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第12話 【彼岸】を目指して

「あのダンジョンに詳しい人間は一人でも多く確保しておきたいんだがな。そう意味でも【彼岸(ひがん)】が来てくれた方が俺ァ良かったんだが、あれはベルスタッツ王家のお気に入りだしなぁ」

 バスティックさんが愚痴を言い始めそうだったので、話が逸れる前に答えを急かす。

「で、結局どうなんだ? 無理ならいますぐは諦めるが」

「まあ、条件を飲むなら――」

「ちょちょちょちょっと待ってください!」

 マリシエがひどく慌てた様子で取引に割って入ってきた。


「ん? どうしたんだ」

「どうしたんだ、じゃないですよ! 【彼岸】を追うって……追ってどうするんですか!?」

「どうって、リーリスと改めて話がしたいだけだ。マリシエのことでな」

「わたしのこと……?」

「なんだそれは! 面白そうだ、もっと聞かせろ!」

 マリシエが顔を赤らめ、バスティックさんが妙な食いつき方をする。なんだこの反応は?

「マリシエの付与魔術についてリーリスの意見を聞きたい」

 ……あとは、あいつに冒険者を続けるって報告もしなくちゃならん。あくまで俺個人の気持ちの問題だが。


「あっ、えと、そういうことでしたか」

「なんだそんなことか、つまらん」

 マリシエが顔さらに赤くし、バスティックさんは白けていた。

 このおっさんは一体なにを期待していたんだ?


「やっぱりマリシエは、あいつの力を借りるのはイヤか?」

「いえ、そんなことはないですけど……【彼岸】のみんなにはまだ会いたくないなって、少しだけ。わたし自身がもっと強くなるまで合わせる顔が……」

「ああ、まあ、そうか」

 戻りたいと言うくらいだからパーティメンバーとは関係は良好なのかと思ったが、この様子だとなにかあったのかもしれない。


「それよりいいんですか? グランズさんは冒険者をやめるつもりなんですよね? 【彼岸】を追うとなると長旅になるかもしれませんよ」

「なっ!」

 マリシエが余計なことを口にした。

「なんだグランズ、やっぱりそんなことを言ってたのか、ガハハ!」

「あー、クソっ! やめねえよ、冒険者続けてまたあいつと組めるように精進していくよ。これで満足か!?」

「初めからそう言っておけば良かったものを」

 投げやりに宣言してもまだバスティックさんは俺を小馬鹿にして笑っている。

「でも、なんで冒険者を続ける気になったんですか?」

 マリシエにはハッキリとやめるつもりだと説明していただけに気になるのだろう。

「簡単に言うと、できることがまだ残ってると気付いたから、だな」

 正直に答えるわけにもいかず、曖昧な返答でお茶を濁す。


 なんだかんだと理由をつけていたが、結局俺が冒険者をやめたかったのは自分の力不足を感じるのがイヤになって、そこから逃げ出したかっただけだ。

 

 あのとき、デュゼルから問われて気が付いた。

 俺がマリシエを助けようとしたのは、自分よりも非力なマリシエが立ち向かっていく姿に、苛立ちのようなものを感じたからだった。

 

 自分自身の情けなさに嫌気が差して、逃げ出すのではなく、挑戦すると決めたのが冒険者を続ける理由だ。なんて言えるわけがない。


「ということは、グランズさんはこれからもわたしとパーティを組んでくれるってことでいいんですか?」

「ああ、よろしく頼む」

「っ! こちらこそお願いします!」

 マリシエが顔を輝かせて快く歓迎してくれた。


「それで、リーリスに付与魔術を見てもらうってことでいいんだよな?」

 バスティックさんから質問され、視線をマリシエへと向けると首を縦に振って肯定した。

「だったら【彼岸】は《レーゼブル遺跡》に向かった。目的は《神器》の回収だそうだ」

「《レーゼブル遺跡》ってことは王国の西か」 

「最短でこの街から向かうには、魔王軍が潜伏している可能性のあるエリアをいくつか通ることになる」

「まさか、条件ってのは、そのエリア内の偵察か?」

「いや、流石にそんなことは言わん。ただ付近の村の調査は頼みたい。ついでにトラブルがあればその対処も。ギルドからの正式な依頼として報酬も出す」


「随分と気前がいいな……なにか企んでるのか?」

「ガハハ! ま、そんなところだ」

 否定しないのかよ……。


 胡散臭いが悪い話ではないようにも思える。だからこそ、胡散臭いのだが。

「どうする?」

 マリシエに意見を求めるとすぐに答えが返ってくる。

「困っている人がいるなら助けに行くべきだと思います!」

「流石だな、嬢ちゃん。冒険者連中にも見習ってほしいもんだ!」

 そうだ、基本的にマリシエは考えなしのアホの子なんだった。

 けど、まあ、それでいいのかもしれない。

「それじゃお願いします」

「よし! 出発は三日後の朝だ。それまでは、みちづ――じゃなくて仲間でも探しておくといい」

 そう言ってバスティックさんは部屋を出て行った。

 

 ……道連れって言ったよな?




「やっぱりいないよなあ」

 冒険者ギルドの受付でマリシエと一緒に改めてパーティメンバーを探してみたが、結果は散々だった。

「ごめんなさい。わたしのせいで」

「いや、うん……まあ、な」

 マリシエの付与魔術が負担が少ないと言っても、やはり冒険者にとっては付与魔術師は金喰い虫にしか思われないようだ。

 それに加えて《レーゼブル遺跡》まで行くとなると、いよいよ誰も捕まらない。

 バスティックさんの不穏な言葉を考えると、腕の立つ人間を引き入れておきたいんだが。


 そんなことを考えていると、雪のように白い肌を大胆に露出している金髪の美女がやってきて、マリシエに向かって、こう尋ねた。

「このギルドに凄腕の付与魔術師がいるって聞いてきたのだけれど、貴女のことかしら?」

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