恋文
あいも変わらずマークとブラントはソファに座り、紙とにらめっこだ。
(今日は雨だなあ。
アシュリー様は来るかなあ)
いつしかサラはアシュリーがくるのを楽しみするようになっていた。
ちょっとしたお菓子や砂糖をもって来てくれるからだ。
そんな小さな優しさが嬉しかった。
アシュリーも嬉しそうにするサラに悪い気はしなかった。
ミュラと二人の婆さんはおしゃべりしながら、刺繍をしている。のどかな夜だった。
そこにアシュリーが現れた。
そしてマークの前に、どっかり腰を下ろし
「マークどうだ?」
「冒頭の部分は『4月10日』という詩ではないかということはわかったのですが。
それ以外はさっぱり。」
アシュリーもさすがに焦ってきた。
恋文の中身はこうだ。
私のジェンナ様へ
シロツメクサが咲く庭に、そよ風がゆったり吹く時、
あなたは私の隣で静かに微笑む
踊ろうくるくると
踊ろう手をとって
そして空には、金色の鷹が舞う
あなたは、川のほとりで、豊かな髪を洗い、私を待つ
ムルドの都に黒曜鳥が舞い降りる時
私達は見つめあい、抱き合う
朝日が昇り、
シンラが葡萄のツルで編んだ冠を授けるだろう
そして二人は誓いを交わす
ゲーシアには白いバラが咲き乱れるだろう
あなたのティルムより
恋文といえば恋文だがこれだけでは密通の証拠とはいえない。
だが、何もなかったともいえない。
手持ち無沙汰のサラがお茶を運んできた。
「ねえ。
それ見せてよ。
恋文なんでしょ。
マークはもらったことあるの?」
マークはギロリとサラを睨む。
「うら若い16の乙女が手伝ってあげるよ。」
「遊びじゃない。」
ピシャリといった。
「いいではないか。
何かしら気づくかもしれない。」
アシュリーは藁にもすがるおもいだった。
サラは紙を受け取ると、アシュリーの横にちょこんと座り、目で、内容を追った。
そしてだんだん顔が青ざめ、手が小刻みに震え出した。
(何か気がついたな)
アシュリー逹三人は頷きあった。
(何に気が付いたんだ。
あんなに考えたのに)
マークは驚いていた。
サラは
「やっぱりわからなかったよ。
あたしバカだもん」
「お前何を隠している。」
思わず身を乗り出したマークを制し、アシュリーは優しくいった。
「何か気がついたら、教えてくれ。
何でもいい。
そうしないとミュラ様が銀山送りになってしまうかもしれない。
お前も銀山がどんなところかわかるだろう?
」
サラは怯えていた。
「間違ってるかもしれない。」
「いいんだ。
それはこちらで判断する」
サラは少し考えて小さな声でいった。
「これ恋文じゃなくて、謀反の手紙だと思う。」
「説明してくれ」
「まずジェンナ様とは王族対する称号だよね。」
「そうだ」
だからトルテアの王女であるミュラが
疑われたのだ。
「最初はマークもいったとおり
『4月10日』の詩だ。
だから4月10日。
『踊ろうくるくると
踊ろう手をとって
みんなでベルオリの丘で』
そういう歌があるんだよ。
女の子ならわりと、よく知っているよ。
だからベルオリの丘」
「ベルオリとはどこだ?」
アシュリーが尋ねる。
「今のユギス辺りだと思います。」
ブラントが胸を張って答える。
ユギスとは、都の東側に位置する町である。
「金色の鷹とは教典の『創世記』に出てくるサウマン王が兵を挙げたとき、天空を舞ったといわれる鳥だ。
戦いの合図であり、勝利を確信したんだよ。
川はわかんない。
でも
そこで待てという意味だと思う。
ムルドの都はカイロスのことだ。」
「カイロスのことは俺も知っている。
異民族に襲われて火の海になった都だ。」
「カイロニアの民は自分たちのことをムルドの民とよんだんだよ。
ムルド教だからね。」
「そうすると川とはティオカ川でしょうか?」ブラントはいった。
「あんなところに、兵を待機されたらまずいぞ。」
都の北側は、北方からの避難民であふれかえっている。食料を求めて来た者逹だ。
都の危機になにが起こるかわからない。
西側はジュリアンの領地が近い。
ティオカ川は都の南側にある。
つまり、東と南を抑えられると、まずいというわけだ。
「黒曜鳥とはこれもまた『創世記』に出てくる、王を食べた鳥。
不吉な鳥だ。
恋文には似合わないよ。
シンラは勝利の天使。
葡萄のツルの冠は、サウマン王が即位した時、使った冠だよ。
ゲーシアはわかんない。」
「ゲーシアは、今のロンバルディアですよ。」
クララが口を挟む。
「昔はゲーシアといったんです。」
「白いバラは、ミュラ様のことだと思う。
ミュラ様とロンバルディアをくださいということかなぁ」
つまり、要約するとこうなる。
『私のジェンナ様
4月10日、ユギスの丘で戦いの合図がなる。
そして勝利を確信する。
あなたは、川のほとりで待機してください。
都は火の海となり、王の死体を鳥がついばむ。
そして私達は抱きあう。
朝日が昇り、あなたが即位した時、私達は誓いを交わす。
ロンバルディアとミュラ様を所望します。』
となる。
アシュリーはうーむと唸り、しばらく沈黙した。
「わかった。
ありがとう」
「マーク、本部に戻るぞ。
緊急招集だ。
俺は、その足で、陛下に面会する。
「アシュリー様、本当かどうか、わからないよ。」
アシュリーはそれを無視し
「ブラント、ミュラ様の警備を頼む。すぐに応援をよこす。
マーク、いくぞ。」
二人は
夜の闇に消えていった。




