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輪廻の圏士  作者: くろよ よのすけ
26/46

26.夢と、現実と②

 月を見上げる女が一人、窓際で夜風にあたっている。


「まだ、帰ってきませんねー……」


 考えるのはトーレスさんとミカちゃんの事、無事だと信じたいけれど、彼の向かったという工場地帯は完全に倒壊、目的地だったという地下は完全に潰れてしまっている。

 心配するなという方が無理と言うもの。


(やはり私も向かうべきだったんでしょうか……、ですが———)


 だが、それはムリだ。私にはアイレンをどうにかするという使命があった。そしてそれは今も変わらない。トーカさんがいなくなって、アイレンに対抗できる戦力は大きすぎるほどに無くなった。もしもあの時、トーカさんじゃなくて私が雷を止められていたら……。

 考えてももう終わってしまったこと、意味のない行為だということは分かってます。でも、どうしても最善のもしもを考えてしまう。

 でも、そんなことは絶対に起こりえないから、人は自分の目の届くことにしか干渉できないから、だから結局は待つしかない。待って待って待ち続けて、たとえボロボロでも帰って来てくれればいい。単純な私はそれだけで喜んでしまうだろうから。


「だから……無事でいて下さいね……」

「おーここにいたかね、ナチュラレッサ一級どのー」

「え、うぇ? ……なんだ、コナさんじゃないですか。もぅ、驚かさないでくださいよぉ」

「なんだとはひどいなぁ。あんまり思いつめた顔してるから心配してきてあげたってのにさ」


 話しかけてきたのは先輩であるコナさんだった。一体どうしたのだろう?


「えーと、どうかされました……? アイレンに動きでも!?」

「あぁいや違う違う。っていうかあの人ホントに動く気ないみたいだよ。動けるだけの瞳士が見張ってるけど、眉一つ動かさずに瞑想してるってさ。マジで何考えてるかわっかんないね」

「きっと、仕掛けてくるまで何もしないでしょうね。私たちがアイレンを無視するわけにはいきませんし、ここ以外の街は怖がって手を出してこないでしょう。市民は受け入れてやるからそっちで何とかしろってとこじゃないですか?」

「あー言いそう、年取った政治家たちがすっごい言いそう。私たちの事信頼してない癖に責任全部押し付けてくるかんねーアイツら」

「ええ、困ったものです。……まぁ生まれてこの方、『穢れ』を見たことのない人の方が多くなってきてますから、私たちみたいな組織自体、あるのがおかしくなってきてるのかもしれませんけどね」


 自嘲気味に笑うと、コナさんはため息をつき、話題を変えてきた。


「そうそう、なんで来たのか忘れるところだった。ずっとここにいたから、アリスご飯食べてないでしょ? それに、ほら……明日からはもう、皆も帰ってくるか分かんないからさ。どうかな? 面子はいつもの4人だけど……」

 

 そうか、コナさんとユウキさんは後方支援組、病棟で待機でしたっけ。


「そうでしたね、明日になったら……会えなくなるのかもしれませんね。もちろん行きましょう、御飯っ! でもお店全部締まってますよ?」

「ははっ、そう言うと思った! だから安心しなさい、パパっと4人の家から食材が腐る前に持ってきた!」

「おおっ、流石コナさん!」

「はっはっは、褒めたまえ称えたまえ。えっと、……じゃあ行こうか」

「……はい」


 きっと、何て声を掛ければいいのか分からない。だって私も、何て言って戦いに行けばいいのか分からないんですもの。でも、優しさは伝わっている。ただ心配して、声をかけてくれた。それだけで私の心には熱が灯る。それがあれば戦える。

 これがきっと最後だ、見つめ続けた背中を追い越して……、アイレンを倒します。


「それでよぉ、朝の集まりの後クッソ性格悪い奴が現れてよォー、滅茶苦茶腹立ったわ! この怒り、アイレンにぶつけるしかねえ……!」

「また言ってる。フォムド君ったらここに来てからずっとその話よ?」

「……それで戦えるなら、いいさ」

「お、いうねロブスタ。流石一級ともなると感覚が変わってくるのかー。アリス的にはどうなの?」

「私ですか? そうですねぇ、良いと思いますよ? どっちにしろアイレンを明日倒すのは間違いないですから」

「言うねー」


 ほとんど使われてない物置の片隅で行われているのは鍋だ。しかも、この物置は照明が暗く、適当に食材を持ってきたから半ば闇鍋と化している。

 ……変なもの入ってませんよね? ね?


「しっかし、朝になったら内輪揉めなんてアホらしいよなぁ。いやもう内輪じゃないんだけどさ」


 鍋の締めも終わって各々がくつろいでいると、フォムドさんが窓からのぞく月を見上げて言う。


「アイレンはもう私たちの敵です。加減なく、私たちの手でボコボコにしてやるのが礼儀ってもんですよ。調子乗っててすいませんでしたーって土下座させてやりますっ!」

「おー、アリスったらこりゃまた随分とやる気に満ち溢れてんね。ま、この中でちゃんと戦えるのはアリスとロブスタくらいか」

「おいおい、俺を忘れんじゃねえぜ、俺だって———」

「はいはい、ロブスタ君に面倒掛けないようにね。実戦経験ある人なんてほとんどいないんだから」

「なっ、ユウキさんってば俺の事信用してないんすかあ?! 大丈夫っすよ、相手がアイレンでも何とかしますって!」

「……ほどほどにな。……アイツは強い、とかそういう次元じゃない。……気がする」

「気がするってオマエな、そんなんで勝つつもりあんのかよ」

「……俺たちの目的は消耗戦だからな、やるべきことをやる。それだけだ」


 ちびちびとグラスに残った少量のお酒を舐めるようにして飲むロブスタさんの表情は硬い。いいえ、ここにいる皆がいつもとは違って言い知れぬ不安を覚えている。

 私たちは実戦経験の少ない世代だ、どうしても殺し合いと言うものにはなれていない。


「でも、ロブスタさんの言う通りです。やるべきことをやる、私たちにはそれしかできませんし、トーカさんの残した言葉もそれです。振り向けば皆がいるんですから心配いりませんよ、危なくなったら即退散です」

「ま、そうだな。じゃ、誰が一番先に逃げ帰るか賭けるか!」

「またそんな不謹慎な……。ロブスタ君も何か言ってあげてよ、変に意地張って死なれでもしたら困るわ」

 ユウキさんが頭に手をやって呆れ、ロブスタさんに助けを求める。

「……いいじゃないか、たまには」

「えぇ……」

「珍し」

「おお、話が分かるなロブスタ! さすがは俺の相棒だぜ。で、誰に賭ける?」

「……フォムド」

「フォムド」

「フォムド君」

「フォムドさんですかね」

「……なっ、お前らなぁ!?」


 自分が指名されるとはこれっぽっちも思っていなかったのか、顔を耳まで赤くして憤慨するフォムドさんは鼻を鳴らしてふてくされてしまった。


「まぁまぁ、冗談だからさー。元気だしなってー」

「そうよ、誰もフォムド君にそこまで頑張ってほしいわけじゃないだから」

「……ユウキ、それは逆効果だ」

「え? あっ、違うのよ? そういう意味じゃなくって……」

「……っだあああああ! やめだやめ、俺に賭け事は向いてねえ! クッソぉ、もうあったま来たぜ。もういい、どうせ明日死ぬかもしれねえってんならここの酒飲みきってから死んでやる! 付き合えロブスタ、賭けの代わりだ!」

「……ふっ、仕方ないな。コナ……一緒に、どうだ?」

「うぇー? 私もー? ……もちろんいいですともよ! よっしゃ持ってきた分全部出せー!!」


 誰の家から持ってきたのか、机の脇に詰まれていた大量のビールを取り出すと宴会が始まってしまう。


「ちょっとフォムド君、謝るから落ち着いてってば……」


 勢いの発端を生み出してしまったユウキさんというと、止めるに止められずアタフタするばかり、結局は入り込めずに巻き込まれないよう距離を取るのが精いっぱい。

 私もお酒には強くないので遠慮しておきましょうか。ユウキさんの所へ向かって話をしに行く。


「まあいいじゃないですか、あれでフォムドさんの緊張が解けるならいいことです」

「……そういうあなたは、落ち着いてるのね。ロブスタ君も落ち着いているように見えるけど、怖くないの? 私は……、怖いわ」


 腕を掴み、言いえぬ不安から顔を歪めるユウキさんは、何もしなければ折れてしまうように見えた。


「何言ってるんですかっユウキさん、怖いに決まってるじゃないですか!」

「え、でも……。私、あなたがそんな風にしてるところを見たこと……」

「いえいえ、もう毎日の訓練自体が不安だらけですよ。最近できてませんけどねっ」


 いやはやお恥ずかしいと、照れた笑顔でユウキさんを見るとどこか驚いたような面持ちをしていた。


「……あれ、そんなにおかしなことでしょうか? 『具象契約』出来るって言ってもやっぱり私より強い相手なんていくらでもいますからね。そんなのと当たったらすぐ死んじゃいますし、それを考えるとやっぱり怖いです」

「そっか……、やっぱり強いのね、アリスちゃんは」

 ユウキさんは一人、納得したように息をつく。そのことが少し不可解でつい聞き返してしまった。

「えー、と……それはどういった事で、でしょうか?」

「私ね、アリスちゃんに嫉妬してたの……。私よりも若くて私よりもずっと強くて覚悟もあって、……結局私は一級になるための代償すら差し出せない弱虫だったから。それが出来るアリスちゃんが羨ましかった」

「………」

「実家がそこそこの名家でね、もう財産も何も残ってないのに、プライドだけ大きくなっちゃった家族から逃げるように、適性が合ったのを理由にして圏士になった。だからって家族から離れられたわけでもなくって、結果を残せなければ帰ってこい。だなんてね、そう言われてからずーっとなにも為せないままに今日まで来ちゃった」

「私は、……ユウキさんのことは詳しく分かるわけじゃありません。トーカさんもそうでしたけど、名家の人たちが何を考えて生きてるのかも、分からない」


 だけど、だからって対立する必要なんてどこにもない。そもそも此方も彼方も同じ人間、だというならばそう難しいことじゃない。


「別にいいじゃないんですかね、縁切っちゃって。私も家出して圏士になりましたし」

「え?」

「いえですから、家出してからというものの両親とは連絡とってないんですよ。圏士になるなんてダメだー! っていうものですからこっちも意固地になっちゃいまして、荷物まとめて出てきちゃいました」

「———」


 そんなに衝撃だったのか、口を半開きにして聞くユウキさんは呆れてるのか、驚いてるのか。そんな調子で十数秒が経った時。


「ふふ……、そっか、ハハハっ……なんだ、そんなことでよかったんだ。ふふっ……」

「そ、そんなに驚くこと、でしょうかね……?」

「えぇ、ええ。その通り、一度も考えたことなんてなかったわ、そんなこと。そっか、家出っていう手があったのかぁ……はは———」


 瞳に涙を浮かべながら笑うユウキさんは、憑き物が取れたかのように背伸びをする。


「あーおかしい。家出だなんて、そんな発想がなかった。家にはいつか帰るものだってずっと思っていたし、私には結果を残すことはできないって思い込んでた。はぁ……、我ながら視野が狭いなぁ……」

「そうですよ! これからだって頑張れば努力の花も開きますよ、それにユウキさんが居なくなったら誰があの三人を制御するんですか!」


 緊張感の欠片もなく酒を飲み続ける三人組へ目を向けると、一人程脱落しようとしていた。


「ぐ……、まだ、だ……俺はまだいけるしッ!」

「いや、もう無理でしょ。ペース早すぎ、諦めてとっとと寝なさいって」

「……そうだ、明日のこともある。もう寝るべきだ……。お開き、だな」

「ちょっと待てええぃ! それなら最後に、ユウキさんもアリスもこっち来いって!」

「?」

「なんです?」


 机の前に皆を集めて、これが最期だからとグラスに余った酒を注ぐ。


「ここにっ、宣誓するぅっ! 俺たちは誰も死なずにアイレンを倒す!!」

「おお、この中でさえ下から数えた方が早い実力者が言うねー」

「んだとぉ!?」

「どうどう、飲み物こぼれちゃうから」

「……だが」

「そうね、きっとその方が良い。そう思って戦った方がきっと頑張れる」

「よぉし、んじゃアリス……。最後の挨拶して、くれ……」

「ちょっと、私ですか?! ここはそのままフォムドさんがするべき流れでしょう!」


 そのフォムドさんときたら気を抜けば寝そうな状態でフラフラと立っている。あぁもうダメだこの人。


「こうなったら仕方ないわね。ほら、フォムド君が寝ちゃう前にしないと、一致団結できないわよ」


 さっきよりも幾分元気になったユウキさんに言われてしまっては致し方ない。


「で、では不束者……違う違う、僭越ながら私が締めの挨拶を任され……? 務めさせて、いただきますとも」

「おーいいぞいいぞー」

「……ふ」


 なれないことはするものじゃない、なんだか気恥ずかしいですが言うべきことは決まっています。


「アイレンは強敵です。ですが、勝たなくては。私たちだけの為じゃない、圏士の皆。護るべき人々の為に、必ずみんなで勝って、……もう一度一緒にご飯食べましょうっ!」

「おおっ!」

「怪我したら私とユウキに任しといてね」

「ちょっと、私の言うことなくなるじゃない」

「……そうだな、楽しみにしよう」

「ではっ! さっさと片付けして怒られる前に解散しましょう! はい、以上!」


 薄暗闇に月明かりが差し込む物置、もしもその前を通りかかる者がいれば、聞こえてくるのは小さな拍手と、優しい笑い声だったろう。

 

 片付けも終わり、一人で大丈夫と言い張るフォムドさんを見送った後、本部で待機するため廊下を歩く。


(うーむ、やっぱり挨拶とかはダメですね。あれだけなのに肩が凝ります……)

「……ナチュラレッサ、……少し、いいか?」

「おっとロブスタさん、どうしました? 明日の作戦のこととか?」


 声をかけてきたのはロブスタさん。作戦と言っても私たちは別班、何かあったでしょうか。


「いや……違う。聞きたい、事があった」

「はい、なんでしょうか?」

「トーレスの、ことだ」

「……まだ、戻ってないみたいですね。心配です」

「ああ……その、通りだ。それで、なんだがナチュラレッサ。君は、トーレスのことをどう思う?」

「え? どう思う、ですか?」


 いまだ戻らず、潰れた工場地帯を探しに行く人員を確保できないことから、生死さえ判別できない彼と彼女。ミカちゃんを連れて行ったことをロブスタさんは知らないはずなので数に入れられてないのは仕方ないですが、トーレスさんのことを心配してくれている。やっぱり優しい人ですね、ロブスタさんは。


「トーレスさんはきっと無事です。私との訓練を一度も音を上げずについてきましたし、一人で向かったわけじゃありません。……強い、人ですから。きっと、きっと大丈夫です……っ!」


 そんなつもりじゃなかったのに、瞳に涙が滲む。無事だ、大丈夫だ、生きていると自分に言い聞かせて言い聞かせて。でも、口に出すのが怖い。無事を祈ると言いながら、その実何もせずにただ待つだけの、死を認めるような立ち振る舞い。探しに行くことが怖い、見つからなかったらどうしよう、死体を見つけてしまったらどうしよう。


「トー、レス……さんっは、諦めたりしません。約束を、守る人ですから……っ! 信じるしかありません———」


  □ □ □


「……そう、か。やはり、そうだろうな……」


 もしも、今話している男が生死不明になった時も、彼女は心配し胸を痛めるだろう。そんな優しい子だったからこそ、一挙手一投足に胸を射抜かれた。


「はい……っ、絶対に帰ってきます。いつも通りに申し訳なさそうに笑いながら、ゴメンって言って———」


 けれど、それだけで涙は流さない。生きている可能性があるなら、彼女は信じる強さを持っている。自分が死んでも、涙を流すのは死を悼むその時だけだ。そんな風に思われている友人が、ひどく羨ましい。

 優しい、奴だからな。……俺よりも、ずっと。


「……あぁ、アイツは、そういう奴だ。戦いだけじゃない、優しい強さを持っている。無事に違いない。……だから、泣かないでくれナチュラレッサ、俺は……君にそんな顔をさせたくて、来たんじゃない。……笑え、トーレスのことは……俺も、力になろう」

「……はいっ、ありがとう、ございます。ロブスタさん———」

「あぁ、それでいい。……それで、いいんだ」


 頭を下げる彼女には見えない彼の姿。

 友人との勝手な勝負に、完全な敗北を認めた男の表情は彼自身が想像していたよりもずっと、穏やかなものだった。


「ではな、ナチュラレッサ。お互い、生きてまた会おう……」


 なら、俺のすべきことは一つだけ。生きていよう、そして、もう一度彼らが出会う時を見よう。その時こそ、俺は完全に吹っ切れるだろうから。


「ええ、必ず———っ」


 別れる最後に見た彼女の表情は、強く、凛々しく、赤い髪が燃える情熱となって心の炎を表しているようで。


(……難しいな、失恋というのも———)


 その姿は今まで見つめてきた中で一番、美しいと思った。


  □ □ □


 月は沈み、日が昇る。

 境界も曖昧で、誰かが合図を出したわけではない。むしろそれは彼らにとって不利に働く。しかし、誰もが一人として見誤らずに行動を起こす。


 荒野に座す一人の男。

 街を襲い、彼らにとっての象徴を殺した男はあれからここで、誰かを待ち続けている。だが、そんなものは関係ない。最初にこちらの都合を逸脱したのは男だ。ならば、それに従ってやろう。躊躇なく、猶予もなく、ただ殺すためだけに。

 夜明けとともに、一見無防備な彼の元に放たれたのは、極熱の不死鳥。紅蓮の炎によって生み出された火の鳥。具象された神霊の一端。ソレは迷わず男に向かって直撃、その身に閉じ込められる限界まで内包していた再誕の業火を解放する。

 男を中心に据えた巨大な火柱が天を衝く。

 この火炎の牢獄が解かれることなどない、火の鳥自身の解放した業火を以って対象を焼き尽した後、力を出し切った火の鳥は再度復活を遂げる。終わりを迎えた瞬間に生誕する死と再生を体現する性質は、永劫止まぬその業火を生み出し続ける。


「……どうだ?」

「しっかしロブスタ、お前こんなことできたのかよ。ちょっと見直したぜ」

「……違う、……アイレンだ」

「わーってるよ、ただまあ姿は見えねえ。あの中にいるってのか?」

「いる。……気を抜くな、いつでも逃げられるようにだけはしておけ……、くそ———っ」

「あん? ———ッ!?」


 永劫続くはずだった火柱は、至極あっさりと圧し折られる。一刃の雷光が奔った瞬間にはもはや跡形もなく、死を迎えたことによって再生しようとする火の鳥は、しかし続く二撃で消し飛ばされた。

 行き場のない火焔は大地を舐め、空へと燃え上がり消えた。そして、標的であった男。


「だろうとは、思ったが」

「ホント、有り得ん……」


 業火の中心、当然熱の核が存在していたはずの場所へ座していた以上、被害は免れない。


「思ったよりも早く来たな、リッカのことを下に見すぎていたか。……中々やるじゃないか」


 立ち上がったさまを見て分かったこと、間違いなく無傷だ、煤を払うことすらしない。それも、火柱を打ち破ったのは『簡易契約』、地力の差を思い知らされる。その場にいた圏士全てが見た光景は、予想していたとはいえ信じがたいものだ。

 だが、その場にいた誰もが諦めはしない。自暴自棄にすらなりはしない。一つ目がダメだったなら、二つ目を打ち込むだけ。


「長く、なるな」

「ああ、まあ逃げる時は任せろ。担いで本部まで一直線だ」

「ああ、助かる」

「……なあロブスタよ」

「どうした、何か動きがあったか?」


 代償により、半ば光を失った瞳が相棒へ向けられる。


「んにゃ、ただまあ……なんだ。その内いい女が見つかるよ……多分」

「……ふっ、そうか。その未来に期待、するとしよう」


 コイツに隠し事はできないな。今は、その言葉を信じよう。

 まずは目の前の問題を片付けないといけない。

 アイレンの居るはずの場所から仲間の契約による神威が息を突かせる間もなく放たれ続けているのに、いつまでたっても止みはしない。一歩も動かず対処されている。

 ……長い一日が、始まるな———。


『本編について』

・ロブスタくん失恋

 割かし本気でアリスに好意を持っていたロブスタ君ですが、戦いを前に身を引くことを決意しました。彼が告白するヴィジョンが思い浮かばなかったことが一番の要因です。


『定期連絡』

・高評価、いいねなどいただければ、皆様には特に見返りはありませんが自分が喜びます。

・更新日の後にそのことを伝える呟きをしているので、思い出す用にツイッターフォローいただけると幸いです。

・細かい設定や反省点等々は完結後にでもおまけでまとめようとでも思っているので、質問をいただければまとめて回答します。よければどうぞお願いします。

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