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第14話 秘められし力

「口で説明するより実際にやってみた方が手っ取り早いわ」

 そう言ってステアリアさんが瓶を腰のポーチから取り出し、手渡してきた。


 毒々しい紫色をした半透明な液体を眺める。対魔物用のアイテムだろうか?

「飲んでみて」

「……え?」

「ささっ! グイっと!」

「いや、せめてもう少し説明をだな」

「それは飲んでからのお楽しみってことで。それとも、先に別のお楽しみが欲しいのかしら?」

 ステアリアさんの言葉に反応してマリシエからの視線が鋭くなるのを感じた。

 

「……本当に大丈夫なんだろうな」

 悪人ではないように見えるが、イタズラの可能性はありそうなんだよな……。

 俺はステアリアさんを信じて瓶の中身を一気に呷った。


「そしたら、早速この子たちと遊んでもらっていいかしら?」

 ステアリアさんが、いつの間にか用意していた錬成陣から生み出した、2体の魔造人形ゴーレムをけしかけてきた。

「なっ! いきなり何するんだ!」

「安心して、ちょっとした試験テストだから。怪我したくなければ頑張って!」

 修練所に来たのはこのためか! ギルドの中で暴れるわけにはいかないもんな!


「クソッ!」

 ステアリアさんの思惑にいまさら気付いた俺は、ゴーレムの腕を剣で受け止め、そのまま反撃に転じた。

 ガキン、と金属同士がぶつかったような音が鳴る。なんだこいつ、頑丈過ぎないか!?

 この前までならいざ知らず、いまはそれなりの実力がついてると思っていたのに、また自信を失いそうだ。


「グランズさん! いま付与魔術を――」

「待って、そろそろ効果が出てくるはずだから」

 手助けしようとするマリシエをステアリアさんが制止した。


 だんだんと単調な攻撃に慣れてきたところで、俺の身に変化が起こった。

「おお! 力が湧いてくる」 

 あの薬《剛腕(パワー)》の付与魔術と同じ効果を持ったアイテムだったのか。ひとまず変なアイテムでなくてよかった。


「はあ!」

 相手の動きを見切って、2体をまとめて両断すると、腕に痛みが走った。 

 やっぱり、付与魔術を使って無茶すればこうなるよな。


「どうかしら《剛腕強化(パワー・アップ)》ポーションは。他にも付与魔術を再現した効果のポーションがあるわよ」

「えっと、つまり、そのポーションの質を上げることがステアリアさんの目的ってことですか?」

「うーん、どうかしら。効果は一時的なもので、本人の能力の伸ばしているだけだし、アタシの研究と方向性がちょっと違う気もするのよね」


「というか、こんな代物が作れるなら、なんで付与魔術師を探してたんだ?」

「『付与魔術は人間の秘められし力を解き放つための業である』、そう主張した付与魔術師の存在を知ったのよ。残念ながらもう亡くなっていたのだけれど。それで付与魔術に興味を持って、でも手探りじゃ限度があるでしょ? だから、詳しい人に意見を聞きたいの。人間に秘められた力ってなんのことだと思う?」

「……秘められた力」

 考え込むようにぼそりと呟いたマリシエの横で、俺は聞き覚えのある言葉に思考が引っ張っられていた。


 ステアリアさんが興味を持つきっかけになった付与魔術師は、リーリスの祖父であり師匠でもあるゼフリスさんだろう。

 付与魔術に生涯を費やし、決して報われることのなかった人だった。

 魔術師といえば元素魔術の使い手のことで、付与魔術は低俗な術であるという魔術院の意向に背き、研究を続け付与魔術師の地位向上を訴えていた。


 ゼフリスさんが亡くなって、リーリスは付与魔術の可能性を代わりに証明するために冒険者を始めた。


「ちょっと二人とも! 黙り込んじゃってどうしたの?」

 ステアリアさんの心配した様子で声を掛けてきた。

「えっと、秘められた力についてだよな。俺もつい最近までは、単純に付与魔術によって発揮される力のことだと思っていたんだが、いまはちょっと違うんじゃないかと思ってる」

「いいわね、続けて」

 あの魔人との戦いの最中に気付いたことをステアリアさんに説明する。


「きっかけはマリシエの付与魔術だったんだが――」

「わたしの、ですか?」

 マリシエが驚いたように声を上げ、それに頷いてから続きを話す。


「魔術の効果が切れてもその時に得た経験は残る。だから、そのあとも戦い方がイメージできるようになって自然と力を発揮できた。そこから付与魔術で蓄積されるのは、疲労や苦痛だけじゃないって気付いたんだ」

「なるほど、付与魔術は周りの負担が増えるから冒険者には敬遠されてるって聞いていたけれど、それを鍛錬と考えたわけね。……でも、やっぱりそれだとアタシの研究とは別物ね。アタシが求めているものは努力でどうこうなるようなものではないもの」

 まあ、そうだろうな。錬金術師がわざわざ研究するようなことだもんな。

 付与魔術で同様の成果が得られるようなものではないだろう。


「わたしは付与魔術を使うとき、限界とか秘められた力とかを考えたことはなくて、杖に魔力を込めるのと同じような感覚でした。お役に立てそうにないですね」

 話を聞いて考え込んでいたマリシエも意見を口にした。

 やはり、ステアリアさんが求めるような答えは持ち合わせていないようだ。


 申し訳なさそうにしているマリシエに、ステアリアさんが励ますように声を掛けた。

「そんなことないわよ! 色々と試してみたいことがあるもの!」

「本当ですか?」

「もちろん! それにマリシエちゃんも知りたいんでしょ? 自分の力がなんなのか」

「そう、ですね……実は、その秘められた力というのと関係があるんじゃないかと、少しだけ期待してたりもするんですが」

 ステアリアさんの問いにマリシエがはにかみながら答えた。


「アタシもマリシエちゃんの力には興味があるわ。ちょうどいい実験体きょうりょくしゃがいるし、二人で色々やってみましょ!」

「はい!」

 ステアリアさんが俺に怪しげな視線を送ってきたので確認をする。

「それって俺もつきあわなきゃいけないんだよな?」


「安心して、さっきので耐久力チェックは済んでるわ。さて、約束通りグランズくんの身体、好きにさせてもらうわよ」

「グランズさん! よろしくお願いします!」

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