学生運動
スタンリー・ダノアは親衛隊本部の牢のなかで物思いに耽っていた。
彼はダノア伯爵の長男だ。
(逮捕されて何日たつかな?
もう半月は過ぎたというのに、まだ釈放されないのは、なぜだ?)
ことの起こりは大学での反国王集会だ。
大学は今まで治外法権だったのだ。
自由が保証された場所のはずだった。
ところが集会の最中に、親衛隊に踏み込まれた。
そして大勢の者が逮捕されたのだ。
多くはわりとすぐ釈放されたらしい。
だが彼はまだ牢のなかである。
(由々しき事態だ)
彼は憤りをかんじた。
だが彼の心を同じくらい占めているのは、サラのことだった。
婚約者のジョアンではなく。
(かばってやれなかった。
何故、母上はサラを虐げたのか?
サラが何をしたというのか?)
大義の前では、淡い想いなどほとんど意味を持たない。
わかりきったことだった。
だが抑えても、抑えても、サラへの想いが湧いてくる。
それだけ尋問は厳しかった。
何故親衛隊が踏み込んだのか?
それは学生が目に余るようになったからだ。
自治をいいことに、好き放題し始めた。
つまり大学はジュリアン派の温床だった。
表向きは戦争反対だが、内実はジュリアン擁立だったのだ。
学生の多くは裕福な家庭の子弟で、奴隷や使用人を使いのうのうと暮らしていた。
餓えたことがないのだ。
今、インゲルは、未曾有の食糧難であり、国王は苦慮していた。
ジュリアンは戦争反対だった。
だが、インゲルの国民はこのままでは、飢えて死ぬだけだったのだ。
飢えて死ぬか、戦争で死ぬか、国王は後者を選んだに過ぎない。
(戦争はない方がいい。
しかしどうにもならないこともある。)
アシュリーはそっと呟く。
スタンリーは学生運動の指導者であり、彼の長期の勾留は学生逹に衝撃を与えるだろう。
その上彼から何か情報を得られれば、有益だろう。
学者や学長のキース・ゴルゴンから猛烈な抗議がきていたが、アシュリーは黙殺していた。
彼の父はダノア伯爵であり、ジュリアン派の中心にいる。
聞きたいことは山ほどある。
彼は使い道がいくらでもあるのだ。




