第17話 錬金術師の戦い方
「おいおい、なんだこれは」
ステアリアさんに連れられて洞窟へとたどり着いた俺は、漂う瘴気の濃さに驚く。これではまるでダンジョンだ。
調査のときには異常が確認されなかったことを考えると、自然発生したものではないだろう。
「おそらく魔族の仕業でしょうね」
やっぱりそう考えるのが妥当だよなぁ。
最悪中の最悪を引き当ててしまった。
「でも、わざわざ勇者が現れた場所にあとから来たってことか?」
「……というよりは戻ってきた? 魔物による襲撃は陽動で、なにか大事なものを隠すための時間稼ぎってところかしら……。ま、あくまで憶測だけれどね」
「仮にそうだとしたら、この洞窟が魔族にとって重要な場所ということになる。気を引き締めて行くぞ」
「急ぎましょ、マリシエちゃんと迷子の子供が心配だわ」
「せい! やあ!」
洞窟内を進んでいると、残党と思われる兵隊コブラが襲ってきたので迎撃する。
「《ベータ》起動! 《デルタ》は哨戒形態から戦闘形態へと移行! ファイア!」
俺が剣を振り回して戦っている横で、見慣れた人型の魔造人形が口から光線を放ち、獣型の方は全身から筒を生やすとそこから電撃を撃ち出して、魔物を蹂躙していた。
実験のときには見せなかったゴーレムたちの機能に唖然とする。
「あら、おどろかせちゃったかしら?」
「……錬金術師ってのは誰でもこんなことができるのか?」
恐る恐る尋ねる。こんなことができるなら、冒険者なんて必要ないのでは? とさえ思えてくる。
「残念だけれど、この子たちは特別製よ。この錬成核を錬金するのに費用と時間がどれほど掛かったか、知りたい?」
ステアリアさんが手のひらで、黄金のやや角ばったボールを弄びながら聞いてきた。あれがゴーレムたちの設計図らしい。
「いや、充分だ」
知識と材料さえあれば量産できるというわけではないようだ。
出会って間もないが、ステアリアさんの錬金術師としての力量の高さには感心させらっぱなしだ。
なんにでも飛び抜けた実力者ってのはいるものだと、改めて思い知らされる。
「あと、燃費はすこぶる悪いからフォローはよろしくね!」
「だったら、もう少し使いどころを見極めるべきだったんじゃ……?」
「合流するのが先決でしょ? あとのことをいま考えても仕方ないじゃない。最悪、間に合うかもわからないんだから」
「それはそうだが……」
度胸があるというか潔いというか。
「さあ、ジャンジャン進むわよ! それっ! ファイアー! アハハ!」
ステアリアさんが楽しそうに進軍を続ける。
いや、やっぱりこの人、戦闘になると我慢できなくなるだけなのでは?
さらに奥へと進んでいくと分かれ道に行き当たった。
「大丈夫、《アルファ》をマリシエちゃんに追従させているから反応を探れば見つけられるわ」
ステアリアさんはそう言って、迷わずに右の道を選んだ。
「あら? おかしいわね。この向こう側にいるはずなのだけれど……」
迷路のように入り組んだ道を自信満々で進むステアリアさんについていった先は行き止まりだった。
どうやら、位置は分かっても洞窟の構造が把握できているわけではないらしい。
急いで引き返し始めた俺の背中の方からステアリアさんのとんでもない発言が聞こえた。
「それじゃあ、壊しましょっか!」
「なっ――!」
「《オメガ》起動! …………やばっ、魔力切れだわ」
止めようとしたときには、ステアリアさんが新しくゴーレムを錬成しようとしていたが、なにも起きなかった。
「た、助かった」
なにをする気だったのかはわからないが、こんな場所で壁を壊そうだなんて危険すぎる。下手すりゃ生き埋めだぞ……。
咄嗟に安堵の息を漏らしたが、状況は別に良くなってない。いますぐにでも、次の行動を起こす必要がある。
「《聴力強化》のポーションが欲しい。頼む!」
「わかったわ。アタシは錬成核のチャージが済んだら追うから、先に行ってて大丈夫よ。それと、これも持っていきなさい。グランズくんに言われて用意した新作よ」
「もう完成したのか!?」
「ま、まあね。アタシならそのくらいは朝飯前よ!」
ステアリアさんが若干ひきつった表情を浮かべているように見えるのは、気のせいではないだろう。できることなら使いたくないな……。
「それじゃ、ステアリアさんも気を付けて!」
渡されたポーションを使用して走り出した。
移動しながらも耳に神経を集中させ、マリシエの居場所を探る。
遭遇した魔物に対処しながら、いくつかの分かれ道を通り過ぎたところで微かにマリシエの声が聞こえた。
今度こそ、助けに行く! もう少しだけ耐えていてくれ!