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星々の旅々ーThe stars of Shitoraー  作者: レモンパンチ
第1章 旅の始まり
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第1話 星を紡ぐ旅人

見切り電車の到着です。伏線? そんなものレールの上に置いてきました。冗談です。宇宙規模の伏線はありませんので気軽に見ていってください。では発車いたします。

物心ついた頃から幼き彼女は宇宙に憧れた。

夜空に煌めく星の数だけ知らない世界が広がっていて誰も見たことのない景色があると信じて。

宇宙の果てに何があるのか、妄想が絶え間なく膨らんで夜も眠れない日々を送った。

そんなある日、偶然かはたまた運命か幼き彼女は宇宙を放浪する旅人と出会う。


何でも壊れた宇宙船を修理するためその星に寄ったとの事だ。最初に出会ったこともあり幼き彼女の家でしばらく滞在することになった。

旅人の宇宙の旅話はどれも未知と願望が詰まった星の瓶詰めで、彼女はより一層宇宙に憧れを抱いた。


憧れを抱くのは仕方ないだろう。幼き彼女の住む星は何の変哲もない平凡な星だ。農産物も化学技術も文化も水のように味っけがない。

例えるなら宇宙船があるのが珍しいといったところ。表現を変えると車が走っているのが珍しいと言った具合のド田舎ぶりである。

しかし旅人は嬉しそうにこの星はどんな星よりも輝いてるといった。

幼き彼女は「なぜ」と口にすると「君が嬉しそうに笑っているから」と口説いみせる。


無垢な幼女は「旅人さんは笑わないの」と意表を突く形で聞く。

旅人は「概ね笑うね。でも旅をしてるとそうじゃない時もあるよ」と冷たい現実を突きつける。幼子には酷な話だが理想と現実はかけ離れいるほどショックが大きく膨らんでいく。

けれど「それでも旅がしたい」と旅人に伝える。


旅人は「15歳になってもその想いが変わってないなら旅路を手伝ってあげる」と約束した。

幼女は嬉しそうに飛び上がり畑を耕すように走り回った。そんな小さな妖精に旅人は「旅人の基礎を教える」とちょっとした体験のつもりでレクチャーしようとした。


だが、旅人の訓練は常軌を逸していた。さらに指導がド下手なこともあって、幼女にとって地獄とも呼べる訓練が始まる。

大の大人でもギブアップするほどの訓練に幼女は必死に食らいついていく。意外にもスペックが高かったこともあり訓練は長く続いた。

執念か好奇心か憧れかどれにせよ生き抜いた。

やがて宇宙船が直ると旅人は名残惜しそうにその星を去っていった。

幼女は十五になるその時まで旅人に教わった訓練を続けながら。




8年後───────




幼女は少女へと成長していた。

まだあどけなさが残る体つきだが、銀色に輝く髪を靡かせて天使のような笑顔を振り撒き、男性の胸を幾度も貫いている。

二週間前その星で成人の15歳を迎えた。両親は嫁入りしてほしかったが少女の心は空の上にある。誰も止めることはできない。

少女は収穫した野菜を家に持ち帰り扉を開ける。


「ただいま〜」


収穫した野菜をキッチンに置いて疲れた体を労うように肩を回す。


「おかえり、シトラ。あなた宛ての手紙が届いているわよ」


母は少女の名前を口にするとシトラは自分に手紙? と首を傾げて声に出す。


「この時期で私宛てって珍しいね」


シトラは手紙を貰うことが少ない。あるとするなら祖父祖父か、村長くらいだ。だが実際は熱烈な恋文がいくつも届いている。ほとんど父親が蹴ってしまっているが。

大切な娘をどこの馬の骨とも知らない男にくれてやるつもりはないの一点張りだ。

もちろんシトラは知る由もない。


「遠い星からの文通だそうよ。シトラにそんな知り合いいたかしら?」


シトラは目を見開いて手紙を強奪するように取るとすぐ自室へ戻った。

一度もこの星から出たことないシトラは星を(また)いでまで文通する知り合いはいない。ある人を除いて。


『拝啓 シトラちゃん

はろ〜お久しぶり。覚えてる? あの時の旅人さんだよ。

先日、シトラちゃんが15歳になったこと思い出して手紙を(つつ)ったんだ。

まぁこれが届くのは早くて二週間後かな?

何せ交渉でちょっと面倒事が起こって住人を黙らせるのに手間取っちゃった。聖晶薬を無償で譲れって浅はかもいいところだよ全く。

しかも自分達が神に遣わされた者って言ったときは腹抱えて笑ったよ。拳で黙らせたけどね。

ああ、土産話いっぱいしたいけど口頭で話したいからまた今度。

さて、そろそろ本題に入るね。

シトラちゃん、今でも旅人になりたい気持ち変わっていない?

もし変わっていないならある惑星のある場所に来てほしい。

行き方は手紙と同封した切符を使えば大丈夫だよ。間違えても捨てるんじゃないよ?

あと片道だから使ったら最後、戻れないから覚悟してね。

以上、旅人さんからだ。


         君を思う旅人さんより』


手紙と同封していた切符を取り出す。

『銀河鉄道サウザンド号ジグマ行き』と書かれた切符。光に翳せば文字がキラキラと夜空のように輝き、私はにっこりと口の端を上げる。


「よし! 今日行こう!」


決断は早かった。

八年の歳月。積もりに積もった憧憬はキャンバスの枠を広げていくように大きくなっていた。

フタをするのは無理な話だ。

善は急げとシトラは二週間前に用意した旅行鞄をベッドの下から取り出し、ドタドタと階段をかけ降りてキッチンに突撃する。


「お母さん! 私、旅してくる!」


唐突な表明に母親は味見のスープを吐き出す。


「ご、ふぇあ!? な、なに突然!?」


「だ・か・ら! 旅をしに行くの! 前々から言ってたでしょ?」


八年前から宇宙の旅を夢見ていたシトラ。もちろん両親は危険な旅に反対した。

何度も宇宙は怖いところだぞと言い聞かせていたが、シトラの気持ちは変わらず八年間貫き続けた。

そして半年前にようやく両親は骨が折れて行くことを承諾する。だが、あまりに突発的で母親は心の準備時間がほしかった。


「いくらなんでも唐突すぎない? 出来ればもう少しいて……」


「行くって言ったら行く! たとえ死んでも絶対行ってやるから!」


「分かった。分かったから落ち着いて。お父さんにも伝えなきゃだから」


「それなら大丈夫。さっき連絡したから」


「手際いいけど絶対泡吹いて倒れてるわ」


倒れる姿が容易に想像できる。もはやシトラを止める手段はない。けれど母親は一つだけ確認することがあった。


「シトラが行きたい気持ちは理解してるつもりよ。けどいつかまた元気な姿で戻ってくること、約束できる?」


「もちろん。死んでも故郷に戻ってくるよ」


「そこは生きて帰ってほしいわ」


子はいずれ巣立つものだ。畳んだ翼を広げて羽ばたいていく。寂しさも嬉しさも混ざりあってまた彼女の笑顔を見ることを親は望んでいる。

……あわよくば孫の顔も見れることも望んで。


「よーし。今日の夕食はシトラの好きなビーフシチュー作ってあげるわ」


「え、ほんと!? じゃあ楽しみにしなきゃ!」


やはり母親。

シトラの胃袋はしっかりと掴んでおり、最後の晩餐を家族団欒(だんらん)と過ごした。途中、父親が何度も腕相撲を仕掛けてきたが余裕綽々で返り討ちにし旅の切符を手にしたのだった。


「ほ、本当に行っちまうのか」


涙袋が崩壊する父親と父親の背中をさする母親。それを背にシトラは星空を見上げる。


「うん。私、もう決めたから」


「あなた、そろそろ涙拭いて。折角のシトラの旅路に泥を塗ちゃうわ」


「うぅ……俺は……俺は…………」


母親は眉を曲げて吐息を吐く。


「シトラ、私達はあなたが帰ってくるのずっと待ってるわ」


言葉が詰まる。シトラの旅路を応援したくても喉に何かが詰まって掠れた声しか出せない。

どうやら気が付かないうちに私もお父さんと同じ気持ちが込み上げてきたみたいだ。


「シトラ、必ず帰って来い嫌なことがあったらすぐ帰って来い怪我したら飛んで帰ってこい怪我させた奴ら涙目にさせてやるから」


シトラは苦笑いを浮かべつつも父親が心配している気持ちが十分に感じ取れた。そして涙を手で拭いで鋭い眼光になる。


「シトラの旅路に星々の祝福があらんことを」


母親が言えなかった言葉を父親が代弁する。

今までにない飛び切りの笑顔をシトラは浮かべて「ありがとう」と伝える。

シトラは星空に切符を翳し、乗車と声にする。

すると空から流星がシトラ達に向かって落ちてくる。あと少しでぶつかるといった距離で流星が減速していき、汽笛を鳴らした。

黒いボディーに金色の文字で描かれた『サウザンド号』が煙突から黒い煙を吹き、白い吐息を車輪に撒き散らしてシトラの前に止まる。

車両の扉が開いて透明の階段が彼女を迎えにきたと言わんばかりに形成されていく。

トントントンっとシトラは上がっていき、くるりと左足を軸に振り返る。


「いってきます!」


「「いってらっしゃい」」


別れを告げた瞬間、車両の扉が閉まる。

汽車の轟音が静寂の夜を響かせ、ゆっくりと車輪が回り出す。やがて加速していき、星空の彼方へ消えていったのだった。

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