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星々の旅々ーThe stars of Shitoraー  作者: レモンパンチ
第1章 旅の始まり
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第7話 再び

朝食が私の今日の始まりを告げる合図だ。

とろりとした黄身、芳醇に香る焼いたパン、うねうねと動く新鮮なソーセージを飲み込むとオルバスはコーヒー片手に一息つく。


「今日は探索機(ナビゲーター)を見に行くぞ」


言語の翻訳、生命体の感知、情報記録や情報共有等といった旅をするに欠かせないのが探索機だ。旅人さんは宇宙船の次に必要な物と言っていた。が、オルバスのある言葉に引っかかる。


「買うじゃなくて?」


「買えるとでも?」


「……デスヨネ」


とにかく金、金、金ともうとにかく金が足りない。ならどうお金を増やすかだけどオルバスによれば……


「働くか、賞金稼ぎとなって依頼をこなすかだな。前者は実りが少ないが安全だし、後者はその逆になる」


一刻も早く旅がしたいなら後者だろう。但し命懸けになるとオルバスは強めに言葉にする。


「まぁ先に決めておくのも悪くないだろう」


「……そうだね。じゃあ、私に相応しい探索機(ナビゲーター)を見つけてやろうじゃないの」


「金があればかっこよかったんだけどな」


うぐっと痛恨の一撃が入る。朝食の皿洗いとオルバスの奥さんの手伝いを終えて探索機が売られてる市場へと一人で向かった。そう一人で。


「まさか店サボって行ってたとわねぇ」


昨日、オルバスが一緒に回ってくれたのはサボるための口述作りと奥さんから聞いた。流石に繁忙期なこともあり泣く泣く連れていかれたのを遠目で見送った。


「おお、ここが探索機の店か」


新しく買った携帯端末でマップを見ながら辿り着く。もちろん道中、寄り道したので予定より二時間遅れての到着だ。

純白染る四角いキューブの建物に自動ドアが付いたシンプル構造。中に入ると異種族がそれぞれ飾られた探索機を見定めている。


〈いらっしゃいませ。お一人様ですか?〉


ビクッと肩が震えるも声のする方に振り向く。

白い球体に緑色のランプが付いたドローンがぷかぷかと泡のように浮かんでいた。


「はい、そうです」


〈ご見学ですか? ご購入をご希望ですか?〉


「一応見学しにきました」


〈分かりました。何かございましたら我々店員ドローンにお声掛けしてください〉


こくりと頷いてドローンは他の客の方に向かっていく。私は適当に探索機を眺めてはその金額に胃を痛めながら相棒となる探索機を探す。

たまに私を見てコソコソ話す三人のヒューマンがいて、視線は他所に聞き耳を立てる。


「新聞に写ってた子だ」


「昨日の強盗事件、レッドアイじゃなくてあの子が解決したとか」


「ヒューマンなのに蜥蜴人を素手で気絶させたらしいぜ」


「本当かそれ」


「話しかけてみるか?」


「やめとけ。もし本当なら俺らボコボコにされるっつうの」


とシトラに興味津々な三人だ。それを聞いたシトラは微塵も興味なく自分に合う探索機が見つからず、小さくため息をついて別のフロアに移動する。


「ないなぁ」


色合い、耐久性、拡張性、豊富な機能、特にピピッとこれだという物がない。

まぁもっとも金という根本的な物がないとどうにもならないのだが……


「うん?」


視界に見覚えのある金髪のあの女が映る。

どうやら動物デザインの探索機の金額に頭を抱えているようで、私は「ざまぁ」と自分に特大ブーメランを投げてしまう。

ま、まぁ武器や防護スーツとか必需品だし、何よりまだ手持ちに十万マネはある。頑張って値切りすれば百万以上する探索機を十万マネまで下げることが可能のはずだ。

くるりと百八十度回転して引き返す。


「見つけた、シトラ」


そこに赤髪少女ココナが獲物を見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべていた。


「何もしてないですよ?」


もちろん私は純粋無垢の清廉潔白だ。他人の不幸を笑うやべぇー奴ではない決して。


「あの、どうしてココナさんがここにいるんですか?」


「シトラの姿を見掛けたから追っかけてきた」


「ストーカーなら大人しく警察に捕まってください」


「捕まらない。だって開拓者(セトラス)だから」


「開拓者って警察だったりします?」


「する時もある。で、シトラの話はこれで終わり?」


頷くとまた連れていかれそうな気がしたので首を横に振る。


「私に見合う探索機(ナビゲーター)を探しているんですけど見つからなくて」


「予算は?」


「……十万マネ」


笑いたきゃ笑えと思ったがココナは少し考え込んでゆっくりと口を開く。


「それなら廃棄予定の探索機がおすすめ。中には掘り出し物があるから見てみるといい」


買うことの出来る探索機があることに驚くシトラ。するとココナは小悪魔な笑顔になってシトラの耳元に囁く。


「変なことはしない。私の話を聞いてくれるなら場所教えてあげる」


嫌な予感ダダ漏れだが、シトラは旅の支度とココナの提案を天秤にかける。どちらも同じ重さだったが最終的に傾いたのは……


「教えてください」


ニッコリわざとらしく笑ってココナはシトラを連れていく。誰かが後ろで「ざまぁ」と嘲笑っていたのをシトラは気配で感じた。チキショあの女覚えてろ。

ちなみに場所はそこまで離れていなかった。寧ろ裏口と呼べる入口と真逆の場所に連れてこられた。


「開拓者のココナ。訳あってここに入らせてもらう」


〈承諾。ココナ様、どうぞお入りください〉


受け付けAIの承諾を得て裏口を入る。

どうやら一般人は立ち入り禁止なようで、関係者以外で入るには開拓者か警察だけらしい。自力で探そうとしてもココナがいなければどの道入れなかった。


「おやおや、まさかレッドアイと呼ばれる開拓者様が来られるとは」


眼鏡をかけた黒髪のハンサムが営業スマイル全開でココナに近づいてくる。私はおまけ感覚にチラッと見られたくらいだった。


「どのようなご用件でしょうか?」


「廃棄予定の探索機を十万マネで譲って」


「廃棄予定の探索機を十万マネで? 失礼ですが何に使用されるのですか?」


「この子にあげるだけ」


シトラに視線を向けると眼鏡ハンサムは少し躊躇って眉を曲げる。


「この少女はどういうご関係ですか?」


「私が気になった少女。ゆくゆくは開拓者(セトラス)になる期待の星」


開拓者になりませんよっと心で呟く。眼鏡ハンサムはじろりと全体を隈無く見つめ首を小さく横に振る。


「どこから見てもただのヒューマンにしか見えません。機械少女ならともかく私が確信できるほどの証拠がありますか?」


ココナはおもむろに右手からプラグを取り出して携帯端末に差し込む。すると昨日の蜥蜴野郎がシトラによって転ばさせられる瞬間を収めた映像が流れる。


「昨日の強盗事件は知ってるでしょ。私が捕まえたってなってるけど本当はこの子のおかげで逮捕できた」


ズレた眼鏡の位置を直すハンサム。ちょっと笑いを堪えているようにも見える。


「もしこの映像が加工されたいたらクオリティ高いですね。たった一日で作るには流石のレッドアイでも不可能かと思われますので、これは本当なのでしょう」


「信じてくれた?」


「はい。ですがこの少女は開拓者になる決心はあるのですか?」


眼鏡ハンサムは心を見透かしたようにシトラを睨みつける。もちろんシトラはなるつもりがない。どこかに所属するのは束縛する鎖に等しいからだ。彼女が答えるのただ一つ。


「なるつもりないよ」


ここでなるっと言ってしまえば探索機は手に入ったかもしれない。けれど宣言してしまえばココナの思惑通りになると思ったからだ。

確証はない。けれど確信はある。ココナといた時間は少ないのに妙に好意的だったからだ。

私は他人に束縛されたくない。自由気ままに自分勝手に旅をしてこそ目指したそれになれると信じているから。

だから目の前に金が落ちていようと他人に首輪を付けられるなら蹴ってやる。


「分かりました。では廃棄処分場に行きましょう」


「へぇ?」


私は予想外の言葉に驚いているとココナが頬を膨らます。


「なるって言ってくれたら楽だったのに」


「楽?」


「こいつは開拓者になれる人材を見つけて私に少しでも一泡吹かせたいのですよ」


「違う。私は開拓者を増やして毎日来る依頼を減らしたいだけ」


「開拓者は依頼を受けるか受けないか自由です。開拓者はあくまで自由の象徴ですからね」


眼鏡ハンサムは「それと」と話を続ける。


「機械少女になって表情を殺せても行動と言葉は殺せてませんね。もっと精進しなさい、馬鹿弟子」


「……はい」


「すみません。うちの馬鹿弟子は強引で言葉足らずなので、不快にさせたと思います。お詫びと言ってはなんですがタダで廃棄予定の探索機をお譲りします」


状況が全く追いついていないシトラは疑問だらけで佇んでいると眼鏡ハンサムはクイッとわざとらしく眼鏡を触る。


「そういえば名乗り忘れておりました。私、開拓者兼コスモス・ナビゲーター社の社長オズマ・アーテンと申します。以後お見知りおきを、シトラ殿」


呆気に取られた私は「はい」としか頷けなかった。

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