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輪廻の圏士  作者: くろよ よのすけ
22/46

22.天の光輝③

 すでに発ったとの報告は入りましたけどトーレスさん達は大丈夫でしょうか。心配は尽きないけどそこにばかり気を取られていてはいられない。

 私には私のやることがあります。あるんですけど……。


「やっぱり見つからない、見間違いなんかじゃなさそうですね……。本命はアイレンですけど……ほかに協力者がいるんでしょうか」


 昨夜と同じく機密資料室にて、見つけることのできなかったとある資料。それは改めて探しても見つけられない。


「なんでトーレスさんの情報だけ抜かれてるんですかねー? しかも誰も気づいてないっていうことは結構最近か、そういうことをしても大丈夫な人物か……」


 探していたのはトーレスさんの個人情報、とはいっても住所や生年月日とかではない。『原型』を扱ううえでの適正、どれほど『代行者』から気に入られているかと言ってもいい。

 入隊試験の時に『原型』が扱えるかどうかが大きなポイントな訳だが、それでも最低基準と呼ばれるものはあるわけで。

 その適性が低ければ神格との契約を行う上での成長限界も早く来る。契約を仲介してくれる『代行者』がやる気を出してくれないと言えばいいのか。

 誰だって嫌いな相手の為に、失敗したら死ぬような交渉をしたくはない。

 トーレスさんの『代行者』はトーカさん曰く眠っているような状態らしい。それなら適性が低いのだろうか? そう思いもしたがそれならアイレンが目を付けていた、というのがどうにも気にかかってしまった。


(んー、認めるのは癪ですけどアイレンが一目見ただけで無理やり入隊試験に連れてってること考えると、適性がないとは考えられないんですよねぇ)


 入隊試験の日、トーレスさんを見かけたアイレンは問答無用で圏士にしようとした。あの戦闘バカのことを考えると、何の理由もなしにそんなことはしない。……と思う。


(つまりは、トーレスさんってアイレンは目が離せないくらいには”何か“が特別だったとみるべき)


 それを調べたかったのですけど……。


「これはもうあれですね、誰かが調べようとするの見越されてましたね。これ以上時間もかけてられませんし……、犯人探しする余裕はないですね」


 開いていた資料を閉じると、部屋を出る。


「おっとすみません」


 すると足元には一匹のうさぎ、ナキさんの式神ですね。何かあったんでしょうか。


『あーアリス? 聞こえてると思うから勝手に話してるけど、トーレスは戦闘を開始したよー』

「やっぱりそうでしたか、状況とか分からないんですか?」

『それがわっかんないんだよねー、一緒に行ってた一級二人はすぐやられちゃってさぁ。あれだよね、討滅局全体に弱体化の波を感じるよね』

「……それで、話はそれだけですか?」

『おや、もっと心配するかと思ったけどそうでもないみたい? ミカちゃんも一緒なのに』

「お二人なら大丈夫です。この一週間で大分鍛え上げましたから、相手は『具象契約』まで出来るとしても何か秘策はあるようでしたので。……私には信じるしかありません」


 実際トーレスさんの成長は早かった。初日は手も足も出なかったというのに日を追うごとに対応できていった。ミカちゃんを背負ってのハンデを負った上でだ。


「こういっちゃトーカさんに怒られちゃいますけどね、自分より強い相手がいただけで圏士辞めたような人に負ける人じゃないですから。コテンパンですよ、コテンパン」

『はっはっは、そこまで信じてもらえてるのは羨ましい限りだねぇ。それは……恋愛感情?』

「……そうかもしれませんねー、そんな話はいいんで本題を話してくださいよ。私忙しいんで」


 触れられたくない所に触れられてしまった、これ以上おふざけに付き合っていたら痛手を負ってしまう。どうせ要件は別にある、さっさとそっちに行ってしまおう。


『つれないなぁ……ま、いいさ。で、本題の方なんだけどさ』


 ほらやっぱり、相も変わらず前置きが長いんですよこの人。


『アイレンが攻撃仕掛けてくるからさぁ、生きてたら対処してきて』

「なっ、そういうことはもっと早く……生きてたらってどういう———っ!?」

『——、あり……——信も、上手く———らないな———。じゃあ……お互、 きてたらね』


 通話も途切れ途切れになってようやく気が付いた。

討滅局直上、上空数百メートルに感じたことも無いほどの神威が立ち込める。出口など一々気にしていられない。

 窓から飛び出すとすぐさま空を見上げた先、———そこには、神の力が顕現していた。

 暗雲、などで済む話ではない。時間が飛び去ってしまったかのように黒く空を覆う雷雲。

 轟く雷鳴は神威を帯び、瞬くたびに空気を打ち震わせる。ただの自然現象としてみることができたならどれほど幸運か。しかし、雷鳴が轟くたびに生きとし生けるもの全てに死を宣告する。

 窓の外から聞こえてきていた喧騒さえ、一瞬で鳴りやんでしまうほど。

 そして、その上で特異な点がある。


「都市全部、流石にやりすぎでしょう……!?」


 帯雷する黒雲は街の直上にのみ存在していた。いくら神の力を用いているとはいえ人の身で街を一撃で滅ぼそうなど……、可能不可能以前に頭がどうかしていないと行動に移さない。


「———、—————」

 外から聞こえてくるざわめきは伝播し徐々に大きな波へと変遷していく。

 このままでは、攻撃の有無にかかわらずパニックが起きるのは時間の問題だ。

 こうなったなら、私も悠長なことは言っていられない。


「これ、は……流石に無茶苦茶ですね———。私も覚悟を決めるしか……え———トー、カさんから? 退避しろって……そんな!?」


 命を懸けたとしても防げるか、しかしやらねば。そう覚悟を決めた矢先、自身の相棒である『代行者』、傘の少女が『原型』を通して私に一つの命令を伝える。

 命令を発した一人の女性、彼女から発せられた光。

 不浄を許さぬ使途の神威が波紋のように街中に広がった———。


  □ □ □


「お互い生きていたら、か。自分は安全地帯に居ながらそのセリフが吐けるのは才能だろうよ、ナキ・ブルーマン」

「そう言わないでくれよアイレン、私だって心苦しいのさ。もしかしたら友人が皆消え去るかもしれないんだから」

「ほざけよ」


 街から外れた荒野。そこに彼らが立っていた。

 アイレンの起こした雷霆による影響か、動かなくなった式神をいじりながらいつものように笑うナキ。


「でもいいのかい? あれじゃあ防ぐためだけにトーカが死ぬよ? てっきりトーカとの殴り合いが見られるかと思ってたんだけど」

「俺は俺でアレとやりあうには時間がない、相手は選ぶさ」

「ふーん、それでトーレスってわけか。トーカじゃないのは意外かな。ま、私としては君が誰と戦おうが構わないんだけどねー、っていうかそこまで言うなら心配してないの? エイガ君との戦いで死んじゃうかもよー?」

「その前に聞くが、アレは順調か?」


 そう尋ねた彼の傍、これまで無害そうな笑顔しか浮かべていなかった彼女の笑顔に初めて、狂気が混じりこむ。それは彼女の本質からくるものに他ならなかった。


「あぁ、もちろんだとも。私の天使は今この瞬間も成長を続けてる、このままいけば私の期待通りに仕上がると思うよ」

「ならいい、最後にはあの男では手も足も出ずに負ける。『具象契約』まではできるみたいだが、それでもギリギリ手が届いた程度だ。地力がない分武器に頼っている。所詮はその程度の奴でしかない」

「はー、君ってトーレスの評価が異常に高いのか、エイガ君への評価があまりにも低いのか良く分からないね。……もしかして両方だったり?」

「ニヤニヤ笑うな気持ちの悪い。だが、良い調子だ」

「それはどうもー、徹夜したかいがあっというものさ。……よし、行ってこい」


 小さな白い影が地を駆けると、瞬く間に荒野の向こうへ去っていった。

 向かう先は決まっている。問題があるならどちらかがすでに死んでしまっているということ。だが———


「これで、準備は整ったか」


 彼は一人納得し、雷雲立ち込める街を睥睨すると、一つ気になる光景が目に入った。能力を発動してそれほど時間が経っていないというのに、貿易用の列車が走り始めている。

 対応があまりにも早い。

 問題が起こりそうな程度では政治屋共が動かないというなら、問題が起こった瞬間に最速で対応すればいいということか。

 ———それでもこれほどの速さは驚嘆に値するが。


「お前は否定するだろうが、その椅子は十分すぎるほど見合ったものだったよ。……みせてくれトーカ、お前の命。最期の煌めきを」


 蓄え続けた神雷を放つ準備を整える。

 狙いはすでに、俺も相手も理解している。故にアイツは逃げることはしない、そして俺も微塵の容赦を掛けることなく、終末の雷を堕とそう。

「———満ちろ昏雲、帯雷し、墜滅しろ」


  □ □ □


 見上げることも無く、異変を感じるは日輪を遮る神の雷雲。

 当然、気付いたのはアリスだけではない。多くの圏士が、市民がすでに気がついている。

 見上げた空には、自然発生したものでないことが一目でわかる混沌から溢れ出した昏い雷雲が立ち込めているのだから。


「来たか———、アイレン……ッ!」


 そして、誰よりも早く感じ取り、この街の中心に立つ女性。

 表裏境界圏・残穢討滅局局長、トーカ・ルアック特級圏士。


 誰もが、見れば心底から恐怖を催す脅威に対して一切怖気づくことなく、空を見上げるもう一人の最強。そして、討滅局の頂点に立つはずの彼女の傍にはたった一人。

 楽しげに、賑やかに聞こえてきていた祭りの喧騒はすでに途絶えた。耳に届くのは風の音と、風と共に虚しくも流れ続ける音楽だけ。


「リッカ、私は今からアレを何とかする。今後の指揮系統はお前が引き継げ。“コイツら”もお前になら従うだろう」

「姉さん、本当に一人でいいんですか? ……必要なら僕だって」

「はぁ……まったく、お前にアレを何とかできる自信があるのか?」

「それ、は……」


 黒き雷雲、立ち込める雷光。見える一面全てが仄昏くなった空を指差し、ため息をつきながら訪ねる。

リッカとアイレンでは能力系統が違うため直接的な比較にはならないが、効果範囲に限って言えば、似たようなことはできるだろう。

 だが、空一面、被害は街全体に及ぶ規模は不可能だということは彼も分かっている。自分に手伝えることは無いことがわかっているから、答えることはできない。

 悔しそうに握りこぶしを作る弟を見ると、ついつい子供の頃を思い出す。


「ふふっ……」

「……なぜ、笑うんです。姉さん」

「なぁに、お前も私も……昔から変わらないと思っただけだ——」


 昔から私の後ろをくっついてきては一人転んで泣いていた弟、その姿を見て兄は笑いながら慰めていた。今にして思い返せば、春風が過ぎ去るが如く、あまりにも短かった安息の記憶。

 ……けど、もういいんだ。

 最初から自分に組織の長など向いていないのは分かっていた。兄のことは心残りだが、トーレスが何とかする。

 なら後、気がかりなのは残される弟だけだ。

 今は私がいるから一歩引いているが、身内びいきを抜いても優秀な弟、前に出さえすれば私なんかよりもずっといい仕事をする。


「結局私にできるのは戦いだけだよ、組織の長にはお前の方が向いている」

「でも……僕は、姉さんに居てほしかった……っ」

「…ふっ、とっくの昔に成人してるくせに姉に甘えるな。……行くんだリッカ、お前は生きろ。私にできないことはいくらでもあるんだ。例えどれほどの脅威が立ちふさがろうとも人を護るのが我々の使命だ。行け……、皆を護れッ!」

「……はいっ、……ご武運を———!」


 立ち去っていく気配、局内の人間はすでに全員避難させている。後は住民だけ、それもリッカが何とかするだろう。


「まったく、ここまで宣戦布告されなければ組織として動けないとは……、その点については感謝しようアイレン……ッ、やはり私に組織運営が向いてないことが良く分かったよ——ッ」


 あの男の考えていることは分かっている。何もせず街ごと無辜の人民が焼かれるか、私が身を挺して人民を護るか。

 “私の代償“を知ったうえでそれを選ばせようとしている。

 街を捨て、アイレン本人を叩きに行けば、街は滅びるが首謀者を殺すことはできるかもしれない。


「だが、本命は私ではなくトーレスと来ている。工場地帯、か。わざわざ被害から逃れられる場所に誘導したのは貴様の案だろう? いいさ構わん、主犯を一発も殴れず退場するのは癪だが、最後に務めを果たせるというなら本望だよ」


 相槌を打つかのように雷雲が轟く、一撃で街ごと粉砕しきる出力を発揮するため蓄え続けた神の雷は既に臨界点に達している。

 万物総てを破壊する神雷の塊が、地上に落ちるその時を今か今かと待ち望んでいる。


「おかしな奴を圏士に迎え入れたものだな、同期か……。今思えばムキにならず、お前と一緒に食事でもとるべきだったかな? ……ははっ、それこそ私には無理か」


 一人、もしもの過去を想う。

 だがそんな可能性は笑い飛ばして前を見ろ、生きているのは今だ。

 通り過ぎたものを振り返るのは私には向いていない。おかげでトーレスにまで負担をかけてしまった。


「結局は終わったこと、見るべきは未来、人々の安寧だ。貴様には分からないだろうよアイレン。お前は、”今”だけを生きるためにしか命を懸けないのだから」


 黒い空、しかし雷光によって黄昏を思わせる光を放つ空から、あまりに細い一筋の雷が彼女に向かって墜落する。だが、蜘蛛の糸に近しいか細さであったとしても、この街を殲滅する手始めの一撃であることに変わりはない。


 その速度は避けることは許さない。

 その強度は防ぐことを許さない。

 その破壊は万物総てに生存を許さない。

 極天より、蜘蛛の糸が地上を焼き尽さんと垂れ墜ちる——。


「ハ……ッ! ハッハハハハハハ———!」


 だが、彼女は笑う。大きく、あっぱれなほどに。

 人と神の間に存在するあまりに遠く、永い道程。隔絶した領域に、ただの人では手が届かない。格が違う、存在そのものに果てぬ溝がある以上、それを埋めるのは不可能。決して届かぬ力の差、触れれば消し飛ぶ存在証明。

 神格にしか起こせぬはずの破滅、その未来を一身に受けているにも拘らず、しかし表情からは絶望など一欠片も感じ取ることができない。


「クク…ッ、あまり笑わせるなよ。アイレン貴様、弱きものを憐れんでいるのか? 自分が天にでも立っているつもりか? ……馬鹿にするのも大概にしろよッ! 天に立つものが神だけだと思うなよ。……例え人から理解されずとも、一方的な悪逆に晒されようとも、弱き人々を護ることこそ我らの使命! 道を違えたお前には理解できんッ!!

 ———お前の望み通りに見せてやろう。これが私の……、討滅局最強たる者の力だッ!!」

 

 地上に到達するは神雷の先兵、極大の質量持つ高次元の雷。物質に触れればそれだけで尋常ならざる爆破を引き起こし、死の連鎖を始めるための案内人。

 しかし、それは容易く打ちのめされる。

 たった一人の女性が行った、拳の一振りによって散り散りに。


「挨拶のつもりか? 随分と優しいじゃあないか———ッ」


 雷を振り払った右腕を覆う隊服は弾け飛んだが、彼女自身にダメージは見られない。ただ一つ、異常な点があるとするならば、空気に触れた右腕は“黒く染まり切っていた”。


「まったく……、この程度防げないと思われているのか? それはあまりに舐め切っているな」


 もはや不要と、左手の手袋を取り外すと、内から覗く肌は当然のように黒い。

 もし、この場に圏士がいたならば絶句していただろう。黒腕から感じる波動は神の威光に他ならない。間違いなく『原型』によるものだ。

 そして、それが意味する事は単純すぎるがゆえに、誰も考えようとしなかったこと。そして、可能としてしまったがゆえに“怪物”と化した最強は笑う。


「お前のせいで皆が不安がっている。その様な破壊の光では、誰一人として導くことはできん。折角、最後の機会だ、人を導くための輝きというものを享受してやる……!」


 始まりの一撃を防いだだけでは止まりはしない。触れたもの全てを破壊しつくすまで降り注ぐ雷は、案内役を失ったことによって無作為な暴力と化した。

 先兵の死を引き金に、視界を焼き尽すほどの雷が降り注ぐ。光の速度で墜ちる破滅の総撃はしかし、地上に到達することなく空で霧散する。

 ——街全体に降り注いでいるはずの全ての雷が、一つの例外なく防がれている。


 黒く染まった四肢が輝きを放つ。仄昏き世界の中心で輝く、不浄を許さぬ純白の光。

 自身の生命力を媒介に力の一端、更にその影を借り受けるだけの『簡易契約』

 自身の大切なナニカを代償に、神話から伝わる神技・神器を、神の潰えた現世において再現する『具象契約』

 だが……、人の文明、安寧の都市の一切合切を無に帰す黄昏の雷霆に対して、それでは足りない。破壊ならば、ただ強大な力を落とせばいい。破壊の伝承そのものを具象するだけならばそれで事足りる。だがすべてを護る以上、破壊への拮抗、領域の守護には再現では足りない。


 ゆえに必要なモノ。

 ——神格の”存在そのもの“を降臨させる特級にのみ許された神格の”顕現“。


「行くぞ———ッ」

 代償は“自らの命”、結果論だが事実は事実だ。

 ゆえ、自身の存在全てを懸けて発揮される神格との契約は最初で最後、たった一度の天との邂逅。

 あぁ、だからそれがどうしたという。使えば死ぬ? 一度たりとも成功例はない? ハッ! 呆けたことを抜かすなよッ!

 それができるからこそ特級として、討滅局の長として任命されたのだ。私の命と人民の命、天秤に掛けさせたつもりだろうが、その答えは考えるまでも無い。私の命一つで多くの命を救えるのならば、この手足はどこまでも届く天の使いに他ならない。


「使命を果たす、気合を入れろ。どうせ一度しか使えんのだ、具象も顕現も大差ない。ならば、最期に長の力と言うものを見せつけてやるのも一興だろう」


 言葉は光を帯びる手足へ、四本の『原型』へと。

 アイレンが一つを極めて高みに上るものであるならば、彼女は多くを修め高みに上るものだ。その結果が、端から見れば同じというだけの事。

 そして、彼女の手足と同化した四本の『原型』は音もなく、神威の波導を以って是と返す。

 真なる力を使えばそれだけで死ぬ。そんなことは昔から分かっている、理解している、納得などとうの昔に済ませている。


 最強と呼ばれながらも、ともすれば最弱と呼べる彼女の決意を否定することなどできはしない。彼女を知る誰もが、彼女が物心ついた時から人を護るために戦い続けてきたことを知っているから。


「ふん、神の雷が何だという。そんなものに怯えているようではこれから先やっていけないだろうに。……最期だ。開いた瞳に焼き写せ、飽いた日々を踏破しろ。空いた心の灯火には十分すぎる餞別だ」


 誰に聞かれることも無い。たった一人、弱く、強き人々へ向けた言葉。文句を言われようが、必要ないと判断されようが関係ない。私達の使命は貴方たちを護ることだ。

 道標は置いていく。後は、残された者達次第だ。


「———ッ」


 顔を上げ、天を睨みつける。

 紡がれるは守護の大義、人を導く天来の契約。


「顕現契約———ッ! 不浄を払え神の使途、契約結びし輝きの標よ———ッ!」


 『代行者』を介さない、神格との直接の対話、誓いを以って神格を顕現させる。人と神の対等な契約。

 故に自ら言葉を紡ぐ、それは宣誓であり、誓約。

 何を願い、何を為すのか。お前は一体、この世界に何を残したいのか。


「ただ一度の誓約を。今ここに誓い、総てを護ろう。この世総ての命を導くがため」


 対等での対話であるが故に、人の身が真の神威に晒されるなど本来耐えられるものではない。だが、耐えられるが故の、乗り越えてしまうが故の『特級』。


「終わりの黄昏は必要ない。かつてあった神の世は、すでに還りはしないのだから」


 霊長の頂点に立つ個人が為し得る究極の召喚術式。神という存在が形骸化した現代において、神話伝承に残る原初の破壊を再現することができる強き人間の特権。


「始まりの明星を私は望む。今ある世界の存続を、命繋ぐ意志は終わっていないのだから」

 

 故に、『原型』 始まりのカタチを世界に顕現する究極の神格礼装。


「私は願う。私の愛したものたちが、私の在った世界を愛してくれるそのことを。その場に私はもういないけれど、残せる物はあるはずだから」

 

 その真価が現世において発揮される——。


「盟約をここに、天より降りし輝きよ。不浄許さぬ光を以って、どうか彼らを導いてほしい。願いは一つ、ただのそれだけ。故応えたまえ神の使途、我らが祈りをここに果たさん」


 舞い降りる純白の羽。

 顕れたるは四大の象徴、神の使途。

 ソレは人の世の始まりと終わりを告げる。主より賜いし輝きを以って、今現世に降り立つ天使に他ならない。


『神威顕現———、 人へ智慧を、幕開け伝え幕引き導く四大光翼(ディヴァイングレイス・アークエンジェル)


 『原型』によって形作られた両手両足に標たる星の輝きが満ち、清らかさを極めた純白の虹が奔る。揺らぐ神威が雫となって人の世界に波紋を起こす。世界に零れ落ちた四つの黎明が、終の雷の波濤を押し留めている。

 それは始まりに落ちた雷だけではない。透明な膜が街を覆い、堰を切ったかのように連続して街中に降り注ぎだした雷電を防ぎきる。膜の内側に存在する生命、建物にさえ何一つ傷を与えることはしない。

 降り立った彼らは、人と同じ姿をしながらも純白の翼をもったそれらは厳密には神ではない。本来は自身の仕える唯一の主のため、全身全霊を懸ける四大の天使。

 その中でたった一人の女性の姿を象った一人の天使が言葉を紡ぐ。人のものとは違う、しかし頭の中へと直接伝わってくる言語。神格の一部ではない。完全なる神話の原型を呼び起こしたのだ。


『かつて、泥人形であった我らが主の子よ、自らを犠牲にしてでも救うと、そうあれかしと言葉を紡ぐか?』

「あぁ、人を護る。そのための私だ、ならば貴方達への誓いは決して揺らぐことは無い」

『ならば我らもその誓いに報いよう。今代の霊長の守護者よ、貴方は正しく我らを呼び出すに値する者だった』


 天の使い、神の使途、彼らが四方に飛翔する。護りたかった総てを破壊の黄昏から防いでくれる。

 誓いを以って神格を呼び覚まし、命を以って現世に繋ぎとめる。

 視界が光で埋め尽くされて、音は既に聞こえはしない。だが、振動を感じない。破壊の気配は伝わらない。手足は指先から羽が抜け落ちるかのように粒子と化し、気が付いた時には倒れ込んで空を見上げていた。


「———そう、か。……それは、光栄だよ」


 体から力が抜けていく。抗いがたい眠気に襲われる。

 今の気持ちを上手く言えない。羽が舞う純白の空に手を伸ばしたいけど、それももう叶わない。


「ぁぁ……、眠たいな。最近ずっと徹夜だったしなぁ……少し、休もう———かな———」


 純白の世界が幕を引く、感じるのはどこまでも届いているかのような清らかな光だけ。

 あとは、皆に任せよう。

 悪いなトーレス、……私の方が約束を守れそうにない。

 余裕があれば私が何とかしたかったが、こうなってしまっては仕方ないか。アイレンはアリスに任せておけばなんとかなるだろう。

 心残りは、……兄さんに謝れなかったことくらいか。


「まった…く、大した人間でも……ないな、わたし、も———」


 守った人々が去っていく街の中央で一人、空を見上げて息をつく。破壊の収束と共に誰も彼もが居なくなっていくことを感じながら瞼を閉じた。疲れもある。いつもならこれで眠れるはずなのに、どうにも光が瞳に届いている。

 それは———、あまりにも綺麗に過ぎたから———。


(こんなにも明るい中で眠るのは、初めてだ———)


 命の最後に一人で眠る。

 果たせなかったことはいくつかあったけれど、存外とその心は満ちたりたものだったよ。

 ——さらばだ。

『本編について』

・顕現契約

 略式契約が神威エネルギー、属性のみ、具象契約が武器や伝承を現世へ呼び起こすものですが、顕現契約は神格そのもの(神話伝承に当たる本物)を世界へと顕現させるものです。本編通り、特級であるトーカとアイレンが使用者にあたります。

 本来のトーカの顕現契約はもっと攻撃寄りの能力なのですが、今回はアイレンの攻撃から灯日を護るため、変化させています。


・トーカの死

 この場で確定させてしまいますが、彼女は本話ラストで死亡しています。

 当時はそこまで長く話を書くつもりが無かったので、今見返すと自分でも思っていたよりあっさりな結末になってしまったなぁ、とも感じています。

 ただ、不器用な彼女を好きになってくれていた方がいらっしゃればとても嬉しいです。


『定期連絡』

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・更新日の後にそのことを伝える呟きをしているので、思い出す用にツイッターフォローいただけると幸いです。

・細かい設定や反省点等々は完結後にでもおまけでまとめようとでも思っているので、質問をいただければまとめて回答します。よければどうぞお願いします。

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