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星々の旅々ーThe stars of Shitoraー  作者: レモンパンチ
第1章 旅の始まり
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第2話 旅は道連れ

車両の中は思ったよりも静寂だった。汽車の音色は背景音楽に変わり、私は切符に書かれた席を探す。


「えーと、5号車の8Aは……ここだ」


8Aと8Bが書かれた電子ボードを見て扉を開ける。最初に目に入ったのは窓の外に見える星空……ではなく本を読む金髪の少女だった。

夜空に輝く星のような金色のミディアム、彫りの深い顔つきと真紅に帯びた瞳に吸い込まれそうになる。

ちらっと本を見ると『開拓者(セトラス)の極意』と書かれたよく分からない難しい本を読んでいる。

部屋間違えたのかなっと思い、再度ボードを確認するとこの部屋で間違いなかった。

対面ではあるがどうやら相席になっているようだ。少し緊張するが気持ちを切り替えて気合いを入れる。


「こんにちは、こんばんは。8A席の人です」


こんにちはか、こんばんはか、どっちか迷ったけど二つ言えば万事解決だよね。まぁこれで微妙な空気感はなくなったかな。

……あわよくば旅の話を聞けること期待して。


「……」


金髪少女は視線をシトラにあちこち向ける。一通り見終わると視線がより鋭くなり血色のいい唇が開いた。


「馴れ馴れしいですわ」


「なっ」


棘のある言葉がシトラにびっしり突き刺さる。


「普通の挨拶だよ!?」


「うるさいですわ、田舎娘。その唾飛ばされると田舎の臭いが移りそうですわ」


「な、なにをぉ! 口臭は一番気を使ってるんだよ!?」


対立。いや、敵対。お互いが仲良くなれないことを察するのに時間は要さなかった。


「そっちこそババ臭い香水が鼻につく!」


「なっ。その傲慢な態度に鼻がつきますわ!」


「ブーメラン特大ブーメランでーす! そっちが先に傲慢な態度取りましたぁ!」


怒気、殺気、憎気、負の感情が部屋から漏れ出し、他の乗客が通報して車掌が来るまで早かった。二人は車掌から他の乗客に迷惑が掛からないよう厳重に注意され、駅に着くまで大人しくすることを言い渡される。

もし出来なければ即刻宇宙の外に放り出すと脅して。

渋々二人は大人しく座り、駅に着くまでお互いずっと睨み続けたのだった。


「やっと椅子から解放されたぁ〜」


長い長い汽車の旅路を経て目的の惑星につく。

様々な異種族が行き交う駅内を見て私は心が踊った。だが、途中であの女の姿が映り、視線が合うと舌打ちして睨み去っていった。


「あいつがこの星にいるのなんか癪だ」


会わなければ問題ない……問題ないはずなのにいると思っただけで無性に腹が立つ。

あんまりひとつのことに囚われると他の用事に集中できないから気持ち切り替えていこう。


「えーと、惑星ジグマ。またの名を技術の星か」


手紙を広げて降り立った惑星の名を口にする。

通称『技術の星』。ありとあらゆる最先端技術が揃う銀河系ぶっちぎりの科学文明惑星。

これが欲しいあれが欲しいと思ったものがこの星にはあると豪語できるほど文明が発達している。私の欲しい理想の宇宙船とかもあるかもしれない。


「おおっと。見惚れてる場合じゃない。目的の場所は……『喫茶店スルト』ね」


手紙をポケットにしまい、携帯端末機、略して携帯を取り出す。

私の住んでいた惑星で数少ない機械の一つだ。この携帯を使えば連絡やメール、マップの表示等ができる。但しこの携帯では連絡系がその星でしかやり取りできないのが難点だ。


「マップ表示……マップ表示……あれ? できない」


マップ情報不明と表示されて焦るシトラ。

早速シトラの文明はおじゃんになった。

どうすればいいか悩んで葛藤するも通行人が歩く歩道に視線を向ける。少し躊躇しながらも通行人に道を訪ねることにした。


「すみません。喫茶店スルトをご存知ありませんか?」


宇宙で最も使われる共通言語で話しかける。

前に旅人さんから一番苦労したのはなにかと聞いた時に言語の違いと答えた。

何でも言語が違えば交渉も話し合いも成立しないらしく、下手したら敵対することもあったとか。

そのため共通言語を覚えて当たり前、知らない言語があれば探索機(ナビゲーター)が必須と酒臭さ全開で私に抱きつき語った。あの強烈な臭いは一生恨んでやる。


「ん? ワシか?」


全身白い髭を生やしたモップみたいなモジャモジャの人が自分を指して私は頷いた。


「はい。あ、知らなければ別に大丈夫です」


「いいや、知ってるとも。ほれあの大通りを右に曲がってすぐじゃ。結構目立っておるから分かると思うぞい」


私はお礼を言うとモジャモジャさんは嬉しそうに「またのう」と手を振って人混みに消えていった。どうやらあの女みたいに全員冷たいわけではなさそうだ。


「あの大通りを右にね」


私はやや駆け足で走る。あまりゆっくり歩いていると必ず目移りしてしまうと勘が告げているので善は急げだ。

右に曲がり真っ直ぐ走っていると目的の場所があれだとすぐに分かった。

カラフルな炎色で喫茶店スルトと看板があり、地獄へようこそと一言添えて熱烈に暑く客を迎える店構えだ。

喫茶店ってこんな暑苦しかったっけ?


「と、とりあえず中に入ろう」


旅人さんに会えるならたとえ地獄でも宇宙の果までも行ってやろう。


「なっ、暑くないのに暑く感じる……!?」


中は白い壁と石畳の構造だ。そこまでは問題ないが、お客が大柄な人ばかりで席の隙間という隙間がないに等しく、一種のサウナのような蒸し暑さであった。

私はぼっーとしていると岩のようにゴツイ店員が優しい笑みで近づいてくる。


「いらっしゃいませ。お一人ですか?」


「あ、えーと。私、シトラって言うんですけど、ここにシトラを待っている人っていませんか?」


「少々お待ちください」


店員は確認するため厨房の奥に行く。少しして店員が戻ってきて手のひらを奥の方に向ける。


「案内しますのでついてきてください」


私は店員のあとをついていき奥の方に進んでいく。チラチラと視線がこちらに向いて、珍しいものを見るようであまり落ち着かない。


「この部屋です。土足で上がれませんので、靴はこのロッカーにしまってください。では」


店員は持ち場に戻り、言われた通りに靴を脱いでロッカーにしまう。目の前に扉の向こうに旅人がいると思うと緊張して手汗が止まらない。

深呼吸して平常心を忘れぬうちに扉をスライドさせる。


「ひ、久しぶりです! たびび……え?」


そこに居たのは顔中傷だらけのおっさんだった。付け加えるなら眼帯を着けたちょび髭おっさんだ。


「お前がシトラか。思ったよりヒョロヒョロなガキじゃねぇか」


強面の顔で無理矢理おぞましいクリチャーの笑顔を作る。

拝啓、お父さん、お母さん。

私は人生で最大の壁にぶつかったかもしれません。

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