第18話 洞窟の奥
「追いついた! マリシエ、大丈夫か!?」
マリシエがステアリアさんの魔造人形《アルファ》と共に二足歩行のトカゲの魔人、リザードウォーリア三体と対峙していた。
知能は低いが独特な剣術を扱う種族で、集団戦闘での連携の練度はゴールドランクの冒険者パーティに匹敵する。
罠にかけるか引き離して各個撃破するのが定石で、正面から戦うのは避けたかったが、こうなってしまったものは仕方がない。
「グランズさん! 来てくれたんですね!」
「そりゃ、まあな」
マリシエの喜ぶ様子を見ていると、なんだか申し訳なくなってしまい、文句を言う気も失せた。
危険を冒してこその冒険者。
冒険者としてやっていくことを選んだのだから、そろそろ俺も腹を括らないといけないよな。
とはいえ、もう少し慎重に行動してもらいたいのも事実だが。
「一気に片付ける! 頼んだぞ!」
「はい! 『汝に、重なり合う力を――《二重付与》』!!」
ここ数日で連携は格段にスムーズになっている。短いやり取りだけで、必要な付与魔法を掛けてもらうことができるようなっていた。
ステアリアさんの実験につきあっただけだが、アレが相当な戦闘訓練になっていたのは間違いない。一応は感謝するべきなのだろうか?
《俊足》の重ね掛けで、数段素早く動けるようになった俺は、一呼吸のうちに右端の一体を切り刻んだ。
「ギャギャ……?」
俺の攻撃を受けたリザードウォーリアは奇妙な声を出すと、全身から血を吹き出しながら崩れ落ちた。
不意打ちで上手く先制できて助かった。これなら、残りの二体もなんとかなるはずだ。
「危ない! グランズさん!」
「っ!」
マリシエの言葉で咄嗟に転がるようにその場を離れると、直後に《アルファ》が左腕を振り回し、俺に注意を向けていたリザードウォーリア達を壁へと叩きつけた。
やっぱり強すぎないか? このゴーレムって兵器……。
「あの、大丈夫でしたか?」
「ああ、一瞬ヒヤッとしたけどな」
初めて見たときも急に襲われたから、どうにも苦手意識が抜けない。
「すみません……。けど、助かりました! グランズさんが来るまでずっと攻撃が当たらなくて」
まるで自分のことのように話すマリシエに違和感を覚え、質問してみた。
「いまはマリシエが操っているのか?」
「はい。といっても、ステアリアさんが事前に用意してくれた動きしかさせられませんが」
なるほどな。よくわからないが、ゴーレムの意思で襲ってきているわけではないようで一安心だ。
なんで攻撃が向かってくるんだという疑問はそっと置いておく。
「それで状況はどうなってる? 子供は見つかったのか?」
「それが……一度は見つけたんですが、逃げられてしまって。連れ戻そうと思っていたのに、どんどん奥へと向かってしまって」
「この状態の洞窟を子供一人で?」
これだけ瘴気が濃いと、魔界に繋がる門が開いている可能性が高く、どこで魔物と遭遇してもおかしくない。
とても、無事とは思えないが……。
「それが……むしろ、魔物があの子のことを守るように立ちはだかってくるんです」
「誘いこまれているのか、それとも……いや、憶測でものを言うべきではないか」
わかっているのは、この状況を生み出しているであろう魔族が子供に害意を持っていないことだけだ。いまのところは、という条件付きでだが。
「急ぎましょう、グランズさん! この先になにがあるかを確かめるためにも」
倒した魔物の後始末を済ませると、マリシエは再び進み始める。
ステアリアさんを待って合流するか、一度引き返して情報収集するのもアリだと思うが、マリシエは聞かないだろう。
仕方がない。
本当に危なくなったら、力づくで撤退させるしかないか。
《洞察》と《聴力》、さらには《空間把握》を併用しながら追跡を再開する。
途中で何度か魔物との戦闘が発生したが、《アルファ》のおかげで楽に対処できた。
「……意外と持つんだな。すぐに魔力が切れるって聞いていたが」
実験のときに倒したゴーレムは崩れて土に戻っていた。
魔力が切れた場合も同じようになるらしいが、《アルファ》にはそういった様子は見受けられない。
ステアリアさんの方にいた《ベータ》と《デルタ》は二回の戦闘で表面にひびが入り始めていたが、性能に差があるのだろうか?
「そうなんですか? ステアリアさんは無茶させなければ大丈夫だと聞きましたけど」
「……わりと、させている気がするが?」
とはいえあっちの二体と比較すると、たしかに魔術みたいな攻撃を使っていないから、そういうことなのかもしれない。
それでも頑強な体を利用して盾になってもらったり、格闘による攻撃だけで戦力としては申し分ない。
この働きぶりでも無茶にはならないないのか……。
マリシエがいた【彼岸】のメンバーのレベルの高さが垣間見えた気がした。
「さて、そろそろだな」
《空間把握》のおかげで、洞窟の構造はある程度だが把握できている。
それなのに、この距離になっても察知できないこの先には、なにかがあるのは間違いない。
「準備はできているか? 様子を見てヤバそうなら、即撤退するぞ」
「わかってます。無茶はしませんから」
…………無理だろうなぁ。
「ハァ……じゃあ行くぞ!」
「はい!」
覚悟を決め、魔族が待ち構えているであろう場所へと踏み込んだ。
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