世界で一番好き
「お兄ちゃんてさあどんな女性芸能人が好みだっけ」
スタートラインに戻った朝の日優希が聞いてきた。
「なんだよいきなり」
「だってさあ、女として好かれるにはそういう人たちに近付いたほうがいいのかなって」
「言っとくけど女性芸能人を女として見ようと俺は思わないぞ」
「はあ? 好みのアイドルとかいないの?」
「芸能人なんて俺たちとは無縁の天上人だろ。好きになった所で振り向いてくれる訳じゃないからな」
「そういう考えなんだ」
「ああ」
「じゃクラスの中に一人くらい好みの女子いないの?」
「あ、俺女子苦手なんだ。嫌われるのが怖いから上手く話せなくてさ」
「……私とは話してるよ」
「だってお前は俺にとっては『女』じゃないし」
「そっかー。『女』じゃないか。なんかむかつくなあ」
「だってしょうがないだろ。散々言ってるけど妹を女として見てたら普通じゃないって」
優希は一つため息をつく。
「やっぱりショックなんだよね。わかってた事の筈なのに好きな男の人に女として見られないって」
「だからこの話は平行線だろうが。俺は妹として好きなんだから。女として見てたらおかしいって」
「妹としてかあ……でも好きって事は嫌いじゃないんだよね? あんなに怒ってたのに」
「嫌いな訳ないだろ。たった一人の妹なんだから」
「あー、でもさあ女として見てほしいんだよねえ。叶わない願いなのかなあ」
「優希よ、俺が世界で一番好きな人間はお前なんだからそれで我慢しろよ」
「世界で一番好き? ホント?」
「ああ本当だ」
「ならいっか。でも諦めないからねお兄ちゃん」
「……好きにしろよ」
士郎は呆れるしかなかった。