スタートライン
「お兄ちゃん、おはよう」
次の日の朝優希が挨拶してきた。
「お、おはよう」
士郎は後ろめたかった。一緒の未来の約束を反古にしたからだ。
ニ連休だからまだ学校が休みなのも士郎にとっては都合が悪かった。
「お兄ちゃんね、私反省したよ」
優希の一言に士郎がきょとんとする。
「今まで私の気持ち優先でお兄ちゃんの気持ち考えてなかったね」
「……」
「でもさ諦めてないからね。まだ未来は誰にもわからないよ」
その言葉に士郎は逆にほっとした。この子落ち込んでないじゃないか。
「そうか。お前がそう思うならそれでいいよ」
そう答えるしかなかった。何を告げてもいじめになる気がしたからだ。
「で、お兄ちゃん。スタートラインに戻っちゃった訳だけど私の気持ちは変わらない事はおぼえておいてね」
士郎は前だったら震えが来る位怖かった妹の台詞が怖くなくなった事に気付いた。妹の好き好き光線にどうやら毒されてきたようだ。
「お前が諦めてないならそれはそれでいいんだって。後は俺の気持ち次第だから」
そう自分が折れて優希の気持ちを受け入れればハッピーエンドなのは目に見えているのだ。でもまだ抵抗があるのは事実だからしょうがない。
この対立がいつか終わる日が来るのか、まだ当事者の二人自身にも読めなかった。
「まだ私たち十代だもん。いつか二人一緒の未来が見られる日が来るよ」
優希が楽観的だから士郎は救われる気がした。この世界で一番愛してる異性は確かに優希なのもやはり事実なのだから。
(いつか俺がお前を女として好きになれたなら、結婚してもいいかもな)
そう思うが口にはしない。調子に乗られたなら困るからだ。
「ほらお兄ちゃん。朝ごはん食べよ」
「あ、ああ」
この日はそうやって始まった。