王太妃
アシュリーは気が重かった。
王太妃から呼び出しが来たからだ。
彼は王太妃が苦手だった。
というか、女性全般が苦手だった。
婚約者に裏切られて以来、ろくなことがなかった。
一応彼もオスである。
トルテアから、連れ帰った奴隷もいたし、彼の歓心をかうために娘を差し出す輩もいたが、でもそれだけだった。
心のつながりと呼べるものはなかった。
彼の顔を見て、怯えるか拒否するかどちらかだったから。
王太妃は高貴な生まれである。
父親は宰相も務めたシルバニア公爵、母親は王女だった。
彼女は一人娘であり、グランディア、タウナン、プルカウアにまたがる領地を持ち、特にグランディアの兵は勇猛果敢と言われていた。
これが競馬のようなブラッドスポーツならば貴重な存在だが、ことは人間界のことである。
そうはうまく運ばない。
彼女は夫に厚遇されたことはなかった。
彼には愛する人がいたし、子供もいた。
ジュリアンである。
彼女は残念ながら子供は授からなかった。
そのため、先代国王が崩御して後継者争いになった時、夫の弟カイゼンを支持した。
宰相ゴルゴン公爵もまた支持したのだ。
何故ならカイゼンの妻は公爵の妹だったから。
国王は二人に頭が上がらなかった。
宮に着くと、私的な居間に通された。
豪華な造りであるが落ち着いた部屋だった。
ところどころ、のバラがあしらわれている。
野バラはシルバニア家の紋章だ。
「先日はありがとうございました」
彼は礼を述べた。
座るよう促され、豪華なソファに腰掛けた。
彼女は侍女にお茶を言い付け、彼の顔を背けることなく見た。
「それでどうなの?」
「鋭意、調査中です」
他に言い様がない。
一向に進展していないのだから。
「困るのよね。
あんなことされたら。」
「彼女は無実だと思います。」
「そんなことどうだっていいのよ。
ゴルゴン公爵を利するようなこと困ると言っているのよ。」
それは王太妃の都合でしかない。彼の主はあくまでも国王だ。
「とにかくなんとかしてちょうだい。」
そんなこといわれなくたって、わかっている。だが、手詰まりなのだ。
「ジュリアン派は?」
「手は打ってあります。
ご心配なく」
アシュリーは多くを語らない。
短い会見は終わった。
王太妃がイライラしているのは、国王がトルテアを手に入れてから、少しずつ力を付けているからだ。三人の関係が微妙にずれて来ている。
ミョラは火種だった。
彼女は男子を生んだ。
国王に男児はその子だけだった。
ミュラを預かったのも、自分の影響力を維持するためだろう。
(食えない女だ)
そう呟いて宮をあとにした。




