかないと思ってたけど現実世界でも起こりえるもんなんだ!
俺の趣味嗜好に寄ってるような気がしてならないが、多分時代の流れなのだと思う。毎回そうだ。そのときのはやりに近い恋愛劇をいくつも見てきてるからな!
「あー、やっぱあれって影山さんだったんだ! ほら、去年の夏にさぁ」
思い出したように俺がそう口にする。秋人が見なかった、彼女の功績。俺はそれをさもたまたま、一度だけ見ましたよみたいな言い方をすれば影山さんは少しだけ泣きそうな顔をした。
大丈夫、ちゃんと知ってる。影山さんが頑張ってたこと、秋人が知らなくても。
そんでもってそれは俺だけじゃない。みんなが知ってる。みんなが見てる。市山がなにしようと、他人の目の所在までは決められない。
次々にあれも影山が、それって影山さんだよね、これ影山じゃなかった? とざわつく。八人もいるので結構な動揺になってみんな市山と秋人から一歩引いた。
「へー、すげーな影山さんって!」
俺がまた空気をぶった切ってそういうと、影山さんは泣きそうな顔のまま少しだけ笑ってくれた。
「ま、でも秋人は市山が好きだってはっきり言ってたもんなー。よかったじゃん、影山さんが二人に気使ってくれるみたいだし」
「え、なに神坂どゆこと?」
「えーだってさー疲れたーとか言って絶対影山さん自分が悪い空気で二人から離れようとしてくれたわけだろ? それは気使わせてる秋人たちのためだろ? 急に距離置くと心配かけるし、気を遣わせるからっていうとそんなことないっていうに決まってるから」
なー影山さん、ってなにも考えてない感じで声をかける。言いよどんだ彼女は動揺してるに違いなかった。まあ、それは秋人も市山も一緒なんだけど、まあ……もう幼馴染には戻れないなと冷静に考える。
秋人、お前絶対影山さんを逃がすべきじゃなかったぞ。
「雪那、遅いから迎えにきた」
「先輩……」
「あ、神坂君」
「先輩昨日ぶりですねー!」
「え、神坂って一条先輩と知り合いなの?」
「いや、昨日初めて話した!」
名前を呼ばれた、ということは一条先輩の中の俺は「無害」判定なのだ。よかった。やっぱりとどめの一言は発しておくに限る。
「雪那、もう行こう。俺おなかすいちゃった」
「は、はい」
「じゃーね、雪那、俺がもらってくから」
ハイ少女漫画展開―――! わかってましたありがとうございます。
なんで……とか呟いやいてる市山に、呆然としている秋人。あーあ、いやわかりきってたじゃん、と思って思考を止める。わかってたのは俺だけだったわ。
ってか、俺帰るって話してたんだよな。みんなが唖然と二人を見送ったのを見てまた俺は空気を読まずに発言する。
「もう帰っていい? 俺今日ゲームのアプデなんだよなー」
END