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輪廻の圏士  作者: くろよ よのすけ
24/46

24.地の宵闇②

 市民を誘導し、幼い者、年老いたものは列車へ送り込む。歩ける者、若い者は市民会館や討滅局本部、病棟など、可能な限り一か所へ集めた。パニック状態となった人々に何とか言うことを聞かせながら、街の外へ中へと避難誘導を続けていたら気が付いた時には日は落ち、また昇ろうとしている。

 圏士と瞳士だけが残った街で、彼らは改めて現実を見つめることになる。


「トーカさん……っ」


 純白の光に阻まれた雷鳴は時最後の列車が走り去っていくと同時に収まっていく。使用者の限界か、もう必要ないと判断したか。

 当然、後者だろう。たった一人を殺すために、街全体を人質に取って行われた神の御業。

 彼女の死は、圏士であれば全ての者が気づいているし、怒りを覚えている。


「でも、もし行ってたら怒られちゃいますね……死ぬ寸前に人を護れだなんて、カッコよすぎるじゃないですか。そんなの……逆らえない」


 自分でも何か出来るのではないか、そう思って契約を行おうとした時、『代行者』から届いた知らせはたった一言だった。


『人を護り、使命を果たせ』


 それが最期の言葉だなんて卑怯だ。言い返せないから従うしかない。


「もう、仕掛けてはこないんですね……。手を抜かれてると見るべきでしょうか、それとも……」


 誰かを待っているのか。

 それが誰かは、私には分かってはいるけど、文句を言いに行く権利は皆にある。今は準備を整える時だ。人は護った、しかしその後はどうすればいいのか。アイレンを倒しに向かおうにも、街を滅ぼす攻撃を一晩中続けるような怪物が相手だ。そして、その怪物を御することができた筈の女性はあまりにも早く逝ってしまった。

 駅前広場で各々が何をすればいいのか手をこまねいている。彼らの心に神格に対する恐怖が刻まれてしまった以上、どうしても二の足を踏んでしまう。

 少し見渡すだけで、いまだ立ち上がれないものがすぐに見つかるほど。


 私もどうするべきか、いやそんなことは初めから決めていた。けれど、今向かったとしてもちゃんと戦えるかどうか自分を信じられない。

 覚悟は一応していたけど、想像以上に動揺している。指先が微かに震えているのが自分でも分かる。誰かに手を取ってほしい、でもその誰かはここには居ない。

 他の人たちと同じように立ちすくんでいると、聞き覚えのある彼の声が聞こえてきた。


「アリスさん、ご無事でしたかっ」

「あぁ、リッカさんっ、無事でよかった! トーカさんは、やっぱり……」

「……えぇ、立派な最後でした。これよりは僕が一時的に権限を引き継ぎます。……皆さんこちらへ! 僕の話を聞いてください!」


駅前広場に集められるだけの人を集め、彼は語り掛ける。


「皆さんはもう分かっていると思います。僕の姉であり、短い間だったものの僕達の長であった彼女、トーカ・ルアックは既に亡くなりました。死体も確認し、我が家に連れ帰っています」

「——————」


 誰もが沈黙に支配される。

 分かっていたことだったが、改めて突き付けられた現実は重く、冷たい。


「まだここに集まっていない圏士の皆さんもいますが、実際のところ街に居るのは僕達圏士と残ってくれた瞳士の方々だけです。たった一晩での市民の皆さんの避難を成し遂げられたのも、皆さんのおかげです。本当にありがとうございました」


 言葉と共に深く、深く頭を下げる。


「俺たちは……従っただけだ……、あの雷を前にして……なにもできなかった」


 誰だったかが吐き捨てているようにも取れる声で、ポツリとつぶやいた。


「私も、街の人と一緒に逃げていたようなものよ……。何かあれば一緒に外へ出てしまおうって……」

「俺も———」

「自分も————」


 誰もが、自分を責めている。何もできなかった、しようともしなかった。

 負の感情は伝播し、集まっている圏士たちは皆が皆俯いてしまった。すでに雷雲は消え去っているというのに空を仰ぎ見ることすら恐ろしくてできない。


「皆さん、まだです。まだ終わっていません」


 だが、前を見る者もいる。

 彼らは俯かない、空を恐れない。なぜならまだやるべきことがある。彼女の最後の命令は終わっていない。


「人々を護る。それが僕たちの使命です。確かに今日、僕達は多くの命を守りました。少しの間は受け入れの手続きでごたつくでしょうが、彼の攻撃による市民の死者は一人としていない」


 それは一つの奇跡だ。この世界で最も栄えている街、『灯日(アカリビ)』の住民全員がこの一晩で誰も死んでいない。殺人、事故、病気、様々な死因がある中で誰一人、死にはしなかった。


「ですが、まだです。まだ彼が残っている。アイレン・ランテカルア特級が生きている限り、終わりはない。彼の気まぐれ一つでここだけでなく、世界中で同じようなことが起きる。……そしてもう、彼と双璧を為した姉はいない。僕達で止めるしかないんですっ!」

「あんな奴、どうしろって———」

「だが———、規模が違う。生物としての作り自体が……」


 聴衆はかすかにざわめき、口々に不安を声に出しはじめる。その中には戦闘経験の少ない者だけでなく、かつて死線をくぐった者もいるだろう。

 彼らでさえ、いや彼らだからこそわかる。決して届かない領域、人生全てを闘争に捧げ、神に愛されたとしてようやく届きうる至高の世界。


「はい、だからこそここで決めてほしい。この街を出るか、残るか」


 つまり、彼と戦うか、逃げるか。

 心折れたものは言わずもがな、折れかけた者は前後定まらずに二の足を踏む。ほとんどがそう言った者達。だが、責められはしない。

 人の届きうる中でもアレは異次元の物だ。同じ生命体だと信じる方が難しい。

街を一人で殺しつくす、幾度の奇跡を起こせば届く領域なのか。誰一人分からない、


「皆さんにも家族がいる、護るべき人がいる。だから、ここで逃げることは決して間違いじゃない。そうでなくても、自らの命を捨てる行為を決して良しとはしない。これは僕の我儘です。姉の言葉を借りて、恐怖に打ちひしがれている人たちを戦いに向かわせようとしている。仇討ちに利用していると言われてもおかしくないことだ」


 誰も彼もが彼を見る。演説を続ける青年の瞳は背中越しに昇る太陽と同じように燃盛る怒りと、その怒りを抑え込む意志が同居させるその瞳を。


「でも誰かがやらなくてはなりません、ここで彼を倒せなければ世界は終わる。圏士最強が世界に反旗を翻したという事実は未来永劫語り継がれる。全ての人たちが僕達を憎むでしょう」


 青年は帯刀していた『原型』を取り出し、刃が覗く程度に鞘を抜く。刃は光を受け、四方へ輝きを拡散させた。


「こんなモノに頼らなければならないほどに生きるのが難しい世界で、彼が居なくなった後に誰が引き受けるというのか。『穢れ』は人の心の淀みから生まれる。本当にそうか分かりません。ですが、そうであるならば彼を倒せても倒せなくても、人の世に未来はない。護るべき存在から排他され続ける」


 これまでの行い、歴史の長さなど関係ない。

 たった一人の強者が牙をむいた。たったそれだけで、目の前にいた者が別のナニカに見えるようになる。そうなれば人は脆い、これまでどれほど信頼し、頼りにしていたとしてもそこにいるのは怪物だ。

 そして、怪物の仲間も皆一様に牙をむく獣に過ぎない。


「そうなれば、誰が皆を『穢れ』から救うというんですか。まだ、姉の命令は終わっていない。いや、姉さんだけじゃない。父や祖父、そのずっと昔から続いていてきた『人を護り、使命を果たす』その誓いが消え去ってしまう。僕は、それが耐えられない……!」

「———」


 皆が、光を見た。

 目の前にいる青年は、特に目立った存在ではなかった。討滅局の局長を輩出する家系でありながら、だ。目を引くのは特級圏士であり先代の体調が悪化してから局長代理を務めあげた姉の栄光。

 青年自身は、輝くばかりの姉の後ろ。常に日影に立っていた。

 その彼が、ここにいる誰よりも強い心を持っている。目の前だけのことではない、世界の危機を回避した後のことを、自分たちのことを考え行動している。

 そのことが、彼らに小さな光を見せる。


「お願いです皆さん、逃げてもいい、立ち向かわなくてもいい。けれど、……けれど圏士であるというのなら、これまで圏士として生きてきた者達の遺志を受け継いでほしい。自分だけじゃない、誰かのことを護って生きてほしい。僕はまだ姉さんの遺志を果たせていない。アイレンを倒し、その後の世界を守る責務がある。……だから、どうかお願いです。僕一人では果たせない、皆さんの力を貸してくださいっ!!」


 再び、自分の足しか見えなくなるほどに大きく頭を下げる。

 誰もが沈黙する中で、最初に声を上げたのは一度も俯くことのなかった者達。その中で、一際赤い毛が朝日を透かして美しく揺れる。


「そこまで言われたら断れません、私もトーカさんには苦労掛けましたからそろそろ恩を返しておかないと」

「……アリスさん」

「おっ、さすがアリスっやる気に満ち溢れてんな、おいロブスタ、俺たちも後れを取るな」

「押すな……、目立つだろう……」

「良いんだよ目立つ方が、カッコいいだろうが! ここで目立てば目立つほど後々武勇伝として語れるんだよォ」

「それは……、そうかもしれんが……」


 そこにいたのは見知った顔が二人、誰もが暗い面持ちをしている中で、一歩踏み出すのには勇気がいる。誰もが出来るわけじゃない。

 けど、誰もが光を見ることはできる。


「俺も……、俺もやるよ。戦えなくても手伝えることはあるはずだっ!」

 名も知らぬ圏士が声を上げた。

「はは、引退にちょうどいいかと思ったが。こういうのもいいな」

 険しい顔をした笑いながらに頭を掻いた。

「私たち、医療学校に行ってたので少しくらいなら役に立てますっ!」

 大人になる前の少女が心を決めた。

 もちろん全員ではない。だが、多くの人が立ち上がったのだ。これで私たちは道を違わず、前を見て歩いていくことができる。


「皆さん……、本当に、ありがとう。本当に……よかった———姉さん……っ」

 そして、先頭を征く青年は、ようやく姉の喪失を受け入れるひった一筋の涙を、流すことができた。

 

「おぉ、すごいもんだな。ったく、手伝うにしても後で伝えればいいとかロブスタが日和るからよぉ。いいとこアリスに持ってかれちまった」

「いえいえ、フォムドさんの能天気さがなければ、あの空気は何ともなりませんでしたとも。いやーすごいなー、憧れちゃいますー」

「ハハハッ、そう思うならその棒読みをやめろや」


 でも、本当に助かった。

 もしもあのまま私一人しか名乗り出なかったらどうしようと内心ヒヤヒヤでした。

 こういうところはフォムドさんの能天気加減が羨ましく思います。


「ロブスタさんもありがとうございます」

「お、俺は何もしてない……、コイツに連れていかれただけで」

「でも、手伝うのは決めてたんですよね。それも、後で伝えに行くなんて逆に難しいですよ。すごいと思います」

「そ、そうか。それなら……良かったかも、しれないな」

「……なににやけてんだよバカ、っていうかトーレスの奴いないのか? 最近はずっと二人で一緒だったとか聞いたけど」

「な……っ」

「あー、ちょっと特別メニューで鍛え上げてまして。今日、発揮されているはずなんですけどね……、まだ戻らなくて」

「? ふーん、まあ元気そうならいいんだけどさぁ。コナもユウキさんも病棟の方でお手伝いでさ、かなり詰め込んだみたいだから対応に追われてるだろうな」

「それでも、対処はかなりの速度で出来た。……局長の根回しが思いのほかに行き届いていたのが大きかったな……」

「ええ……、本人は向いてないとか言ってた机仕事も様になりかけてたんですけどね……、あーあ残念だなー。……はぁ———」


 強がってわざと気の抜けた言葉を使う。でも、本当に残念だった。最後に一目会っておけばよかったな。少し思い出すだけで心が締め付けられてため息が出てしまう。


「いえ、姉さんもアリスさんには大分助けられていたと言っていました。僕からもお礼を言わせてください」

「わっ、……リッカさん。聞いてたんですかぁ? やだもう恥ずかしいじゃないですかー」

「どうもすいません、ですが本当にお礼を言わせてください。……こういうのもなんですが、その……友達の少ない人でしたから……」

「ぷっ……、いえ何でもないですよ? えぇ、そんなことを笑ったりしません。ちょっとトーカさんらしいなーって思っただけですから」

「はは……、でもきっとそういうところに救われてたのかもしれませんね。この後、少し時間を置いたら作戦会議を開きます。アイレンは残った瞳士達が必死に捜索を続けてくれていますから、それまでは休んでいてください」

「……はい、ありがとうございます。リッカさんは?」

「僕は旗振り役としての責任がありますから、時間があるうちにできることをしておかないとっ、それではまたあとで」

「はい、それではっ」


 手を振りながら去っていく姿に少しだけ見とれる。

 なるほど確かに姉弟だ、こちらに笑いかけた時の表情は、落ち着いている時のトーカさんに似ていた。朝日に霞む後ろ姿は、光以外の理由で滲んでいた。


  □ □ □


「うぅむ……」

「お前さぁ、いい加減告白しとかないと流石にまずいぜ? ただでさえトーレスとかいう本命(仮)がいるんだからよぉ」

「……言われなくても、分かっている」

「いや、ぜってえ分かって———」

「おい、一番近い病院はどこだ。薬さえあればいい」

「あん?」


 聞き覚えのない男の声、しかもいきなり失礼ときやがる。

 とはいえ、俺も圏士の端くれ。一般市民に変な言葉遣いはしないさ。


「どちらさんですかっと?」


 振り返ると、長めの黒い髪が映るが、顔が良く見えない。……徹夜で疲れてんのかな、俺。


「病院の場所を聞いたんだ、とっとと教えろ。気にくわねえやつだが死なれるのはもっと気にくわねぇ。……どうした? 耳か脳が腐ってんのか?」

「………ふっ」


 こんの、クソヤロウメェエエーーー!

 ダメだ落ち着けさっきリッカの奴も言ってたばっかりだろうが、市民に暴言を吐いていてはいかんのだ、深く息を吸って吐け。よし、行けるっ、行けるぞ!


「……っ、いえいえ、っていうか、病院だと討滅局の病棟へ行くのが一番いい———」

「ボケか、そんな誰でも知ってる情報なんぞ要らねえんだよ、近いところだっつってんだろうがマヌケ。腐ってんのは頭の方らしいな」

「———っ……、こんのぉ———ッ!?」

「その道の裏手に一件だがある。……もう、住民は避難しているか病棟に召集されているだろうが……」


 ロブスタが割って入ってきたせいで殴りに行く機会を逃した。

 いいよこんな奴、絶対市民なんかじゃねえよ。この先ずっと口悪いんだろうから今のうちに矯正してやろうってんだよォ!!


「そうか、それでいいんだよ。そっちの間抜けも見習うこったな」

「アァアッ?!」


 礼の一つも言えねえのかこのヤロウ、いや待て落ち着け思い出せ。ユウキさんが人は6秒我慢すれば怒りが収まるとか言ってた。今がその時、頑張れフォムド……ッ。


「…六秒、……四秒……クゥ…ッ!!?」

「おい、……おいフォムド」

「んだよ、俺は怒りを抑えて……、あん?」


 すでに話しかけてきた男はいなくなっていて、残ったのは俺たち二人と風に舞う枯葉のみ。


「くっそぉ、腹立つわあの野郎! 次会ったら絶対ぶんなぐってやるっ!」

「あの男、顔が見えたか? それに、……微かに血の匂いがした」

「そりゃあ怪我してんだから病院捜してたんだろうよ。ッカァー、ホンっとマジで腹立つわ、予定変更してさっさと本部行っとこうぜ、体でも動かしとかないと何しでかすか分からん」

「お前な……、はぁ、言っても聞かないか。仕方ないな……」

「オラ、行くぞロブスタ。俺たちの相手はアホなチンピラじゃなくて特級様だぜ特級様、そこいらの雑魚相手してるわけにゃいかねえぜ」

「あぁ、お前は二級だから後方支援だろうがな……」

「ん、なんだって? 声ちっさくて聞こえねえよ、もっとでかい声で喋りやがれ、デカい声で!」


 遅れてやってくる相棒がくるまで待っていると、冷たい風に乗って鉄みたいな匂いがしたような気がした。それはさっきロブスタが教えた方向からの風だったんだが、なんでだかな、お人よしの友達を一人思い出した。



「では、我々の今後の方針についてです。時間もない中で申し訳ありませんが、挨拶はなしで進めていきます」


 任命するものが居ないのだから仕方ないのだが、仮の局長代理という良く分からない役職となったリッカさんが場を仕切る。


(まあ当然ですね、元の立場的にも皆さんを引っ張ったのも彼ですから)


 彼はこの辺り一帯の大きな地図を床一面に広げると、怪物を模した黒い駒を荒野の中央に置く。


「ここにアイレンが居ます。おそらく昨日の攻撃もここから行ったのでしょう」

「ずいぶん早かったな……、それなりに瞳士も抜けたと聞いたが……」


 ロブスタさんが驚いている。それもそうだ、アイレンが脱獄してから瞳士も死に物狂いで探していただろうに、それなのに人が減った状態ですぐに見つかったんですから。


「それは、もう彼が隠れる必要がないということでしょう。皆さんと別れた後に本部に戻った時にはもう見つかっていましたし、それから一歩も動いていない」

「誘っているな……、戦いたければ、いつでも来いということか……」


 ロブスタさんの声に頷くと、リッカさんは続きを話し始める。


「アイレンの狙いは姉を確実に抹殺することだった。そのために式典という人が集まる日を狙って街全体への攻撃。……あれを被害なしで防げるのは、『顕現契約』を行える姉だけでしたから」

「……」


 トーカさんがいた所から、街全体を覆うように形成された光の結界。あれはまさに神代のものだ、私たちが使う契約などとは神威の純度が違いすぎた。

 だからこそ、人の器では耐えられない。


「あー……、悪いんだけどよ。『顕現契約』ってなんだ? 俺聞いたことねえんだけど……」

「バッカねぇ、そんなんだから万年二級なのよフォムドはー」

「それはコナさんもっすよ、んならコナさんは知ってるわけっすかあ?」

「うんにゃ知らない。ということで誰か教えてくださいな」


 この人たち、きっとどんな現場でもこんな感じなんでしょうね……。私が言うのもあれですけど中々の問題児なのがここにきて分かってしまいました。

 リッカさんの方を見ると苦笑いで困っている。仕方ありませんね。


「『顕現契約』っていうのは『具象』の更に上ですね。一言でいうと神様そのものを呼んでしまおうっていう感じです」

「へえ、つまりはあの時の攻撃防いでたのは本物の神様ってわけか……。トーカさんホントに凄かったんだな……」

「ええ、ただ問題なのは……」

「アイレンも使えるという事です。むしろ、もう彼にしか扱えない。特級とはつまり『顕現契約』が行える者のことを言いますから」


 このことは多くの者が知らないだろう。だって、誰だって神様の力を借りているからと言って本当に神様がいるかと言われると、少しは首をかしげてしまう。

 神話に連なる伝説、伝承。それらが本当に起きたことなのかどうかを見てきた人間はいないのだから。


「それ、俺たちに勝ち目あんの……?」


 指先を震えさせながら誰もが思う疑問を呈するフォムドさん。しかし、その実心から恐れおののいているわけでもないのは感じる。


「正直に言えばかなり厳しい。僕達が扱う『具象契約』でもかなりの力を持ちますが、それはギリギリ人の領域です。扱うのが人間である以上、どこかで制限がかかる。それも使用者自体では規模も大きく変わってきますが……」


 アイレンの行ってきた攻撃は、いわば規模の大きな災害だ。雷を起こす神様の神話の再現、『具象契約』の範囲だ。それでもトーカさんは命を賭して『顕現契約』をせざるを得なかった。

 誰一人、怪我人を出すわけにはいかなかった彼女にとってはそれしか選択肢がなかったとはいえ、私たちとはそれほどに基本性能が逸脱している。


「神格そのものを現世に降ろす以上、契約者への負担も大きい。正直、我々にできるのは粘り勝ちくらいです。……それも、多大な被害を出さなければなりません———」

「休ませないために囮にならなければならない……」

「ええ……、可能な限り前線に張り付いて彼を消耗させるのが現状僕たちにできる最善の策です」

「厳しいな……、だが、それしかないのも事実だ……」


 他の圏士の方達も苦しい面持ちです。仕方、ないのですけど……


「ですが、例え神を呼び出したとしても、彼自身は人間であることに変わりはない。そこに僕たちの勝機がある。超越的な力を持ったアイレンでも怪我をすれば血を流すし、心臓を潰せば死ぬ。それは僕達と変わらない」

「つっても、あの人契約してなくても滅茶苦茶強いだろ。正面からやり合ったら……、いや別にいいのか……」

「ええ、この際手は選んでいられない。そもそも選んでいては勝てない。僕達に敗北は許されません、罠を張り、毒を撒き、闇討ちをしても届くか分かりません。ですが、僕達は負けない。例え強大な力を持った存在が立ちふさがったとしても、人を護る圏士が負けるわけにはいきません」


 言葉に力が、怒りが宿る。


「僕は圏士として、人々を護る。自ら争乱を引き起こす邪悪を断ち切らねばなりません。そして、それは力を合わせなければ成し遂げられない。……僕は最低なお願いをしています、たった一人を殺すために皆さんの命を捨てろと言っているようなものです……。だから、最後にもう一度考えてください。この世界に生きる人々を、命を懸けて守れるかどうか……!」

「いいですよ? お気に入りの喫茶店がなくなったら困りますし」

「……え? いやあのアリスさん……、もうちょっと考えていただいても……」

「いえいえ、本当にいいんですって。戦う理由なんて重すぎても疲れちゃいますから」


 仇討ちだー! なんて言って掛かっていこうものならトーカさんに怒られる気がしますし、私も改めて考えてみたけど結局は時間もいらなかった。

 さっきまで悲壮感たっぷりだったリッカさんも想定外だったのかアタフタしていると、そう思っているのも私だけではなかったみたいで続々と声が上がる。それは近所の散歩道だったり、よく行く公園、居酒屋に家族。仕事がなくなると困るだなんて声もあって、本当に命懸けの任務なのかどうかも怪しくなってきた。


「ほら、あんまり気負ってるよりもこれくらいでいいんですって。リッカさん、というか局長一家だけがやけに真面目ですもんねぇ。他の圏士なんてみんな奔放なのに」


 ぽかんと口を開けていた彼でしたけど、さっきから何度も浮かべている苦笑いをしながら、深呼吸を数回。それで気を取り直すことが出来たのか、作戦内容をとりまとめる。


「それでは、作戦は明日の日の出と共に実行に移します。作戦と言っても、圏士を4人ごとの班に分け、時間を空けずに攻撃を仕掛け続けてもらうだけ。本来なら一級以上のみで行いたいのですが、自ら手を挙げて下さるのでしたら、二級以下の方も前線に出てもらいます」


 よっし、と嬉しそうな声と共にガッツポーズを決めるフォムドさんを横目に、ロブスタさんは心配そうだ。


「もはや、僕達圏士に猶予は残されていない。誰もが、僕達の力は危険だと知ってしまった。それが自分たちの身に降りかかる時が来ると分かってしまった。アイレンという邪悪を断ち、我々が正義であると証明しなければなりません」


 全ての人間が特級の存在は危険だと、自分達の生命に害を為すと知ってしまった以上、ここでアイレンを倒すことができたとしても討滅局への社会の当たりは強くなる。


「我々は人知を超越した者であっても難なく殺すことができるのだと、裏切り者には容赦なく正義の鉄槌を下す力を持っているのだと……、実現し証明しなければならない」


 皆が、この先の戦いは避けられないということを改めて覚悟する。

 『穢れ』と呼ばれる怪物から、世界を、人を護るために生み出された討滅局という組織が一人の人間を殺すために命を懸けて戦いに身を投じなければならない。


「自らが最強だと思い上がった男に現実を知らしめてやりましょう。最強は彼じゃない……、仲間を持つ僕達こそが最強だということを全てのモノに証明しましょうっ!」


 そうして、———たった一人を殺すための戦争が始まろうとしていた。

『本編について』

・他の都市とか町とか

 リッカが「灯日の外へ逃げるか」というような発言をしていますが、灯日以外に大きく三つの都市があります。(輪廻の圏士本編中には出てこないのであまり気にしなくてもいいです)

 それぞれの都市は街道や線路で繋がっており、道中には小さな町や村もあったりします。まれに『穢れ』に襲われることもありますが、現在ではその姿も減り続けているので可能性としてはそれほどです。(また、『穢れ』は灯日周辺に多く出るので、小さな町程度であれば被害はそうそうないです)


『定期連絡』

・高評価、いいねなどいただければ、皆様には特に見返りはありませんが自分が喜びます。

・更新日の後にそのことを伝える呟きをしているので、思い出す用にツイッターフォローいただけると幸いです。

・細かい設定や反省点等々は完結後にでもおまけでまとめようとでも思っているので、質問をいただければまとめて回答します。よければどうぞお願いします。

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