10.宵闇の男③
彼女の住む宿舎の部屋にもすぐについて、とりあえずベッドの上に横にする。昨日と同じように、ミカをアリスちゃんに見てもらうのはムリそうだ。
10代半ばに届かないほどに見える絶世の美少女を、成人した男が部屋に置いている。近所でおかしな噂が立たないといいのだけど……。
「アリス、トーレスのせなかでねるなんてずるい……」
「はは……、そんなに僕の背中気に入ってくれてるんだね」
出会って間もない美少女をおんぶしながら、二人きりで僕の家に帰る。少し前まで想像もできなかった状況。
夜も遅い、居酒屋のような店はいまだ賑わいを見せているだろうけど、人が多ければ犯罪率も多くなる。そんなところを歩いてトラブルに巻き込まれたくはないし、大人しく静かな道を歩くことにした。
家に着くにもまだ時間がある。ミカと二人になったのも思ってみればこれが実質初めてのようなものだし、なにか話してみよう。
僕自身この子のことをまだ良く分かっていない。
「ねえミカ、色々聞いてみたいことがあるんだけど、いいかな? もちろん、答えたくないことだったら言わなくていいし、そのことを追及したりしない」
「……ん、トーレスなら、いいよ」
薄々そう答えてくれるとは思っていたけど、本当にそうなるとは。出会って間もない僕に対してここまで心を許してくれているのは、嬉しい反面、少し不安な部分もある。
「じゃあそうだな……、やっぱりミカってあの時の『穢れ』というか、樹の中にいた女の子でいいんだよね」
「……うん、そうだよ。で、でもそのときのことはよくおぼえてないの……。う、うそじゃ、ないよ?」
「ミカを疑ったりしないよ。そっか、覚えてないんだったら僕と一緒だ。僕も、アイレンの攻撃に巻き込まれる時のことはよく覚えてないんだ。何か悪あがきはしたと思うんだけど……。ふふ、思い出せないや」
「へんなの、トーレスはわたしをたすけてくれて、わたしはたすけてもらったのにふたりともおぼえてないなんて」
「そうだね、それなのに今まで気にしなかったんだからおかしいね。似た者同士なのかな?」
「そうかも」
二人で静かに笑いあう。けれど、冷たく透き通った夜の空気はその声を遠くまで運んでいるかのように空気を細かく震わせる。
「それじゃ、次は……。その前のことは覚えてない? 僕たちと出会う前の事」
「……それも、よくおぼえてないの。ただ、くるしくて、でもわたしがちかづいただけでぜんぶだめになっちゃうから、かなしくて……、たすけてほしかった。そうしたら、トーレスがやってきてくれた……っ、ほんとうにうれしかった。ありがとうトーレス」
「そんな風に言われちゃうとなんだか照れちゃうな。僕がミカのところに行ったのはほんの偶然だったけど、助けられて本当に良かったって思う。君の声に気づかなかった時の事は考えられないし、考えたくないよ」
実際偶然だった。僕が式典の準備にまわされていれば観測室にはいかなかっただろうし、行ったとしても別件だ。ナキに資料を渡しに行くことなんてなかった。
ほんの偶然の重なり合いが彼女を助けられたのだとしたら——。
「運命、みたいなものなのかもね。気取った言い方になっちゃうけどその方が聞こえもいいし」
「うん、わたしもそう思う。わたしがトーレスにあえたのはうんめいだったんだって、きっとほかのひとじゃだめだったんだとおもう。……ねぇ、トーレス」
「どうしたの?」
「わたしからも、きいていい? トーレスのこと……」
おずおずと、彼女の思いが言葉になる。今日は振り回されてばかりだったけど、皆と交流を持てたのは本当に良かった。ミカはどれくらいかは分からないけどずっと一人だった。
暗闇の中で苦しんで、助けを求めることのできない冥界の影の中。それはどれほどの苦しみと孤独なのだろう。きっと、僕では耐えられない。
そんな彼女が、他人に興味を持ってくれている。今は僕だけでもこれから先、色々な人と出会うことができれば、きっとそれは素敵なことだ。
『穢れ』だった時のミカにかなえてあげたかった願い。その一歩目を断るわけがない。
「答えられることならなんでもいいよ。出来る限りミカに隠し事はしたくない」
「ありがとう、トーレス。えと、それじゃあね……? その……」
どうしたのだろう、どうにも歯切れが悪い。それに、心なしかモジモジと動いているような気がする。
「こういうことを聞くのは失礼なのかもしれないけど、トイレだったら——」
「ち、ちがうのっ、えとね? いうよ?」
「うん」
小さな呼吸で息を整えること数秒、僕の肩口を掴む手に力が入る。
「トーレスは、アリスのこと……、好きなの?」
「えっ、アリスちゃん? その、好きっていうのは……」
「………」
困った、額を背中に押し当てて黙りこんでしまった。この反応はどういうことだろうか、僕がアリスちゃんを好きかどうか。それをミカが聞くというのは……、やっぱりそういうことでいいのかなぁ。
だとしたら、はぐらかしたりするのは彼女にとって裏切りになってしまう。その気持ちに応えられるかどうかは分からないけれど——。
「うーん、そう、だなぁ。アリスちゃんは……」
「……っ———」
より強く、肩口を握る手に力が入る。
「妹、みたいな印象かな。僕より階級も上だから兄貴分としての威厳はゼロだけど……」
「……ほんと? ほんとに?」
「ふふっ、嘘はつかないよ。妹っていう意味でならすごく好きな相手だけどね。ただ、兄弟げんかをしようものなら惨敗しそうなのが難点かな」
その光景を想像して苦笑がこぼれる、まったくもっておかしな兄妹だ。
「そ、そっか。そっか! ふふん……。でも、トーレスのほうがつよいとおもうよ?」
「ハハ……、そう言ってくれるのは嬉しいけど、僕『原型』使いこなせてないからね。その時点で一級にはなれそうにないし。いや、無理してまでなりたいわけでもないんだけどさ。……そういえば“彼”、静かだな——」
「さっきのひとたちも、“いっきゅう”とか、“にきゅう”とかいってた……。トーレスは“にきゅう”なんだよね。なにがちがうの?」
独り言は新たな疑問で塗りつぶされる。
そうか、ミカが圏士のことを分からないのも当然か。
「基本的には強さの階級付けでね、皆最初は4級からなんだ。その後から自分は強くて賢いんだぞ、っていうことを偉い人にアピールすると一級に上がっていくんだ」
「じゃあ、トーレスもすぐ“いっきゅう”? になれるよ。つよくて、やさしいもの」
「ぁぁ……、ミカ。そこまで褒められちゃうと、照れちゃうよ」
「ほんとのことだもん。トーレスにうそはついたりしないよ」
ここまで信頼してくれているとは、ますます彼女を裏切るわけにはいかないと心の中で思う。でも、一級かぁ。今の僕では力が足りないとしかいえないなぁ。
「うーん……、でもね。四級から一級まで上がっていくためには、出来なきゃいけないことがあるんだ。僕はまだできないことがあるから二級のままっていうわけ、訓練はしてるんだけどね……」
ただ強ければいい、そんな特級とは違って四級から一級は昇格試験がある以上、きちんとした基準と言うものがある。
まず四級、これは簡単で『原型』に選ばれる。つまりは圏士として活動できるようにある状態だ。入隊試験の時に行うのだけど、並べられている『原型』を手に取って『代行者』の声が聞こえたら合格。そんなものだった。適性があるかどうかただそれだけで、まだ当人の強さは関係ない。
強い弱いが関係してくるのは三級から上、四級から三級は討滅局内で経験を積めば誰でも上がることができる。とはいっても怪物と命のやり取りをする以上、この時点で恐怖に負けてしまう人もいる。
圏士として生きていけるかどうか最初に心の強さがふるいにかけられる段階。ここで立ち直れずに辞めていった人を何人も見てきた。
ただ、最近では『穢れ』そのものが出てこないものだから、これまでの規定では三級に上がることすら難しくなってしまった。そのこともあってか、数年前からは『穢れ』の討滅、又は一年間の就労によってでも昇級が可能になった。
まさに時代の流れなのかもしれない。そのせいか、『簡易契約』はできるけど『穢れ』との戦闘経験がない人もチラホラと出てきているらしい。
そして二級、僕のいる階級だ。ここから『原型』の習熟が大きく関係してくる。『代行者』を通じて神格との契約を行えるかどうか。つまり神格との契約第一段階である『簡易契約』を行えるかどうか。『穢れ』と戦ううえで神の力を扱うことができないのは自身の命に関わる。その程度のこともできないような奴は前線にすら出さないというわけ。
そして最後に一級。ここに至るには『簡易契約』の上、『具象契約』を交わすことができるようにならなければならない。『具象』、神格の持つ技術、神器を現世において形にする神話の再現。
まさに神話に語り継がれてきた力が現れる以上、使用者にも相当の負担がかかる。そして、それを乗り越えたものだけが一級という称号を得られる。
「じゃあ、アリスってすごいんだ」
「そうだよ、僕にはまだ『簡易契約』しかできないからね。アリスちゃんが代償に何を要求されたのかは分からないけど、きっと辛かったろうね。『代行者』は僕たちの大事なものの中から『代償』を選んでいるから……」
「? 『だいしょう』って、ぜったいにはらわなくちゃいけないの?」
「うん、『簡易契約』だと本来の『代償』の代わりに、生命力というか、魔力っていう方が分かりやすいかな。”神威”っていうものを払えば使えるんだ。
でも、『具象契約』からはそれだけじゃ足りない。使う人の大事なものの中から一つ、神様に渡すことで力を貸してもらえるようになるんだよ。だからきっと……、アリスちゃんも何か大事なものを渡したんだろうね」
「トーレスは、やったことないの?」
「ないよ、僕は怖がりだからさ。何かをなくしてしまうのが怖いんだ……、それが大切なものならなおさらね。出来れば平和にのんびり生きて居られればいいんだけど——」
だから、アリスちゃんを尊敬するし、追いつけないと思ってしまう。無辜の人々を護るためだけに、自身の大切なものを捧げるなんて普通はできない。どれほど命を懸けても報われるかはわからない。その上、自分自身に対する被害だけは一級ときている。
つり合いが合わない。
得るものと失うものはせめて同質であるべきなのに、そうでなければあまりに報われないじゃないか。
だから、僕にはできない。何も持たないこの空っぽの手から、自分でも気づいていないものを取り上げられるのが怖くて仕方ないんだ。
「ううん、そんなことないよ。トーレスはこわがりなんかじゃない、だって———」
「よお、探したぜ」
「———ッ」
誰もいなかった、すれ違いすらしなかった一本道で、背後から声が掛かる。それも手を伸ばせば届くほどの距離から。
大きく距離を取りながら振り返る。
その気配は人の物ではないもっと異質な何か。だってあまりに静かすぎる。振り返れば目の前にいるはずなのに、“認識ができない”。
街灯に照らされた薄明りの中に融けこんだ、人とも分からぬ影法師。
世界を照らす月明かりはこんなにも眩いのに、捉えることのできない宵闇を纏っている。
まるで視界の盲点が移動しているかのように声の発生源だけが上手く認識できない。
「誰だ……」
「ああ、テメェは知らないだろうさ。なんせ初対面だからな、ちょっと興味があったから会いに来たんだが……。テメェ、本当にアイツの攻撃に巻き込まれたのか? 耐えきれるようには見えねえけどなあ」
姿は分からなくとも、言葉の端から感じる、隠そうともしない呆れと失望、あとは訝し気な態度が伝わってくる。
ミカの頭に手を置いて下げさせる。
奴は危険だ、何でもないかのように話しながらもその視線はこちらの隙を伺い、気を抜けば殺すとあざ笑っている。
まず最初に人ではないと感じた。それも至極当然だろう、奴が纏い放っている影は神威だ。だが、そうそう話すことのできる『穢れ』なんていないはず。
それならば、その力を使っているということは……。
「圏士、なのか……? なんで、街の中で契約をしている。有事でもない限り禁止されているはずだ」
簡易……、いや、具象契約か? くそ、神威さえもはぐらかされる。どれほどの出力なのかすら把握できない。陽炎のように揺らめいては背景に混ざり合っていく。いつの間にかそこには何もない。
「で、だ。俺はちょっと考えたんだよ、精々二級のお前がどうやって生き残ったのか。火事場の馬鹿力で防いだか、そこの『穢れ』に助けてもらったのか」
「———ッ!?」
「んな程度のことで驚くなよ、俺だってそれくらい調べるさ。でだ、どっちなんだろうな?」
自身の持つ直剣、『原型』に手をかける。
「前者はあり得ねえ、もしも『具象契約』以上のことをしてればそんなヘラヘラしてられねえだろ。分かるんだよ、死線をくぐった人間の空気ってやつだ。テメエからはそれがねえ、代償で喪った人間の顔じゃあない」
「……君には、関係のない話だ」
ゆっくりと、ミカを押すと一歩前へ。彼女を傍に置いておきたいけれど、守るために動けなくなっては本末転倒だ。僕が何とかしないといけない。
「トーレス……」
「ミカ、早く逃げて。コイツは何とかする」
「でも……」
「いいから、僕は大丈夫だから……。早くっ!」
「……っ、———」
足音が離れていく。せめて奴の視界から外れた場所までは——。
「あー……、続きいいか? で、後者の方だがあのガキに助けてもらったのか? 男のくせに、女に、しかもガキだ。そいつに助けてもらってめでたしめでたしってかぁ? なっさけねえ、テメエも男だったら女なんぞ奪って犯すぐらいして見せろよ。まさか、ガキに欲情するタイプか?」
片刃の直剣の形をとった『原型』を引き抜く。
「質問に答えるのは君の方だ……、圏士なのか。いったい僕に何の用だ」
「……はぁー、本当につまんねえ奴だな——」
一瞬、空気が揺らめいたかのように見えた。そして、次の瞬間には——。
「……ッ!! 簡———なっ? ぐっ……! かはっ———」
「おいおいおいおいおい。テメエいま構えてただろう、なんで防御もせずに吹っ飛ばされてんだ。オラ、さっさと起きろ」
「ッ———!!」
何も反応できずに吹き飛ばされた。速い、そして強い。『簡易契約』すら、結ぶ時間を与えてくれはしない。
いや……、今の感覚は——。
「簡易契約くらいまともにできねえのか?」
空気に薄く波紋が広がる。奴の姿を逃すまいと前を見るが、そこにはすでにいない。
道端に転がった僕の元へと一瞬で間を詰めると追撃の蹴りを仕掛ける。今度は来るのが分かっていた。両手を交差し、来るべき一撃を受け止めようとする。
しかし、ただの蹴りでありながら空気を捩じ切るかのごとく迫るそれは、およそ人の身で放つことが許された威力ではない。
ただ足を振り回しているだけのはずなのに、風が唸る。周囲の窓ガラスが大きく揺れ、ひび割れる音が耳に届く。衝撃が辺りを駆け廻り、自分よりも弱いものを破壊して回る。
「グッ——!?」
瞬きの間もなく着弾する。痛みを感じる暇もない。気づいた時には、無様にも再び地面を転がっている。
「ゲホッ——、づゥ……!」
次撃が来るぞ、次弾が来るぞ。立ちあがれ、対処しろ。
「ヅァ———!」
これまでと同じように淡々と、足元のゴミを払うかのような蹴り。しかしその一撃は空気を捩じ切り、周囲への衝撃は破壊を巻き起こす。
攻撃のタイミングはこれまでと同じだった。けれどその速さが常人の比ではない、態勢を立て直すと全力でその場を離脱する。一跳びで可能な限りの距離をとると身構える。だが、今度は追って来なかった。
「ハァ……、ハァ……、ゲホッ———」
すでに疲労困憊のこちらとは打って変わって、奴は服に着いた埃を払った程度にしか感じていないのだろう。此方を蹴った靴の汚れを確認しながら、息も切らさずに話の続きを始める。
「だから、俺は考えたわけだ。助かった方法がどっちか分かんねえなら……、再現すればいいってな」
「どういう、つもりだ……!」
「察しが悪ィなあ、つまりだ……」
「———ッ!?」
距離はとっていた。それこそ最初に声を掛けられた時よりもさらに遠く。だが、すでに目の前。
空気の揺らぎら起こさず、剣を振る暇さえ与えられずに胸ぐらを掴まれる。動きに伴った衝撃もそよ風すらも起きない。あまりに静寂で、それゆえに異質さが誇張されている。
そしてなによりおかしいのが。
(なんで、能力を使っているはずなのに……、“何も感じない”……!)
だが、宵闇の男はこちらの疑問などお構いなしに話し続ける。
「もう一度死にかければどっちかが分かるってわけだ。まあ、死ぬかもしれねえがそれはテメエが弱いのが悪い」
「ガ———ッ!!」
空に向かって投げ飛ばされた。抵抗する自由すら与えられないほどの膂力、空中できりもみ回転をしながらも何とか態勢を立て直そうとする。
……だが、間に合わない。
「ッラァ!!」
衝撃によって、いくつもの内臓が潰れたかのような破裂音が頭蓋の中を反響する。コイツ、吹き飛ばした相手に追いついた上に、追撃を——。
思考はそこまで、次に感じたのは地上へと激突した衝撃だった。
(———っ……)
受け身もとれず、思考する力すら粉砕されかけている。路地裏の中央、左右の壁に阻まれて月明かりすら届きはしない。立て、立たないと……、奴はこちらを逃すつもり何てさらさらない。
『もう一度死にかければわかる』
なぜだ、なぜそんなことを知ろうとする。僕がどうやってアイレンの攻撃から助かったか? そんなこと、覚えていないのだから仕方ないじゃないか。
僕の力では無理だといった。ならばミカに救われたのだと。ならなぜ、そこにはアイレンが手を抜いたという選択肢が存在しないんだ。
そうでもなければ『具象契約』すらできない僕が助かっているわけがない。
「ハ……ッ、はぁ———」
上手く呼吸ができない。
怖い、実力差が圧倒的すぎる。どうして、僕がこんな目にあっているんだ。
多くを望みはしなかった。最初は偶然なることになった圏士だったし、怪我することも怖かった。でも、力があるのなら、こんな僕にでも出来ることがあるのなら。
ただ、自分にできる範囲が救えればそれでよかった。
それすら許されないのか。それも、『穢れ』との戦いですらなく、同じ圏士によって死を迎えようとしている。
「おい、休憩は済んだか? 奥の手があるならとっとと出せ、俺もいたぶるだけなのはつまんねえ。おら、せっかくだ。契約が終わるまでは待っててやる」
またしても音すらなく現れる。今度は近づいてくることなく路地裏の入り口である通りに立っている。
あの場所なら、月明かりに照らされているはずだ。それでも見えない。視界の中央に捉えているはずなのにぽっかりと穴が開いている。その穴すら気を抜けば違和感としてみることができない。
「くそ……」
壁に手を突きながら立ち上がる。
なぜ、こんなことになったのだろう。さっきまではみんなと楽しくやっていたはずなのに。
死とはあまりに唐突で、理不尽だ。アイレンの攻撃に生き残ったことがここにきてツケを払わせようとしているのか。
剣に手をかける。だが、出来るのか? さっき、『簡易契約』を行おうとした時の感覚。あれではまるでアリスちゃんが言っていたかのような……。
(考えるな……、今はコイツを何とかしないと。でなくちゃミカにまで危険が及ぶ、それは絶対に許すわけにはいかない)
僕が死にそうになればどちらか分かる。なら、僕の力で生き残ったのでないと奴が断定すれば、間違いなくミカを襲う。
———ダメだ、彼女はようやく歩き出したばかりなのに。
今日、皆の前でうろたえながらも楽しそうだった彼女の姿を、僕に笑いかけてくれる姿を思い出す。
「それを……!」
昔のことはよく覚えていないといった。覚えているのは僕に助けられるまでは辛く悲しいことだけだと、二度とそんな目には合わせるわけにいかない。
あの子にはこれから先も日の光の下、笑顔で居てほしい。そのそばで、彼女の成長を見て居たいというのは決して間違った願いなんかじゃない。
「お前なんかに——ッ!!」
だから、負けるわけにはいかない。例え失うものがあったとしても、人は何かを捨てながら生きている以上、当然の摂理だと割り切るしかない。
その結果が辛くとも、これから先の笑顔を捨てる理由にはならない。
ならば選択肢は一つ、奴と同じ領域に立つしかない。
「お前を……ここで倒すッ!!」
「フッ、アッハハハハ……いいぜ、来い。そうでなくちゃつまらねえ、精々命まで持ってかれねえようするこったな!」
「……行くぞ…ッ、『具象契約』 代償をここに、来れ超越、其は天命覆す神座の簒奪者!!」
今ここに、神へと代償を供物として捧げる。
神話、伝承における武具、逸話をこの身に宿す『具象契約』を成し遂げるべく、言葉を張り上げる!!
『本編について』
・『代償』について
代償契約を行う際に必要となる『代償』ですが、能力発動時毎に支払うパターンと、初めての能力発動時に一度だけ支払うパターンがあります。
基本的には発動毎のパターンの方が、一度だけ支払うパターンよりも多い傾向にあります。
『定期連絡』
・高評価、いいねなどいただければ、皆様には特に見返りはありませんが自分が喜びます。
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