第8話 廃棄物
「いやはや。馬鹿弟子に演じろとメールできた時は偉くなったものだなと思いましたよ、ははは」
オズマは嬉しそうに笑い、対称的にココナは不服そうにそっぽ向いていた。
「シトラ殿、昨日の強盗事件お見事でした。うちの馬鹿弟子は殺しの許可が降りると大抵は殺す狂戦士なので、生かして情報を吐かせることしないのですよ」
「は、はぁ……というか私の名前知ってるんですね」
「馬鹿弟子から聞かされましたからね。シトラ殿は開拓者になりえる人材だとうるさくて」
「なりませんよ」
「知っています。けれど私情を抜きにしても開拓者になるのはお勧めしますよ。特に星々を旅する人には」
まるで心の底まで見透かされてるようでシトラは半目で疑心に思う。
「探索機は未知の惑星に必要ですから大抵は宇宙を旅をする人になります。ですので個人情報を引き抜いたとか疑わなくて大丈夫ですよ」
食えない人だなぁっと警戒心を緩めずついていく。廊下の最奥につき重い鉄の扉が開いた先に探索機が山積みに転がってドローンに回収されている光景だった。
「ドローン、作業中止です」
回収用ドローンは命令に背くことなく定位置に移動する。
「あの中から好きな物選んで構いません」
「新品じゃないんですね」
「流石に新品をタダで譲るのは信用と信頼に支障が出ますから。廃棄品なら客も黙ることでしょう」
「ようは不平等にならないためですか」
「左様です。もっとも宇宙船の方は違いますが」
「……?」
「さ、お選びください。中には数千万マネする探索機もあります」
「マジで? じゃあ遠慮なく」
宝物を探す盗人のように掻き分けていると横からココナが割り込んでくる。
「これ五百万する探索機、こっちは三十万する探索機」
私は疑いの目でココナを見ると慌てて手を横に振る。
「ほ、本当本当! 嘘ついてない!」
「さっきまで私を騙そうとしたのに?」
「うぐっ!」
「馬鹿弟子、よく覚えておきなさい。一度信用が落ちると回復するのに多大な時間がかかると」
「うぐうぐっ?!」
機械少女なのに人間らしく膝をつく。視線を戻し先ほどココナが指した探索機を見つめる。
五百万する探索機は汚れていても高級感がありコンパクトな見た目だ。次に三十万は繋ぎ目があり安っぽい側面をしている。確かにココナが言ったことは本当かもしれない。
「ん? これは」
取り出した赤い探索機が不思議としっくりくる。オズマにどんな探索機か聞くと答えてくれた。
「遠い星のある国の文化をモチーフにした探索機です。確か『笠』でしたか。私は一度もその星を訪れたことがないのですが、かなりユニークな星と聞きます」
「へぇー」
「機能面は申し分ありません。ではなぜ廃棄されたのかですが、お喋り機能という人と話す機能が不要と感じ、捨てられたのでしょう」
言語の翻訳、生命体の感知、情報記録や情報共有が最低限があれば使える範疇だ。
そこから拡張して色んな機能がつくのだが中にはこれいる?とまでいらないやつもある。
お喋り機能もその中に含まれている。
なぜなら喋っても利益は得られないし、無駄にエネルギーを消費してしまうからだ。
「それにしますか?」
「これって数千万しますか?」
「物の価値は値段で決まりません。シトラ殿が価値と思ったものがなりえるのです」
期待はしていなかったが流石に言ってくれないか。再び私は視線を戻す。
数千万する探索機の見た目かと言われたら多分数百万程度だろう。けれど後悔しないならこの探索機がいい。だって見た目が気に入ったから。
それ以上でもそれ以下でもない。
「これにします」
「分かりました。ではこちらに電話番号とサインの記入お願いします」
差し出された電子契約書に電話番号とサインを書いて返す。確かこういうのを棚からぼたもちって言うんだっけ。幸運なことがあると使うと旅人さんは言っていた。
オズマは何も言わず微笑んで探索機を手に取る。
「ではこちらを修理いたします。少々お時間をいただきますがよろしいですか?」
「いいですけど修理費請求しなくていいんですか?」
「契約してもらいましたから一年保証という無料修理が適用できます。これなら客も文句のつけようがないでしょう」
「やっぱり食えないやつ」
ふふっと微笑んでオズマはココナに向ける。
「馬鹿弟子。昨日の強盗事件しでかした罰ですが、今日一日シトラ殿に宇宙船の案内でチャラにしてあげます」
「えぇ〜面倒くさい」
「私と組手勝負一万本の方がいいですか?」
「案内する! シトラが喜ぶよう頑張ります!」
「よろしい。ではシトラ殿、私はこれで」
取り残された二人は微妙な空気感に包まれる。先に口を開いたのはココナだった。
「あ、案内するからついてきて」
「嫌といったら?」
「私が死ぬからやめて……」
弱みを握って相手を支配するのは好きじゃないけどこれはこれで悪くない気分だ。
ともあれ宇宙船の売り場まで牽引してくれるのは余計な寄り道せずにすむかもしれないと私はタカをくくってた。