開け!恋のステイオンタブ〈A面〉
どうぞよろしくおねがいします。
カシッ。カチッ。カシュ。缶コーヒーの蓋を開けようとして何度も失敗して開けられない彼女。聞く人によっては何とも間の抜けた音に聞こえるかもしれないけど僕には可愛い音に聞こえる。だって音を立てているのは僕の好きな女の子だから。
よし、彼女の他に誰もいない。僕が来たことに気づいていない様子の彼女に声をかける。
「良かったら今日も手伝わせてよ」
プシュ。彼女の缶コーヒーの蓋を引き上げ開ける。
「どうぞ。熱いから気をつけて」
「ありがとう」
微笑んで礼を言い、コーヒーを飲む彼女。今日も可愛い。余程熱いのか彼女の頬が桜色になってる。入学初日、笑顔の彼女に一目惚れした。同じクラスになったことで幸運を使い果たしたのか、話しかけられぬまま一週間経って、僕は彼女が毎昼食後に缶コーヒーを飲んでいる情報を入手した。
その次の日から僕も昼食後に缶コーヒーを買って飲むことにしたのだが、それで彼女が缶の蓋を開けるのに、いつも手間取っていることに気が付いた。そこで昨日、今日と同じように彼女に話しかけて開け方を教え、今日は彼女の缶を代わりに開けてあげることに成功した。連日のチャンス到来に気分が上がる。
「中々直ぐに開けられなくて」
「わかるよ。隙間のない蓋に指を引っ掛けるの難しいよな」
もっと気の利いたこと言って彼女を慰めたいのに言葉が続かない。彼女と並んで飲むコーヒー。昨日も美味しかったけど今日も美味しい。砂糖少なめが彼女の好み。好みが同じなのも地味に嬉しい。ごめん、嘘。地味どころか物凄く嬉しい。
「凄く美味しそうに飲むね。そんなにコーヒーが好き?私と一緒ね」
楽しげに笑う彼女の横顔。僕は頬が熱くなった。
「そこにいたのか。日直は5限が始まる前に資料を取りに来いってさ」
彼女の隣の席の男が呼びに来た。二人は今日の日直。
「ごめん。もう行くね」
男に駆け寄ろうとする彼女の手を思わず掴む。彼女の目が丸くなる。
「あのさ。美味いコーヒーの店知ってるんだ。放課後、二人で一緒に行かない?」
「わぁ、行きたい!」
彼女の満面の笑み。僕は心の中でガッツポーズだ。僕に手を振りながら遠ざかっていった彼女。前を見て歩かないと危ないよ。僕は一人残り、缶コーヒーを啜る。冷めたコーヒーが何故か物凄く甘く感じる。砂糖たっぷりのコーヒーと買い間違えたかなと僕は缶を見直した。
ここまで読んでくれてありがとうございました。
※この〈A面〉のお話では僕の恋が始まる一歩は成功していますが、同じ題名の〈B面〉の短編では失敗していますので、失恋のお話が苦手な方は〈B面〉を読むときはご注意ください。