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第4話 付与魔術師の苦悩

 うかつにも、マリシエとパーティを組むことを承諾してしまった俺は、激しい後悔の念に襲われていた。

 杖やローブといった装備を見れば魔術師であることは容易に想像できたとは言え、まさかリーリスのやつと同じ付与魔術師だとは微塵も考えていなかった。

「早速ダンジョン探索に行きましょう!」

 出会ったときとは別人のように、大きな瞳を子供のように輝かせ、冒険に誘ってくるマリシエにいまさら、さっきのはなかったことにしてくれ、とは言えないよな。

 せめて新しいパーティがすぐに見つかりますように。そう願うことしかできなかった。


「で、ダンジョンに行ってどうしていくつもりなんだ?」

 勢いそのままにクエストカウンターへと歩み出したマリシエを引き留める。

「どうって?」

 俺の問いに対してマリシエは怪訝そうな表情を浮かべ首を傾げた。

 やっぱり、考えなしだったか。先が思いやられる。

 ……別に俺が先のことを気にする必要はないはずなのだが……まあ、仕方ないか。


「冒険者ならダンジョンに行くってのは、あながち間違っちゃいないが、ほとんどが金稼ぎのためだ。でも、マリシエの目的は違うんだろ?」

「うっ……。そうですね」

「そもそも、付与魔術師がやっていくのは厳しい。マリシエがパーティ入りを断られた理由もそこだろうな」

「どういうことですか?」

「単純な話だ。他のメンバーから不満が出る。たとえば、10倍の力で戦えるとしても報酬は10倍になるわけじゃない。けど、身体への負担は10倍、あるいはそれ以上だ」 

「じゅ、10倍!?」

 予想外のリアクションで話が逸れそうになるのを、慌ててフォローする。

「いや、まあ、あくまでたとえ話で、そのうえ体感的な数字だけどな。だから、戦力としては重宝されるんだが、割に合わないと考える冒険者が多いんだ。術者本人が戦えるなら別だが――」

 リーリスの場合は、目的が金ではなく名声だったが……付与魔術を掛けて強敵を倒した場合の評価がどういうものになるかは俺が実証済みだ。そりゃ、誰も組んでくれないわな。


「要するに、利害の一致するパーティを探せば案外見つかるかもしれないってことだ」

 そして俺は晴れてお役御免というわけだ。

 そうでなくても、一時的にでも協力者になってもらえれば、かなりマシになるからな。

「だから、なんのためにダンジョンに行くのか、それをはっきりさせなきゃってことですね」

「その通りだ」

「でも、さっきの話を聞いてちょっと、いや、かなり自信が……。リーリスさんってそんなにすごいんですね……」

 やはり、相当な衝撃を与えてしまったらしい。

 しかし、誇張したつもりはない。

「ああ。すごい奴だよ、あいつは」

「でも! 負けないって決めたんです、わたしは!」

 俺にもこれくらい気概があれば――、などとつい考えてしまいそうになる。


「それで、とりあえずの方針としては、強くなりたいってことでいいんだよな」

 改めて意思を確認すると、マリシエは苦笑交じりに答える。

「はい。わたしなりに努力はしてきたんですが、……ってそんなの当然のことですよね」

 どこか陰のある表情にも見えるが、やはり才能という壁を感じているのだろうか。

「そりゃあ、……まあ」

 当然とも言えるし、そうでないとも言える気がするが……。

「……じゃあ、どうやったら強くなれますか! リーリスさんみたいに!」

 その必死さからは努力と才能以外の答えを探しているように見える。

「さあ?」

「そんな……」

 俺がそんな答えを持っているわけがないのだが、見るからにマリシエが落胆した。


 だが、まあ、俺にできることがないわけじゃない。

「強さって言っても様々だしな。それを今から考えるって話だろ。といっても、実戦でたしかめてみないと始まらない、か」

 残念ながら、付与魔術を試すって意味じゃ、俺ほど適した人材は他にいないだろうしな。 

「つーわけで、金稼ぎも兼ねて適当なクエストに行くか!」

「結局そうなるんじゃないですか!」

 マリシエからの指摘をスルーし、そのままクエストカウンターまで向う。




「おいおい、誰かと思えばリーリスちゃんの腰巾着のグランズじゃねぇか! 姿を見せないからてっきり田舎の村に帰ったのかと思ってたぜ!」

「げっ!」

 歩き始めてすぐに、粗暴な言葉遣いをする金髪頭のチンピラのような――いや、チンピラに絡まれた。

「どうしたんですか、グランズさん?」

 遅れてついてきたマリシエはそういうと、チンピラの方へと視線を移し、チンピラの方もマリシエの存在に気付く。

 ところでこの二人、面識はあるのだろうか? コイツのパーティはメンバーの募集はしていなかったはずだが、仲介ではなく直接交渉ならマリシエが入れる可能性もなくはない。

 となれば、これはチャンスだ。


 なんて俺が考えていると、チンピラが肩を震わせ問い詰めてきた。

「おい、グランズ。これはどういうことだ?」

「……なにがだ?」

「リーリスちゃんに捨てられてざまあみろと思っていたのに……、なんでまたこんなカワイイ女の子を連れているんだって聞いてんだよ!」

 …………なんの話だ?

「待て、一旦落ち着け。なんでそうなるのか、まるで意味が解らん。あと、俺は別に捨てられてねえ。マリシエ、説明を頼む!」

 胸倉を掴まれまともに話せる状況ではなくなったため、マリシエに任せる。


「え? えっと、リーリスさんはカワイイというより綺麗、だと思います!」

 

 いったい、なんの説明だあああああああああ!!!!!

 身体を揺さぶられながら、心の中でそう叫んだ。 



「――つまり、マリシエちゃんは付与魔術師でパーティを組めなくて困っていて、そこでお前が協力することを了承した、と」

「ああ、そうだ」

 チンピラ改めデュゼルとしばらく揉み合いをしたあと、ようやく事情を説明することができた。

「それで、デュゼルさんのパーティに入れてもらうことはできませんか?」

 マリシエがおずおずとたずねる。

「任せてくれ! と、言いたいところだが、正直なところ難しいと言わざるを得ない。だが、困ったことがあれば言ってくれ。できる限り力になることは約束しよう」

 やはり、そう都合よくはいかない、か。

「ありがとうございます!」

 それでも、マリシエにとっては大きな前進だったようで、満足そうな顔をしている。


「ところで、グランズ。また付与魔術師と組むなんて随分と未練がましいんじゃないか?」

 デュゼルが実に嬉しそうに、ニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべて揶揄ってくる。

「そんなんじゃねーよ。くだらない話をしてるほど暇じゃないんでな、もう行かせてもらうぞ」

 その場から立ち去ろうと歩き出す。

「ケッ、つまらない奴だな。あー、ホントにつまらねえなぁ!」


 背中越しに届いたデュゼルの叫び声を無視して、クエストカウンターまで向かい、そこで思案した結果【魔障(ましょう)の森】の探索をすることに決まった。

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[一言] やっとリーリエの性別がはっきりしたのかな?女性?
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