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第19話 魔族との邂逅

「なんだアレ……?」

 俺、マリシエ、《アルファ》の順で隊列を組み、狭い通路の先の広くなっている場所へと進入する。

 そこでは、手と翼を広げる天使の姿を模した石像が、崩れ落ちた天井から差し込んだ月明かりによって照らされていた。


 一体だれがなんのためにこんな場所に飾ったのか一切不明だが、とても精巧に作られている。

 しかし、その美しさを塗りつぶすように周囲にはドス黒い瘴気が漂っていた。

 いかにも怪しげな雰囲気で、村の人たちが聞いたという呪いの声の原因もここだろう。


「グランズさん、あそこ!」

 天使の石像の足元で十歳くらいの子供が、祈りを捧げるように両手を組んで跪いていた。

 その近くには闇に紛れるようにして、黒い衣に身を包んだ怪しい影が立っている。


「あなたたちそこでなにをやっているの!」

 マリシエが一切の躊躇なく勇猛果敢に立ち向かっていった。

 もう少し様子見をしておきたかったが、これくらいは想定内だ。

 マリシエ一人を矢面に立たせるわけにもいかないので、少し前に出るようにして並ぶ。


「――!! っと、なんだ雑兵か驚かせやがって。いい加減いなくなったかと思ったんだがな。ウジャウジャと湧いてくる鬱陶しい人間どもめ!」

 若い男のような声が返ってきた。


「その言い草、やはり魔族か」

 魔物や魔人を使役し言葉も解する上位種で、魔力量でも身体能力でも人間を圧倒する存在を前にして緊張が走る。

 ただでさえ恐ろしい相手だというのに、瘴気が満ちる今の洞窟は魔界に繋がるゲートも開いているとなると、状況はかなりマズい。


「ふん! 魔族だと? 俺様をそこらの有象無象と同じにするな。俺様は、あの魔王軍四天王【極寒ごっかん】のブリュンヒルダ様率いる【三寒さんかん】が一人ダルドス様だ! 覚えておけ、人間」

 暗闇から魔族の男が姿を現した。

 紫色の長髪の隙間から覗かせる金色の瞳は、獲物をねっとりと観察するようないやらしさがある。


 俺は魔王軍の情報なんてほとんど知らないので、【三寒】とやらが実際どのくらいの力量なのかは、戦ってみないと見当もつかない。だが、容易な相手ではないのは間違いないだろう。


 コミュニケーションが取れそうだったので、時間稼ぎと情報収集を兼ねて言葉を交わしてみる。

「丁寧にどうも。俺はグランズ・アーレンス。しがない剣士だ」

「マリシエ・シスキン。付与魔術師です!」

 名乗りを上げたダルドスに合わせて俺が返すと、マリシエもそれに倣う。ステアリアさんが追いつくまで、しばらくこの調子を続けたい。

 このまま挨拶をした流れで、子供を連れて帰れたら楽なのだが……。洞窟の状況を考えると放置するわけにもいかないよなぁ。


「で、ダルドス様はこんな場所で何を?」

「ハッ! なぜ人間などに計画を教えねばならないんだぁ?」

「協力できることがあるかもしれないだろ」

「グランズさん!? 正気ですか!? 魔族は敵ですよ!」

 情報を引き出そうとした言葉でマリシエからあらぬ疑いを掛けられてしまう。ま、敵を騙すなら味方からってやつだ。

 

「人間ごときの力を借りるなんて、論外だ!」

「なら、その子は連れて帰っていいか? 人間の力は不要なんだろ?」

「こいつは例外だぁ。実に素晴らしい素質をもっている! なぁ、ベルデ?」

「いえ、それもダルドス様が力を与えてくださったおかげです」

 ダルドスに呼ばれ立ち上がった子供はそう答えると、こちらへと体の向きを変えた。

 少しクセのある短めの茶髪の十歳前後に見える少年が、狂気を宿した灰色の瞳で睨んできた。


「おまえたち、村のやつらに言われて僕を探しに来たんだろ? けど、必要ないから。そこの女には言ったけど余計なお世話だ。ほっといてくれよ!」

「そんなのできるわけないでしょ! その男は危険で、村の人たちが心配しているのがわかないの?」

 生意気なことを言うガキをマリシエが諭そうとしているが、ベルデとかいう少年には響いていない。


「心配しているだと……? そんなわけあるか! だって、あついらは僕のことを馬鹿にしているんだぞ! 魔力のない無能だって! 役立たずはいなくなった方がいいんだって! そう言ってたんだ!」

 《ミケーレ村》は魔力を込めた道具、すなわち魔道具が生産されているので、そのせいで魔力がないことによるいじめがあったのだろう。

 ダルドスに目を付けたのもそういう負の感情を抱えていたからだろうか。


「っ! そんなことない! 本当にあなたの無事を願っていた人達がいたもの。帰りを待ってくれている人があなたにはいる! それでも、戻らないのなら――無理矢理にでも連れて帰ります!」

「できるもんならやってみろよ! いまの僕をなめてたら痛い目にあうからね!」


 ありゃどう見ても魔族の力に心酔してる。操られて人質に、というわけではないらしい。

 となると、マリシエが言うように、連れ戻すのは力づくになるだろう。

 そのためには、ダルドスの方もどうにかしないとなのだが、結局それが一番の問題だよなぁ。



「いいのか? 仲間が戦っているのに貴様は見ているだけで」

「ありゃガキ同士のケンカだろ? 大人が手出しするのは野暮ってもんだ」

 戦闘を始めたマリシエを横目に、ダルドスとの会話を続けていた。

 向こうは《アルファ》もあるし、いくら魔族に力を与えられたと言っても所詮は子供、大丈夫だろう。それより、こいつの動向を見張る方が重要だ。


「なるほど。なかなか面白いことを言うじゃないか。なら、こっちは大人同士、殺し合いといこうか!」

「お手柔らかに頼むよ、ダルドス様」

 マリシエが決着をつけ離脱するまでの時間稼ぎ、か。それできれば理想的だが、上手くいくか?

 構えを取り、魔族との初めての戦闘に覚悟を決め、心の中で叫んだ。


 早く来てくれ! ステアリアさん!

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