20.天の光輝①
「と、言うわけでさ。工場地帯あたりにいるらしいんだけど」
「なぜさっさと連絡してこなかったのかというのは今回だけは許してやる。街中で暴れられても問題だしな……」
午前5時、朝日も地平線の陰に隠れている時間に僕は局長室にいた。ミカも連れてきているけど、いまだ寝ぼけ眼な彼女の為にソファが貸し出されている。
ここにいるのは一週間前と同じ僕とミカ、アリスちゃんにナキと部屋の主であるトーカだ。朝早くから集まったのも今日の打ち合わせのため。
昨日の夜にアイレンに出会い話したことをトーカに伝えると、男の場所を調べだすと息巻いていたナキが納得したように声を上げた。
「あー、なるほどねぇ。どうりで見つからないわけだよ、工場地帯なら熱源やら化学物質やら多いから遠隔からの観測はしづらいし、単純に隠れるところも多いからねぇ」
「そこまで分かってるならなぜ最初から調べておかないんだお前は……!」
「わっわわっ……! ちょ、ちょっといきなり押し倒そうとしないでってば、ミカちゃんもいるんだぞぉ?! 教育に悪いでしょうが!」
「安心するがいい、お前の存在自体が害悪だ。そのお前が消えるのだからむしろ問題は解決される……っ!」
「ぬぬぬ……、言ってくれるじゃあないか……アテテテ———」
「ナキさーん、ミカちゃんが起きちゃうんで静かにしてくださーい。トーカさんもそんなに怒ってたら悪い夢見させちゃうでしょー」
緊張感の欠片もない中で行われる作戦会議、必要かなこれ。疑問に思ってしまうほどにいつも通りだが、その中でもトーカは隠し切れない怒りのオーラを立ち上げている。
「……分かってる。はぁ、全くコイツは……」
「結局、式典は中止にできなかったみたいだね」
「あぁ、全く無能な政治家どもめ、すでにボケが入ってると見える。せめて日をずらせと言っても聞こうともしない。なぁにが『討滅局の支持率が下がっている中でそんなことをしてもいいのかな? これ以上下がってしまっては予算も規模も縮小せざるを得ないなぁ』だッ! 金食い虫は貴様らだろうがッ!?」
「……はい、お茶。熱いから気を付けてね」
「はぁ、はぁ……はぁ。悪いなトーレス、こんなことがなければお前を秘書にでもしてやりたい気分だ。にしてもだナキ、今日中に捜索は間に合うのか? 可能な限り街中での戦闘は避けたい」
「んー? あぁ、問題ないよ。これまでは街の中心から外に向かって調べてた。ある程度目星をつけての捜索だったとはいえ、街中全ての範囲だったから時間がかかってたけどそこまで分かってるなら問題ないさ。半日かからず探し出す」
「トーレス、お前はナキが男を見つけ次第現場に向かえ、待機させてると言ってもいつしびれを切らすかもわからん。一級を二人付けておく、だから実質お前は囮だ。せいぜい街の外で戦え。……無理はしなくていい」
「ん、ありがとう。それで相手のことは分かったの?」
「……あぁ、過去の資料といってもここ10年程度の物だが、一人いたよ。該当する男がな」
「おっ、誰なんですか? 私なりに聞いたり調べたりしましたけど、誰も心当たりなさそうだったんですよね。……喋りたくないって言いたげな人もチラホラいましたけど」
トーカは嘆息気味に息を吐き、嫌々といった空気を醸し出しながら話す。
「それはそうだ、登録からは抹消していたからな」
「抹消? 死亡とか退職ではなく?」
「そ、これがまた面白い話でさぁ———」
「よせ、私から話す」
「そだね、ならお任せしようかな」
もはや怒ることすらせず片手をあげて静止する。その姿からは後悔のようなものが感じられた。
「……あの男は私の兄だよ、腹違いだがな」
「えっ、お兄さんいたのトーカ? それに腹違いってことはあの聖人みたいな局長が浮気してたって……?」
「いえいえ、それじゃあ生まれてきた順番的にトーカさんの方が浮気相手の子では? 愛人の子供引き取って育てるとか中々の精神力ですよ。となるとリッカさんも知ってるわけだ」
「はぁ……、だから話したくなかった。いや、本来は話すことも許されん。ルアック家の恥そのものだ。それとな、正確には父が母との結婚前に付き合っていた女性の子だ」
「どっちが?」
「当然兄の方だ。別れる少し前、最後に関係を持った時にできていたらしい。出産後女性はすぐに亡くなってしまったそうだが、そういった縁もあって家で引き取ることになった。私が生まれたのはそれから4年後、兄が4歳の時だ」
「ならどうして圏士やってないんですか? 情報を抹消したっていうことは入隊していたんですよね。それにトーカさんが圏士になった時の新聞だとついにルアック家待望のー、みたいに書かれてましたよ?」
当時のことを思い出したのか苦虫をかみつぶしたかのような表情をしている。そんなに嫌な思い出だったりするのかな、自分を責めているかのようにも見える。
「まさかあの新聞のことを覚えている人間がいるとは……、いやいい今はそんな話をしている場合じゃないし、時間があったとしてもその話はしない。
それでだ、兄も当然圏士にはなっていた。努力を怠らず、誰に対しても優しい、そんな人だったんだがな。一個人の努力なんて組織からすればどうでもいいらしい。私の時とは違ってただただ何事もなかったかのように進んだよ」
「つまりは、誰も認めてはくれなかった。どれほどの頑張りを見せてもまっとうに評価されなかったって?」
「そうだ、出生のこともあって拍車をかけた。いや、それだけならまだ良かったのかもしれない。家の後継者が私になった時も喜んでくれていた兄だ。ただ……」
そうか、家族が居なくなったのは辛いことだ。でも、どうしてトーカが自分を責めるかの如く辛そうにしているのかがようやくわかった。
「トーカが強すぎたんだね、それこそ手が届かないくらいに」
「……あぁ、そうだよ。私が正式に圏士となってから特級になるまで、自分でいうのもなんだがあまりに速かった。隣にアイレンなんていうバカがいたからムキになってしまっていたのもあったがな」
「そういえば聞いたことないですね、どれくらいなんです? 1,2年くらいとか?」
「半年だよ、その時僕はまだ4級だった」
「……はんとし」
「まぁトーカの場合は家の後ろ盾もあったからね、アイレンは無名だったから2年かかってたけど」
「確かに私が入った時にはもう特級だった……」
「よせ、おかげで共に戦えていたはずの仲間を辞めさせてしまった。私の汚点だ」
あの時は横で見ていてもすごかった。トーカもアイレンも負けず嫌いなものだから、二人並んで訓練をして、二人並んで力尽きて倒れている。
どうかしている、あんな奴らには着いていけない、自信を無くした。そんな風に他の皆が辞める中、辞めても行く当てのなかった僕だけは続けていた。
そのせいで、二人の世話係みたいなポジションに落ち着いてしまったのだけど。
「それに比べると、兄はその時点で2級。正直伸びしろもすでになかった。
……それこそ、耐えてきたもの全てに押しつぶされる気持ちだったのかもしれない。だが、私はそんな兄に……褒めてもらおうとしてしまった。
『ねえ兄さん。私、特級になれたんだ。兄さんの教えてくれた通り、頑張れば皆が認めてくれるんだ!』ってな。馬鹿だろう? あぁ、本当に馬鹿だった。何も言わずに立ち去った兄の最後に見せた表情を今になっても忘れることができない」
例え認められないと分かっていても、いつかは分かってくれる。実力を、戦果を、そのための努力を、いつかは誰かが認めてくれる。そう信じて、折れそうな心をまっすぐにするために縛り付けていた鎖そのものが朽ちかけの心を締め付け続ける。
同じように鍛え、同じように食事をし、同じような教育を受けて、……ただ生んでくれた母親が違うだけでなぜ、これほどまでの差が生まれるのか。なぜ、自分は誰にも認めてはもらえないのか。
どれほどの気持ちなのだろう。いかに足搔こうとも奈落の底から這い上がれない。そのくせ光の先では、半分とはいえ血の分けた少女が一瞬で自分のすべてを抜き去っていく。そう、耐えられるものじゃない。
「それで、行方不明に?」
「ああ、一本の『原型』を持ったままな。当然、こんなことが知られたら我が家の失権にも繋がる。ならばどうするか、“何もなかったことにすればいい”。兄の存在も、痕跡も、全て全て全て。だから誰も兄のことは知らないし、知っていても口を割らない。言えば徹底的に捜査されて自分の立場が危ういからな」
「彼の……名前を聞いてもいい?」
「殺す相手だぞ、そんなものを知ってどうする」
「そ、っか……分かった」
「大きい家は大変ですねぇ。でも、いいんですか? このままだと———」
「他者と比較して心が折れるくらいなら辞めた方が良い。だが奴は今、私たちへと図々しくも敵意を示した。ならば斬る、我が身可愛さでしか戦うことのできない男に掛ける情など一片もない。……これで話は終わりだ。改めて今後の行動を伝える」
「………はい」
彼女なりに割り切っているということなのか、話は打ち切られてしまった。ふと外を見ると空は白みもうすぐ夜が明ける、多くの人の一日が動き出す。
「アリスはここで待機だ。アイレンの存在が確認され次第急行しろ。対話は不要だ、即刻抹殺しろ。情は捨て去れ」
「分かってますー、大丈夫ですよ。そこのところは真面目ですから。手は抜きませんし、抜けません。ちゃんと戦いますー。トーカさんはここで指示出しですか?」
「そうだ、と言いたいが私も出る。アイレンが全力を出せばどれほど一級を回せたとしても心許ない。むしろ……」
「おぉ、トーカさんが出るとは! 街無くなるんじゃないですか……? っていうかそれって私たちの信用がないってことですかぁ……?」
「そうしないために私が出るんだ。それにアリス、お前なら何とかなるんじゃないか?」
「んー、……ヤな言い方ですね。回りくどいの嫌いなんじゃなかったでした?」
「どういうこと?」
「いえ、お気になさらず。ただの過剰評価です」
起こした抗議は彼女たちにしか分からないやり取りで鎮火した。アリスちゃんならアイレンに勝てる、ってこと? アリスちゃん本人は否定してるけど。
「これくらいか。アイレン脱走から圏士には厳戒態勢を敷かせている。緊急時の市民の避難についても手配を進めているからそこについては心配しなくていい。気を張れよ、我々圏士の戦いに市民が巻き込まれるなど在ってはならない。相手が『穢れ』でなく人間なのは何とも皮肉だが、為すべきことは何一つ変わらん。人を護れ、いいな」
「はい」
「分かった」
□ □ □
「それじゃ私は観測室だからー。この子置いてくから何かあればこの子経由で伝えてくれればいいよ。特別に直通の回線使ってるからすぐに来られるよ」
「それじゃあ私は調べごとを少々、トーカさーん機密資料室入っていいですよね? え、ダメ? まぁまぁ、変なことしませんからぁ、ではではー」
ナキは式神であるうさぎを一匹置いていき、アリスちゃんは調べごとに行ってしまった。
各々が為すべきことの為に準備をする中、待機命令を受けた僕としてはトーカのお兄さんが見つかるまでは退屈の一言だ。
体を動かしていた方が緊張も紛れるかもしれないけど、まだ眠っているミカを見ていると不思議と心が落ち着くから、今はそれでいいかな。
「………」
けれど、こんな時も執務机で何かの書類を確認するトーカを見ていると、どうしても聞きたくなった。
「トーカは、本当にいいの?」
「……何がだトーレス、言いたいことがあるならハッキリ言え」
窓の外から鳥のさえずりが聞こえるほどに澄んだ空気と差し込む光の中、書類から目を離さずに返答する。彼女なら何を言いたいのかは分かっているはずだろうに、本当にそれでいいのか?
「上手くいけば彼は死ぬ、それも街の外で。君が次に会うことがあっても、それは熱のない死体でしかないんだよ」
トーカと僕には大きな身分、階級の差があるし性別も違う。アリスちゃんやナキのようなスキンシップは取れない。だから、あまり入り込みすぎるのはしないようにしていた。
でも、こればかりはちゃんと話しておきたい。たとえ彼女の怒りを買うことになったとしてもだ。
万年筆を置いた軽く固い音。きっと自分の内に籠るタイプの彼女は怒るだろうな。戦う前に死ななければいいんだけど。
脳内で必死に冗談を考え、恐怖を紛らわせながら身を構える、けど返ってきた声はその反対だった。
「いいんだよ……、きっと私にはできない」
「トーカ……」
何時だって気を張っていて威風堂々とした姿のトーカが、今まで見たことないほどに弱弱しく、悲しそうな姿を見せていた。
背もたれに身を預け、こちらへ視線を投げる彼女の姿は疲れ切った幼子のように無防備だ。
「きっと兄に会ったら何も出来なく、どうすればいいのか分からなくなる。あの時のことを謝ればいいのか? それとも何も聞かずに全てを無視してこの手で殺せばいいのか? トーレスが一級相当に襲われたと聞いた時に嫌な予感がしたよ。まさか兄が、とな。その後、何を考えたと思う?」
「……生きててよかった、とか」
「違うよ、お前も知っての通りそんなにできた人間じゃないさ。私はあの時、どうして死んでくれていなかったのか、そう思ったんだよ。父が死に、アイレンの反逆、その上死んだと思っていた兄、何もしていないのに問題が積まれていくんだ。これ以上私を苦しめるなと、つい…思ってしまった」
頭を揺らすと長い髪が背もたれを流れる。
「だから、私はトーレスに押し付けたんだ。何一つ褒められたことじゃない、ただ自分の嫌なことを誰かにやらせているに過ぎないんだ……最低だろう? 人の上に立つような器なんかじゃなかった。あぁ、本当に馬鹿だった。あの時に兄さんの心を考えていれば、この席には兄さんが座ってたかもしれない……!」
「ゴメン、辛いことを聞いてしまって。自分を責めないでくれトーカ、僕は———」
なだめる言葉は意味もなく、ただ逆上への燃料を注ぐ行為に他ならない。
「自分を責めるなだとっ!? 無理に決まっているだろう! 私のせいだ、私のせいで彼の人生は狂ったんだ。私がもっと弱ったら……もっと賢かったら……、こんなことは起きなかった……お前も、傷つくことなんてなかったんだ……」
最期には消え入りそうな声で話す彼女の姿を見ても怒りなんて湧いてこない。そもそもトーカのことを嫌う理由なんて初めから無い。
「ん……ぅん……」
トーカの声に反応して目を覚まそうとするミカ。起こさぬよう頭の先まで布団代わりの上着をかけ直すと、静かにトーカの傍に向かう。
「ねぇトーカ、僕は一度だって君のことを馬鹿だなんて思ったことはないし、嫌いになったことも無い」
「……だが……ッ、私は———」
「うん、ひどいことをしてしまった。そのせいでこれまでずっと苦しんできたんだろう?
でも、今日も彼から逃げてしまったらこれから先も苦しみ続けることになる。僕もそんなトーカを見たくはないよ」
「だが、だけど……、どうしたらいいか分からないんだ。会ったところで私の話など聞きはしない、話すことができても私の言葉が届くとは思えないんだ……」
顔を上げたその目には涙が貯まっていてこれまで押し込めてきていたものが溢れようとしていた。
やっぱり兄妹というか、トーカも基本的には彼と同じだ。誰かに助けを求めることのできない負けず嫌いに他ならない。トーカにはアイレンやアリスちゃん、ナキもいた。彼女達からすればただからかっていただけかもしれない瞬間がトーカの救いになった時もあっただろう。
これほど苦しんでいるトーカを否定することは僕にはできはしない。むしろよく頑張ったと言いたくなるくらいだ。でも僕なんかの言葉で、これじゃあエラそうかな。
「いいじゃないか、それでも」
「でもっ、でもそれじゃあ兄さんはずっと救われないままだ。皆に忘れ去られたままに逆賊として死んでいく。……そんなのあんまりじゃないか」
「確かに、あの人はトーカの言葉を聞かないかもしれない。それでも、生きてさえいれば伝えられる。
お互いに納得できない終わりになるかもしれないけど、何もできないよりずっといいって僕は思うよ」
「トーレス……」
「トーカはさ、負けず嫌いなせいか自分で出来そうなことは全部背負いこもうとするから普通よりもずっと疲れるんだよ。もっと皆を頼ってほしい、君が座ってるその場所はそのことが許される。顎で使うくらいでいいんだよ、助けを求めることは何も悪いことじゃないんだから」
「そんなことは、分かってる……。でもどうするつもりなんだ。私はお前とは共に行けない、囮とは言ったが被害を考えるとここまで連れてくるのは許すわけにはいかない」
「うん、だから倒してから連れてくるよ。ちゃんと縛ってさ」
「………っ、きっと、兄さんは、お前よりも強いぞ……? 勝てるのか?」
「はは……っ、確かにこの前は手も足も出なかったし、今も『代行者』はうんともすんとも言わない。でも、出来るとかできないじゃなくてさ、やってみるよ。気負いすぎると肩凝っちゃうからね」
「……ふふっ、お前も大概大馬鹿者だよ」
大馬鹿者って言いながら、手袋をしたままの指で涙を拭うと、ほんの少しだけ笑ってくれた。
「そこはお互い様っていうことで流してほしいな。女の人を慰めたことなんてないんだ、そんなには上手くできないよ」
「やってみた、というわけか……。そうか、それならきっと大丈夫だな。……分かった、兄さんのことは任せた」
「頑張ってみる。ダメだったときは……そうだな、ちょっとくらい、いいお墓を作ってほしいな」
「それはお前の戦果次第だ、……死ぬなよ?」
「うん、彼は連れてくる。約束するよ」
「そうか、……約束か。アイレンが言っていた、甘いヤツというのだけは私も頷くしかないな……」
「ははは、褒められたと思うようにしておく。そうだ……」
涙を拭うトーカにハンカチでもないものかとポケットに手を入れていたら、頭を掴まれた。
「えっ———?」
「ん———っ」
何が起きたのかもわからずに、呆けて開いた瞳にはトーカの顔が映っていた。
そのまま頭の回転もおぼつかないままにトーカの顔が10センチほど離れてようやく、自分がキスされたことに気が付いた。
だからってすぐにいつも通り喋れるようになるわけでもなく、ただただ狼狽えるばかり。どうしてトーカにキスされたのかが分からない。
「え、……え? トーカ今のは一体……?」
頭を掴まれたままだが、目の前に居ながらそっぽを向くトーカの顔が赤いのは、きっと差し込む光のせいではない。トーカはそのままこちらを見ようとしないままに、いつもの数割増しの力強い口調で声を上げる。
「ふんっ、アホ面をさらすな。景気づけだ、私にここまでさせておいて約束も果たせずに死んだらそれこそ許さん。墓など作らずその辺に埋めてやる」
「あー……うん、はい、頑張ります……っ」
「ならいい……、気張れよ?」
ニヤリと、口元にいつもの笑みが戻る。
ものすごく重たいものを背負わされたような気がするけど、ようやくトーカにいつもの笑みが戻ったのを見ると安心する。
ただ、問題があるとすると———。
「ぅん……———、くわぁぁ……うん? トーレス? トーカ? 何、してるの?」
「姉さん、リベリカさんと一体何を……? リベリカさん、お話を聞いても?」
「………」
「………」
目覚めたミカに加えてリッカ君までいつの間に来ていたのか。えーと、これはどうすればいいんだろう。トーカに視線で助けを求めると彼女は彼女で目が泳いでいる。離れようにも焦りからか、まだ頭を掴まれてるせいで逃げ出せない。
そんな中で、最初に動きを見せたのはトーカだった。
「……リッカ、お前は何も見なかった。いいな?」
「え、それはあんまりにも…姉さんだって年頃なわけだしそれくらいなら――」
「いいな? 次にこの話をすればお前の眼と喉と肺を潰す……!」
「ちょ?! 姉さん、むしろ今のでもっと気になるんですけどぉおっふ!?」
僕の頭を掴んでいた手が離されたと思ったら机に置いてあった万年筆が空を駆ける。狙いは寸分違わずリッカ君の眼球へ。
「そうか、ここまで来たということは火急の案件だろう。よし、歩きながら話そう。ほうら行くぞリッカ? たまには姉弟水入らずで話すのも悪くない……っ」
「ね、姉さん。その殺気は弟に向けるものじゃないですっ!! ちょっと、まだ立ち上がってなグ……ッ。く、首、くびが締まってぇぇ!」
「ではなトーレス、もう一度生きて会えるのを待ってるぞ」
「あ……うん……」
立ち上がる暇さえ与えずに襟をつかんで引きずる光景はおよそ姉弟とは思えないものだった。リッカ君大丈夫かな……、次会った時に眼帯とかしてたらどうしよう……。
けれど、人の心配をしている場合ではないことを僕は完全に忘れていた。
「ねぇ、トーレス……。トーカと、何、してたの?」
たどたどしさではない、蠱惑的な声で何かを確かめるように一音一音紡がれる言葉は、寝起きだからとかそういうことじゃないのは僕でも分かった。
……分かって、しまった。
「えと、ね? あ、ああ、ミカ起きてたんだ……、変な夢でも見たの、かなぁ……?」
「ねぇトーレス、怒ったりしないから正直に教えて?」
振り返ろうとした矢先に背後から体全体でしな垂れかかるように抱き着かれる。
あれ? 足元に細い影が奔ってるように見えるのは気のせいかな?
「トーカと、何してたの?」
「人生、相談……のような? ミカが怒るようなことは何も何も……」
「ふーん、そっか……トーレス、私に嘘つくんだ……ぐすんっ」
「あぁいやだからね?! トーカが珍しく落ち込んでたから僕なりに頑張ってただけで変なことはしてない……よ?」
「へぇ……じゃあ、どうやって慰めてたのか、教えてほしいな? 変なことしてなかったんだったらいいでしょ。ね、トーレス?」
眼をこすっても錯覚ではなかった足元の影が視界にちらつく中、自分よりも半分くらい年下に見える少女から詰問を受けること1時間。
疑いの目はいまだ続いているものの何とか許してくれた。ミカのお願いを一つ、どんなものであっても受け入れるという約束はさせられたけど……
『本編について』
・エイガの正体について
本編の通りトーカの異母兄妹です。
登場させたときは特に決めていなかった気がするのですが、名前が似ていることに気付いたのでそんな感じになりました。
『定期連絡』
・高評価、いいねなどいただければ、皆様には特に見返りはありませんが自分が喜びます。
・更新日の後にそのことを伝える呟きをしているので、思い出す用にツイッターフォローいただけると幸いです。
・細かい設定や反省点等々は完結後にでもおまけでまとめようとでも思っているので、質問をいただければまとめて回答します。よければどうぞお願いします。




